◇自称人魚
千秋ちゃんはこの国が大好きで大切だと言っていた。
あの言葉に嘘はない。でも、王族として産まれたプレッシャーみたいなものや逃がすようにシルキへ送られた事、戻ったイフリー大陸があまりにも変わっていて自分の居場所なんて無かった事......色々なものが混ざって整理なんて出来ない精神状態で【フレームアウト】してしまえば誰だってあんな感じ───言ってる事もやってる事も何もかも噛み合わない状態───になる。
でもそれは、本当にこの国が大好きで大切でより良い国にしたい、と思っていたからこそなんだ。
さっきのエンテイだな何だか知らないが、あんな半裸にそれが出来るのか? そもそも、ちゃんとイフリーの事を考えているのか?
......と、さっきからこんな事ばかり考えているわたしだが、あの一件の後セッカやワタポに説教され、今は下手に動けない状況だった。動こうと思えばいくらでも動けるが、なんというか「最悪、ただの喧嘩では済まない」とワタポにトドメの一撃を打ち込まれ動くに動けない状態となっている。
キューレがフォンページで情報を売っていたので買い、それをさらっと読んだ所で本人から『今から会えんかのぉ』とお誘いを受け待っている所だ。
「お、珍しいのぉ! お前さんが先に居るとは驚きなのじゃ」
気配のない闇影から声が飛び、2秒後にキューレの姿が浮き上がる。
「まぢかよお前、すっげーな」
「腕上げたじゃろ?」
ローブのフードを払い歯を見せて笑うキューレだが、そんな隠蔽術を見せられたわたしは笑えない。装備補正があったとしても今の隠蔽は声を出さなければ察知されずにわたしへ触れる事も出来るんじゃ......まて、
「まてまて、何でそんな突然ハイドレートが上がってんの? 普通に無理くね?」
落ち着いて考えると無理なんてレベルじゃない。例え極上のローブをゲットしたとしても、あくまでもキューレ自身の隠蔽術に働きかける効果だ。装備者が雑魚いと補正もしょぼい。それが隠蔽系や看破系装備のウザい所というのは知っている。
「そういえばお前さんはハイドがクソ下手じゃったな。まぁ知っとるヤツが増えに増えとるし今更じゃな」
「あ? 教えてくれんの? タダで?」
最低でも数千ヴァンズは要求されると予想していたわたしだが、キューレは「この情報は金にならん」とどこか残念そうに言い、わたしの前に。
「SSS-S3ギルド、ジルディアはもう知っとるな? ギルマスはノル───ノールリクス、お前さんがユニオンで蹴りをぶちかましたヤツじゃ」
蹴り......あー、ジルディア、あー!
「アイツか。偉そうにしてるあのアイツ」
確かに【ジルディア】のマスターだと言っていた。あんまり強そうに見えない───むしろ弱そうなヤツなのにSSS-S3ってのが納得いかない。
「偉そうっちゃ偉そうじゃの、わかるぞ。して、そのノルのギルドにウチは昔入っとったんじゃ」
「はぁ!? キューレってSSS-S3のギルドにいたの!? はぁぁ!?」
「そじゃぞ。で、今使った隠蔽は戦闘用でのぉ。僅かな時間じゃが確実に相手から気配を断てる......数秒間じゃが意識からも消える事が出来るんじゃよ」
「なんっだそれ......ズルすぎだろ......」
「そぉーでもないぞ? こっちから声を出せばさっきの通りじゃし、物音も同じ。攻撃に至っては敵意や殺意は伝わってしまうのじゃ。イマイチな性能じゃが素っ裸でも使えるウチの技術じゃぞ? 凄いじゃろ?」
「すっっげぇな......すっげぇ!」
キューレが上の世代でも凄いギルドにいた......驚きはしたが、納得出来る。今までキューレという存在を【情報屋】として見るシーンが多かったし、いざ戦闘となれば何やかんやでコイツはわりと無事な方で生きてる。
それに好んで戦闘するタイプではなく、どちらかと言えば戦闘前に動き回るタイプだ。情報を集めるのに隠蔽や看破が武器になるのはわかるが、それだけじゃキューレが持つ情報網の説明にはならないし、おかしいと思ってたんだよな......誰もキューレを疑わず、むしろキューレが言うなら間違いない、って雰囲気まである。【皇位情報屋】っていう称号がそうさせていると言われれば、ここは納得出来るが......それだけじゃない感じは薄々あった。
ま、今の話を聞いて驚きはしたけど納得の方が強い。
「で、何でギルド抜けたの? 今のお前が好きに動けてるって事はルール違反とかじゃねーんだろ?」
「なんじゃい気になるかえ? じゃが今日はその話をするために読んだワケじゃないんじゃよ」
「あー? ダリぃ話は勘弁な。今わたし柄にもなく色々考えたり悩んだりする週間だから」
「そーかそーか、確かにダリぃ話じゃしお前さんにとってはスーパーダリぃ話じゃが一言だけ聞いていらん話題じゃったら蹴ってくれなのじゃ」
「おう」
そんなふうに言われればメタクソ気になる。これも情報屋が持つトークテクなのか、と思っているとキューレのクチから、
「琥珀の魔女の狙いは生命合成で作る生物、琥珀の魔女の言うことしか聞かない生物兵器じゃった」
琥珀の魔女───シェイネの話題が飛んできた。予想外の話題に一瞬脳が停止しかけたがすぐに意識を接続させ、まず質問する。
「誰情報だ?」
「やっぱそれ気になるかえ。まぁ気になるじゃろな」
シェイネの狙いが何だったのかは少しは気になるが、もうシェイネはいない。今更狙いを知った所で大きな発見にもならないが......その情報、魔女の企みを知っているヤツが何よりも気になる。
魔女はほぼ全員が自分だけの目的、目標みたいなものを持っている。強くなる事でも何でもいいが、その目的や目標を達成するためなら友達だろうと家族だろうと、平気で素材に使う種族だ。
シェイネにとって魔女人生を賭けてまで達成しようとしていた目的を他の誰かが知っている、という状態がまずありえないんだ。
自分の目的を他人に知られれば、マイナスの方が大きくなる。魔女は基本的にそういった目的......自分の【魔導】を他言しない。知られた場合は優先してその相手を素材利用するのが基本で、当たり前なんだ。
「うむ。その反応から見ても本当にお前さんは記憶凍結じゃったか? そんな魔術をかけられておって、今はもう解けとるみたいじゃの」
「───!? 何でそんな事知ってんだお前」
「ウチは情報屋の中でもトップじゃぞ? ウチのレベルじゃったら───!? ......なんじゃ? このローブが欲しいワケじゃないじゃろ?」
焦らされているような気分になり、話題が話題なだけに、わたしは自分を全く抑制する事もせずキューレの胸ぐらを掴む。
「その情報を持ってきたヤツは誰だ?」
「ちぃと落ち着け」
「誰だって聞いてんだよ!!」
「手を放せ馬鹿者、ウチは別にお前さんを叩いて情報を拾いにきたワケじゃなないんじゃ」
「............悪い」
手を放し軽く謝り、すぐに思考は情報源へと向けられる。
ダプネか? フローか? エンジェリア......は無い。でも魔女の情報を持っているヤツとなれば魔女が一番持ってる。
グリーシアン......いや、アイツこそあり得ない。
「ウチも本当の名前までは知らんぞ? お前さんなら知っとるじゃろぉけど」
「......は?」
「人魚って名乗っとったからのぉ〜。全体的に白色で髪は長くて薄っすらピンクが混じる白かのぉ? ほれ、貝殻の内側って白じゃけど真っ白でもないじゃろ? たまに微量のピンクを持つ貝殻もあったり、そんな色じゃったわ」
白くてピンクで貝殻で人魚?
「......誰だよそいつ」
心当たりはクソもなかった。




