◇取っ掛かり
ジリジリと焼ける太陽光の下。
ウンディー大陸の【冒険者】ノムー大陸の【騎士】シルキ大陸の【妖怪、アヤカシ】イフリー大陸の【軍】はこの異常な熱気───下から燃え上がるような気温の原因を調査していた。
この調査期間中はあくまでもイフリー大陸とは共同調査、という名目で行われている。理由はおそらく、イフリー大陸の印象確認だろう。
調査中こそ共同協力という形で進んでいるが、調査後に様々な事が明らかとなった場合、どのような行動に出るか───独占的かつ攻撃的な行動に出るのではないか───を見る形とも言える。
四大陸同盟というものはそれだけ難しく、慎重に行わなければならない。
と、国のお偉い方々は警戒と探り合いのような事をしている中で、今にも溶けて無くなりそうな気温を受ける冒険者のひとり、魅狐のプンプンは防具の腕パーツ───巫女服の腕部分のヒラヒラ───を外しフォンへ放る。
「さすがにこれは暑すぎるよ......ボクもう限界かも......」
今すぐ迅雷の如くこの場から逃げ去りたい、と強く思うプンプンへ水を渡す手が。
黒いロンググローブに包まれたその腕を見てプンプンは一層に暑さを感じながらも水を受け取り、頭からぶっかける。
「わわっ!? ちょ、プンちゃ!」
頭から水を浴びた銀髪の九尾はそのまま見た目通り動物のように頭を振り水滴を拡散させる。
水を渡した冒険者のワタポは飛び散る水滴とプンプンの豪快な行動に驚きながらも、とても気持ち良さそうだな、などと思ってしまっていた。
「......何してるの二人とも。さっさと地殻って所へ行ける道を探さないと焼け死ぬわよ......」
細長く尖った耳を持つ半妖精のひぃたろも、さすがにこの暑さでは外套を装備する気にもなれなかったのか、防具のパーツもいくつか外した状態で調査を行っていた。
「ひぃちゃんの防具って......なんかエッチだよね」
「はぁ!?」
「......わからなくもない......かな」
「なっ!? ......どこがよ!? どこがエッチなのよ!?」
この暑さにやられたのか、プンプンとワタポはひぃたろの防具をそのように感じ───元々そう思っていて今言った説もあるが───ひぃたろは長耳の先端を赤く染め、自分の防具を確認するように見る。
露出こそ多くはないが、たしかに体のラインはよく見える。グローブも外している状態は袖なしとなっているが、それをいうならプンプンの魅狐服も今は袖なしだ。
誰の防具がどうだ、という会話に熱を入れ始めた三人を見て、現在イフリーの玉座に座る神族のアグニが呆れるように言う。
「そんなことどうでもよかろう、脱いでしまえば体のラインなど丸見えだ。それより......全くもって成果なしだな! フハハハ!」
大口で笑うアグニを見て全員が「なんでこんなに元気なんだろうか」と思うも、それを聞いてしまえばとても長くなる気がしたので何も言わず、
「しっかし歩き回って成果なしじゃさすがにキツイッスよ......騎士団からの援軍はもう出発した頃だと思うんスけど、合流時に成果なしじゃ格好つかねぇッスわ......」
ノムー、ドメイライト騎士のヒガシンは熱さに強いのか、冒険者3名よりも気楽そうに見えが、やはりこの気温は並の人間───神族以外には灼熱。今こそ耐えていられるが数日、数週間、と続けばあらゆる面で命に関係してくるだろう。
「......地殻って、私達の国で言う地脈みたいなものですよね? それって特定の場所にしかないというのはおかしくないですか? 例えばイフリーのデザリアにしかない......とかって───えぇ!? スノウさんが溶けてる!?」
「ごめん! オイラ達は夜の調査に回してもらってもいい!?」
「あ〜う〜......」
シルキ大陸、もも、あるふぁ、は溶けるスノウを日陰へ運び昼間の調査から離脱。雪女が溶けるという、それっぽい反応に全員が納得し、シルキ勢は夜の調査班へ加わる事となったが、この調子では昼だろうと夜だろうと、何も発見出来ない気がしてならない。
「......おい貴様等。デザリア周辺の調査を任せてもいいか? いいな? 俺様はイフリーの街や村を巡り、状況を確認する。無理はしても無茶はするな」
スノウの、溶けるという現象を見たアグニはイフリーの民を気にする様子で調査を他大陸の者に丸投げする形で飛び去って行く。傲慢にも思える男性だが、王となった以上は王としての務めに全力を尽くしつつ、無茶はするな、という言葉を強く残していった。
「結構いい人っぽいね」
「そう? それより......さっきシルキの妖華が言っていた事が気になるわね。地殻......地脈......」
「俺はそういうの詳しくないんスけど、騎士団にその手の事に詳しいってか、もうほぼ趣味と化してる人がいるッス。多分今回その人がイフリーに来ると思うんで、合流したら聞いてみましょう」
「............だぁぁぁ!! もう無理限界! 休憩しよう! エミちゃんは!? エミちゃんを呼んで水とか氷とか出して貰おうよ! ボク死んじゃうってば!!」
しびれを切らしたプンプンが叫び、調査メンバーは日陰へ避難し休憩する事にした。
なんの成果も得られない、ただ暑い中を歩き回るだけの調査と言う名の散歩には他のメンバーもフラストレーションを溜めているが、今は本当に何の手がかりもない。
何か取っ掛かりがあれば、と思いつつワタポは倒れ込むプンプンへ水をかけ突き刺さる太陽光を睨んだ。
◆
調査班は外部───外まわりだけではない。
デザリアの街の裏側とも言えるラビッシュも調査対象エリアとしてアグニは認定し、そこには、トウヤ、カイト、だっぷー、とデザリア軍数名が送り込まれていた。
しかし、
「調査なんてする必要ない。適当に時間を潰して戻るぞ」
トウヤはラビッシュの現状を確認する程度で歩き回る。カイトも同じく。だっぷーはどこか不安そうな表情を必死に隠そうとしているが、隠しきれていない。
「何かしら調査報告を持ち帰らなければ何を言われるかわかりませんよ!?」
デザリア軍の兵がトウヤへ恐る恐る意見を言う。既にデザリア軍の中では「トウヤという冒険者がソードダンサーを一撃で破壊した」との噂が広まっているからこそ、その恐ろしさにも尾鰭がついている。
「報告はもう出来る。お前らは他国と一緒に調査した、という事実のために一緒にいればいい」
こういう場合は本来カイトが気を回し、デザリア軍にも安心を与えるよう会話するのがいつもの流れだが、今のカイトにそんな余裕はない。そこでトウヤが冷めた言い方だが最低限は伝え、デザリア軍を連れている形になっていた。
地面の底から湧き上がる熱気。
カイト、トウヤ、だっぷーの3名はこの熱気について心当たりがある。
カイトとトウヤがデザリア軍───当時は騎士と呼ばれていた───入団を目指していたあの日。だっぷーと出会ったきっかけであり、カイトの前からトウヤが消えたきっかけでもある、あの灼熱の記憶。
───ヴォルフフェンリル。
カイトは背中の大剣のキー素材として使われた強大なモンスターの名を、姿を思い出し、胸を熱くした。




