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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【火炎の四大】
710/759

◇ワールドパレード



 ワンピースのような丈長シャツのボタンを適当に掛け、ボサボサ頭を掻きむしりながらグルグル眼鏡を装着する。

 くたびれた上着を雑に着て、お腹をポンポン叩く魔女。

 装備とはとても呼べない見た目の防具───なのかさえ不明な───衣服をだらしなさ極振りで気怠けだるそうに。

 大アクビをしつつマグカップを人差し指で軽く叩くと、空っぽのカップは心地良い湯気をあげるホットココアで満たされる。

 ひとくち啜り、甘みが弱かったのかクチを不機嫌そうにしたかと思えば何もない空間に手を突っ込む。正確には何もない空間に隙間を作り、その中に手を突っ込み小瓶とスプーンを取り出す。

 空間魔法ではなく隙間魔術で私物が収納されている場所に繋ぎ───隙間魔術はマーキングした場所にしか繋げられない───必要なモノを取り出した。

 ココアへ角砂糖をこれでもかという量投下し、溢れる事も気にせずスプーンで豪快に混ぜる。


「───ぷけぇ、コレコレ朝はコレに限るっちゃ」


 舌の上に砂糖のザラつきが残るココアを満足そうに飲み、角砂糖をつまみクチへ放る。

 噛み砕いた砂糖を追撃のココアで溶かし、気怠そうにテーブルへ顔をつける。

 魔女はイフリー大陸の街で宿を普通に借り、潜伏しているので尖った太陽の熱気にあてられていた。何もなければ彼女はこの大陸に長居などしない。【炎塵の女帝】さえも彼女にとっては真面目に相手をするだけ無駄な存在。


「フロー、いる、かし、ら?」


 ノックよりも先に奇妙な句切りを持つ女性の声が届く。今更ノックされても鬱陶しいのでフローは、


「入りなされな」


 と返事をし、室内に声の主ともうひとりが流れ込む。眼下───頬にある星と涙粒のペイントが2人の正体を隠蔽しているので、街を歩き回った所で存在こそ認識されるが正体はまるで看破されない。


「あれ? ダプネは?」


 今度は奇妙な句切りを持たない男性の声がもうひとりの魔女の名前を言うと、室内に虹色の穴がぽっかり開き、


「わたしが最後だったか」


 その中からひとりの魔女が現れた。


「んっし、揃ったナリね」


 テーブルへ落としていた顔を、頭を持ち上げる形であげ、揃った面々をぐるぐる眼鏡の奥で一望する。




 手入れなどする気さえないボサボサの髪、対となる部分を無視されて掛けられたボタン、とくたくたのロングシャツが魔女にだらしない印象を与える一方で、大きなぐるぐる眼鏡がユーモラスさと不思議な奇妙感を醸し出す。

 いつの時代から活動しているか、メンバー詳細、目的、などの明確な記録が残されていないが知る者は皆クチを揃えて厄介者と言う【クラウン】のリーダーであり、魔女族の中でも屈指の知力と実力を持つ【四大魔女】の座に長年君臨し【変彩の魔女(アレキサンドライト)】の宝石名を持つ魔女【フロー】。



 銀というより灰色の長髪を左右で束ねたツインテールと長い前髪。以前は片方の瞳を隠すように垂らして前髪も今は分け整えられており、露になる両眼は左右でカラーが違う。

 鳥籠のようなスカートを持つ紫を基調としたゴシックドレスで身を飾る青白い肌の女性。耳だけではなく顔にもピアスが複数目立ち、それよりも視線を惹くのが “赤黒い糸の縫痕” だ。壊れた自律人形オートマタのように奇妙な句切りを挟む喋りと風貌はどこかホラーテイストをプラスする。

 死体操師、人形使い、死肉漁り、などの異名を持つ人間の【リリス】。



 額には五本の突起、その下の顔には幼さが残るが、年齢的には既に数百を越えるシルキ大陸の鬼族の中でも頂点に鎮座していた男性。おそろしい量の酒を飲み、常に上機嫌な彼は鍛冶屋としても指折りの技術を持つ。

 鬼族という豪快かつ好戦的な種族の中でも彼はどこか丸い雰囲気を持つが、血の気の多い鬼を統括していた実力は本物。

 フローに負けない身嗜みの悪さを持つこの鬼こそが創作物に引っ張り凧な【酒呑童子】。



 最後に部屋へ現れた女性、彼女も魔女だ。

 キャビア色の黒髪と深みのある赤い瞳。

 魔女だというのにエミリオと同じく剣を携えている理由は、幼い頃エミリオの真似から始まった。

 【宝石魔女】という魔女族でもトップクラスの序列で【黒曜の魔女(オブシディアン)】の宝石名を持っていた彼女も今では魔女の裏切り者。

 憂いを宿した瞳の奥に何かしらの覚悟を燃やす【ダプネ】。



 この4名が現在【クラウン】として暗躍しているメンバーであり、全員が個として【地界】でも【外界】でもその悪行を轟かせる犯罪者であり、犯罪レートは最大値の曲者。



「イフリーのマテリアをりに行くぞい」


 フローは何の前置きもなく、さらりと本題を言い放った。

 いつもそうだ。具合的な流れなど後回しに本題、本命をまず伝える。勿体ぶったり引っ張ったりせず言い放つのはいいが、フローはスムーズに話を進めるためではなく、他人の知識量や認識力などへの配慮が全くないだけだ。わからなくて知りたいなら質問してくるだろう、調べるだろう、他人のそんな部分まで気を回す必要性などない。というのが魔女フローだ。


「ちょっと待てフロー。もう少し詳しく説明してくれ」


 すると毎度ダプネが話を広げるように質問する。この流れが定番化しているのでリリスも酒呑童子もクチを開かない。


「お待ちかねの魔結晶塔マテリアルタワーがここイフリーに出るナリ! ほんっとに待ったナリよぉ〜......さくっと出てくれりゃもっと楽に速く勧めたのに迷惑な話だっちゃ」


 魔結晶塔というワードで空気が若干ピリつく。

 現代を生きる者ならば少なからずその存在を、非道と支配欲を混ぜ合わせた人工魔結晶【黄金の魔結晶】の存在を知っている。一時期はデマだと言われていたが【レッドキャップ】という【地界】の犯罪組織が約1年───そろそろ2年───前に猫人族ケットシーの里に聳える【世界樹】と呼ばれる霊樹から奪い去った事で、確かに存在するものとなった。

 その件から【地界】のマナは徐々に乱れ始め、今となってはその影響が【外界】などにも拡張されている。

 マナが乱れればそれを調律する必要がある。しかし猫人族の里にある【世界樹】は死んだ。【地界】には【夜楼華】という霊樹も存在しているが、そちらはマナの調律よりも重要な役割があり、その役割が数ヶ月前に再スタートしたばかりなので【世界樹】の仕事を肩代わりする余裕は今の所微塵もない。


 見えない所で音もたてず、それでいて確実に世界は悪化の道を辿っているのが今の現状だった。

 モンスターの凶暴化、動物達の未確認行動、雲の流れや空の色合いに些細な違和感、見知らぬ植物......言い出せばきりがない程の些細な変化が世界各地で発生しているが、誰もその原因については掴めていない。


 しかし、フローは知っている。

 これら全ての原因がマナの乱れであり、崩壊の序章である。と。

 そしてフローの【目的(、、)】に利用出来る、と。



「炎塵のカスが地殻をぶっ叩いたナリ。それで一気にイフリーの地殻マナは活性化───を通り越して暴走してるっちゃ。各地殻は地脈みたいなもんで繋がってるからノムー、ウンディー、シルキもそう遠くないうちに暴走するナリ! さらにさらに! この【地界】の地殻は【外界の賢者】とも繋がっているナリ! イフリーの魔結晶塔が出現しちまったらもう止まらない! 止められない! 止めたくない! 世界規模の崩壊(ワールドパレード)が堂々幕開けするっちゃ! 楽しみナリねぇ〜!」



 ぐるぐる眼鏡をギラつかせ、フローはクチを歪ませる。


 友人と他愛ない会話をするような雰囲気で、まるで遊んでいる子供のように、サーカスで観客達を笑わせるクラウンのように、飄々とした口調でフローが放った言葉はあまりにも重く、まともな神経では信用さえ出来ない───事実だった。




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