◇機械人形
円形で構成されている施設、ラビッシュ。
中心は天井が無く鉄格子のような鉄骨がまるで鳥籠のように伸び、周囲の建築物を固定している。円の周りが人々の生活空間となり中心は山のようにゴミが積もっている。
ラビッシュ───ゴミ溜めという名を与えられた、文字通りの空間。積りに積もっているゴミはデザリア軍で出た破棄品であり、中心部の天井が無い理由はそこへ放り投げられるからだ。昔は本当に破棄品だけをデザリア軍だけが投げ捨てていたが、いつしか “処分するのが面倒なゴミ” を投げ捨てる場所となり、今もそれが当然のように続いていた。
「あれって......子供!?」
ノムー大陸では考えられない現状であろう、このような衛生的にも悪く、とても生活出来る環境とは言えない場所に人が、大人だけではなく子供さえも当たり前のように存在し生活している現状が。
「確かに子供だな。ただ、この大陸ではあれを子供とは呼ばない」
トウヤは冷たい声で、過去の自分を重ね言った。
「ここでは大人も子供も、人間だろうと動物だろうと関係なく “ゴミ” なんだ。揶揄じゃなく本当にただのゴミとしてここに投げ捨てられる。それがラビッシュだ」
「......なんスかそれ......」
「胸糞悪いだろう? でもそれが現実で、それが普通の常識となっているのがイフリー大陸だ。ゴミのまま腐るか、リサイクル対象として軍が引き入れるか、それはそいつの存在や行動が決める事であり、イフリー大陸の法律に面白いものがあるから教えてやる」
様々なゴミが瓦礫のように溜まる足場、鼻の奥を突き刺す異臭漂う環境を進みながらトウヤはイフリーの法律をヒガシンへ告げた。
①安易にゴミを漁ってはいけない。
②ゴミを持ち出してはいけない。
③ゴミ溜めからゴミを出してはいけない。
というものだった。一見すれば当たり前にも思えるが、この “ゴミ” という部分とゴミ箱ではなく “ゴミ溜め” という点が重要となる。
ここに捨てられたものは全てがゴミ。人だろうとゴミになり、この法律の対象に含まれる。
「イフリー大陸の領土にいる時点でイフリーの法律が降りかかる。それはどの大陸でも同じだろ?」
トウヤは付け足すように言い、ヒガシンは奥歯を噛んだ。ここでもし、ヒガシンがラビッシュの人々を助けた場合は法律違反となる。イフリーで法律違反は逮捕され、後日ほぼ確実に殺される。
「......助ける方法はないんスか?」
「そうだな......その質問に答える前に、質問がある。いいか?」
「どぞッス」
「助けたとして、お前に最後まで面倒見れるか? 何かあった時お前は確りと責任をとれるか?」
「............」
「そういう事だ。お前の気持ちは否定しないし、誰が何を見て何を思うかは自由だ。だが、慈善活動やその場の感情だけでは自分や周囲の者を巻き込み追い込む事の方が多い。それがイフリーという国なんだ。覚えておけ」
残酷にも思える言葉だが、それがこの大陸なのだ。他人よりもまず自分、他人を蹴落としてでも自分を選ぶ。それが出来ない者から散っていく。これが現状であり現実であり、昔から当たり前のように根付く普通なのだ。
「詳しいッスね......元デザリア軍ってやつ、あれ嘘じゃないんスか?」
「嘘だ。正確には元デザリア軍に入ろうとしていたラビッシュ出身者。それが俺だ」
淡々と言い、トウヤは進む。
今の所デザリア軍人の姿は見えないが、ラビッシュの奥にある空間が怪しいと黒布の奥で睨んでいた。
トウヤもその空間を詳しくは知らないが、このラビッシュには軍人が出入りする場所がある事は昔から知っていた。
軍の武具を毎日磨かされていた日々。ゴミ溜めだというのに武具を持ち込み、綺麗に磨かせる......つまり必ず安全に出入り出来て武具を持ち込めるだけ広い空間が存在している。
当時は探索など微塵も思わなかった、今も正直探索など気が進まないが、トウヤは進んだ。
息苦しさと異臭の奥で明らかに鋭い気配が微かに届く。
針の尖端へ指先を少し触れさせるような、極僅かな気配。
「気を抜くなよ騎士。この奥に何かいるぞ」
「ウッス」
ヒガシンは飲み込みきれない気持ちを一旦捨て、前方に意識を向ける。
思う事は色々ある。しかし今はデザリア軍人を発見し、街の現状を伝え、軍人───騎士が何もせずこんな所で何をしているのかを強く言ってやるつもりでヒガシンも進む。
老若男女、種族さえもバラバラな視線が至る所から向けられるもトウヤは全く気に留める事なく進み、予想していたエリアが近くなる。
「......なんだ?」
前方から荒い気配を感じトウヤは足を止めた。すると通路の奥から人が息を荒く見出し、何かから逃げるように迫る。
「た、助けてくれ! 助けてく───ぷギュッ」
「いっ───」
「......、、、」
駆け寄って来ていた男性が数メートル先で、背後から何かに胸を貫かれ絶命した。突然の事にヒガシンは短く驚き声が溢れ、トウヤは一瞬で奥を警戒した。
「......おい、そこの死体に刺さってるそれ、お前はどうみる?」
前方を向きながらトウヤは遺体を貫く鋭利なものを話題にした。
大剣のように幅広い───獣の爪のようなものを。
「爪ッスかね? でもこれが爪なら......本体のサイズがおかしいッスよ?」
大剣サイズの爪を持つ生き物が存在するならば、その本体は相当な巨体となる。しかしそんな巨体がラビッシュに納まるワケもない。
そして何より、この奥から届く気配に2人は熱を感じない。
「覚悟はいいか?」
「ウッス、いつでも大丈夫ッスよ。そちらさんは?」
「いつでも出来てる。行くぞ」
ヒガシンは剣を、トウヤは槍を手に一気に駆け進み、そこにいた “モノ” を見て足が強制的に停止する。
細い躰を包む鋼鉄の外殻。
両腕は巨大なブレード、両足は鋭い槍のようで、形状は人のそれに近いが外見から最初に浮かぶ言葉は、
「......機械人形、か?」
瞳のように発光する2つの赤が2人を認識し、首、腰、脚、足首、という順で歪に身体を回し振り向いた。
「関節の概念がないッスね......機械で正解じゃないッスか? でも......」
「よく見ると所々に機械......鋼鉄とは言えない素材が使われてるな......なんだあれ?」
機械人形は観察する暇など勿論与えてくれず、針のような脚で予想外な速度を見せ、一気に距離を詰め両腕のブレードを振り下ろす。
まず右腕を垂直に振り、トウヤは難無く回避。しかしすぐに予想外の追撃が放たれる。腰の関節部分を上半身ごと回転させ、左腕のブレードを水平に振り回しつつ振り下ろされた右腕を落下地点で横にする事で二枚の刃が妙な感覚で回転する。
回避行動後に間髪入れず放たれた理解不能な追撃はトウヤの脚を膝あたりから強引に切断し、左のブレードは首を狙って恐ろしい速度で迫る。
「っ───!」
「来るな!!」
何の考えもなくヒガシンが独楽のように回る機械人形へと接近しようとするも、トウヤが鋭く抑制し、叫び声がまだ木霊する中で斬撃音と共に血液が吹き荒れる湿り音が空間を包んだ。
血飛沫を浴びながらも回転を止めない機械人形、浴びた血が床や壁、天井にまで散らばる中でヒガシンは硬直する自分を無理矢理動かし、迫る機械人形から必要以上に距離をとった。
ノムー大陸はおろか他の大陸でも見ることのない、人型兵器───ソードダンサー。
ラビッシュに囚われた軍人を “素材” とし、ラビッシュで生活する “使えるゴミ” を再利用する形で生産された、殺戮を目的とした人体と機械の混合種が───
「んな......笑えねぇッスよこれ......」
大量に開放された。




