◇シルキ流 技術
領域系能力。
自身を中心に展開される特殊効果を持つ範囲。この領域内であれば “ほぼ無敵” とまで言われ、その能力効果が能力使用者と噛み合うものであれば厄介などという言葉では足りない。
領域系はハマれば無敵。そんな言葉が地界でも外界でも存在している程に。
冒険者のカイトか対している相手は地力の時点で既にカイトや他の冒険者を遥かに超えている。そんな相手が持つ能力が、領域系。
フィリグリー・クロスハーツが領域系能力を持っている、という事実を知っている問題児世代は残念ながらエミリオだけであり、そのエミリオもこの情報を共有するつもりでいたがすっかり忘れている。つまりカイトは今、フィリグリーがどのような能力を持っているのかさえ知らない。
戦闘の基本は、まず相手がどのようなタイプかを知る事。
カイトは何度か打ち合いながらそれを探り、フィリグリーは基本的に受けへ回るタイプだと判断した。しかし隙あらば攻めてくる。冷静に相手を見極め、的確に隙を突くスタイルがフィリグリーの戦闘体勢。大盾を持っている時点で強引に攻めてくるタイプではない事は簡単に理解出来ていたが、隙を突く、の正確性と鋭さは予想以上に高い事をカイトは知り、安易に距離を詰める事が出来なくなっていた。
次に欲しい情報は魔術を使えるかどうかだが、それは “使える” という前提で動かなければならない。
そして最後は能力の有無。
能力が勝敗を決めるとは決して言えない。しかし能力が有ると無いとでは手札量がまるで違う。
初見の相手───人型種を相手にする場合はこうやって見極める必要があるのだが、フィリグリーほどのレベルが相手となれば非常に難しい事となる。
「熱くなっていた様子だったが、意外と冷静だな」
冷たい瞳で常にカイトを捉えているフィリグリーが語りかける。気を散らさせる手段か、と一瞬思うも、フィリグリーにそんな意図はない。
フィリグリーは単純に余裕なのだ。いくら攻められようと大盾で受ける。隙あらば長剣を滑り込ませる。たったこれだけでカイトはジリジリと追い込まれる。
完璧とまで言える剣盾の基礎。何度となく繰り返してきた実戦で得た圧倒的な経験値量がその技をより実戦的なモノへと昇華する。戦闘に対しての慣れからうまれる落ち着き。
元騎士団長という称号はただの称号ではなく、底知れぬ実力を確かに持っている。
それでも、それだけで、カイトの負けが確定する事はない。
フィリグリーも同じく、カイトという存在を知らない。
性格、スタイル、能力の有無。
そして、視線を惹く狼のような耳───のようなもの。
種族の予想も必要とされるフィリグリーはいつも以上に防御寄りの戦法を選んでいた。
カイトの性格は問題児世代では珍しい温厚なタイプ、エミリオ達より数個上の年齢だからというワケではなく───勿論それもあるが───避けられる争いは避けるべきだと考えるタイプ。
とはいえ、問題児世代という枠組に彼も含まれている。その理由が、思い切りの良さにある。
いくら温厚と言われようと、彼も人であり男。
危険を承知で踏み込む度胸は常に持ち合わせている。
探り合いという今、カイト深く踏み込む決断をした。
大剣を構え、距離を詰める。
大盾に阻まれようと繰り返し斬撃を放ち、わざと隙を作りフィリグリーを誘い込む。隙へ滑り込んでくる長剣を大剣で迎撃し、その勢いのまま盾を強く叩く。長剣を弾かれた事でフィリグリーの意識は盾へ向くのは必然的だが、意識が向くよりも速くカイトは盾を狙い剣術を放っていた。
剣術に対しただの防御では到底足りない。
「なに......!?」
「シルキ流、って言ってもピンと来ないよな」
いくら長剣を弾かれたと言えど、フィリグリーの戦闘経験値は高い。素早く意識を盾へ向ける事など、意識せずとも行える。が、カイトの剣術発動を予想出来なかった。そこには大きな理由が存在する。それは、剣術の起動が省かれていたからだ。
剣術は本来、構え、溜め、狙い、放つ。
しかしシルキ大陸では構え、溜め、狙い、を省くやり方が剣技として存在している。
正確には、構え、溜め、狙い、の3つを同時に行い、素早く放つ、だ。
剣術は強力な戦闘技術のひとつだが、戦闘中にゆっくりと構えを行えるタイミングはそうはない。溜めも狙いも同じく。長年内戦が起こっていたシルキでは「より速く確実に相手を斬る」という思考に走るのは必然的だったのだろう。
攻防の最中でも剣や身体の動きを計算された【型】で動き、その【型】はいつでも剣術を放てるように構成されている。
こうした技術をカイトだけではなく、問題児世代の冒険者はシルキでの激戦で知り、エミリオが騎士学校へと潜伏していた期間に習得していた。
勿論、シルキ流として習得した技術を自分に合った【型】へと再構築して。
「ガラ飽きだぞ、元騎士団長」
「ぬぅ......っ!」
二連撃剣術の一撃目が盾を強く弾き上げ、二撃目がフィリグリーの胸へと炸裂した。
手応えは間違いなくあった。
カイトの大剣は間違いなく、フィリグリーの胸を深く切り裂いた。
にも、関わらず、
「勝利を確信するには些か速すぎるのではないか?」
「なに!?」
フィリグリーはぐらつく身体を立て直すと同時に剣術をカイトへ放つ。
先程の剣術が確実にヒットしていた事でカイトは【キャンセル系】の技術を怠っていた事により、剣はずっしりと重くなりそれを持つ腕も、そしてその重みは全身を包む剣術ディレイに陥っていた。
つまり防御も回避も不可能な状態。
そこへ容赦なくフィリグリーの剣術が打ち込まれ、長剣はカイトの左腕を通過し剣先が胸を浅く裂いた。




