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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【炎塵の女帝】
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◇未来への思想



 艶のない漆黒の髪を雑に束ね【パドロック】は遅れて現れた仲間へ告げる。


「フィリグリー、ここに耳持ちが来る。そいつを殺せ」


「耳持ち?」


 元ドメイライト騎士団長にして現レッドキャップの【フィリグリー・クロスハーツ】は眉を寄せ応えた。


「犬みてぇな耳を持ってる野郎だ。俺は女帝を狩りに行く。耳持ちを殺したらお前も来い───っつっても、終わってるかも知れねぇけどな」


「敵の件は了解した。が、お前はやりすぎる所がある。くれぐれも()は破壊しないよう注意してくれ」


「わかってるって。それがあの女帝(クソ)と表面上だけでも契約した目的だからな」


 SSS-S3(トリプル)の犯罪集団【レッドキャップ】が【炎粉の女帝】と手を組んでいたという時点で何か裏があるのは当たり前の事であり、本当の目的は金ではなく鍵。

 その鍵は外界へ簡単に渡れる鏡が保管されている宮殿の鍵。


 パドロックはその鍵を手に入れ、地界と外界を完全に、そして簡単に繋ぐつもりでいる。





 鋼鉄の塔と化した旧デザリア宮殿。

 十年前とは街の雰囲気───圧迫感もまるで違う中で一際その威圧感を放っている塔へ、カイトは足を踏み入れていた。


 千秋はだっぷーに任せ、だっぷーはクゥに任せ、自分は塔から覗いていた黒髪の男に話がある。と。


 カイトは千秋と接点と言える接点は無いに等しい。初対面ではないものの、肩入れする程の関係性ではない顔見知り程度。それでもカイトを酷く怒らせた理由が───女性に対し男性が酷い行動を行ったからだ。


 敵対している相手が必ず自分と同じ男性、というワケにはいかない事くらいカイトは理解している。その場合も、決して避けられない衝突ならば仕方がないとまで思う。しかし、必要以上に男性が女性を痛めつける事はしちゃいけない。ましてや高い所から女性を投げ落とし、それを見て笑うなど、どんな理由を聞かされても “そんな事理由にならない” とカイトは思っている。


 黒髪の男が何者で、何が目的で、なぜここに居るのか。


 そんな事どうだっていい。


「俺は黒髪の男に用がある───お前に用はない」


「そう言われても困る。私は犬のような耳を持った男を殺せと言われ、ここにいる」


 塔を登ったカイトを待ち受けていた男───元ドメイライト騎士団 団長であり現レッドキャップのNo.2【フィリグリー・クロスハーツ】だった。


「......お前、フィリグリーだろ? って事は黒髪の男がレッドキャップのリーダーか? 名前はたしか、、、パドロック」


 フィリグリーの顔は既に世界へ広まっている。元ドメイライト騎士団長という肩書は伊達ではなく、簡単にその名と顔は騎士や冒険者達へと拡散され、誰もが知る犯罪者だ。


「......キミは?」


「お前に用はないと言ったろ。どけ」


「......ふむ。何をそんなに怒っているかわからない、が、ひとつ助言をしよう。キミでは───キミ達ではパドロックには勝てない」


「そうか。それじゃあ見てろ」


 カイトが一歩踏み込むとフィリグリーは剣を抜く。

 大盾と長剣、という騎士にありきたりなスタイルだが、武器を手にした途端嫌でも察するフィリグリーの実力にカイトは舌打ち。


「用があるのはお前の所のリーダーだ。そもそも何でお前のようなヤツが犯罪者になってまであの男と手を組む? 騎士団長って立場から色々出来ただろ?」


 誰もが思う疑問だった。

 ドメイライト騎士団長フィリグリー・クロスハーツという男の実力はノムー大陸だけではなく、ウンディー、イフリーでも飽きるほど噂されている。

 現在、地界で最強ではないなか?

 過去にイフリー大陸の闘技大会で優勝した男よりも強いのではないか?

 騎士を相手にした場合、フィリグリーがいたら逃げろ。

 など、強者の象徴としての噂が。


 そんな人物がなぜ犯罪者という汚名を着込んだのか。


「私にも色々思う事があるのだよ」


「その思う事を聞かせてはくれないのか? それならいい。とにかく今はパドロックに一言ある」


「キミは───今の世界をどう思う?」


 この質問にカイトは足を止めた。ここに居るのがカイトではなくエミリオならが十中八九「知らねーよ世界だとかそういうのは鏡相手に喋ってろ」くらいは驚異的な瞬発力で応答するだろう。しかしカイトは、今の世に思う事があった。


 勿論不満ばかりではない。不満よりも多くの幸せや満足感、楽しいと思える瞬間をカイトは既に持っているが、それでも不安が消えるワケではない。日々安心できるワケではない。不満が消えるワケではない。


「......アンタはどう思うんだ?」


「一見は平和だろう。表面上はな。しかし内側や裏側は権力者に有利な法が蔓延っている。それだけならばいい。だが、もし騎士団や軍が崩壊したら? 冒険者が壊滅したら? 誰がモンスターの脅威から人間を守る? モンスターだけではない。人間も人間へと刃を向ける。そして我々は外界という魔境に疎い。別種族が地界を征服すべく迫ってきた場合どうする? 危機感が足りないのだ。権力をもとうと実力をもとうと、全てが半端だからこそ小さい箱で過剰な満足感を貪る。そんな者達に、そんな世界に未来はない」


「未来......か」


 フィリグリーの言葉全てに頷けるワケではないが、頷ける部分もたしかにあるとカイトは思った。

 しかし、


「人間も人間へ刃を向ける......それはお前の事だろう? そんな事していても何の意味もないってわかってるなら今すぐ辞めろ」


 世に混乱を招いているのは紛れもなくフィリグリー達だ。この点に至っては間違いなく犯罪者が悪い。気に入らないから反発する、それはいい、だが、反発の度合いがルールを平気で飛び越えている。

 権力者が作り上げた法律は窮屈な面も存在するが、その法律に守られている者の方が多い。

 そんなルールを無視している者の言葉には誰も耳を傾けない。


「言っただろう? 全てが半端だと」


「......?」


「圧倒的な力を前にすれば人々は従うしかない。それが悪だろうと関係なく、そうするしかないのだよ。支配から始まってもいい、統一できるのならば支配だろうと喜んでしよう! そうして外界へ警告する事が大事なのだ! 安易に地界へ足を踏み入れるな、刃を向けるな、と」


「......お前......そこまで想えているのに......」


 カイトは言葉を切った。

 フィリグリーは悪に足を踏み入れた事実は消えない。しかし、全ては今の世界を、人間という種族の “未来” を想っての行動なのだと知ってしまった。


 知ったからこそ、フィリグリーのやり方が間違っていると強く思ってしまった。


 未来を思っていても、そのやり方では求める未来など絶対に訪れない。


「......俺は法律を詳しく知らない、代表的なものしか知らない。アンタは違うだろう? ひとつ教えてくれ」


「なにかね?」


「犯罪者ってのは、お前らレベルの犯罪者には救いがないのか? 免罪とまではいかないだろうけど、国のために、世界のために、枷をつけた状態でも動けるようにする法律はないのか?」


「存在しない。我々クラスの犯罪者は捕縛よりも討伐が優先されていて、最重要なのは抑制や無力化ではなく殺害だ。何をすればどうなるか、それをハッキリと公表する必要があるのだよ」


「そうか」


 もし救いがあるなら、そのやり方が間違っているという事を今この場でカイトが───フィリグリーを打ち負かし否定してやる事で違った道を歩めるのではないか、という淡く浅い希望を持ったが、法律は窮屈であり硬い。

 こんな希望が通るワケもないのだ。


「お前の考えは全てが悪ではないと思う。でも、お前のやり方は間違ってる」


「それは理解している。それでも、誰かがやらなければならぬ程、世界は統一性を失い衰退しているのだ」


「違う。支配だ何だじゃなく、別のやり方を今の世界にあったやり方を考えろって言ってるんだ。なぜそういう考えが出なかった?」


「もう遅いのだよ。地界に魔女が現れ、悪魔が産まれ、他の種族も幅を効かせる。そこへ絶望の具現化とも言える【クラウン】の再臨。それだけではない。人が人を餌にする世界が根深くなってしまっている。この塔の上にいる女帝も人を餌にした結果であろう?」


「だからお前も悪になって対抗するって言うのか? 子供の遊びじゃないんだそ!?」


「重々承知している。だからこそ、極力邪魔を削るのだ。必ず私が魔結晶を集め世界にその力を示す。そこからやっと始まるのだよ───我々人間が安心して暮らせる地界という世界が」


 硬い意思を言葉に乗せて、絶対的な正義を刃に宿してフィリグリーはカイトへ剣先を向ける。

 これ以上話しても何もかわらない。


 カイトも大剣を抜き、法だ世界だ、という小難しモノを切り捨て、ただ眼の前にいる犯罪者を討伐する事を決意した。





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