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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【炎塵の女帝】
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◇不吉な予感



 酷い耳鳴りも治まり、どっと湧く耳障りな歓声の中でわたしは灰塵と化すバーバリアンミノスを見送った。


 どんな理由、どんな経緯だろうと、バーバリアンミノスを殺したのは紛れもなくわたし自身。

 それを胸に刻み、ゆっくりと剣を鞘へ落とす。


「一撃! まさに一撃! 巨体から繰り出される攻撃の雨をその小さな身体で受けながらも、ひと振りでバーバリアンミノスを沈めた! あの少女は何者なんだァァ!?」


 うざったい煽りで観客を盛り上げる実況モブをひと睨みし、わたしはブーツに雷を纏わせる。魅狐ミコプンプンの能力からヒントを得て組み上げた魔術【サンダーブーツ】で地面を撃ち実況が立つエリアまで跳ぶ。


「よぉ、さっきからうるっせーんだよお前」


「なっ!?」


拡声機それよこせクソモブ」


 反響マテリアを利用して生産されたであろう拡声機マイクを奪い取り、わたしは観客共を一望した。

 どいつもこいつも綺麗な服装で、他人が無様に戦う姿を優雅に傍観する、というゴミ加減が胸焼けするほど見てとれる。ただ高いだけで何の効果もない服装。


「おうカス共、金余ってんだろ? わたしと賭けしようぜ」


 どよめく観客を前にわたしは続けた。


「こっちは、お前等が悲鳴をあげてここから逃げる、に1000万ヴァンズ賭ける。お前等はそうだな......逃げない、に1000万ヴァンズ賭けろ。悲鳴くらいなら許してやる。どうだ? それとももう逃げるか? 悲鳴あげなきゃ逃げてもいいぜ」


 このくらいで乗ってくるだろう。中身なんて塵ほど入ってないプライドを大事に大事に持って見栄はってるから、ここでも無駄に大金をばら撒いてるんだろ?

 自分はお金を持っている。自分はモンスターの戦闘を見ても驚かない。それどころか楽しめるだけの精神を持ってる。って感じに。だったらわたしが持ち出した賭けにも乗るハズだ。


「いいぞ! 貴様の賭けに乗ってやる!」


「1000万を払えないなら貴様自身が賭け金となって貰うぞ!」


 ほら見ろ。


「あーあーうるせーな。なんでもいいからさっさと賭けろ」


 専用紙幣を賭け、本当に1000万ヴァンズ分を軽々と投げた。クチ約束程度で考えていたが......ここまでやるとは本当に、馬鹿としか思えない。


「んじゃ始めるぜ───」


 詠唱を開始する。ついさっきまで自分が立っていたコロッセオへ重力魔術を炸裂させ、粉々にすり潰し、


「っと、言い忘れてたけど、わたしは───青髪帽子の魔女だ。1000万よろしく」


 拡声機で最後にそう言い、奈落と化したコロッセオへ拡声機を投げ再び詠唱する素振りを見せると、予想通り観客達は命の危機を感じ悲鳴をあげて逃げ惑う。


「怪我する覚悟もねーのに怪我してるヤツを見て笑ってんじゃねーぞ! さっさと消えろ!」


 観客をどうにかしよう、なんて考えていない。外へ繋がる道を知るには観客達を動かせばいい、そして誰も向かわなかった道が───モンスター達を管理している場所へと繋がる道で間違いないだろう。

 対面へ跳ぶには【サンダーブーツ】では弱い。もっと密度の高い雷撃をブーツに履かせた【ルナールアクセル】を発動させ、地面を、空気を狐型の雷が掻きむしり一気に跳ぶ。

 攻撃にも移動にも使える部分がプンプンのスタイルにそっくりだ、と自分で考案した魔術を評価しつつ見事飛び越え着地。獣臭い風が抜ける通路をワンランク下げた【サンダーブーツ】で突っ走る。


 袖で血を拭きながらそれらしい道を進んでいると、予想通り地下へ繋がる階段が現れる。


「この奥にモンスター共がいるのか......マスターってのはさすがにいなさそうだけど」


 雷を弾けさせ、一気に階段を飛び降りると、


「───はっ。どんだけ抱えてんだ?」


 結界内とはとても思えない量のモンスターが檻の中で凶悪な顔を浮かべていた。


「エミ、カ?」


「───よぉ、ここに居たのか」


 理解出来る言語での声はバーバリアンミノスの声。檻へ近付くと、十数体のバーバリアンミノスがそこにいた。これでも、少ない。


「他のみんなはどうした?」


「ワカラナイ、オデタチ、ココ。ミンナ、ツレテイカレタ」


「......そうか」


 この街に到着した時、貴族がバーバリアンミノスを見たかって喋ってた。大量のババを見ていたならもう少し違う言い回しをしていたんじゃないか?


「帽子の魔女!」


「?───ヨゾラ、ここに居たのか」


「いや今きた」


 別の通路から現れたのはわたしをモンスターパレードへ投げ飛ばした女、ヨゾラだった。

 わたしとは違って無傷状態......装備に汚れなどもない事から戦闘をしていたワケじゃなさそうだ。


「なにしてたんだ?」


「檻を開けるために動いてた。あと数秒で全檻が解放される」


「はぁ!? 全檻って......やべーだろ! モンスターが一斉に出るって事だぞ!?」


「大丈夫っしょ。まぁ見てろって」


 直後、檻は振動と同時に解放され、バーバリアンミノスだけではなく全てのモンスターが外へ出始めた。殺気立つモンスターも多く、とても大丈夫には思えない状態。


「上に出すワケいかねーぞ!? どーすんだよ!?」


「別に上に出しても大丈夫でしょ? ちゃんと言う事聞くなら」


 ヨゾラは敵意を向けるモンスター達の前に進み、一言。


「殺されたいヤツは一歩前に出ろ」


 すると一体のモンスターか蒸気のような呼吸と共に巨体を揺らし力強く踏み込んだ。二歩目を踏込もうと上げた足は力無く着地し身体を支える事も出来ず倒れ絶命。


「他には?」


 いつの間にかヨゾラはそのモンスターの前に移動し、腰に吊るしている二本のうち一本の剣を抜いていた。斬ったんだ。あのモンスターを。


「いないね。よし、それじゃあみんな私の言う事聞いて動けよ? 外に出たら真っ直ぐ街を出ろ。街の外に出たら後は好きにしなさい。外なら何をやっても自己責任、死ぬも生きるもご自由に」


 剣を鞘へ納め、ヨゾラは「ほら早く行け」とモンスター共へ言い放ち、従うようにモンスター共も動き始めた。


「まぢかよ......ヨゾラってテイマーなの?」


「まさか? 痛い怖いは種族を越えて通用する。子供でも大人でも、馬鹿でも天才でも、同じだけ通用する。これ覚えておくと便利だよ」


 力でモンスターを抑制し、解放してみせた。理屈はわかるけど......本当にそれを狙ってやって、成功させるヤツがいるとは......。


「相手もテイマーじゃないよ。私と同じようにやって、同じように従わせただけ。だから所有権を同じやり方で奪えた。テイミングされたモンスターじゃこうはいかない......それと誰かがここの結界弱めてるっぽいな。いいのかよそんな事して」


「結界の方はこの国の問題だし、ほっといていいんじゃね? それより......なんだ? この嫌な感じ」


 魔女や特異個体とは違う、圧力のある気配が上から微かに感じる。

 モンスターともまた違う......嫌な感じが。


「嫌なかんじ? ......コレは───大変な事になるかも」


「あ? なにが? 上になにいんの!?」


 ヨゾラも感知したそれに、表情を鋭くかえた。

 魔女ならわたしがわかる。女帝種の気配も知っているから違うと断言出来る。

 この嫌な圧力......どこかで過去に一度触れた事があったような、なかったような......、


「......───これ、悪魔か?」


 上から押さえつけられるような圧力が悪魔の気配それと重なった。過去にわたしは後天性悪魔の【ナナミ】と対面し、眼を奪われるという経験をしているからこそわかった。この威圧感は悪魔族のそれに限りなく近い。


「悪魔......だけど、ちょっと違う。悪魔族の魔人種(、、、)だ」


「魔人?」


 聞いた事もない種族だが、悪魔である以上は生易しいものじゃない。と、わたしは備え圧力が降り注ぐ高い天井を睨んだ。





 ギャンブルの街トラオムにある賭博闘技場【モンスターパレード】でエミリオがバーバリアンミノスのボスを終わらせた頃、街の入口に到着したウンディーの冒険者ワタポとひぃたろはボロ宿で部屋を借り、ギルドメンバーのプンプン、シルキ大陸の華組、すいみん、モモ、スノウ、あるふぁ、合計5名を休ませる。


 リリスとの戦闘で無謀な戦い方をしたプンプンと酒呑童子の圧倒的な戦闘力の前に散った華組だが、怪我の度合いは低い。

 一番重症なのが、ワタポだ。


「すぐ再生術(、、、)を始めるわ。言っておくけど、私の再生術はリピナとは比べ物にならないくらい荒っぽいと思うから覚悟してよ」


「お願い」


 街の中心部で混合種やデザリア兵が動き出す頃、ワタポの腕をひぃたろが慣れない再生術で再生させる。


 不吉な予感が2人の胸を逆巻く中でも、今は焦らず傷の治癒へ専念した。





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