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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【炎塵の女帝】
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◇未体験な快楽



 殺し合いならばどれほど楽だったか。幻魔と皇帝は同時にそんな思いを既に何度となく味わっていた。


 匠な体術と影で攻める幻魔に皇帝は長刀と “刃物のように鋭い触手” で対応する。鞭のように伸びしなり、槍のように地面を穿ち、刀剣のように空気を斬る触手尾を4本伸ばす皇帝。


「これは神経使うから好きじゃないんだ。早めに落ちてくれると嬉しいんだけど───」


 距離を詰めつつ触手尾を振り回し、長刀の範囲へ入るやすぐに皇帝は剣術を使う。


「じゃあお前が落ちろよ? そうすりゃお互い痛い思いをしなくて済む」


 その触手を器用に回避しつつ剣術には体術でぶつけ相殺する幻魔。ここでお互い剣術硬直ディレイタイムに陥る。しかし───皇帝の触手はディレイ対象ではないらしく、幻魔の腹部を4本束ねた触手で貫いた。


「───あら、まーた相討ちかい」


「───みたいだな。いい加減譲れよ」


 触手が貫くとほぼ同時に影の大刃が皇帝を腹部から切断していた。


 お互い一瞬意識を失うも、すぐに意識は再接続され傷口はうねりうごめく細胞が塞ぐ。化物染みた再生力は女帝を遥かに超える。

 それが───幻魔と皇帝───特異個体となっている2人だ。


 この再生力が互いを苦しめていた。

 傷を追ってもすぐに再生し、ダメージは体内に疲労として蓄積される。しかし痛みや攻撃を受けた感覚は通常通り。

 限りなく不死に近い2人が戦闘するという事は、無駄に痛い思いをする事とも言える。

 勝利する方法はただひとつ。意識を狩る事。


 もう何度目かもわからない意識の切断と接続を繰り返し、周囲は夥しい血痕が。


「もう落ち(諦め)てくれよ......」


「それはこっちの台詞だよ幻魔君」


 声音や表面に余裕が無くなり始める2人だが、幻魔は気付いていた。お互いまだ “能力または皇帝としての特性を使っていない” 事に。

 触手も皇帝や女帝の特性といえばそうだが、感覚的には特異個体となり得た副産物だ。触手を持たない種も存在する。


 雨の女帝は水を着込み、炎塵の女帝は爆破粉塵を操るように、必ず何かしらの特性を得る。

 幻魔も皇帝も例外なく。


「───......チッ」


「───参るねホンットに」


 繰り返される意識の再接続に神経は疲労し、お互い自制(、、)が緩み始める。戦闘開始から止まる事なく意識を摘む噛み合いを続けている事もあり、体力的な限界も迫る。


 繋がっては切れ、再生しては負傷し(繋がっては切れ)、その都度痛みだけは嫌気がさすほど明確に残り体力や集中力が容赦無く削られる狂戦で、ついに皇帝が一歩踏み込む事に成功する。


 触手尾は影で、長刀は峰を踏み地面に伏せた状態で、皇帝は左腕を伸ばし幻魔の首を掴もうとする。勿論そんな事を許すハズもなく、幻魔は右腕で皇帝の左手首を掴み、フリーの左腕を皇帝の首へ伸ばす。


「キミから3秒だ。これでリンクしたよ幻魔君」


 伸ばした左腕で皇帝の首を掴み、喉を潰すよう力を込め、幻魔は咄嗟に左手を放した。触手尾の攻撃も長刀の抵抗も無い、皇帝に一撃入れるには充分すぎる隙だが幻魔は何もせず数歩下がる。いや、後退る。


「なんだ今の......俺の首にも......」


 自身の首に鈍く残る圧迫感、喉が撥ねるような窒息感は紛れもなく本物であり、今幻魔が皇帝へと行った攻撃のひとつ。


「幻魔君のそれと同じ、能力だよ能力。自分は相手さんに触れていない状態で相手さんが自分に3秒以上触れる事で、初めて効果を発揮する能力」


 簡単にネタを明かす皇帝に幻魔は背筋を凍らせる。能力の性能や性質を晒すのは自殺行為に等しい。看破されている能力だとしても、敵に自ら語るような事はしない。本当に看破した通りの能力なのか、どこかでミスリードされていないか、などの思考を残すだけでも役に立つ中で、皇帝は自ら晒す。

 この発言はつまり、勝利宣言。

 揺るがない勝利を確信したからこそ、能力を饒舌に語る事が出来る。


「効果はもう知ったでしょ? 感覚を共用......違うか、こちらの感覚を一方的に相手さんにも与える。これが俺の能力。そしてこっちが───共喰い(皇帝)代償(恩恵)さ!」


 能力披露後、間髪入れず皇帝種の特性を容赦なく使う。光沢ある触手の鱗端をノコギリ状にする事で突き刺さった際、肉に食い込む仕様に仕上げる。先端の刺は空洞。


「キミのどう反応し溶けるか。楽しみだよ」


 4本の触手を自身の身体へ深く突き刺す皇帝。貫かず体内に先端が納まるよう刺し、少し引く。これで鱗の返しが深く食い込み体内を裂傷状態に。

 皇帝の能力は感覚共用───リンクした対象に感覚だけを共用する。今幻魔の肉体には傷ひとつないが痛みは濃厚に降り落ちる。

 そして次に皇帝は特性を使う。

 針の先端から腐蝕液を体内へ吐き出す。


「きたきた、キタキタキタ、ぐつッ、つァッ、どうだい? ねぇ!? キくでしょうに!?」


「ッ!? っ、ぐっ、ッッ!!」


 デザリア軍、四将のひとり。腐肉。

 ここまで能力と特性がハマっている存在もそういない。相手とリンクしてしまえば毒素を相手の体内に残す事なく内側から崩し溶かし殺せる。

 察しの通り皇帝は自身特性では死なない。

 しかし同じ感覚を与えられた対象の身体は痛みに抵抗する。その抵抗がストレスとなり神経を焼き切り、脳を溶かす。


 昔、ある科学者がひとりの人間を何日間も監禁し肉体を刻み続けた。死なない程度に強烈な痛みを何種類も与えた。その結果、神経が感覚を捨て脳が理解を拒み、死んだ。


 この実験結果を知った皇帝(腐肉)はそれを応用し対象を殺す。息絶えた対象のドロドロになった脳を啜る事を至福として今もなお共喰いを続けている。

 デザリア軍兵として、国を守る兵として、これが正義なのだと業を詭弁で包み、今も欲望を満たすべく幻魔の終わりを待つ。


 皇帝種は既に精神的に崩壊していた。

 共喰いの快楽に芯まで汚染され、脳を啜る事だけを目的に生きている。しかしこの目的が皇帝種に人の心を残しているのだ。

 本来ならばここで完全に自我を失い化物となるのが男性ベースの特異個体だが、この腐肉は自身の感性で咀嚼した脳の感想を舌の上で転がす事を生き甲斐としている。だからこそ、自我が必要であり崩壊する事もなく今まで残っているのだ。


「どうだいどうだい!? 足りないならまだまだあるから遠慮せずとも!」


 嚥下えんげするように触手が唸り、腐蝕液を嘔吐し、重く強烈な痛みが全身へ流れる。

 すると心臓(、、)に亀裂が入るような不協感が突き抜けた。


「ギィ!? グギギ、ギッ、ィィ、あっ、う、あっ、うゅゅ......イッ、、ゅ───」


 その感覚に皇帝(腐肉)は眼球を痙攣させ喘ぎ惚ける。

 膝をつき後頭部を背中へ接触させる勢いで身体を反らせ、盛り上がる局部を拍動させる。快楽の天井を奥舌で舐め回すような不潔な背徳、奥歯が噛み合わなくなるほどの享楽を貪り、未体験な快楽の渦へ飛び降り静かに達した。




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