◇現状
ケープマントのような羽織りは太陽光から肌を守り、夜の冷えから身を守る目的で作られた、朝と夜での気温差が激しいイフリー大陸ならではの外套。デザインも様々で素朴なものもあればド派手なものまで存在する。
現在は夜、それも深夜と言ってよい時間帯だがイフリーの首都【デザリア】のメインストリートは夜営業の街が活気に湧く。
「そういえば聞いたかね? オルベア様が愚族の村に現れた化物を討伐すべく隊を率いたと」
「ほう、化物? 隊を率いて荒野を滑走していたのは小耳に挟んでいたが化物とは......全く怖いですなぁ “愚族” は」
スーツにハット、見るからに高価な背伸び品で身を飾る貴族は踊り子を両脇に抱え、ワインに旬な話題を添える。
愚族、とは名も無き村の住民達や今の文化に取り残された───経済的な変化に乗れなかった───者達を指す差別的な呼び名。このような言葉はごく一部の者しか使わないが気分の良い言葉ではない。
ローブに身を包み隅の席にひっそりと座る2人の影───千秋とテルテルは、貴族の話に耳を塞ぎたい気持ちで一杯だった。
「心配ないだろう、オルベア様がイフリーのトップとなってから不安など吹き飛んだであろう?」
「そうですな、理解力が良く、黒い事柄にも寛大な方だからこそ、我々も支援できるというもの」
声を揃え笑う貴族。
今まで禁止されていた事柄が次々と解禁されるイフリーは、微量の権力を持つ者にとっては最高の環境となり、生活に苦しむ者にとっては最低の環境と成り代わっていた。
2人の貴族のうちひとりは、
【モンスターパレード】と呼ばれる人外闘技賭博を経営する者。
人外闘技賭博......人間以外を戦わせ、人はその試合の勝敗を予想し金をかけるギャンブル。
もうひとりの貴族は
【ハールマンマルクト】と呼ばれる商売を経営する者。
表向きは食品や衣服の販売だが、お得意様となればお迎えが可能となる。このお迎えを求めて富豪達は大金を落としお得意様となる。
お迎え......客の要望に可能な限り応えた商品を用意する人身売買。
この2人は元々、ノムー大陸の貴族だったがノムーの法律がことごとく合わずイフリーへ渡った。勿論、イフリーでも人身売買は禁止されているが、それは表向きに禁止されているだけであり、熱心に取り締まる者もいない。
【モンスターパレード】と【ハールマンマルクト】は互いの商品を巡回させるには最高の取引相手となっている。
「それより、どうです? 調教の方は」
モンスターパレードの経営者がスモークベーコンを齧り仕事の話を始める。
「順調ですぞ。あと数日程で完成するでしょうな」
ワインをジュルジュル啜る気品のない呑み方をするハールマンマルクトの経営者はご機嫌に答え、詳細を自慢気に話し始める。
「年齢は16歳、性別は男性だが見た目は少女そのもの。可憐な見た目からは想像したくない程の残虐性を備えておりますぞ。主人の命令には従うので、ドールとしても使えるでしょうな。私だからこそ調教できたようなものですぞ」
この自慢は貴族に対してではなく、両脇に抱える女性に対してのくだらない “権力と技術” の自慢。両脇の女性達は内心で軽蔑しつつも職業が娼婦なので惚れ惚れとした表情を浮かべては胸に寄り添う。貴族の機嫌を損なえば一瞬で奴隷となってしまう危険な職業だが、一度でも娼婦となれば逃げ出す術はない。
「失礼、少々遅れてしまいました」
3人目の貴族が予定より大幅に遅刻し登場するも2人の貴族は「おぉ来たか、お互い様だ」「気にする事はない」などと労う態度を見せ向かえ入れる。
この3人目が娼婦達の支配者であり【プロスティトゥーア】と呼ばれる女性を商品とし男性の欲望を叶える商売をしている者。
イフリー大陸の娼婦は全員この貴族の管理下にあり、踊り子達も半数はこの貴族に管理されている。
【ハールマンマルクト】が【モンスターパレード】や【プロスティトゥーア】へ人材を販売し、
【モンスターパレード】で型落ちした人材を【プロスティトゥーア】へ販売し、
【プロスティトゥーア】が仕上げた人材を2人の趣味へ供給しする。
妙なサイクルを築くこの3人の貴族だが、イフリーの現状はこんなものではない。
薬物販売、兵器販売、人体収集、拷問趣味、、、、様々な異常者が財力を持ち、貴族として平然と生活する。それらを黙認するのが【炎塵の女帝 オルベイア】。
非人道的な行為もオルベイアにとっては “被害に合う者の運が悪い” 程度であり、それ以上はない。
貧富の差はあって当然、優雅な暮らしをしたいならば知識をつけ実力へと昇華させ、周囲を出し抜き勝ち取ればいいだけの話。
無能は有能の餌に、有能はさらなる有能の糧に。
それが今のイフリーで蔓延る暗黙かつ絶対な法律。
千秋は変わり果てた故郷に、腐り続ける人々に、無能な自分に、唇を噛む事しか出来なかった。
◆
「帽子魔女以外はみんないるわね?」
今は使われていないであろう老廃した屋敷にて、ウンディーの冒険者達が合流を果たした。
本来のルートとは違った形になってしまい、合流するという選択を選んだものの、半妖精が言ったように丸帽子の魔女エミリオは行方不明、フォンに連絡を飛ばしても繋がらない状態が今も続いている。
各々がこの短期間に得た情報を出し合い、イレギュラーというにはハードすぎる現状に足踏みしていた。
【炎塵の女帝】【レッドキャップ】【クラウン】......厄介と面倒を兼ね備えた名前が三乗されているが、問題はこれだけではないだろう、と誰もが未知のトラブルへ気持ちだけでも備える。
「とりあえず今夜はここで過ごすわよ。今後の事は可能な限り話し合いながら、身体だけでも休めましょう」
短い溜息をつき、半妖精のひぃたろは破棄するには綺麗すぎるソファへと身を委ねた。
◆
ウンディーポートに到着した船から数名が降り、別の船ですぐにウンディーポートを出港したのはもう1時間前の事。
飾り気のない船だが技能族の燃焼機が装備されている。船内には───
「......」
「......」
「、、、? ピリピリしてるッスね」
ドメイライト騎士が3人。
ウンディーに到着した船はノムーからの船で、そこから船を乗り換えイフリー大陸へ向かっている。
身体中傷だらけの重騎士【アストン】。
冷静の中に強い正義感をもつ【ルキサ】。
髪型に拘りを持つトサカヘアーの【ヒガシン】。
イフリーへ向かう目的は “爆弾人間の件での謝罪要求” だが、これはあくまでも表面上の話だ。イフリーがそのような要求に、それもノムーからの要求に乗るなど誰も思っていない。要求が通らなかった場合は───爆弾人間を送り込んだ者を特例捕虜としてドメイライトへ連行する事であり、これが騎士達の真の目的と言える。
「ピリピリもするだろう。なんせ相手は女帝種、それも......」
「6体しか確認されていない覚醒種だ」
「......そうッスね」
───そういう化物の相手は化物達でやっててほしいッスわ。
と、ヒガシンは胸中で溜息を吐き、この上なく面倒な気持ちでいっぱいだった。
相手は女帝種であり覚醒種という化物の中の化物だが、この男ヒガシンはそんな相手に対しても恐怖より面倒という気持ちが先に立つ。
それがドメイライト騎士イチの平和主義者ヒガシンだ。




