◇543 -ネリネ・サルニエンシス-
フォンポーチから細剣【フェルシュング】ではなく、メイン武器【ブリュイヤール ロザ】と【ローユ】を取り出し装備する。
ビビ様が気を利かせて渡してくれた武器では、魔女を相手にするのは少々頼りない。
制服も脱ぎ捨てカスタマイズされたメイン防具の【ナイトメア】を装備したいが、学生に会った時の言い訳を用意出来る程の余裕は、今のわたしにはない。一応すぐに装備出来るよう、防具一式をショートカットに設定しておく。
そしてこれも一応、毒、麻痺、痛撃、などのポーション類を既に飲んでおく。即効性の茸印ではなく持続性の狼印。
相手が魔女と判明した以上、準備しすぎ という事は絶対にない。
以前のわたしならば突撃一択だっただろうが、今、記憶の解凍が半ば済んだ今だからこそ、魔女の恐ろしさを鮮明に脳が再生させる。
───どの魔女がいるか......だな。
喉を奥で呟き、地下通路の先にいるであろう魔女の元へ向かう。誰がいるかで決定されるだろう。今回のクイーンクエストの犯人が。
もし袖引きの適任者───人間を攫う理由と目的が充分ある魔女───がいた場合は、わたしも本気でその魔女討伐する。腰のロザを掴み、剣の感じ を思い出した瞬間、コツ、地下に足音のようなものが一度響いた。
一度、ということは停止したという事だろう。相手側もわたしも、互いの戦闘射程に、範囲に入った事を示す停止音。
ロザに触れていた左手を握り、集中力を正面を向けたその時、暗黒で何かが鋭く閃光した。
「───ッ!」
「んな!? ───......」
細く小さく輝いたのは細剣の刃、それは滑らかに、流れるように、わたしの胸へ伸びるも、遅い。
ロザの刃で舐めるように閃光を走らせ、加減して弾いた細剣は狙い通り盛大に火花を散らし通過する。
細剣の先には魔女ではなく───3席のネリネ。
「......エミ、ル」
「よぉ、お嬢さん。ちょっとお話しましょーや」
細剣の護手を上から押し、武器ごとネリネの腕が、肩が、首が下がった瞬間首筋へロザの刃を軽く触れさせる。
「ここで何やってんだ?」
まさかネリネが、知った顔がいるとは予想もしていなかった。魔女と関係しているのか......していないワケがない。突然暗闇から迷うことなく心臓を狙った突き、こちらが誰であろうと殺すつもりだったんだろう。何らかの魔力を感知してここへ来たのなら、方向はわたしと同じでなければならない。
「あなたこそ───」
「聞いてんのはこっちだ。黙って答えろ」
首筋のロザを少し、しかし確実に動かし綺麗な首に傷をつける。
そう脅しつつ、答えるとは思えないので闇魔術で脳内を覗く。
「......クッ、なぜあなたがここに、」
やはり答えようとしないネリネに、
「───アンブル......チッ、シェイネかよ」
わたしの知らない事実をぶつける。それで思考を湧き走らせようと企むも、反応は予想外なものだった。
「シェイ、ネ?」
なるほどな......アンブル、シェイネの名前は聞かされていないのか。いや、琥珀の魔女 と名乗ったか。魔女は本名を名乗らない風習がある。そのために記号となる○○の魔女や二つ名を好む。
わたしは本名を名乗るけどな。
「!?───おわっぶね」
ここでわたしの拘束───とは言えない脅し体勢が崩され、闇魔術は終了。
思考を覗けるのはいいが、相手または自分がアクティブに動くと魔術が終わるのは残念すぎる性能だ。が、
「なぜここにあなたが、エミルがいるのですか!?」
「まだお前のターンじゃねぇよネリネ。席次持ちが集まって悪巧みか? 冷たいねー。わたしやトゥナ、双子も呼んでくれよ」
「!?......あなた、一体何者ですの?」
闇魔術が消える数秒前に得た情報で、奥に4人......シェイネを含めれば5人いる事を知った。
「おふざけにしてはメンバーがちょい本気すぎないか? それに、拐った学生はどこにいる?」
「───......あなたは危険ですわね。心苦しいですが、ここで死んでいただきますわ」
チッ......お前らが犯人かよ。闇魔術では学生を拐ったという思考は発見出来なかった。カマをかけてみただけだが......何やってんだよ騎士学生。
「わたしが勝ったら話せよ。全部」
「死んでも話すワケありませんやよ? それに、勝てると思いますの? 私は中級時点で十席を獲得し、中級後半では六席、上級へ進級したその日から今の今まで三席の座についていたのですわよ? あなた如きではこの私の足下にさえ............私達の足下にも及ばない事を、その命を代償に教えて差し上げますわ!」
「あァー? くだらねー 自慢話は終わったか?」
「ッッ───!!」
最後にして最高の挑発はネリネを釣り上げた。話をするのは黙らせてからだ。悪いが───手加減しない。
「我がサルニエンシス家の剣技、華剣で蜂の巣にして差し上げますわ!」
細剣を顔の横で構え、足に無色光を纏わせ地面を蹴った。体術で速度をブーストさせつつ刺突剣術。
グリフィニア同様、動きが流水のように滑らかで、ネリネは柔軟性を感じさせる剣戟。
蜂という表現通り連撃の刺突剣術へキャンセルプラスを繋ぎ、何十発もの刺突を蜂の羽音にも似た低く音で繰り出す。
既に3回は繋げたであろう剣術......凄いなお前は。わたしは1回でも大変なのに。
4回目のキャンセルプラスを入れるべくネリネは細剣を引き戻したこの瞬間、わたしは踏み込み単発剣術を撃つ。
「どうした3番、ただの単発だぜ? それに、死んでも話さないなら死ぬ覚悟あんだろ? 話す気ないヤツに時間かけてらんねーんだわ」
「クッ......なんで、どんな眼をしているのですッ......ッッ」
どんな眼、というのはわたしがネリネの剣術を全て回避またはパリィで対応したからこその言葉。そして今のわたしの眼は何もしていない自前だ。グリフィニア戦で使った、ワタポの能力を魔術で再構築したバフを使う必要もない剣速......相手を殺す本気の戦闘じゃ遅すぎるまである。
「わたしの勝ちだ」
その言葉を置き去りに、わたしはネリネの両足を太腿から撥ね捨てた。
空気を揺らす絶叫の中、吹き散らかる鮮血を止めるべくわたしはネリネの足を拾い、氷属性魔術で凍結接着。その頃には絶叫も静まりネリネは意識を失っていた。
「......ちゃんと経験値稼いで、騎士になって、今度はエミリオとして一戦やろうぜ」
痛撃ポーションの栓を抜き、倒れるネリネへ容赦なく振りかけ、わたしは奥へ進む。
腹の底でマグマのような何かが熱をあげる感覚......。
「シェイネ。ふざけた誘惑して好き勝手してんじゃねぇぞ......地界はわたしの領土だ」




