◇397 -長い夜-2
「こっち!」
次はこっち、と風変わりしない竹林道を迷う事なく───迷う事ない足取り───で進むのはウンディーからシルキへ入った第ニ陣、天使、人間、魅狐、半妖精のパーティだった。香集村で一泊するつもりだったが天使みよの超高感度感知が火を吹き、微かにだが確実にエミリオの魔力を拾った。
香集村で色々と調べてみたい気もしていたが、エミリオと合流した方がいいのではないかと思い、夜の危険を承知で竹林道を駆ける。時折みよは「あっぶね、なんかやべーのいるから少し遠回りする」と言う。そしてその “やべーの” の気配は確かに危険を孕んでいる。
「それにしても、みよっちがこんなに凄いなんて思わなかったよ」
魅狐は跳ねるような走りで天使の横へ行き、ニッと笑う。
「ただの暴食天使じゃなかったって事ね」
涼しい顔で速度を落とさず走り続ける半妖精はさり気無く天使を評価する。
「すげーだろ? 帽子より有能だからな。これからも養ってくれ」
黙っていれば可愛らしい少女なのだが、クチを開けばエミリオクラスの図々しさとクチの悪さを披露する天使。そんな3名の後ろを、
「ちょっ、と、待って、みんな、速いって、の。酸素が、酸素を、死ぬって、待っ」
息を切らして今にも転びそうな人間が必死に走る。
「リピナ体力なさすぎじゃない?」
半妖精が速度を少し下げ、リピナの横へ。ローブを雑に揺らしながら走る凄腕治癒術師であり凄腕医師のリピナは死にそうな瞳で半妖精へ抱きつく。
「乗せて、頼むから、乗せて」
「ちょっと! 私はフェンリルじゃないのよ!? ちょ、汗が」
「頼むから、頼むから!」
ひぃたろとリピナは走りながら攻防を繰り返す。それを見た魅狐が笑っていると、
「プンちゃんに乗せてもらいなさいよ! 私よりよっぽどフェンリルっぽいじゃない!」
「プンプンは、ダメ、だって、ビリッとするし」
「うっわ、ひぃちゃんもリピナも酷い」
「おい遊んでんなよお姉さん方! もうすぐ帽子がいる街につくぞ!」
エミリオが現在居る街、京が近付いてくるにつれ、みよは様々な気配を拾っていた。街へもっと近付けば他の3名も気付ける気配だが、みよは誰よりも早く拾い、誰よりも早く気を引き締めた。
「───ストップ」
ぼんやりと京の灯りが見える距離でみよは停止し、簡単な説明をする。
「ババーがいんのは街の奥にある建物。街は多分余裕で抜けれるけどその建物が騒がしい。んで、何かすげーのいるから本当にひっそり行こう」
みよの言う すげーの は強者または強モンスター。街中という事はモンスターはない.....とは言い切れないのがシルキ大陸だ。他大陸とは違ってシルキ大陸の街には結界マテリアが存在しない。モンスターがその気になれば街へ入り込み暴れる事も可能というわけだが、恐らくモンスターではないと3名は予想する。
体力回復ポーションを飲み、リピナは呼吸を整えた。
「全く、どうしてエミリオがいる所って高確率で騒がしいのよ......ま、エミリオらしいけど」
リピナは魔術の詠唱をした。聞き慣れない詠唱譜にひぃたろは興味を惹かれ、プンプンは今になって柔軟体操を、みよは「そろそろ本気で腹減った」とぼやく。リピナが使った魔術はバフ、4名の身体が一瞬だけ無色光に包まれ消える。
「これは?」
「夜間のハイド率をめっちゃ上げてくれるバフ。でも時間は5分もないから走って街を抜けよう」
「へぇー、ボクはハイド苦手だから助かるや!」
「ハイド率たけーんなら盗み食いしたいんだけど時間ないか......腹減ったな......」
ぼやく時間も惜しいと判断したリピナはみよへ案内再会を促しつつキャンディをひとつ渡した。たったひとつ、それもウンディー大陸にある雨の街でならば簡単に買えるキャンディでも暴食天使は大いに喜び、案内を再会。
新たな街入りだというのに一瞬で駆け抜ける寂しさを噛み砕き、リピナ班は一直線に蜃気楼へと進んだ。
◆
リピナ班が香集村を出て数十分後の事。
村には2人の男性がいた。
「ありゃカナリ痺れるぜ.....だが今はやべぇ」
「同感です.......どうやらハイドのリビールは低いみたいで助かりましたね」
レッドキャップのベルとジプシーは空から現れた腰布の男から上手く逃げ切り、香集村へ到着していた。
「殺れない事はないと思うが、こっちの状態が万全じゃねぇと厳しいし、無理して相手する場面でもねぇよ」
「何なんですかね? 見た目は人間でしたけど中身は全然違うというか......まるでウンディーの半妖精ですよ」
体力回復ポーションを飲みつつジプシーが語ったのは大神族 観音 に対しての感想。直接対面した2人はその異質な雰囲気と一目でわかる実力を前に撤退。逃げるという選択をベルが素直に選んだのにはジプシーも少々驚いたが、自身の状態を確り把握し、状況を見極め最善の選択をしたまでだった。これがトリプルを持つ犯罪者の思考回転力。無理なら無理で上手くやり過ごす、無茶するなら無茶するがそれは今ではない、と冷静に判断してみせた。
「ウンディーの半妖精......アイツは中身が化物か何かなのか? つーかお前、会った事あんのか?」
「会った事はないですが見た事はありますよ。と言うか、今話題に上がるルーキー達を知らない犯罪者はいないと思いますよ?」
「ルーキー? なんだよそれ、俺知らねぇぞ?」
「ベルさんはそういう話題知らなそうですもんね.....でもベルさんにとっては痺れる話題だと思いますよ?」
大神族の事などとうに昔の記憶、と言わんばかりに話題が冒険者へと変わる。この村に居ても何もない、と判断した2人は歩きながら会話する事にし、香集村を出て竹林道を進む。
ジプシーが語ったルーキーと呼ばれる存在は、ここ1、2年で何度も名が上がった冒険者達を言うらしく、ノムーの騎士やイフリーの軍も、この手の話題は確り集めている。クエストを依頼する一般人や貴族、王族もさえも冒険者の情報はあるに越した事はない。そして犯罪者達も。
「───.....確かに痺れる話題だな。一時期噂になってた鮮血姫ってのが今は妖精女王なんて呼ばれてるとは知らなかったぜ。そしてそいつが半妖精だったって事もな」
「何の因縁があるか知りませんが十二分に注意してくださいね。彼女はただの半妖精ではありません。中身が化物です」
「ハッ、いいじゃねぇか! 化物は駆除しねぇとなぁ? ジプシー!」
「そうですね、では行きますか? 駆除へ」
「───!? ......いるのか? 和國に半妖精が......」
「はい。俺が狙っている子も一緒にいるのでついでに感知出来た、という感じですが100パーセントいますよ」
ベルはゆっくりと表情を歪ませ、笑った。
気が合う仲間だったスウィルを殺した半妖精。ベルは敵討ちという形を否定しているが、まさにスウィルの敵討ちとして半妖精を狙い、その強さに執着していた。
ジプシーがレッドキャップに入った理由は自分の目的のため。その目的を達成するにはソロよりもどこかに所属した方がいい、そして所属するならば目的と何らかの関係を持つ組織で、可能ならば各々のレベルが高い組織。全てをクリアしたのがレッドキャップであり、幸運な事にリーダーのパドロックはジプシーの目的を知っていた。その目的が───魅狐。
「俺は半妖精を狙う。お前は好きにやれ」
「半妖精が邪魔だったので助かります───では、行きますか」
続々と京へ集まる数十分前に、和國へ新たな潜水艦が───最後の潜水艦が───到着した。




