◇366 -腐敗した女帝-4
ウンディー大陸からシルキ大陸へ入った冒険者達はモンスターに遭遇する事なく、夢幻竹林を進んでいた。そもそもこの竹林道にモンスターが存在しているのかさえ怪しく思えるほど、それっぽい気配が無い。安全地帯......とまでは言わないなが比較的安全な所なのだろう。という思いを全員が抱いたがそれは簡単に消え去る。
ピクリと反応する猫人族の耳。猫人族だけではなく全員がそれに反応し、足を止めた。
「.....なんかいる.....よな?」
狼耳を持つカイトが自信無さげに言うと、頷きはしたが誰も「どこに何がいる」または「どの辺りに何かいる」という答えは言えなかった。
「視られているようにゃ......そんにゃ感覚ニャ」
「でもどこから視られているかもわからない」
るー、ジュジュがリレーして言った意味を全員が体感していた。確実に何者かに視られている。しかしどこから視られているのかわからない。遠くや影から覗かれている。ではなく、近くから視られているような、どこか不快な粘りのある視線を全員指先辺りに強く感じていた。
隠蔽を見破る看破でも掴めない尻尾。しかし確実に何者かがいて視ている。
「んー、まぁ進もうニャ」
ピンク色の毛を持つ猫人族ゆりぽよはそう告げ、竹林道を進む。他のメンバーも警戒しつつ一歩一歩進んでいるとゆりぽよの耳は、引き摺るまたは這いずるような音を拾った。
音を敏感に拾い、その音から距離や位置などを知る事の出来るゆりぽよの能力が、謎の存在を捉えたのだ。
「......───ニッ!」
と短く可愛らしい声をあげゆりぽよは振り向くと同時に矢を放った。背腰に吊るされていた弓を取り構え、腰に吊るしてある矢筒から矢を取り出しセットして弓を引き放つ。この動作を振り向く一瞬で行えたのは尻尾を器用に使い矢を掴みセット出来たからこその速度。左右の腕はただ弓を構え引くだけ。尻尾が矢を取り出し弓まで運んでくれる。この戦法は猫人族の戦闘を拝見または実際に戦闘した事のある者でなければ読めず、今のような奇襲の場合、初見ではまず回避出来ない。
ゆりぽよが放った矢は確実に謎の存在を射ぬこうと空気を刺し進み、突然折り弾かれた。矢を横から叩き折ったかのようなパリィにゆりぽよだけではなく、全員が一瞬で戦闘体勢に入り距離を取った。
「そこに何かいるぞ! 全員備えろ!」
ジュジュの言葉は、何をしてくるか不明、姿を見せずに攻撃してくる可能性も忘れず各自備えろ。というものだった。
見えもしない相手にどう備えろというのか.....そんな不安が湧き上がる中で、徐々に謎の存在は浮き彫りとなる。
浅黒の肌を持つ女性ベースのモンスターは濡れているような光沢を持つ異形な下半身───昆虫の尻にも思える下半身───をフルフルと揺らし、不快感すら覚える微笑を浮かべていた。
「む......」
その表情を見た情報屋のキューレは何か引っ掛かったように小声を漏らすも、自分の中でさえハッキリしていないものを口外するなど情報屋としては絶対にしたくない行為。飲み込むワケではないが、情報のページをフルでめくり引っ掛かった何かを求める。
「俺も前衛に入る! ししは治癒術をすぐ発動出来るように準備しててくれ!」
ジュジュは持っていた杖をフォンへ投げ入れ、代わりに大盾のみを取り出し前衛へ。モンスターは今も喉を詰まらせたような声でクスクスと笑い、冒険者達の出方を見る。
「開戦後はコレと言って指示は出さない。全員やれる事をやるぞ!」
ジュジュの言葉に全員が武器を構え直し、ジュジュは相手の敵意を一身に受ける盾術、アグロシールド で謎の人型モンスターをバッシュし開戦した。
確かな手応えと突き刺さるようなモンスターの視線を感じたジュジュはすぐに盾を構える。その直後、黙視出来ない速度で盾が大きく叩かれジュジュが仰け反る。
ここをチャンスだと言わんばかりにモンスターが異形な下半身から伸びる昆虫の尻のような部分を前へ突き出し、尖端からヒュッヒュッと針を飛ばした。縫い針よりは太いものの武器としては細い針を猫人族のゆりぽよが1本残らず射ち落とし、前衛のるー、カイト、リナは無色光纏う大剣を容赦も躊躇もなく叩き込む。
「警戒しなきゃッスよ?」
「「「 ───!? 」」」
三者の視界に朧気に現れた細くしなやかな昆虫の足のようなモノは、尖端がハサミのように二又になっており、大剣を受け止め挟んだ。
甲殻のような質感のある細足───あるいは腕───は、その細さからは想像出来ない強度とパワーを披露し、大剣の剣術は受け止められた事でファンブル扱いに。しかし三者が驚いたのは受け止められた事ではなく、確実に今このモンスターは三者を見て “喋った” という所にあった。
「何をボサっとしとる!!」
立ち止まったままの大剣使いをキューレが一喝するように言い、幅広の刄を持つ短剣を閃かせた。鋼鉄音に火花という硬さを公言するような演出に見向きもせず、キューレは接近した状態でモンスターの顔を見てピンときた。三者の大剣はキューレの攻撃によりハサミから解放され、だっぷーが拡散系の特種魔弾をモンスターの腹部へ数発放ちブレイクタイムを作る。若干仰け反った隙にジュジュが再びバッシュを入れ、モンスターを下がらせた。
「何してる!? 突っ立ってたら死ぬぞ!」
大盾を引き戻し防御体勢を取りつつジュジュは前衛達へ言うと、
「あぁ、悪い.....」
「でもあにょモンスター」
「喋ったニャ」
カイト、るー、リナはモンスターが喋ったと言い始めた。人語を操るモンスターは存在しないワケではないが、ほぼ全ての人語モンスターはユニオンや騎士団へ報告されており、人語を操るモンスターは数が少ないためジュジュもキューレも大体は把握している。にも関わらず、このモンスターはハッキリと人語をクチにしていた。
「そりゃ喋るッスよ? 新手の虐めッスかー?」
灰白の唇を歪め左側が裂けたクチで喉を鳴らし、モンスターは、
「私は人間ッスよ? ニンゲン。喋っても不思議でも不気味でもないじゃないッスかー?」
自分は人間だと言い笑った。




