◇339 -首撥ねジプシー-1
大量のガラスが砕け散るような尖音と共に、氷の剣山が砕けては現れる。その氷へ向かう雷獣。雷を拡散させながら不規則な動きで氷の剣山を縫い進む。
薄霧の水分を上手に使い氷剣山を作り出すスノウ、雷獣のような姿になり雷で攻防を同時に行い進むヌエ、このふたりを狙ってジプシーは単発の飛燕剣術へ重撃を乗せ、長刀を一閃した。
移動後すぐに始まった戦闘は激戦の一言。
龍組のヌエは惜しむことなく変化系能力を使い、雷獣───鵺となり雷を拡散させた。
華組のスノウは魔銃で氷結弾めいた吐息の弾を放ちつつ、変化系であり常時発動している能力を利用し雷を回避する事なく受ける。受けるたびにスノウの身体は砕け散り、地面に破片が落ちると同時に氷剣山が広がる。
氷剣山と鵺の雷拡散の範囲を特定したレッドキャップのジプシーは雪女と鵺が停止する瞬間───攻撃する瞬間を狙い、剣術を放った。
空気を斬り進む重斬撃。その斬撃へ雷撃を飛ばす鵺、雷撃を飛ばす鵺をまだ顔と腕しか結晶化していないスノウが地面から狙い魔銃を撃つ。
斬音、轟雷、銃声が竹林に響き、全ての攻撃が相殺するように消し飛び睨み合いのような時間が訪れる。
自身を雷獣、鵺へと変える変化系能力を持つヌエ。
自身を常時氷化させているスノウ。
能力こそ謎だが狐の尾のような装飾を柄頭に揺らす長刀を自在に操るジプシー。
3名は容赦なく自分以外を殺すために思考を回転させ行動していたが、全員が全員、相手の予想を越える動きを見せていた。
ヌエの雷でスノウを仕留めるのは不可能。
スノウの氷でヌエを捉えるのは不可能。
そして人間であるジプシーはふたりに立ち向かう術を持たない。
そう判断したい所だが妖怪とアヤカシはこの激戦の中でも雰囲気ひとつ変えない人間ジプシーを警戒せずにはいられなかった。
「なるほど、見えてきた」
ジプシーは呟いた。余裕と油断を含む仕草で呟き、眼を細めてふたりを見る。
「氷の能力は既に覚醒している。そういった能力でフレームアウトを越えているのは厄介だ。そして雷獣の方はまだ能力のSFは低い。でもそのくらいが本人に合っていてそれを自覚している。うん、厄介だね」
短時間でスノウとヌエの能力面の解析を終えたジプシーは、うんうん、と頷きながら長刀を構えた。スノウは何かが触れた瞬間に自身の氷層を砕き回避、ヌエは制御出来る最大の速度をいつでも出せるため並みでは捉えられず、触れられれば雷が容赦なく触れた者を焼き焦がす。
「氷の方は “氷結の女帝” の下位互換。雷獣の方は “雷魅狐” の下位互換だね。これならオレひとりでも殺れるかな」
この言葉を聞いた瞬間は妖怪もアヤカシも、人間が何を、と思った。しかしレッドキャップは人間という枠に含まれているだけで、化物の集団。
新たにメンバーとして加入したジプシーも例外なく化物的な人間であり、加入したタイミングが良かったのか、何も気にせず好きに動いていい、という命令をリーダーから受けていた。
以前のレッドキャップならば下手に目立って追われるのも面倒、という気持ちがあったが、黄金魔結晶を手にした事やクラウンの存在が露になった事などもあり、本来の姿とも言える犯罪者でありながら逃げも隠れもしない攻撃的なスタイルへと戻った。
「最初に死にたいのはどっち? 順番くらい決めさせてあげるよ」
カチャリ、と鍔を鳴らしジプシーはつまらなさそうな表情でふたりを見て返事や反応を待った。
◆
突然強者的な雰囲気を醸す人間ジプシーにスノウは眼を細めた。
───確かに人間にしては雰囲気がある。でもそれは人間という枠でアイツを見ての感想で、そこに妖怪やアヤカシが加われば所詮人間。
これといった特種な何かを見せたワケでもないジプシーに対してスノウが思った事をヌエも同じく思っていた。しかし拭いきれない “人間にしては” というワード。人間にしては雰囲気がある。そう思ったのは嘘ではないが、この感想には “普通の人間種族と比べれば” という言葉が隠れている。もっと言えばスノウもヌエもシルキ大陸に居る人間種しか知らない。ジプシーを測るには人間種の情報があまりにも少なすぎるが、シルキから出たことのないふたりはそんな事を思えるワケもなく、ただ独特な雰囲気を持つ “人間” としてジプシーを見ていた。
「順番決まらないなら、オレが勝手に決めるけど......それでいいよね?」
ジプシーの問い掛けにも答えず、スノウとヌエは人間の強がりに対し呆れにも似た溜め息を吐き出した。
スノウよりも若干早く溜め息を吐いたヌエが───ジプシーの標的となった。
◆
吐き出された溜め息の余韻が残る中、ジプシーは一瞬でヌエの横へと移動していた。
ヌエもスノウも確かに油断はしていた。していたが、反応出来ない程の油断ではなかった.....つまり、今ジプシーが見せた速度はふたりに見せていなかった速度。
この瞬間、ふたりの頭の中からジプシーが “人間” というワードが綺麗に消え去った。
「まず、ひとつ」
ジプシーの呟いた声がスノウの耳に届くと同時に、狐の尾にも似た不思議な装飾を吊るす柄頭が刃先より上のラインになった。
「───?」
「.......!?」
音も無く降り下ろされた長刀は刃先が地面の数センチ上で停止、狐尾の装飾が揺れる事を忘れるほどの剣速に、ふたりは反応出来るハズもなくただ停止を続けていると、ヌエの首がずるり、と滑った。滑り落下するヌエの頭、遅れて噴射する大量の血液が竹を数本真っ赤に濡らし、ヌエの頭が落下。身体は揺れ倒れる。ジプシーは長刀を自分へ寄せ、刃に血痕がない事を確認し、落ちたヌエの頭へ歩み寄り、髪を掴み転がる頭部を持ち上げた。
「へぇ、変化系って死んだら変化状態のままなんだね。いい事知れたよ」
雷獣状態のヌエの頭部を顔色ひとつ変えず観察し、少し離れた位置にそっと置いた。
「次はキミの番だ。変化系は変化時に殺せばその姿のままみたいだし、そうだな........氷化している所が欲しいな」
首撥ねジプシー。
誰がそう呼んだかもわからないが、その名の通り、首を斬り撥ねる技術がズバ抜けている犯罪者。
首を切断する時に剣術を使わない理由は「剣術を使うと剣速が遅くなるから」とジプシー本人が犯罪者達へ言い、その話が犯罪者から漏れ広がり、首撥ねの名で呼ばれるようになった。




