◇338 -鬼の毒-3
互いを喰い散らそうと噛み合う剣術光。
無色だが濃く広い剣術光と重く響く褐色の剣術光が強烈なまでに瞬き、周囲の薄霧を散らす。
鈍器と鈍器の衝突を思わせる轟音は一度ではなく二度、三度、四度と叫び、五度目───最後の一撃は一際強烈なものだった。
弾き合ったふたりは一瞬の静寂後、ドバッと血液をぶちまける。
最初に血液をクチから吐き出したのはレッドキャップのベルだった。斬り傷こそ見当たらないが確実なダメージがベルを襲い、濃い血液が強制的に吐き出される。ベル本人は驚いた様子を見せるも焦る様子は全くなく、血で濡れたクチを歪め笑った。
吐血中のベルを前に、夜叉は胸につけられた大きな傷から血液をドップリと押し出す。血液量から見て相当な深傷を負った夜叉───あるふぁ はそれでも唸りをあげ歯噛みする。
両者の攻撃はお互いにダメージを与え、剣術硬直の睨み合いに。
「......おいサムライ」
ゴフッ、と吐血を続けるベルは夜叉から視線を外さず烈風へ言葉だけを飛ばした。
「テメェも今のスキル.....響き抜けるようなワザが使えんのか?」
「.......お前に話す事はない」
「ハハッ、そりゃそうだな」
ベルは指先をピクリと動かし、硬直が終了した事を確認。夜叉は唸り声をあげ傷の痛みだけではなく内側を焼かれるような何かに耐える。この状況でベルが追撃の意を見せた場合、烈風は横から手を出すつもりでいたが、
「......ハッ、おもしれぇ。痺れるぜ、和國」
ベルは自身を襲う未知なるダメージの最悪をイメージした上で呟き、爬虫類のような太刀を担ぐように持った。
「俺はサクラってのとヨザクラってのを手に入れるために湿気ったシルキへ来た。この2つがテメェ等にとってどんなモノかは知らねぇが、俺はそれを狙う、ついでに使えそうなモノがありゃそれもいただく。全員に伝えろ、レッドキャップ様がシルキを滅茶苦茶にするってな! こんなに痺れる遊びは久しぶりだ......俺を止めたきゃ見つけて殺してみろ」
熱くなりやすい風に見えるベルだが芯の部分は冷静に状況を分析する。ベルに限った事ではなく、修羅場を何度も潜り抜けた冒険者は皆、頭のどこかに冷静かつ現実的な眼を持つ。その眼がなければ修羅場を潜り抜ける事は不可能。ベルはこれまで何度も何十回、何百回と修羅場を潜り抜けてきた犯罪者であり実力者。ここで無理をして夜叉を討伐しようとは考えず、去る事を選択。潔くこの場から消える。
烈風はベルを追う事をせず、見る事もせず、地面の土を深く握り潰す夜叉へ視線を送る。
腰につけられた太刀の鞘を外し、上衣を一枚脱ぎ捨てた烈風は夜叉へ刃を向ける。
「分散してから20分程度かな? さすがの俺も半鬼相手にひとりは大怪我するな」
いつもの調子───どこか余裕ある雰囲気を取り戻した烈風は膝をつく夜叉を凝視する。全身から微かに溢れる魔力でも妖力でも生命でもない何かを確認し、
「瘴鬼が溢れはじめた.....こまたねぇ」
と、顔色を変え呟いた。
◆
能力のリスク。
使えば使うほどその効果、効力を上昇させる。
使えば使うほどその能力に呑まれ喰われる。
使わなければ一向に成長しない。
リターンに比べ、リスクが大きすぎる。それが能力の恐ろしい所と言える。
中には圧倒的なモノも存在するが、能力を持たない者が弱いというワケではない。
能力も言ってしまえば武具やアイテムと同じ。
使用者にハマらず上手く扱えない状態ならば何の役にも立たない。逆に、どんな小さな能力でもハマリ上手く扱う事が出来れば強大なアドバンテージとなる。
100パーセント能力を持つ種も存在すれば、100パーセント能力を持たない、持つ事もできない種というのも存在する。
夜叉───アヤカシのあるふぁ は人間時に能力は確認出来ず、アヤカシとなった時、今の変化系能力がアヤカシとしての命のおまけ、として付属される形で宿った。
つまり、産まれ持った能力ではない。
そのため恐ろしい速度で能力の上限が解放され、身体が全くついていけていない。
“使わない事以外に薬はない” そう言われるほど、対策法も対抗手段もない。アヤカシ達は望まないまま無理矢理に能力を抱かされ、毒にも似た能力の進行速度、侵食速度に悩まされながら生きる事しか出来ない。
「能力の壁に輪をかけて瘴鬼か、こりゃ本当にこまたねぇ」
烈風の言う能力の壁はstageとframeであり、アヤカシも本家同様に能力が存在として内に居るのか.....それがわからない。
能力人格が無い場合は会話や対話は不可能。呑まれないためには1に能力を使わない、2は会話や対話を納得いくまで行い上手に共存する事、3は最終手段として能力を逆に呑み込む事。しかしこの3つは能力人格が在っての話。
アヤカシではなく妖怪の烈風は勿論の事、能力に詳しい魔女でさえアヤカシの中身を知っているのか怪しい。
「..... 帽子が居れば魔女だし色々聞いてみたいんだが、居ないもんは居ない。さて、大体で頑張ろうか」
顔の横で太刀を構え切っ先を夜叉へ向けた烈風は落ち葉を巻き上げ、まるで消えるように夜叉の鎮静───最悪討伐をスタートさせた。




