◇324 -療狸寺の妖怪-3
療狸寺という大寺でひとつ眼の女の子【ひっつー】と戦闘.....と言うには少々緊張感が薄かったものを終えたわたしは、大神族の狸女─── 療狸と呼ばれているポコちゃんの神的な力で大門の上へと登り、見たくもない広い竹林を一望し終え、再び石畳の広間に着地した。
それにしても......本当に大きな寺だ。さっき大門から覗いたが階段も長かった。療狸寺は何をする所なのか知らないが、客が来る気配もない。客がくるのは神社か? 寺.....と神社って何が違うんだ?
「お主、名は間違いなくエミリオなんじゃな?」
「自分の名前間違うヤツなんていんのか?」
ポコちゃんはわたしの名前を聞いた途端に口数が減り、何かを考えているような表情のまま。
「なぁポコちゃん。妖力とかの話をもう少し聞きたいから寺ん中かさっきの家みたいなトコいこうぜ」
「おぉ、そうじゃの。寺の中は今はまだ案内できんがさっきの来客室なら問題ないのじゃ。行くか」
立っているのも疲れたし、ここにいるとまた「勝ったら教えてやるぞいぞいぞい」みたいなノリの謎戦闘が始まりそうでイヤだ。わたしは逃げるように先程眼覚めた部屋へ戻る。
起きた時は頭がまだボーッとしていたので何も思わなかったが、確かにこの家.....室内は和國製品で溢れている。畳に湯飲み、何か変な絵が書かれた壁掛けのヤツに、掘った部分に薪を置いて鍋やらを温めてるアレも和國のものだ。ここがシルキだとわかってから見ると、和國和國している。
なんせ靴を脱いで上がるんだからな。何よりもそこに一番驚いたぜ。
「今お茶出すから待っとってくれ」
「あーお茶はいいや。あんまり好きくない味だし、妖力について詳しく聞きたいんだ」
せんべーは普通だったが、お茶はわたしのクチには合わない。言ってしまえば一生飲まなくてもいいものだ。
「そかそか、ワラワも聞きたい事ができたし、早速妖力についてから話すかのぉ」
やけに話が早いポコちゃんは畳んであった丸テーブル───名前を思い出せないがアレも和國製品のテーブル───を広げ、その上に薄いガラス製品の何かを散らした。様々な色のガラス製品は形状やサイズは似ていないが、アイレイン名物の【雨玉】に似た雰囲気がある。
「なんだそれ? アメちゃん?」
「これは食い物ではないぞ、おはじき っちゅー遊び道具じゃわ」
「へぇーうまそうな見た目なのに食えねーのか」
おはじき というガラスを散らしたポコちゃんはその中から無色を選び、わたしへ滑らせる。
「あ? 遊ばねーよ?」
「それがお主───エミリオだとして、今は無色じゃろ?」
無色.....なんか嫌な響きだが、まぁいい。
「そんでのぉ、そこに今から何色が入るかで、お主が使いたい貫通系の性能になるかならんか決まる。ちなみに、これが色と属性や性能の表じゃよ」
ポコちゃんが人差し指を立てクルクルと回した瞬間、わたしの眼の前にうっすらと文字が浮かび上がる。フォン機能や魔術を使わずこんな事まで出来るとは......神族ってのは何でもアリだな。浮かび上がる文字は分かりやすく色が違う。さてさて、なになに......
赤ー火ー範囲が広い。体温が上昇する。
青ー水ー柔軟自在。体温が低下する。
緑ー風ー軽く鋭い。体力が低下する。
茶ー地ー固く重い。身体が重くなる。
「.......は? 何これ意味わかんねーよ」
「色、属性、効果、反動、と言った所かのぉ?」
「いやいや、わたしが欲しいのは貫通だっけ? それよ。属性系は間に合ってるっての」
「まぁまぁ、その無色はじきを利き腕で握ってみぃ。それからじゃわ」
何か怪しくなってきたぞ.....貫通とかいう神性能は実はありません! みたいなノリだったら最悪だぞ。まず今のリストに書かれてる属性だけじゃ足りねーし、わたしはもっとすげー魔剣術があるっての。それに、おはじき握った所で何になるんだよ。遊びだったら狸女のおっぱいに魔術ブッパしてやるからな。
「掴んだぜ」
「そのまま数秒待つんじゃ。はじきが温かくなったら開いてみぃ」
........まさかと思うけど、これ「無色のおはじきについた色がお主の持っとる妖力じゃよ」とか言い出すんじゃないだろうな? いやそうだろ絶対。何この水の上に葉っぱ置いて自分の系統調べるようなあのアレに似たやつ。しかも全然あったかくなんねーし。
「まだかのぉ?」
「こっちが聞きたいわ。全然あったかくなんねーぞ? 体温であったかくなったらおけ?」
「んや、体温のそれとは違うのじゃ。すぐわかるハズなんじゃが.....10秒くらい力を入れてみぃ?」
わたしは頷き、おはじきを粉砕する勢いで握力を解放したが、全然、全く、クッソも温度が上がらない。あっという間に10秒経過し、ダメ押しの10秒を追加してもただ体温で温かくなっただけ。
「.......なにこのクソゲー。もう開くぞ?」
「うむ」
左手をゆっくり開いてみると───おはじきは無色のまま。微かな色さえない。
「なぁ? 説明してくれよ」
「.......あれじゃ......エミリオ、お主は妖力持っとらん個体じゃわ」
「え?」
「無色のはじきを握って、はじきについた色が妖力の属性なんじゃが......無色のままじゃし、お主は妖力を1ミリも持っとらんのじゃ」
「..............は?」
魔力みたいなノリじゃないのか? そんな事言ったよな? それならさすがに1ミリくらいあるだろ。魔力量がハナクソなプンプンでも魔力はあるんだぞ? それならわたしもハナクソだとしても妖力が1ミリくらいあるだろ。無しってアンタ......
「ちょ、違うおはじきでやらせて」
わたしは別の無色おはじきを手に取り、同じように握った。が、2つ目も3つ目も同じ反応。無色のまま体温でほんのり温かくなるだけ。
「.......本当の本当に、妖力ないの?」
「無いのぉ.....ここまで無いのは数千年ぶりじゃわ」
「数千年にひとりの逸材みたいな?」
「そじゃの。ここまで皆無なヤツはお主の前に会った魔女───エンジェリアくらいじゃわ」
「───!?.......今 “エンジェリア” って」
「そじゃよ。以前ここに来た魔女の名前はエンジェリア。お主の “お母さん” じゃよ、エミリオ」
その名前をここで聞くとは思ってもいなかったわたしは、ひっつーのように眼を見開き、フリーズしてしまった。




