表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【幻想楼華】
318/759

◇316 -歓喜天-5



細くいて強靭な無数の触手はシケットの空気を打ち裂き、誰でもいいから捕獲しようと荒れ狂う。


「回避じゃぞ! 回避!」


キューレの声が強く響き、冒険者達は反撃や防御ではなく、回避に集中する。数は嫌になるほど多いがその分操作性と速度が悪く、回避をするのは簡単だった。しかしそれが5分、10分と続けば徐々に難しくなる。


「~~~、攻撃しちゃダメなの!?」


意外にも気が短い魅狐プンプンは回避だけを続ける状況にビリビリときていた。しかしその気持ちは全員理解出来ている。回避、つまり攻撃していない状態では何も始まらない。ただ体力と集中が削られ、フラストレーションのみが溜まり続ける。特異個体というだけでSS-S2レートに指定されるが腐敗仏はいぶつ 歓喜天かんぎてんの実力的なレートはS-S1といった所だろうか。危険度が絡めば話は変わるが、実力面だけのレートならばこのメンバーで討伐も充分可能。


「攻撃しない事には討伐なんて不可能よ」


「撃退するにも多少攻撃は必要だしな.....どうするセツカ!?」


半妖精と後天性悪魔も魅狐同様、攻撃すべきと発言する。


「......ッ」


セツカは迷っていた。

触手の動きは戦闘経験値が低いセツカでも見切り回避可能な速度と感度。しかし腐敗仏が持つ領域能力は厄介。一度入れば抜けるのは難しく、領域内では全ての感覚が過剰なまでに上昇する。つまり武器での攻撃を武器で受け止められただけでも想像を越える衝撃が発生するという事になる。腐敗仏はその領域を自ら調整出来るレベルなのか、ただ単純に我慢出来るのかは不明だが、領域能力はその領域に相手を入れた時点で圧倒的有利に振る舞えるのが強み。

そして───腐敗仏は女性を慰み物にし喜ぶ。


「......遠距離攻撃で攻めます! プンプンは雷撃、剣術はディレイの少ない単発の飛燕のみ、魔術は禁止します!」


魔術を禁止した理由は単純に詠唱時間。魔女ではない種族は行動しつつ詠唱する事は不可能。エアリアルや他の移動手段を使い詠唱する事は可能だが、今の状況───触手が暴れ狂う状況下では危険でしかない。

セツカの発言を合図に各々が攻撃へシフトする。セツカとしし、リピナは攻撃はせず後方で触手の回避と腐敗仏の観察を。


雷撃と飛燕剣術が放たれると同時に、腐敗仏は合掌していた手を放し、身体へ腕を突き刺し、体内から剣を千切り出す。腐敗仏は元々武器を二本持った状態で、武器を持たない腕で合掌していた。二本では捌ききれないと判断したのか、新たな武器を取り出した腐敗仏は触手を引っ込め───雷撃と剣術を新たに取り出された武器のみで対応した。


無色光と土色の光を纏った剣が、剣術と雷撃を見事迎撃し、腐敗仏-歓喜天は触手で地面を叩き、猛進。ししの前で停止し始めから持っていた剣へ無色光───だがどこか違う力を秘めた剣術光を宿し、振るう。ししは持っていたキノコの杖で防御、二本の斬撃は杖と衝突し、ししを吹き飛ばす。仕返しをしたと言わんばかりの声で笑う腐敗仏-歓喜天は後頭部の顔で背後───全員の位置を確認するやすぐに触手を全て伸ばした。


遠距離攻撃へ対応した土色光の剣術、触手を使った猛進、そして今の剣術。

今まで回避のみに気を置いていたメンバーには突然の情報ダネを拾わされ、処理している脳を歓喜天は待つワケもなく、操作性を捨て速度重視にした触手で全員を絡めとった。


「豊作豊作、かしこみかしこみありがたや」


ご機嫌に発言する歓喜天だったが、触手の締め付けに油断は一切なかった。ギチギチと骨をも砕く強さで絡まる無数の触手。抗おうにも圧倒的な力の圧力に力が抜け、武器を握る事もままならない。声も出ず呼吸するため空気を吸うのがやっとの状態の中、腐敗仏-歓喜天は振り向き、品定めをするようにひとりひとりネットリとした視線で確認する。

ししは防御に成功したものの、領域内で防御したため恐ろしい衝撃と痛みがししを襲い、吹き飛ばされていた。今は領域外だが身体が拾った衝撃と痛みの感覚は領域を出ても残る。声も出せないままうずくまるしし、何も出来ないまま触手に締め上げられる冒険者達。


「かしこかしこみ、可愛ラシイ子 可愛ラシ、ちこう寄れ寄れ、こっちへオイで、可愛ラシイ子」


腐敗仏はいぶつ 歓喜天かんぎてんが最初に選んだ人物はフードローブの情報屋だった。

キューレを縛り上げる触手は本体───腐敗仏へと引き戻され、徐々にキューレを領域内へ寄せる。

触手に抗う事もせず、キューレはゆっくりと領域へ。


「子が子が子が子、子を孕み宿す子、可愛ラシイ子」


興奮状態の歓喜天は謳うように声を出した瞬間、


「ご指名ありがと様なのじゃ」


キューレはニシシ、と笑いハッキリとした声で言い放った。


「むムむム?」


触手の力が弱まったかを心配する歓喜天はミチミチと触手を強めたが───触手は何も締め上げられず、空気を逃がした。


皇位情報屋 兼 冒険者のキューレ。

自ら駆け回り情報収集し、その情報が本当なのかの裏付けも自ら行う。危険なエリアや危険な存在が相手でも、情報の裏付けは必ず自ら行うのが彼女の中のルール。そんな事を幼い頃から続けていた彼女は、誰よりも危険対応能力が高い。

キューレが持つ能力ディアは自分、または触れた対象のサイズを自在に変更させる能力で、童話に登場する、潜った者のサイズが変わるウサギの巣穴からラビット、自分の手で触れるのが条件という点で【ラビットハンド】とキューレは名付けた。その能力を今自分へ発動させ、最小サイズである1センチへと収縮し触手の拘束からあっさりと抜け出した。

キューレはそのまま領域から脱出可能かを調べてみた所、やはり歓喜天が移動し領域も自動的に移動した時のみ脱出出来るものだと確信できた。

次にキューレはウエストポーチから麻痺針を大量に取り出し、歓喜天へ全て投擲。1ミリもない針はダメージなど皆無で感覚感度が急上昇中の領域内でも刺さった事さえ気付けない。


「うし。あとは人任せじゃのぉ~」


キューレは1センチのまま領域内をあっちへ走りこっちへ走り、歓喜天の視線を急がせる。小さなキューレを追い続ける歓喜天は触手から徐々に集中力を失う。緩み始める触手、あと少し、あと少しと全員が望み待ち、その瞬間は歓喜天の悲鳴と共に訪れた。斬り裂かれた触手の肉片がまだ宙にある中、雷撃や飛燕剣術が歓喜天を襲った。吹き飛ばし、までの威力は無かったものの数メートル押す事は出来た。キューレはその数メートルを逃さず領域から解放され、トコトコ走りワタポの愛犬フェンリルのクゥへ抱き付き背へ乗る。


「ふぅ~、さすがに走り続けると疲れるわい。ワンちゃんや、みんなの所まで走っとくれ」


クゥはすぐに一番近くにいたナナミの元へ走り寄り、キューレはクゥの背から飛び、指をパチンと鳴らし自分のサイズを元々のサイズへ戻した。


「予想通りヤツの領域は範囲外にならねば出られん! それと、相当気持ち悪いヤツじゃわ.....近付かん方がいいのじゃ」


そう言うとキューレはクゥへ「おっきくなるのじゃ」と言い、クゥへ乗り後方───ししの元へ向かった。


領域の効果はハッキリしたが、近付いてはいけない、という無茶な答えしか出せない現状に冒険者達は焦燥感が募るばかりだった。





猫人族と妖怪 滑瓢はシケットの街を縫うように駆け抜ける。


「そんにゃに深刻そうにゃ顔するニャよ」


「.......深みがあって悪くない顔だろ?」


大妖怪という称号を持つ種、滑瓢ぬらりひょん螺梳ラス猫人族ケットシーのリナへ軽い口調で言い、再び表情を沈める。


腐敗仏はいぶつ

月が顔を出す時間帯に活発になり、シルキ大陸を徘徊する化物。元々は人間の男性だったが “仏様” が呪いのようなものを与え、人間を未完成で腐った仏にし、それを見て笑っている。

命彼岸の種を体内で量産させ、女性を相手に排出させるのが腐敗仏に与えられた唯一の存在意義。

仏様は命彼岸を植えられた女性を飼い、命彼岸の種が女性の生をある程度吸い込んだ頃、腹を裂き種を取り出し、自らの老いを止めるための薬として服用していた。


数十年前にシルキ大陸に現れた他国の医者を名乗る女性。

女性は【鬼】【神】【仏】【仙人】の四種の元を堂々と訪れ、老いを止める薬の生産方法を見つけるから全てを見逃せ、と言い鬼、神、仙人はそれを拒否───いや、薬にもお前にも興味ない、勝手にしろ。と切り捨てた。しかし仏は薬に興味を持ち、医者に実験現場を提供した。

それからは人間、妖怪、アヤカシを消耗品のように扱っては失敗を繰り返し、ついに完成したのが命彼岸の毒素を爆発的に上昇させ作った劇薬。医者は満足そうに命彼岸の件を仏へ伝え、シルキ大陸から消えた。


その医者の目的は命彼岸ではなく、他にあったが、仏はそれを知らない。


滑瓢の螺梳も詳しくは知らないが、命彼岸の存在を知った時、心の底から恐怖と怒りを感じ、恐怖の種をこれ以上シルキ大陸に広げてはならない、とひとり活動を始め、今では手助けしてくれる者も現れた。しかしそれも夜楼華よざくらの衰弱など様々な問題が重なり、今となっては腐敗仏の相手をする時間的余裕も精神的な余裕さえ失われ、腐敗仏は増えるばかりに。


「.......」


「?......んにゅ~。どの大陸も、どの種族も、色々あるにゃろ。気楽にとは言わにゃいが、重く抱えすぎるにょはよくにゃいニャ。ひとりの限界にゃんてちっぽけにゃモンだニャ」


「なんだ? 俺を慰めてくれるのか? それならもっとこうパフパフとだな」


「ニャハハハ、そりゃ勘弁ニャ。でも、冒険者ってヤツは借りを作るにょが嫌いにゃヤツも多いニャ。ここらでウンディーにぃ、借りを作るにょも悪くにゃいと思うニャ?」


「冒険者ってのはサムライみたいだな......ちなみにこの街にいる冒険者は女性か?」


「ニャ? 女性女性ってそればっかりだニャ妖怪は!」


「今回のはそういう意味じゃないぞ! して、どうなんだ?」


「多分女性ばっかりだニャ」


「───急ぐ。真っ直ぐか?」


「んにゅ? うん、真っ直ぐ行けば───.....にゃ~、行っちゃったニャ」




螺梳は全速力を出し、俊敏性の高い猫人族を置き去りに歓喜天のもとへ向かった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ