◇261
───嫌な胸騒ぎがする。冷たく溶けた鉄が肺に流れ込むような、嫌な......それでも 私 が不安な顔を見せるワケにはいかない。
ウンディーの女王セツカは唇を噛み足を急がせた。何度も鳴く空と低い雷、焦らすように肌を叩く雨がセツカだけではなく、キューレやアクロスをも不安にさせる。
───とにかく今は急ぎ落雷の方向へ。
アクロスは胸中で呟き大きく速度を上げようとした瞬間、全員が速度を下げた。なぜ? と思いつつもアクロスは速度を緩め、セツカとキューレが見る先を自分も見る。するとそこには大型の狼と、深紅のハルバードを持つ鍛冶屋が。
「クゥ、ビビ!」
セツカは狼と鍛冶屋を見て名を呼び、合流する。
ずぶ濡れの狼は身体に付着する水滴を気にするも、ふるい落とさず我慢する。その理由は───背中で眠るキノコ帽子と、半妖精の存在。
「コマンタレブー、どんな状況かサッパリだけどとりあえず来た。一緒に行こう」
ビビは状況を確認する事もせず、同行する事を決めていた。そんなビビの同行を聞いたジュジュは素早くフォンを取り出し、
「狼の方は俺が預かる、ビビは俺と交代で女王をよろしく」
落ち着いた声で言いつつも指先は忙しくフォンを撫で、様々なアイテムが取り出される。
「......急ぎましょう」
セツカはジュジュを信じ、負傷した半妖精や見知らぬキノコ帽子を任せ、冒険者に溶け込むノムー、気乗りしないイフリーと落雷の元へ急いだ。
◆
一足先に落雷エリアへ到着していたアスランは、現状を見て小さく鋭い呼吸を一回した。
銀色の毛を持つ五尾の魅狐、白黒の剣士や騎士との異名を持つ冒険者とピンク色の猫人族、そして見知らぬ少女は苦しそうな表情を浮かべていた。それだけならばすぐに参戦し、状況を確認しつつ魅狐の相手をすればいい。しかしアスランの足を止めさせたのは───倒れる者達の影。
腹部に大きな穴を空け、倒れる女性は魔銃使いのだっぷー。
左太ももから先がない音楽家。
よくわからないが、地面に貼り付くように倒れるパープルヘアーの猫人族。
魅狐や白黒の騎士を挟み逆の位置では誰かもわからない程焦げた影がみっつ。
想像していたよりも酷い現状で、アスランは素早く状況を整理し、考えるのをやめた。
「───細かく考えんのは俺様の頭じゃ無理やわ」
アスランは小さく笑って、ワタポ達へと歩み寄る。
悪趣味なアロハシャツとふざけたサングラスを愛用している男を見た4名だったが、これと言った反応を見せず再び睨み合う。
「おいおい、俺様を無視すなよ! そういうのは受け取る側の判断でイジメって事になる場合もあるで!?」
緊張感のない発言をしたアスランはすぐに魅狐の方を向き、
「プンちゃん、イメチェンしたんか? 悪くないが.....その雰囲気はちょっと失敗したんちゃう? 雰囲気は前の方ええで」
友人が髪を切った時などに言いそうな言い回しでプンプンをいじるアスランはスタスタと進み、ワタポの近くで言う。
「プンちゃんを少し放してくれると助かる。俺は “領域” で倒れとる子らにふっ賭けてみるわ」
賭け、の意味は不明だがこんな状況でふざけた行動をする人物ではない。そう思えたワタポは頷き、魅狐へ向かった。続くように天使みよも走り、猫人族のゆりぽよは矢を器用に放ち魅狐の回避方向を誘導する。
「ほぉー成長しとるなぁ.......そりゃ俺様もおっさんになるワケやな」
ドメイライトの騎士であり、蝶ギルドのマスターであったワタポを知るアスランはどこか嬉しそうに、少し寂しそうに呟きサングラスを上げ、
「失敗しても怨まんといてな」
アスランは領域系に属する能力を発動する。領域と言えばレッドキャップのベルが使用した麻痺領域や、ししが使用した ご胞子の小部屋など、自身のマナを薄いドーム状に広げ、ドーム内の者を対象とする能力。
しかしアスランの領域は少々違う点がある。ドーム状のマナこそ展開されるが一瞬で消え、その一瞬で領域系の能力だと初見ではまず判断出来ない。
そしてその能力効果が独特なモノと言える。
「カードで......一発で全快と全損の二択」
そう呟いた瞬間、アスランの前にトランプめいた大きなカードが二枚現れ凄まじい速度でシャッフルされる。停止したカードの絵柄は見えないままアスランは爪武器を装備し、ひとつを選び爪で斬り裂いた。
斬り裂かれたカードは消滅し、残ったカードがリバースされるとマルが描かれていた。それを見たアスランはひとり喜んだ途端───ドーム状の領域が再び素早く展開され、領域内のメンバーは光に包まれる。
アスランの能力は領域系で、その効果はギャンブルめいたもの。選択数と大アタリ、大ハズレを自身で決めると何らかのギャンブルが具現化する。アタリとハズレが対等ではない場合は能力は不発に終わるため、今回はアタリが全回復、ハズレは全損───領域対象者は全員消滅するという大博打を打った。
結果はアタリだったものの、ハズレた場合は意味もわからず消滅していただろう.....とは考えもせず、アスランは武器を外し全員が全回復するのを待っているとセツカ達が到着した。
◆
真っ暗な水の中に沈んでいく感覚で、ボクは眼を覚ました。温度もなく光もなく、ただ重く真っ暗な中を沈んでいく身体。
ボク.....何してたんだっけ?
.......何でもいいや。もう少しだけ眠ろう。
◆
一瞬動きが鈍くなった魅狐へ、白黒の騎士は爆破を乗せた重剣術を放った。尾が盾のように剣を受け止めた瞬間爆破し、魅狐は大きく仰け反るものの尾は消えない。
「.....ッ」
白黒の騎士───ワタポは毒付き、猫人族へ視線を送るとすぐに矢の雨が降り注ぐ。広範囲弓術のアローレインに対し、魅狐は雷撃を放ち降り注ぐ矢を焼き消した。
「ごめんプンプン!」
雷撃の直後、天使は一度謝り白く大きな翼を仰いだ。光の突風が圧し寄せ、魅狐を叩き飛ばした。
ワタポ、ゆりぽよ、みよの3名は登場したアスランから魅狐プンプンを引き離しつつも攻撃し、隙を作っては尾を狙っていた。
「......痛いなぁ。ボクがキミ達に何かしたかい?」
瓦礫を尾で払い飛ばし、魅狐はゆっくり立ち上がった。
「これ以上ボク達の邪魔するなら、本当に殺しちゃうよ?」
冷たい声で言い放ち、魅狐は朱色の雷衣を纏った。




