◇227
屋根からゆっくり降りるオッドアイ。まるで軽い風船のようにフワリと降りる様子に天使みよは声を出す。
「ゴス服似合うね! 可愛い! それより体重何グラムなの? 軽すぎじゃね?」
黒紫のドレスをフワフワと揺らし、着地した【リリス】は吸血鬼と天使を見て微笑む。
「......みよちゃんが出るまでもないデスよ。あたしがヤっちゃいますねぇ」
微笑み返し、吸血鬼のマユキは一歩前へ進む。
「おっけー任せた。で、私はどうする? 応援してたらいい?」
「みよちゃんは教会前へ行ってください、きっとみんないるデス」
「教会行くの得意! 怖いからすぐ行こ」
横道へ入ろうと天使みよが足を進めた時、リリスは左指を奇妙に動かす。すると屋根から3つの影が線のようにみよの元へ直進する───が、マユキはその影へ数十本のナイフを突き飛ばし、
「雨水で滑ると危ないデスよ? ゆっくり焦らず、でも急いで行ってくださいデス」
ニッコリ笑いみよを見送った。
「今の、凄い、わ。一度、に、14の、ナイフ」
「あなたも凄いデスよ? 片腕で一度で3体の操人形。やるデスねぇ」
悪魔のような人間リリスと人間のような吸血鬼マユキはお互いを見て、微笑を浮かべ数秒切り取られたかのように停止するも、リリスが指を起こした瞬間 時間は加速する。
ナイフが突き刺さる人形のモモカを起こし、マユキへ攻めさせる。マユキは素早くナイフを取り出しモモカ達へ投擲、屋根から別の人形が現れるも焦る様子を見せず投擲を繰り返す。しかし何度も起き上がる人形、何体も増える《モモカ》にマユキは投擲しつつ眼を細めた。
───1、2、3、4.......11体の人形デスか。ナイフが無くなるのが先デスねぇ。
「まだ、増える、わよ?」
思考を読んだかのようにリリスは笑い、2体の人形を使い魔法陣を展開させる。その間も9体の人形はマユキを攻め続けているので魔法陣を止める隙は無く、新たに9体の人形が召喚された。
「ありゃ.....20デスか。困りましたねぇ」
痛みも恐怖も───間隔も感情もない人形達はリリスの操作通りマユキへ一斉に攻める。剣や斧、巨大なノコギリなど装備されている武器は様々で、魔術を使う人形も。
逃げ場も無く、迎撃も不可能な数、そしてナイフも尽きる。
剣術と魔術の光が濡れた地面に反射し、轟音と振動が雨に濡れたアイレインを盛大に揺らした。
「......、それが、翼、?」
抉れ散った地面ではなく、その上───空へ向けられたリリスの言葉に対し、
「デスデス、まぁ元は血液デスけどねぇ」
焦りも感じない声色で返すマユキ。20もの人形を前に焦る事なくマユキは血液変化の能力を使い、内側から背の皮膚を破り血液の翼を作り出していた。
「あなた、まとも、じゃ、ない、わね」
「それをあなたが言いますか? あなたからオカシな匂いがするデスよ?」
マユキの嗅覚自体は特別優れているワケではない。しかし血液の匂いに関しては純吸血鬼をも凌駕する、ずば抜けた感度を持つ。
「.....、、」
「それ、別物デスねぇ? 血液が古くなってるデスよ。あと1時間もすれば肉が綺麗な色に変色するでしょうねぇ......そちらのお人形さん達みたいにご自分のお人形もお手入れするべきでしたねぇ?」
そこまで言い、マユキは瞳を黒紅に染めた。
「やっぱ、り、あなた、は、殺り、憎い、わね」
血液の翼を扇ぎ、血のナイフを降らせ───マユキは急降下。血液の翼を広範囲拡散させ、人形の行動を一手遅れさせると、地面を2回蹴り数十メートルの距離を詰めた。
「本体はもっと強いデスか?」
「えぇ。凄く」
移動中に指爪を全て剥がすという狂った行動はマユキならではの攻撃準備。滲み出る指先の血液を鋭く硬化させ躊躇なくリリスを細切れにした。
◆
「───あら。やっぱ、り、スケープ、ゴート、は、弱い」
アイレイン宿屋の一室でリリスが呟くと、オリジナルとなるモモカがピクリと瞼を揺らす。
「相手、は、プン、プン、じゃ、ない、わよ」
リリスはクスクスと笑い、フォンを操作する。
「.......、さて、どっち、に、つくの、が、いい、かしら、ねぇ」
オッドアイに嫌な色の光を宿し、リリスは “ピエロマークの小瓶” を指先で遊ばせた。




