◇216
ウンディー平原でダプネに空間を繋いでもらったわたしはアイレインへひとっ飛び! のハズだったが.....薄暗く肌寒い場所へ飛ばされてしまった。
「......アイツ、どこに繋いだよ!? ぶさけんな!」
ダプネへの怒りを叫ぶも声は反響し、消えた。
どうやらどこかの洞窟にいるようだが.....これは本格的にやってくれたぞダプネ。
アイツが空間魔法でミスをするとすれば数センチや数十センチのミス。ここまでのミスは───わざとだ。
「急いでるのに、あのバカ.....とりあえずバフしなきゃ暗くて何もみえねーや」
相棒への怒りを抑え込み、暗闇でも周囲を見渡せる視力効果を自身へ与え、ゆっくり広がる視界を見渡す。すると足下に何かが。
「あーん? なんだ?」
鉄で出来た鍋の蓋のような丸いモノ。それを持ち上げて、
「───!!?」
わたしは驚き.....いや完全にビックリし、鍋蓋を投げるように手放した。
声も出ないほどの驚き、ビビり、ドッキリ。心臓があと5センチ上にあったら飛び出ていただろう。そう思えるくらい驚いた理由は、鍋蓋のように見えた鉄盾の内側には装備者のものと思われる手が残されていたからだ。跳ね踊る心臓が落ち着く前に視界は更に暗闇対応力を上げ、今度は拾う必要がないほどハッキリと見える。
「盾に.....手....、でもこれ」
少し踏み込み、盾に残された腕を確認すると、人間───人型種の腕ではない。太い腕に鋭い爪、そしてヌルリとした光沢の鱗。亜人種.....それも蜥蜴系の腕だ。
「~~.....はぁ。おどかしやがって、誰だよここで戦闘したのは───うわ!?」
振り返ると死体こそ既にリソースマナへと消化消滅しているが、地面にベットリ残る血液と思われる影に再び驚いた。
一匹二匹の量ではない。このエリアだけで数十の蜥蜴亜人が討伐された.....それもついさっき。地面に落ちた血液も時間がたてば消滅する。死体よりも遅いが、速くて10分、遅くて1時間程で消滅する。
「.....まだ誰かいそうだな」
洞窟の最奥部に着地したようで、今のところ道はひとつ。ここを進めば出口に近づけるだろうけど.....戦闘狂ギルドやスロートパーティでも居たら怖すぎるので、隠蔽魔術をゆっくりと詠唱し、自身の姿を魔術で隠し進む事を選んだ。派手に動けばハイディングは解けてしまうが、派手に動く時はリビールされた時だし、そもそも魔術での隠蔽を看破できるヤツなどそうそういない。
「一応、ローユ装備しとこ」
年老いたドラゴン【ローユ】の角を素材に使い、昔魔女界で生産した短剣をベルトポーチ付近へ吊るし、マップデータを更新するように未知の洞窟を進む。
温度の寒気よりも、雰囲気から来る寒気が強い洞窟。荒っぽく掘られ作られた蜥蜴亜人の巣か? 松明は倒れ火は消えている事から、ここでも戦闘したのだろう。よく見ると壁や床にある傷が新しい.....なーんて事はわたしレベルにはわからない。
冒険者だが冒険家ではないわたしは周囲を観察しても、コレといって何もわからないので、足を動かし進み、眼で見て判断するしかない。突然モンスターが飛び出してきてもおかしくない状況だが───索敵も自信がない。
「出口どこだよ.....くっそ。ダプネのヤツ、次会ったらぶん殴ってやる」
相棒魔女とも言える関係のダプネに対してブツブツと文句をクチにするも、もちろんダプネは居ないので返事もない。代わりに、遠くから声がぼんやりと響いた。
「......誰かいる」
ハイドレートを上げるように岩影へ隠れ、じっと声の主を待った。近付いてくるように声は大きくなるも、反響により上手く聞き取れないが.....会話している事からひとりではない。
冒険者のパーティか? スローターギルドか? どっちにしろ上手くやり過ごしてアイレインへ向かいたいが.....優しそうな人だったら出口を聞きたい感もある。息を殺し迫る声の主を待つも、声は止み足音も停止した。
◆
黄金色の瞳、黄緑色の隻眼、青色の瞳の視線が薄暗い洞窟の一点を突き刺す。
「一瞬、本当に一瞬だけ気配がしたね」
青色の瞳を細め、義手の右腕で赤々とした熱を纏う長剣を握る。
「初撃はどうする?」
黄緑色の隻眼は質問するように言いつつ、隣へ視線を流した。
「おっけー、ボクが突っ込むから反撃あったら任せるね」
黄金の瞳を一度閉じ、ゆっくり瞼を上げるとそこには朱色の瞳が。
ジリッと足に力を入れ、朱色の尾を引くように気配を感じた場所へ、文字通り一直線に突っ込んだ。
◆
何かくる。
そう思った時には既に眼の前まで───。
朱色の瞳と同色の模様。銀色の髪に耳。これは、
「プン───」
魅狐の友達。プンプンに間違いなかった。しかし何を間違えたのか、プンプンは物凄いスピードで迫り、飛び、得意の雷を腕に纏わせた一撃をわたしに振り下ろしてきやがった。昔のわたしならばここで丸焦げ、エミリオの丸焼きが完成していただろうに。しかし今のわたしは違う。計算不要な距離に空間を繋ぎ、素早く避難。ダプネがよくやる回避行動をパクらせてもらったぜ。しかしまぁ、
「あっぶねーな! 殺す気か化け狐!」
突進からジャンプし、雷を直接落としてくるような物理攻撃だったから空間回避出来た。これが突進のまま雷ビリリだったら500%ヒットしていただろう.....この狐は危ないレベルを越えている。
「エミちゃん!? なんで!?」
プンプンはわたしの姿を見て、やっと声を出した。これにより次の攻撃───半妖精と人間によるエミリオイジメが中止される。
「本当にエミちゃ!? なんで洞窟に?」
「危なかったわね。蜥蜴と間違えて殺していたら、笑えなかったわ。よかった」
わたしを見て驚く人間ワタポと、全然よかった感の欠片もない顔で言う半妖精のハロルド。わたしが警戒していた冒険者はフェアリーパンプキンだったようで安心したが、なんだろう.....一歩間違えていれば、一歩遅れていれば本当に殺されてたのでは? という思いがわたしを複雑な気持ちにさせる。
「確認してから攻撃しろよな.....」
「そんな事よりエミリオ。なんで洞窟にいるの?」
わたしの命の危険を そんな事 で流すのは極悪ギルドマスターのひぃたろ───ハロルドだ。
「なんでって、わたしが知りたいっての! ダプネにアイレインまで空間頼んでみたらワケわからん洞窟に飛ばされて、そしてコレよ。殺されかけるし最悪だぜ」
銀からいつもの金色に戻ったプンプンを指さし、コレよ、と言うとプンプンは「ごめんごめん」と笑い謝るこの軽さ。わたしの命をコイツらはなんだと思っているんだ。
「前に行ってたのに、またアイレインに用事?」
フェアリーパンプキンでは比較的まともなワタポがわたしへ質問する。もう完全にさっきの誤爆事件は無かった事になってしまうだろう.....まぁいいけども。
「用事ってかクエスト」
と言いわたしはここぞとばかりに女王の手紙を見せつけた。特別な蝋燭を一滴垂らし、固まる前に押されたマークはセッカが鍛冶屋ビビ様に依頼し生産してもらったウンディー大陸のマーク。1年前まで国ではなくただの大陸だったウンディーにマークは存在しなかった。しかし国として大陸をまとめ、女王として君臨した事により、必要になったのがその印でもあるマーク。騎士や軍がないウンディーにはギルドマークが沢山ある。その要領で女王のマークを作り、それがそのままウンディー大陸のマークになった。
「エミちゃ、これクイーンクエストだよ!?」
「えぇー!? エミちゃんに!?」
「......偽物じゃなくて?」
「......お前らは、わたしをなんだと思ってるんだよ!」




