◇184
冒険者を生業とする者達が必ず訪れる場所、ウンディー大陸の首都バリアリバルにある【ユニオン】という建物。
ここでは冒険者登録やギルド登録をし、正式に冒険者申請出来る。正式な冒険者にならなくても冒険者として生活は出来る。しかし稼ぎ口となるクエストが全く違う。冒険者ランクで解放され増え続けるクエスト、名を上げればクエストの話も持ちかけられ、冒険者登録しておく事にデメリットはなく【ユニオン】には日々大勢の人───もちろん人間種以外の種族も訪れる。
今やバリアリバル以外にもユニオン....つまり冒険者登録が可能な施設が設けられている。バリアリバルのにあるユニオンは本部と呼ばれるのと同時に城、または、庭、と呼ばれ始めた。その理由は───ユニオン本部にウンディーの女王【セツカ】の王室が設けられているからだった。
ユニオン本部の奥にある王室....と呼ぶには華やかさがない部屋だが、そこが女王の部屋であり、他大陸の権力者などが訪れた際通す部屋。しかし今は冒険者達がその部屋で立体化させた大型マップデータを睨んでいる。
「....何者かはわかりませんが、危険な存在である事に変わりはありません。小さな事でも気付いた事は報告、拡散してください!」
ウンディー大陸の女王【セツカ】は声を張り、マップを見る冒険者達へ言い、床に座る前髪をアップさせている女性の元へ。
「お前さんも感じとるか?」
結び上げている赤茶色の前髪をユサユサと揺らし、いつもとは違う雰囲気でセツカを見る女性───皇位情報屋【キューレ】
「はい....胸の中が重くなる嫌な感じが....」
「うむ。それを感じる事ができとれば上出来じゃの」
魔力でもマナでも気配でもなく、なんの説明も出来ない雰囲気をセツカ、キューレ、他数名の冒険者は感じていた。勘違い、考えすぎ、ならばそれでいい。しかし胸焼けにも似た嫌な感じが、風に乗りバリアリバルへ届く。
混乱する恐れがあるので “嫌な感じがする” などの掴めない理由で警戒レベルを引き上げる事は出来ない。
「.....ワタシは地下にいるね」
白黒剣士の【ワタポ】は床───地下へ視線を流す。現在ユニオンの地下には2人、レッドキャップのりょう、スウィルの死体がある。ワタポは純妖精との関係をより良い方向へとまとめるため、セツカと共に行動し、落ち着いたら埋葬してあげよう。そう思った矢先に不審な2人組がウンディーに現れ、故郷の地であるノムーへ帰るに帰られない状況に。
「お待ちなさい」
セツカの声がワタポの足を止めさせる。普段ならば「待ってください」などの口調だが、今の口調は女王としてのスイッチが入ったセツカ。
「ワタポと....もう1名どなたか、そしてキューレはノムー大陸へ向かい、りょうを埋葬してあげてください」
その言葉にワタポがクチを開こうとした瞬間、今まで黙り壁に背を張り付かせていた半妖精の冒険者が割り込むようにセツカとワタポの間へ。
純妖精の誰かが妖精女王と呼び、それが面白い程一瞬で広まり不本意すぎる二つ名を持った【ひぃたろ】は以前とは違う瞳───エメラルドカラーの瞳をセツカへ向け言う。
「得体の知れない存在がウンディー大陸にいる事は確かだ。被害も出ている。そんな時になぜ、その決断を?」
純妖精の王族とも言える血を持つひぃたろは、セツカの出した答えに噛み付く。
ひぃたろはマテリアで生成された存在であり、それも半妖精。先に産まれたという理由だけで姉となったものの、本物の半妖精は妹だった。しかしその妹はもういない。いや、今やひぃたろも偽物ではなく、本物の半妖精。妹がひぃたろに本物を与え、ひぃたろは妹の眼で世界を見る事を選んだ。妹であり純妖精の女王であった【さくたろ】の真っ直ぐな瞳がセツカを刺す。
「ワタポにとってりょうは大切な存在、だから早く埋葬してあげたい。その気持ちは私にもあります。しかしそれだけではありません」
セツカは言葉を切り、胸の中にある想いを圧し殺すように瞳を閉じ、ゆっくりとまぶたを上げる。
「レッドキャップは死体を回収しに来るでしょう。今の混乱に乗じて侵入してくる確率は高い。ですので、りょうの遺体を奪われない為。そしてノムーから騎士を連れて来てください。元騎士であるワタポならばそれもスムーズでしょう」
「......、わかった。つまらない質問をして悪かった」
納得出来る答えではないものの、ひぃたろはそれ以上何も言わず下がる。
「....ま、ウチは何でもいいがのぉ。ついでじゃし、スウィルも埋葬してやるのじゃ。あやつもノムーが長かったんじゃし、犯罪者でも死体があるなら死者じゃ。埋葬してやる事に意味があるじゃろに」
「キューレ....ありが....、そうしてあげて下さい」
セツカはグッと何かを堪え、背を向けるように振り返り呟いた。
「うむ。ワンコも一緒にくるとして....もうひとり欲しいのぉ」
付き合ってくれるだろ? というような視線をひぃたろへ向けると、
「いいわよ、私が同行する。プンちゃんはここに残るのね?」
ずっと座り動こうとしなかった魅狐の【プンプン】はまぶたを上げる事もせず、頷いた。
レッドキャップが死体を回収しにくる。つまり【リリス】が来る事はほぼ確定している。
「いいの? ひぃちゃも一緒に残った方が....」
白黒剣士は半妖精と魅狐を交互に見て言うも、ひぃたろは「大丈夫」とだけ答え、地下へ向かった。
「ウチらも行くのじゃ。....
プンプンよ」
「ん? どうしたのキューレ」
「まぁ、なんじゃ、無理するでないぞ」
ヒラヒラと手を振り、キューレも地下へ。ワタポは心配そうにプンプンを見て、強く頷き地下へ向かった。
「.....ありがとうみんな。セッカも、ありがとう」
「いえ、私の個人的な気持ちを言えば、やはり反対です。しかし皆様も同じ事を考えていた様子でしたね」
「うん.....、リリスの相手はボクがする。ひぃちゃん達が地下を出たら誰も入れないでほしい。そして....」
「.....はい」
必ずレッドキャップは来る。そう確信していたプンプンは謎の2人組よりも、レッドキャップを、リリスだけを見て行動する事を決めていた。
ひぃたろ達が地下で用を済ませウンディーポートへ向かった頃、プンプンはひとり地下へ。
そして地上───街では、
『いい? シアン』
『あぁ、サプレーションは私がする』
バリアリバルへ入り込んでいた2人の魔女とレッドキャップは各々の目的のため、動き始める。
『さぁみんな....エミリオ以外は食べていいからね───あなたはまだ、ダメ』
琥珀の魔女 シェイネは自分の腹部を優しく撫で、巨大な魔法陣を上空に展開。
グリーシアンの【マナサプレーション】で魔女の魔力を隠し、シェイネは召喚術を発動させた。




