◇183
エミリオ達がプリュイ山へ登り、音楽家ユカ達がプリュイ山を目指し、バリアリバルを旅立った頃───
『足がいないと移動も面倒だな....』
地界ではほぼ聞く事のない簡略化されていない魔女語がウンディー大陸に溢れる。
魔術の詠唱は全て魔女語だが、大きく簡略化されたものを全種族が使ってる。
簡略化されていない純粋な魔女語をクチにした女性は黒一色の瞳でウンディー平原を見渡した。
『....飛んじゃダメ?』
同じく簡略化されていない魔女語をクチにしたのは赤い瞳を揺らす。
黒紫の髪に黒一色の瞳を持つ女性は、雲母の魔女 グリーシアン。
金髪に赤眼の幼い子供のような容貌の女性は、琥珀の魔女 シェイネ。
共に1000を軽く越えた年齢の強魔女───宝石名を持ち【ヴァルプルギス宮殿】へ自由に出入り出来る魔女。
2人の魔女は丁度いいサイズの岩に腰掛け、バリアリバルを遠目に会話を続けた。
『ダメだ。飛んじゃ目立つ。目立つのは魔術を使う時だけでいい』
『......シアンは “フェイク” なのに』
『それは今関係ないだろ』
2人の魔女は休憩しつつ、バリアリバルへどう入り、エミリオを探すか考える、と言っても考えているのは【グリーシアン】だけで【シェイネ】は腕にある巻き付くようなタトゥーを撫で、ご機嫌そうに笑っていた。そんな2人の魔女へ接近する気配───
『....誰か見てるね』
『あぁ....近付いて来てるな』
シェイネは気配、視線を感じた方向を一直線に見詰め、グリーシアン横眼で確認し、両眼を閉じ小さく溜め息を吐いた。数秒後現れた人間の姿に、シェイネは視線を尖らせるも、グリーシアンは瞼を上げる事さえしない。
「───よぉ。お前らが噂の、不審な2人組 だろ?」
魔女の前に現れたのは、男女の2人組の人間。男は軽い口調で言葉を飛ばしてきたものの、瞳は鋭く表情は冷たい。女の方は喋る気もないらしく、シェイネ、そしてグリーシアンへとベトつくような視線を送る。
「.....なんだお前は」
岩に背を預けていたグリーシアンは呟き、瞼を上げ2人の姿を見る。
「あら。あなた、は、真っ、黒な、瞳、なの、ね」
グリーシアンの瞳を見て、女は独特な句切りを入れた言葉を吐き出し、クチを少し歪ませ小さく嗤う。
「真っ黒がなんだって?」
瞳の事を言われたグリーシアンは苛立つ様子で女へ返事をすると、男が割り込み、
「おいおい、よせよ。俺達は喧嘩売りに来たワケじゃねぇよ。お前もやめろ」
と、早口で言う。
「あら、私、も、そんな、つもり、ない、わよ? 気を、悪く、させた、なら、謝る、わ。真っ、黒な、瞳、は、珍、しくて」
男とは逆に、遅く、気になる句切りを入れ喋る女性。
「.....俺からも謝る。コイツは眼球マニアなんだ」
男女はグリーシアンへ軽く謝る。
会話中にグリーシアンは敵意をわざと向け相手側の反応を観察していたが、敵意もなく、本当に喧嘩を売りに来たワケではないと判断し、対応を改めた。
「.....オキュロフィリア、珍しい人間だな。で、用事は? 私達に興味や好奇心だけで絡むのは危険だと、お前達なら解るだろ?」
「へぇ、相手の力量みたいなモノも見極めれるのか....痺れるじゃねぇか」
男はニヤリと笑いグリーシアンへ一瞬敵意でもないが、戦ってみたい、という気持ちを含んだ視線を飛ばすも、すぐに咳払いし自分を抑える。
「俺達はお前達の噂を聞いて探してたんだ。恐ろしく強い2人組がいる、だの、不審な2人組がウンディーにいる、だのと噂をな」
「そうか。話を聞く前にお前達は何者だ? ただの人間にしては....慣れみたいなモノを感じる」
グリーシアンが言う、慣れ、とは殺しに対して抵抗も何もない殺人者や犯罪者だけが纏う独特な空気。グリーシアンは魔女の中でも洞察力や観察力は高く、よく言えば慎重、悪く言えば臆病、とも言えるほど相手を観察し、雰囲気から性格などのデータを採取する。白がない黒一色の瞳が上手く働き、瞳の動きが見えないので相手に不気味と思われても、警戒されず観察する事が出来る瞳。
「名乗ってもいいが、お前達も名乗ってくれるんだろうな?」
「お前達が先に名乗るなら、な」
即答するグリーシアンへ男は笑い、軽い自己紹介をした。続くように女も名乗り、グリーシアンとシェイネは自分達が魔女である事を言い、宝石名を答えた。
相手を驚かせるためや、主導権を握るためではなく、相手も自分達が犯罪者である事を隠さず話したからこそ、グリーシアンは魔女である事を隠す気もなくなった。
男は【ベル】と名乗り、女は【リリス】と名乗った。犯罪ギルド【レッドキャップ】で、目的はバリアリバルにある仲間の死体。目立たずに侵入して死体を持ち去る気でいたが、2人の魔女がウンディーで少々派手に動き、バリアリバルの警戒レベルは一気に上がり侵入が難しくなった。そこで、噂の2人組と接触し、上手く気を引かせ死体を持ち去る作戦を【フィリグリー】が考案し、ベルとリリスが送り込まれた。
リリスは気が乗らない雰囲気だったが、死体を持ち去るのが目的となれば、これほど適任する存在はまずいない。そしてベルは死体───スウィルとは相棒にも似た関係。そのスウィルが殺された事を知った瞬間から、ベルは冷たく何処か危うい雰囲気を纏い始めた。ベル個人の狙いはスウィルを殺した奴を殺す事。
勿論細かい事は魔女に話さず、仲間の死体を取り返したいとだけ伝え、魔女側の目的も、人探し、とだけ聞いた。
「どうだ? 一時的に組まないか?」
「.....その目的に私達は関係ない。お前達が勝手にやれ」
グリーシアンは手をヒラヒラと揺らしベルへ言う。しかしこの返事もフィリグリーは予想し、どう返すべきかも2人へ教えていた。
「協力してくれたら、お前達が探しているモノの情報を、報酬として払う。どうだ?」
相手が外来種だった場合こそ、本領を発揮する返事。フィリグリーは相手側を外来種と予想し、目的も予想し、必ず釣れる言葉をベル達へ渡していた。
「.....先に情報を貰えるか? お前達は犯罪者と言っただろ? 目的を達成した時点で消える確率も充分ある」
グリーシアンの言葉にベルはニヤリと笑う。外来種の目的を上手く聞き、人やモンスターを探しているとしても、探している “モノ” の情報を与える、と言えば必ず食い付く。そうフィリグリーの読み、今の台詞をベルへ与え、結果グリーシアンは食い付いた。
驚く事に報酬の先払いもフィリグリーの予想し、会話は面白いほどスムーズに進んだ。
◆
「しかし、よく気付いたなフィリグリー。ウンディーを彷徨いてる2人組が、外来種って所に」
ベタ塗りされたような、艶のない黒の長髪を無造作に上げ【レッドキャップ】のリーダー【パドロック】はスライムのようなソファーへ身体を沈めた。
「ノムーとイフリーがウンディーに肩入れし始め、シルキは相変わらずの鎖国状態。このタイミングで派手に動くとすれば、外来種の可能性が最も高い。私の予想では....悪魔か魔女。狙いは我々が持つ魔結晶で間違いない」
「へぇ、元騎士団長様は世界事情からそこまで予想出来るんだな」
現在レッドキャップのメンバー数は4名まで減っているにも関わらず、パドロックは焦る様子を見せず高級感のある酒をクチにし、ご機嫌な様子にも見える。
「死体の件は任せていいだろう。メンバースカウトの件はどうするつもりだ?」
「スカウトはお前に任せる。人間以外でも構わない、使える奴を用意してくれ」
「承知した」
フィリグリーは頭の切れが相当良い。しかしそれを越える切れをパドロックは持っていて、相手を操るには最適なディアも持つ。
だからこそ、自分ではなく他人に色々と任せ、楽しんでいる。
黄金の魔結晶を入手した目的も、使用する目的も、パドロックしか知らない。
仲間には “人間をナメてる種族を黙らせる為” と言っている。リリスはパドロックの目的に興味はなく、自分の目的の為にレッドキャップに所属。ベルも別に興味もなく暇潰しでレッドキャップに。フィリグリーはパドロックが話した目的に賛同している。
しかし、本当の目的は───
「この酒は少し甘いな」
レッドキャップのベル、リリスは魔女と手を組み、バリアリバルへ進んだ。
◇武具と魔法とモンスターと-ギフト レーゲン-




