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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【瑠璃狼】ローウェル
175/759

◇174



【イロジオン】

侵食 を意味する魔女語。

呪いにも似たデバフを持つモンスターが放つ、黒い風を対象とした言葉で、風を浴びれば徐々にモンスター化してしまう事から【イロジオン現象】とも言われる。侵食持ちのモンスターは特定するのが難しく、何よりこの能力は突然変異にも近い。身近なモンスターが突然変異で侵食能力を持ってしまう場合もある。


モンスターにアテられた、と言う者も存在し、アテられる、モンスター化する、などはすべて【イロジオン】の事を指す。



今───エミリオ達が休むプリュイ山中層の山小屋へ【イロジオン】でモンスター化した、元人間の【カイト】が狼の姿で接近していた。





だっぷーはミストポンチョを装備する事も忘れ、扉へ一気に走る。


「まてまて、デバフ山だからこれ忘れるなっての!」


ミストポンチョをガッチリと装備した、わたしエミリオがだっぷーの手を掴み、ポンチョを渡す。


「すぐ外にいるワケじゃないし、わたしの感知も100パーセントじゃない。焦らずしっかり準備して外へ出るのがいいだろう....エミリオちょっといいか?」


ダプネの言葉にだっぷーは頷き、ルービッドがだっぷーを気にしつつ武器等を装備する。そんな中、わたしはダプネに呼ばれた。


「なんだよ、わたしも精神集中的な準備があるんだけど」


わたしはダプネへ近付き、クチをへの字にし呟くと、わたしにだけ聞こえる音量で、


「....ハッキリしたワケじゃないから、2人には言わないけど、このイロジオン....魔女が絡んでいるかもしれない」


「───!? 魔女?」


魔女。

わたしやダプネと同じ種族で、目的のためなら喜んで同族も切り捨てる種族。悪魔や吸血鬼と同じく危険な種族だが、その危険の枠が違う。何を企み、何を仕出かすかわからない種族と言える。


「何で魔女が? てか、なんでそう思ったよ!?」


「ここへ近付いてくる何か....狼かはハッキリしてないが、人間のマナとモンスターに近いマナ、そして───微量だが魔女の魔力を纏っている」


「.....そいつが魔女本人って事は?」


「ない。人間のマナが中心でモンスターに近いマナが侵食し、その侵食を助けているのが魔女の魔力だ。それに相手が魔女なら、この感知術を使った時点でマナサプを素早くかけ直して霧に隠れるハズだ」



どうやらダプネの感知は気配や魔力だけではなく、マナそのものも感知出来るらしい。猫人族や冒険者が使う感知は魔力と気配。マナそのものを感知出来るのは魔女の魔術を使った感知術か、みよっちが持つ謎の感知センスだけだろう。ダプネが言ったように相手が魔女ならば、感知術の魔力を察知し、対策してくるハズだ。


「.....イロジオン? ってのを狙ってやれる魔女がいるのか?」


魔女界から離れていたわたしは、今の魔女事情、魔術事情を知らない。イロジオン───侵食を魔術に使えないかと考えるアホな魔女が存在していても不思議ではないが....


「考えたヤツはいるさ。でもあれは....イロジオンは突然変異に近い能力。魔術でどうこうしようとすれば、自分が侵食されるのがオチだ」


「.....とにかく外へ出て接近してきてるのが魔女か狼か、確認しようぜ」


ダプネへ言い、わたしはルービッド達の元へ戻った。


「ダプネ、その狼らしき気配はどの辺りかわかる?」


戻るとすぐにルービッドがダプネへ質問した。わたし達が何を話していたのか気になっているだろうけど、聞いてこないルービッドには少々助かったが....相手が魔女となれば、話しておくべきだとわたしは思う。


「.....、上から凄い勢いで降りてきてるから、小屋の外で待ってれば会えるよ。スピードは狼そのものだな」


感知術の詠唱は歩きつつ済ませたが、感知術中は停止していた事から、この感知は移動しつつ出来ないのか。元々ダプネもわたしと似ていて感知系がダメだったタイプだ。停止し、集中して感知しなければ成功率は極端に下がるのだろう.....それでも凄い。


「.....私は外で待つ。山に来た目的が狼だし、会って違ったならそれでいい」


いつもとは雰囲気が違うだっぷーの声。その狼....元人間の知り合いはだっぷーにとって大切な存在だったのだろうか....。


「ミストポンチョをしっかり装備して、外で狼を待とう。姿が見えたら全員いつでも戦闘出来る体勢で狼の動きを観察。いいね?」


パーティリーダーはルービッド。ここはリーダーの命令....と言えば大袈裟だが、リーダーの指示に従うのがメンバーだ。無茶苦茶な内容なら従わないが、基本的にパーティリーダーが仕切り、指示を出すのが、今回のような即席パーティの歩き方となる。冒険者になり、わたしはその辺りも多少は学んだつもり。


「.....よし、それじゃ行こうか」


ルービッドを先頭に、わたし達は中層の山小屋を出た。


濃い霧が嫌に絡むプリュイ山中層部の広いエリアで、迫り来る狼を待った。





感知スキルがずば抜けて高いワケでもなく、特種な感知術、感知器官を持つワケでもないが、濃い青色の毛を持つ、若い狼は直感的に思う。


だっぷーがいる、と。


頂上付近まで進んでいた若い狼(ローウェル) は一気に山を降る。エミリオ達が中層の山小屋で休んでいた頃、狼はプリュイ山の中層部まで降り、山小屋を目指し霧の中を駆け抜ける。


───俺の事なんて忘れているかもしれない。会っても怖がらせるだけだろう....それでも。


狼───元人間【カイト】は姿こそ狼になっているものの【イロジオン】化した者としては珍しい事に、人間の心も記憶もハッキリ残っていた。


しかし───


「なんか来た!....噂の狼っぽいぜ!」


女性の声が響き、カイトはスピードを緩めた。濃霧の中に浮かぶ4名の人影を凝視し、地面に爪を立て停止する。


「狼にしては小柄だし、噂の若い狼で間違いないね」


「濃い青とか、かっけーな」


「お腹に独特な模様もあるし....ただの狼じゃないだろうな」


真っ赤な髪の女性、狼よりも明るい青髪....水色髪の女性、そして限りなく黒に近い黒緑の髪の女性が、狼を見て言う。


「........カイト?」


最後の女性は、霧に揺らした瞳で狼を見詰め───名前をクチにした。


狼も女性の名をクチにするも、



「おいおい、なんか怒ってるっぽくね!? ヤバくね!?」


雑に伸びたアイスブルーの髪を持つ小柄な少女が、焦り言った。


人間の心も記憶も残るカイトだったが───声は狼の吼えそのものとなっていた。





うだるような霧の中、狼を待っていたわたし達。

外へ出て数分で噂の狼が上層付近から猛スピードで降り、現れた。わたし、ダプネ、ルービッドは狼を見て自由に感想を言うも、だっぷーは眉を寄せ瞳と唇を震えさせ【カイト】と呟いた。


それが狼の名なのか、わたしにはわからない。しかし狼は唸り吼え、戦闘モードにも思える。


「おいおい、なんか怒ってるっぽくね!? ヤバくね!?」


わたしは結構ビビり、腰へ手を伸ばすも霧を掴み、今わたしは武器を持っていない事を思い出す。


「ルービッド! そんなに剣持ってんなら1本貸してくれよ!」


ミストポンチョの中に、踊り子の様な防具を装備するギルドマスターのルービッド。腰には左右2本、合計4本のサーベルタイプの剣を吊るしているので、わたしは1本くらい貸してもらえると思ったが、


「まだ戦闘になってない! 落ち着いて」


と、答えた。貸してくれるのかは不明だが、たしかに狼も停止しこちらを見ているだけ....正直わたしは、この狼が元人間だとは思えない。衣服も装備していて、ベルトポーチも持っているが、どこをどう見てもウルフ型モンスターだろ。


「.....カイト」


「おい、だっぷー! 危ないっての!」


無防備に狼へ近付くだっぷーをわたしは止めるべく手を伸ばすも、ダプネがわたしを止める。


「行かせてやれ。近付けばわかるだろ.....あの狼が人間なのか、ただのモンスターなのか」


「お前それ、だっぷーを使って判断するつもりだろ!」


「判断するのはわたしじゃなく、ルービッドだろ? それに───魔女が絡んでいるなら、必ず現れるハズだ」


魔女が【イロジオン】で人間を狼にしたのならば、確かに現れる確率が高い。自分の魔術の完成度を知るため、結果を確認するために。



わたしとダプネが警戒している影は、徐々にこの場へ近付いていた。








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