◇159
後天性─── 一度死に、別種族として蘇生され別種族として生きる事が可能となる。
確率は低く、全ての種族に後天出来るワケではない。
大きく分ければ二種、悪魔とモンスターに後天可能となる。天性出来れば単純に第二の命を持ち、生きる事が可能となるが、天性出来ないケースの方が圧倒的に多く、何よりも天性手段を揃える事が相当に難しい。
地界では禁忌のひとつ。
「どうするデスか?」
元人間、後天性 吸血鬼のマユキは指先に黒い雫を溜めワタポへ問いかけた。りょうの命はあと数分で終わる───つまり死ぬ。死者は後天対象にはならないため、時間も限られていて、りょう本人の意思は確認できない状態。
エミリオ、ダプネ、ナナミの人間ではない種族はただ黙り、ワタポとセツカ....人間は迷う様子を見せていた。
この瞬間が種族での大きな違いが浮き彫りになると言ってもいい。魔女や悪魔の寿命は恐ろしく長く、人間の寿命は恐ろしく短い。人間よりも寿命の短い種族は存在しているものの、その種族は人間だけではなく他種族よりも優れた部分を持つ種族。
人間は寿命も短く、他種族と比べて唯一特化している部分は───欲だろう。
個体の性格も関係してくるが、後天───不老不死に近いモノに対してどの種族よりも揺れ迷うのが人間。
ナナミは人間として死ぬ直前に悪魔の気まぐれで後天する機会を与えられ、迷わず後天する事を選んだ。これはナナミの性格とその時の心境が迷いを捨てさせた。マユキの後天は半ば強制的とも言える状況だった。
しかし今は後天する本人の意思を確認する事が出来ず、他人が決断するという人間にとっては難しい状況になる。
「....マユキちゃん、だったよね?」
ワタポはマユキの名を確認する。
「デスよ」
「ありがとうマユキちゃん。でも、後天は断らせてもらうね」
「いいんデスか?」
「うん、ワタシが決めていい事なのかは、わからない。でも....後天したからといって罪が帳消しになる事はない。ワタシもりょうも、それを受け入れなければならない」
りょうの罪は人工魔法陣生成とレッドキャップで数々の罪を犯してきた。
ワタポの罪は恐らく、りょうを殺した事だろう。指定犯罪者と戦闘になった場合、討伐もやむを得ない。その際に相手の命を奪ったとしても罪にはならない。しかしそれは表面上....表側での事。内側、討伐した者のなかには “命を奪った” 事実が誰よりも色濃く残る。ワタポの様な性格の者ならば尚更の事。
「そう、デスか。それなら最後を少し延ばすくらい、いいデスよね」
マユキは黒の雫───黒血を体内へ戻し、本来の血液よりも紅色が強い血液を指先に溜め、りょうへ一滴。血液が体内へ溶けると身体は鼓動する様に揺れ、りょうは瞼を押し上げた。
「10分も持たないデス」
マユキは言葉を残し、ワタポとりょうから離れ、ナナミの横に移動する。
「....最後に話す時間を作るとは、吸血鬼も人間らしい部分も残ってるんだな」
ナナミはマユキを見ることなく言葉を飛ばし、ワタポとりょうを見守る。
「....人間の記憶はほぼ無いデスが、人間だったらこうするだろうな、って考える心が少し残っていんデスかねぇ?」
「いいんじゃない?私もお前もベースは人間。許されるなら最後くらい....相手と話したいものだ」
「....デスかねぇ」
◆
ぼんやりとした瞳で夜空を見詰めるりょう。ワタシはかける言葉も見つからず、クチが固く閉ざされ喉が詰まりそうになるばかりで。
「───....ヒロ、」
「なに?りょう」
絞り出した言葉は時間だけを削るように短く、震えていた。マユキちゃんが作ってくれた最後の時間をワタシはただ流すだけしか───
「....止めてくれて、ありがとう。自分じゃ....もう、引けなかったんだ」
「そんな事で、お礼なんていらないよ....ワタシはギルドマスターだもん」
「ギルド、マスターか....。こんな日が、来るのは....わかってた」
りょうはポツリポツリと言葉を繋ぎ、力ない腕を必死に動かし【フォン】を取り出す。そんなもの今どうでも───
「マスター....だろ? ───任せた」
最後の力を振り絞って見せてくれたのは───幼い頃と変わらない、少し生意気な笑顔だった。
◆
10分弱の時間は途方もなく長く、儚いほど一瞬に流れた。
りょうは自分の罪への罰として、命を終わらせた。死で罪が消えるとは言えない。しかし、自分の罪に対して付きまとう罰を、死という形で受け入れた。
ワタポはりょうへ手向けとなる言葉も言えず、しかし現実から眼をそらす事なく。
───こんな幼い子が、罰を受ける覚悟を持っていた。付きまとう死をいつでも受け入れる覚悟を。
「もっと早く、止めてあげられたら....もっとちゃんと、りょうを見ていたら....ごめんね、ごめんね」




