◇154
コンコン、と木製の扉をノックする音が響き、わたし達は振り向く。開きっぱの扉をわざわざノックする礼儀さと、わたし達が振り向くと頭を下げ挨拶する正しさを持つ人物は燃える様な赤の髪を揺らす【ウンディー大陸】の【女王様】であり、冒険者でもある【セッカ】だった。
「お、セッカ!お疲れさん、純妖精も猫人族も冒険者もいい感じになったじゃん。さすが女王様!」
「無事でよかったですエミリオ」
セッカはわたしの言葉に苦笑いを浮かべ、中へ入る。猫人族と人間───冒険者達を繋いだのはセッカであり、今回、純妖精達も外の世界に眼を向け、その手助け....といえば大きく聞こえるが、お互いの利益を考えた関係を組む事が出来たのもセッカの存在が大小なり関係している。もちろん今ここで眠っている半妖精の存在は大きい。
「ひぃたろはまだ起きませんか....、プンプンはどうです?」
「ボクはまだ本調子じゃないけど、動ける様になった!」
ニッっと笑いブイサインを見せるプンプンにセッカは安心した様子で溜めていた息を吐き出し、次はワタポの無事も確認し安堵する。
地界で一番の領土を持つ【ノムー大陸】の王族に産まれたセッカ。父と母は【ドメイライト】の王と女王。完全な王族の血を継ぐセッカはまさかの【ウンディー大陸】の女王。親はどんな気持ちでセッカを、ウンディーを見ているのか....わたしが考えた所で何もわからない。
親....家族。わたしにとってその言葉はフワフワと掴めないモノであり、考えれば胸の奥でイライラとする何かが動く。魔女だから家族や親の存在が薄いワケではない。他の種族と比べれば関係は薄いかもしれないが、それでも魔女は親として最低限の事はする。
しかしあの女は違った....親である前に魔女。それがわたしの産みの親であり魔女界に君臨する───
「エミちゃ?」
「───んあ!?ごめ、聞いてなかった」
ワタポに肩をトントン、と叩かれ我に返ったわたしはクチをぽっかり開け、ワタポを見た。
「今セツカ様が」
「ヒロ....、ワタポ!私の事は呼び捨てにして良いと何度言えば」
「あ、えっと、騎士時代の癖が中々抜けなくて....」
セッカとワタポはお互いの関係に少々戸惑っている様子だが、そこへプンプン、キューレが乱入し会話は違う方向へ爆発する。リピナは呆れつつもどこか楽しそうな笑いを浮かべ、ハロルドの状態を確認。
「....いいな。わたしも───」
「ん?何てゆったんダプネ?」
微かに呟かれたダプネの声を拾えず聞き返すも、ダプネは手のヒラヒラさせ寄り掛かっていた壁を離れセッカ達へ言う。
「冒険者の女王様が用事もなしにここへ来たのか?純妖精や猫人族と今後の話とかあるだろ?」
「わーかってないな、ダプネちゃんよ。セッカはわたしの怪我が心配で心配で長耳やら猫やらと話する事もそっちのけで駆け付けたんだぞ?」
わたしがそう言うと「それは無い感が凄いや」や「長耳はやめとくのじゃ」などの声が。
「皆さんの怪我は心配していましたが、皆さんが簡単にやられる様な方々ではない事くらい心得ています。純妖精や猫人族との話も一段落つきまして、私がここへ来た理由は───旧フェリア遺跡を見てみたくて、同行してくれないかお聞きに」
「旧フェリア遺跡?なんだそれ?」
なんかお宝のニオイがプンプン魅狐プンする名前だ。
「ニンフの森の奥にある昔のフェリア城、と聞きました。そこに女帝ニンフが封印されていたとか....危険な場所でしたら禁止区や制限区にしなければなりません」
女帝ニンフが封印されていた場所....タプネの空間魔法で繋がったあの建物が【旧フェリア遺跡】で間違いなさそうだけど、正直どんか場所だったか記憶にない。
「わたし一緒していいよ、どうせ暇だし瓦礫運びとかやりたくねっす。歩くのダルいからダプネも強制同行な」
「は!?まぁいいけど」
「ごめん、同行したい気持ちはあるけど、ボクはここに残る」
魅狐プンプンはそう呟き、ベッドで眠る半妖精を見詰めた。
「私も残る。埃っぽい場所なんて行ったら髪の毛ガシガシになるじゃん?勘弁して」
優秀なヒーラーであり、医者でもあるリピナは謎にキラキラする髪を気にして同行拒否。出会ったばかりの時は盛り盛りヘアーでギラギラした爪でフォンばっかり触ってるヤツだと思ったが、今は違う印象を持っている。リピナの性格も少し変化したからだろうけど、今の発言の裏には本心───ハロルドが起きた時にすぐ診てあげたい、街の修復作業中に怪我をした人が現れたらすぐに診てあげたい、と言う気持ちがあるんだろう。イカスぜ姉貴。
「ワタシは同行したいな。キューレさんは?」
「ウチは行けぬ。純妖精の情報も少し欲しいし、何より大天使様から色々と話を聞かせてもらう約束をしとるんじゃ。すまんのぉ」
ワタポは同行、キューレは大天使....みよっちから色々と話を聞く予定があるらしい。情報屋も大変だな。沢山の種族が存在する時点で集める情報量は想像を越える。基本自分の種族をメインに情報収集する者はいるが、キューレは他種族の情報も持つ。だからこそ“皇位”の称号を与えられたのだろう。
旧フェリア遺跡には、セッカ、わたし、ダプネ、ワタポの4名で行くことに。視察的な感じだが軽くアイテムの残量を確認し、大丈夫そうなのでダプネへ空間魔法をお願いした。
◆
エミリオ達の元へセツカが向かう少し前───旧フェリア遺跡付近で後天性吸血鬼の【マユキ】はレッドキャップの【りょう】を発見する。
「子供はもう寝る時間デスよぉ」
マユキは苛立つ様な表情のりょうを更に挑発する発言を飛ばすも、りょうは応答する事なくただ睨む。
「....中にもうひとりいるデスか?」
中───マユキがりょうの背後にある【旧フェリア遺跡】へ視線を送った瞬間、りょうは武器を手に斬りかかった。大鎌を破壊されたりょうは新たにカタナを装備していた。刀身が夕色に染まる和國産の武器は別のカタナによって受け止められる。
「遅い到着デスねぇ」
「丁度いいだろ?」
数分遅れて到着した後天性の悪魔【ナナミ】は闇色の刀身を持つカタナでりょうのカタナを受ける。ギチギチと噛み合う二本のカタナを横に、マユキは旧フェリア遺跡へ。
「そのカタナ....私のだろ?」
夕色の刀身を持つカタナを見てナナミが呟いた。するとりょうは、
「必要ないから置いていったんだろ?」
と答え、ナナミの腹部を狙い、足蹴りをするも簡単に回避され競り合いは終わる。
「そのカタナ....そろそろ取りに戻ろうと思っていた所だ」
りょうが持つカタナはナナミが所有していた物らしく、レッドキャップ時代にアジトで保管していた武器。
「大事ならフォンにでもしまっておけばよかっただろ?これは俺が使う」
「使えるのか?そのカタナ」
ナナミが使わなかった理由は単純に、そのカタナが使える武器ではなかったからだ。本来ナナミが持つカタナとりょうが持つカタナの二本で一本になる武器。
闇色のカタナをナナミは何度も強化を繰り返し使用していた。闇色の方が強いという理由と、もうひとつ───夕色のカタナを闇色のカタナの素材にするため。+9まで強化した闇色をベースに夕色を素材とし洗練、一本のカタナを作る事で本来の性能を発揮する武器。和國の武器はそういった独特な関係や効果を持つモノが多く、それらを【妖武器】と呼ぶ。
「このカタナは今+8....次で+9になる。本当に丁度いいな」
ギラリと月光を斬る闇色のカタナをりょうへ向け、ナナミは短く、鋭く息を吸った。
闇色の刀身は無色光を放つ。それに素早く反応し夕色の刀身へ無色光を纏わせ───二本のカタナは激しい音を響かせ衝突するも、夕色のカタナは弾き飛ばされ、りょうは仰け反る。
元レッドキャップのナナミはメンバーを処理するルールも、もちろん知っている。拘束されただけで生きているメンバーだろうと、死体扱いで処理処分するのがレッドキャップのルール。メンバーの誰かが再びフェリア付近に現れる事をナナミは予想していた。処理と名うった仕返しにくるとは予想外だったが、りょうの年齢ならば命令やルールより自分のプライドを優先するのは仕方ない事とも言えた。
「覚えておけ、後輩───」
「───!?」
「力を持たない者がルールを破れば───命を落とす」
ナナミは容赦なくカタナを振った。




