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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【モノクローム ナイト】
153/759

◇152



剣から指先、手首、肘、義手を越え肩まで伝わる衝撃と覚悟。黒は “殺す覚悟” を持ち、白へ剣を振り、白は───。


爆炎を消し飛ばす様に爆風が吹き、弾き合った様に離れた2人のワタポが睨み合う。ロンググローブは焼け露になる義手。シャープな線にスマートなデザイン。その中に細かい機能を組み込まれた高性能冒険者専用義手アーティフィシャルアーム固有名は【エンプレスキラー】となる。

女帝───白にも黒にも色濃く残る、最高危険度SS-S2モンスター。フェリアで戦闘になった【森の女帝 ニンフ】もS2ランクだったが、ニンフはS2の中でも弱い位置付けになる。白と黒が狙う女帝種はS2先程までエミリオと居た【氷島ウィカルム】で数十年眠っていた【氷結の女帝 ウィカルム】と呼ばれるS2モンスター。現在、白と黒の中で唯一共通してる点はウィカルムを倒す事だろう。ドメイライト騎士団に所属していた頃、若きワタポはウィカルムの調査任務へ。その時、現在の愛犬であるS2モンスター【フェンリル】と出会い【氷結の女帝 ウィカルム】の力の前に隊は全滅。まるで見捨てる様に逃げた自分。その頃の事がワタポの中に強く残り、氷に効果的な爆破属性を求め、義手も対女帝とした。


強度も大きく上昇した義手は爆破の衝撃にも耐え抜く。白と黒の義手は破損する事もなく剣を握っている。


「ワタシにも殺す覚悟は残ってるよ」


『....?』


今の一撃は確かに迷いは無かったが、殺す覚悟の現れと言える剣術ではない。黒はディレイタイムを考え、単発剣術を選び発動した。相手を殺す事に躊躇がなく、殺す覚悟を持っている黒は確実に仕留めるチャンスを狙うため、クールタイムが短く隙が最小限の剣術で白を翻弄し、確実なチャンスを狙う行動として今の剣術を選んだ。全ては相手を殺す為に。


そう事を考えている黒、つまり自分。何を狙いどう動くか読めない白ではない。黒がフットワークを重視とした剣術で確実な隙を狙う事は白も予想出来た。この場合、強力な剣術で迎え撃つ事により黒を殺せる可能性がグッと高まる。しかし白が選び発動させた剣術は使い勝手がよく万能だが、決め手にするには威力が足りない、魅狐族と竜騎士族が扱う単発剣術の【狐月こげつ】だった。


『今のでワタシを殺せるとでも思ったの?』


「思ってないよ。ワタシは女帝ウィカルムを討伐、つまり殺す覚悟でいる。それはこの先もきっと揺れない」


『....モンスター相手に殺す覚悟を持つのは当たり前の事。ワタシは相手が誰だろうと、邪魔するなら───』


「殺す覚悟を持つなら同時に殺される覚悟も持たなきゃ。ワタシは誰が相手でも殺される覚悟を持って挑んでるつもり。そして “殺さない覚悟” も同時に持ってね」


『───....殺さない覚悟、ね。綺麗に聞こえるけど、それは自分の弱さから逃げてるだけだ!』


「そう思ううちは一生理解出来ないし、この覚悟を持つ事も出来ないよ」


挑発にも似た雰囲気で言い放った言葉は黒を刺激する。白は黒を100%知り、黒は白を100%知らない。同じ存在である白と黒だが、白は黒の───過去の自分が変化し成長した自分なのだから。過去だけを求め今を捨て未来を見ない自分《黒》では、今を生きて未来を求めている自分《白》の考えを理解する事も知る事も出来ない。


胸の奥にある弱く触れられたくない部分を、突かれた感覚に陥った黒は奥歯を強く噛み、白を睨むも言葉が出ない。


「あなたは昔のワタシ。壊して奪っても、全然埋まらない溝に落ちたワタシなんだよ」


『───ッ!』


「押し付けてごめんね。ずっと溝に落としていてごめんね。今のあなたの気持ちもワタシの気持ちも、存在も、全部がワタシ達なんだ」


『~~~ッ、ワタシは』


黒の心が揺れ動くのを白は感じた。


───昔の自分もそうやって揺れて、ブレて、苦しんで、曖昧な心を誤魔化しきれなくて。それでも足を動かして必死に足掻いてたよ。あたなはワタシなんだから、きっとその苦しい心を越えられるよ。


『ワタシは許したくない、許せない!何も知らず笑って、何も知らず生きてるドメイライトの奴等も、騎士も、お前も許せない!』


黒は剣を強く握り、駆け引きもなしに、白へ一直線に接近し、剣技も知らない子供の様に、ただ剣を握り振った。

白は黒の攻撃といえない攻撃を左義手で受け止める。小さな衝撃が心の奥にまで届くようで、一撃、一撃と打たれては響く音は黒の奥底に押し込んでいた、しまい込んでいた声にも思える。どうする事も出来なくて、諦める事も割り切る事も出来なくて、ただ現実を憎み怨み生きるしか知らなかった昔の自分。

揺れずブレず目的の為にと圧し殺していた心は大きく揺れ、ブレて、溢れ出す。


『ワタシの気持ちを!』


黒は力任せに剣を振り続け、白は剣を受け続ける。


『ワタシならワタシの気持ちがわかるでしょ!』


円が浮かぶ瞳に溜まる水滴は跳ねる様に宙へ浮かび、地面へ落ちる。何粒も何粒も、ポツポツと。眉を寄せ強く歯噛みし、自分の奥に押し込んだ気持ちを堪える様に何度も白へ剣を振るも、剣を振る度に黒の心は揺れる。


救い───助けを求める心と、慰めを求める心。

破壊───同じ目に遭わせたいと思う心、苦しませてやりたいと思う心。


黒の中にある2つの気持ちが揺れては消えそうになり、自分が何を求めて何の為に生きていきたいのか、なぜ自分が今生きているのか、何のために白へ刃を向けているのかも、見えなくなっていた。


───あなたに何があったのかはわからない。でもヒロ、あなたは急ぎすぎてる。生き物は自分のメモリを越えた量の何かを抱えたままでは進めない。1つ1つ、一歩一歩確実に進みなさい。


6年前、孤島───氷島ウィカルムで自分が所属していた隊の隊長【レイラ】が言った言葉が黒の中で響く。ヒロはワタポの名で、黒はヒロ=マカオンのまま。あの時の言葉が今になって何の力があるのか、何の意味があるのか。黒はすぐに気付いた。

自分では抱えきれない量の心が自分の中にある。自分ではどうする事も出来ない重みがのし掛かる。進んでいる様で、一歩も進めていない自分。

押し込んでいたモノが一気に溢れたかの様に、黒は声にならない声で叫び両手で剣を握り振り下ろした。

白の義手へ剣が当たり、剣は黒の手を離れ遠くへ。


『嫌な事は全部押し付けて、辛い事は全部押し付けて、自分は逃げて....自分だけ笑って!!』


黒は白の襟首を掴み白を一度強く揺らした。抗う事なく白は黒を受け入れる。


『なんで、なんで!』


一直線に向けられた黒の瞳を白はそらさず受け、小さく「ごめんね」とクチにすると、黒は膝から崩れる様にズルズルと力を失い、震えたか細い声で。


『ワタシの事も、守ってよ.....』


ポツポツと落ちる感情は地面に溶ける。吐き出せば弱さを認める事になる。だから押し込んでしまい込んだ気持ち。それが今何個も何粒も溢れ出る。


白は力なく座り込む黒を包む様に抱き、


「嫌な事、辛い事を押し付けてごめんね。一人にしてごめんね。全部ワタシが背負って、それでも前に進む。だから───あなたも一緒に行こう。壊し奪う為じゃなく、レイラさんがワタシ達にしてくれた様に、守り繋げる為に前へ」


白は黒をギュッと抱き、黒へ。


「あなたはワタシで、ワタシはあなた。一緒に進めないなんて事はない。今までごめんね....これからは自分あなたの事も大切にして、守るから」


囁かれた言葉は黒へ優しく溶け、ゆっくり白の中へ溶け込む。


子供の様に両手を強く握り白を掴む黒。それを包む白。


自分の弱さに向かい合い、自分が逃げてきた事を受け入れ、今自分に出来る事、やりたい事、やるべき事を再確認し、自分の中に溶け消える自分《黒》を受け入れたワタポの瞳には “白と黒の円” が描かれていた。



守り繋げる覚悟を持った白黒の蝶はゆっくりと、力強く、空へ。





ぼんやりと、でもハッキリする意識。ふんわりとした感覚が後頭部、背中、全身に感じる。

ワタシは重いまぶたを震えさせ、ゆっくりと開く。


「───お!? ワタポ起きた!」


ぼんやりとする視界の中で水色が揺れ、声が響いた。


「本当に!?ボクも!キューレさん急いで!」


「暴れるでない!落っことすぞぃ!」


赤色が言えると小さな黄金色が見え、水色もそのまま見える。


「───....エミちゃ、プンちゃ、キューレさん」


ワタシは3人の名をクチにし、身体を起こす。長時間眠っていた様に頭がハッキリしない中で、鼻に届くの香り。

濃い青色の液体が注がれたマグカップは湯気を漂わせる。


「魔力の本質は変化してないな、お疲れ。おかえりな!ワタポ」


エミちゃはニッと笑いマグカップをワタシへ。


「....ありがとう、ただいま」


ワタシはマグカップを受けとり、お礼と返事をして温かい液体を少しクチへ流した。

コーヒーよりも少し強い苦味とハッキリとした香り、最後に少し顔を出す甘味がワタシに溶け込む。


「....?」


ワタシをじーっと見るエミちゃとキューレさん、キューレさんの手の上にいる15㎝程の大きさのプンちゃ。壁に寄り掛かり同じようにワタシを見る名前は確かダプネさん、机で何かを書いていたリピナさんも手を止めワタシを見る。


「....え、なに?」


ワタシは怖くなり呟くと、


「....それ、苦くないの?」


エミちゃは眉を上げマグカップを指差し言った。


「苦い....と言えば苦いけど、美味しいかな?」


そう答えた瞬間、全員が好き勝手に喋り始めた。エミちゃは「ほらやっぱりなー!」と言いキューレさんとプンちゃは頭を抱えるアクションで何かに悔やむ様で、ダプネさんとリピナさんは舌打ちをして何かを指で弾きエミちゃへ飛ばした。


「毎度~、な?言ったろ?ワタポならコレ美味しいってゆーって!」


エミちゃはズルい笑顔を浮かべてフォンを取り出し、4名から受け取った4枚の500ヴァンズコインを収納する。


「2000vゲットだぜ!」


「....賭けてたの!?その前にコレなに!?」


ついさっきまで自分自身と向かい合っていたワタシには今眼の前で行われている事も、今ワタシが飲んだコレも、何もかもわからない。

でも───これがワタシの今の日常でワタシが生きている今で、この先も続いてほしい未来のひとつなんだ。


ディアは悪魔の力と呼ばれてる事はエミちゃにそれとなく聞いた。

でも、それは全てのディアが悪魔の力ってワケじゃないと思うんだ。この力は使用者によって悪にも善にも変わる。少なくともワタシはこの力を悪だとは思ってないかな。



─── 水色蝶エミリオを見つけていたんだね。知らなかった。


自分の声が聞こえた気がして、ワタシは───


「うん。ワタシも今ハッキリわかった」


「ん?何か言った?」


「ううん、なんでもないよ。それよりエミちゃ!コレ飲んで大丈夫なものなの!?」



ワタシへ返事をした。きっと、もう聞く事の出来ない自分の声。最後の最後に気の効いた事言えなくてごめんね。






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