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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【モノクローム ナイト】
152/759

◇151



再生術、からの治癒術、からの治療、という自分を癒すコンボで死にそうになっていたキュートな帽子のわたし、エミリオさんは全身に残る痛みの余韻にうなされていた。

左腕の再生は完璧。胸の傷も完璧に塞がっているが、重みというか....説明が難しい痛みが全身に残っている。


「~~~、リピナこの痛い感じ消せないの?」


希少な再生術を操れる治癒術師ヒーラーで癒ギルド【白金の橋】マスターのリピナへ、わたしはジットリとした声をふりかけた。


「無理、我慢しなさい。治癒術じゃ腕は治らないし、治癒術と治療じゃ胸の傷が治るのは数ヵ月先よ?」


それを言われれば何も言えなくなる。

再生術は死んだ細胞を一定時間内ならば再生させる事が可能で、切断状態の細胞も素早く繋ぎ合わせる事が出来る術。

治癒術は細胞を少し活性化させ自己再生能力を高めたうえに、魔力で回復ブーストする術。

致命傷には再生術が効果的で、腕や足がブッ斬られても斬れ端の細胞やらがまだ腐ってなければ繋げる事が出来る。


今回のわたしの治療は、細胞術で繋ぎ、繋がったら治癒術で回復し、最後に普通の治療で終わり。

再生術のおかげで腕はくっつき、胸の傷は超高速で塞がり、すぐに治癒術からの治療をしたので傷痕も残っていない。しかし再生&治癒で全細胞を無理矢理働かせたツケが残った。それが今わたしを苦しめる、なんとも言えない痛みだ。我慢出来ないレベルではないし、怪我した時の方が痛い....が!怪我とはまた違う痛みなのでモヤモヤイライラする。


「我慢して座ってろよ」


腐れ魔女のダプネはそう言いつつ、わたしの前に湯気をふわふわと上げるカップを置いた。中には見た事もない───濃い青の液体が。


「なんだこれ?かっけー色してんじゃん!」


カップに手を伸ばすとプンプンが「あっ」と声を出すもキューレの「純妖精のお偉いさんが飲むお茶じゃの」という声がそれを消した。

純妖精のお茶。それもお偉いさんが飲むお茶。純妖精の美貌はこのお茶が関係しているに違いない。だって色が格好いいから。それにお偉いさんが飲むお茶だ。美食家で有名なわたし、エミリオさんのクチに合わないワケがない。

ダプネよ、やっとこの美食家エミリオさんの好みを理解したか。さてさて、美食家は眼で楽しみ、香りを楽しみ、味を楽しむのが基本で鉄則。見た目は大変楽しませていただいたので、次は香りを楽しませてもらいましょう。

ほんのり甘いココアに似た香りが美食家自慢の鼻を刺激する。悪くない、悪くないぞ。


「のぉ、あの帽子....なに気取っとるんじゃ?」


「ボクも昔一緒に船に乗った時、ジュースで気取ってるエミちゃんを見たよ」


下品下劣な冒険者プンプンとキューレが貴公極まりない美食家に嫉妬しての悪口的な言葉を並べるも、そんな下品下劣な存在の言葉などわたしの耳には入らない。

さて、お待ちかねの味を楽しませていただこうではないか。人肌くらいの温度を持つカップへ優しく唇をあて、ゆっくり、下品な音を立てず、上品にクチへ運ぶ。

くるぞ、妖精の味が!


「───!?にぃーっ....がぁ!何だコレ、coffee!?これコーフィーですか!?」


「コーヒーに似た純妖精のお茶」


ダプネはわたしを見ずに答えた事から、このお茶がコーヒーの味である事を知ったうえで、わたしに差し出したのだな?コーヒーが嫌いだという事もダプネは知っている。あの腐れ魔女が!

しっかし、何なんだこのお茶は。ココアの匂いがするのにコーヒーの味とか....一緒にお風呂に入るレベルの仲の友人が、極悪チームのリーダーだった時くらいの衝撃的裏切りだ。


「再生術は、」


ベロにまとわり付く苦味をどうにかしようと足掻いていたわたしへ、リピナが語り始めた。正直話を聞いている余裕はないが、再生術というワードを耳が自然と言葉を拾い、続きを待った。


「術対象者に副作用として痛みの感覚が残る。治癒術よりも速く大怪我を完治させるから細胞だけじゃなく、脳もビックリする。その時の痛みを脳が濃く記憶するから “痛みが残る感覚” が残る。実際にはもう痛みなんて残ってないし、残さない様に再生術、治癒術、治療って三段階にしてる」


「はぁ?」


「戦闘中に再生術で腕をくっつけたら、アンタならすぐ戦闘に戻るでしょ?どう?」


....戦闘中に腕をブッ斬られるという事はヤベーヤツが相手、すぐくっついたら確実に戻るだろうな。


「いやそれ今関係あんの?」


「切断時の痛みよりも、戦闘を終わらせる方が優先的と考えているからそうなる。それが両手両足となれば優先順位は変わるでしょ?戦闘中は痛みを覚え残しておく余裕がない状態だから、すぐ次の行動へ。でも今はゆっくり治療できる状態だったから再生術の痛みより強いインパクトを持つものもなかったし、優先すべき事もなかった」


「.....?」


リピナは何を言いたいのか、全然わからん。プンプンもダプネもキューレもクチを挟まずリピナとわたしの会話を聞いているし....こーゆー会話こそガンガン質問を投げ入れろよなコイツら。


「リピナ....だっけ?コイツに治癒系の説明するのは難しいよ。壊す事が得意で治す事は苦手だからね」


ダプネがリピナへそういい、わたしへ妙な視線を飛ばし少し笑っていた。ムカつく顔して何かムカつく事言ってるが、ダプネの言う通りわたしは治癒系の話題が苦手。


「痛みじゃなく、痛い記憶の感覚が残る。コーヒーの色や匂い、味が脳に新しい記憶を作った事で、痛い記憶の感覚がなくなったろ?」


「あ、確かにそう言われれば....」


謎のコーヒーを見て、わたしはすぐに手を伸ばした。その瞬間からコーヒーの事を考えていた。その間痛みの事も忘れ、今も痛みの事を忘れていた。リピナが言った “痛みが残る感覚” は、ダプネが言った “記憶の感覚” って言葉と同じ意味か。

新しい記憶や出来事が起これば残っている記憶の余韻は一気に薄れ、ただの記憶として脳に収納される。わたしの “再生術での痛み” はもう既に終わっていたが、その感覚がまだ身体に残っていたせいで違和感というか、痛みというか、そんなのに悩まされていただけか。インパクトが強く再生術より新しく記憶、つまりコーヒーがわたしに残る痛い感覚を消してくれたというワケだ。苦い記憶を舌の上に残して。


「病は気から~なんて言うけど、嘘でもないって事なんだね!」


ベッドで横になっているプンプンが元気よく言うも、今のプンプンの状態は “病は気から” が通じない状態。そんなヤツが言ってもなんの説得力も無い。

隣のベッドでは半妖精が小さな呼吸を微かに響かせ、眠っている。


「ま、治ったしもういいやその話!リピナ先生サンキュー。わたし上行ってワタポ見てくるわ!」


難しい話はいいとして、腕も傷も治った。ワタポが中に入ってから数十分が経過....そろそろ結果が出る頃だろう。


ワタポ、絶対戻ってこいよ。





どこかの大陸にある、古い館。館内の生活感は薄いものの一室にはイスやテーブルなどが配置されており、最低限の環境には仕上がっている。


「くっそ!あの悪魔堕ち....絶対許さない」


怒りの声を吐き出しイスを蹴ったのは【レッドキャップ】の最年少、りょう。普段怒りを前に出す事はないが今回は相当熱くなってる。


「傷はもう治ったろ?騒ぐなよ。うるせぇな」


一方、普段は痺れ~とうるさい【レッドキャップ】の太刀使い、ベルは口癖さえも使わずりょうへ言う。


「斬ら、れるの、は、弱い、から、で、しょ?」


句切りノロノロと喋るのは【レッドキャップ】で一番頭のネジが飛んでいる、死体人形師のリリス。りょうを挑発する様な発言だが、挑発しているつもりはない。


レッドキャップは指定危険度SSS-S3を持つギルド。

危険度【S3 パドロック】がギルドマスター。

元メンバーも含め、現在個々に指定されている危険度は───

【S3 フィリグリー】

【S2 ベル】

【S+(S1) スウィル】

【S3 リリス】

【S+(S1) ロキ】

【S2 ナナミ(脱退)】

【A+ りょう】

【A+ パメラ】


ロキが死に、ナナミが脱退し、パメラが加入するも、パメラがリリスに殺され、スウィルも失った事でメンバーは【5名】になる。

メンバーが減る一方でもパドロックはこれと言った指示を出さない───出してある、と言うべきか。


「とにかくウィルの死体を処分しないとな」


りょうは不機嫌そうな声を溢し、勢いよくソファーへ身を落とす。レッドキャップは基本的個人の自由に動く事を許されているギルドだが、リーダーパドロックが全員へ命令した場合は最優先で働く。その命令は最近になって増えたものの、基本的には自分の目的の為に動けるギルド。手を貸してほしければ個人で話を持ちかけるもよし、やり方はどんな手段だろうと今さら気にする様なメンバーではないうえ、メンバーの危険度も相当高くメンバーの迷惑に~など考える必要もない程、全員が自分の身を自分で守れるレベル。足を引っ張る存在がいないので、犯罪者クライマーには最高のギルドとなる。今りょうが言った “死体の処分” もレッドキャップのルール。

ルールは2つ。

①パドロックの命令は最優先する事。

②メンバー脱退、拘束は死体扱い。死体は情報元となる可能性もあるので速やかに処分する事。

ロキが拘束された際はリリスが処分した。今回のスウィルの処分はベルが担当するだろう、とリリスは思っていたが、


「俺が行ってもいいか?」


りょうがクチを開いた。スウィルをレッドキャップへ誘ったのはベル。この2人は妙に合う事から、よくペアで行動していた。後処理もベルがするだろうとリリスは睨んでいたが、ベルはりょうの言葉に頷いた。


「いいぜ、痺れるくらい派手に終わらせてやってくれよ」


「了解」


ベルの視線に何かを感じたリリスだったが、別に自分がクチを挟む必要はない、と思いその場は黙った。


「リリー。準備出来たらフェアリまで空間繋いでくれ」


「いい、けど、再、生、術、の報、酬、も貰、ってな、い、わよ?」


「そうだったな....何が欲しい?」


リリスは沈黙後、ニヤリと顔を歪め言う。


「あとで、ちゃん、と、もらう、から、いい、わ。それ、より、私、も、いく。キバ、持ちと、遊び、たい、の」


リリスの言うキバ持ちは後天性吸血鬼───カーレイドの名を持つマユキ。


「アイツは俺が───....でもナナミもいるしな。わかった、そっちは任せる」


「うん。それ、じゃあ、あとで」


リリスはそう言い、恐ろしくも思える企み嗤いを見せ、自分の準備へ向かった。




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