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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【妖精の唄】
146/759

◇145



純妖精エルフの女王さくたろと十二星座、猫人族ケットシーのゆりぽよが妖精の都 フェリアを去って数十分が沈黙のまま経過した。

未完成の女帝さえ討伐出来なかった冒険者達は自分達の弱さが問題ではなく、連繋的な戦闘が全く出来ていない事を知った。普段は各々別々の生活スタイルがあり、このレイドで初顔合わせした者や、見かけた事はあっても名前も何も知らない、といったメンバーばかり。実力的な面は問題なかったとしてもレイドの統一感、なぜレイドパーティを組み討伐を行うのかさえ、理解出来ていない冒険者が多かった。女帝種というだけでランクはSS。しかし実力的に森の女帝ニンフのランクはA+かS+。もちろんSSの中にはそのランクを越えた力を持つモンスターも存在している。A+~S+を相手に死者も数名出た事実が冒険者達の平均的な実力ではなく、連繋的な実力の低さを物語っていた。

沈黙が充満するフェリアだったが、1人の純妖精がポツリと呟いた言葉が感染する様に広がる。


「....猫人族のせいだろ」


このワードが毒の様に純妖精達へ広がり、徐々に声が大きく、言葉も鋭利になる。


「人間達が森にいるのも、女帝が解放されたのも、純妖精達が喰われたのも、全部猫人族のせいだ!」


「街も壊れて、森の機嫌も最悪だ!」


「純妖精の歴史が汚い猫にまた踏み荒らされるのか」


純妖精は基本的に街へ他種族を招かない。妖精のイタズラや木々の変化で森へ入った者を迷わせ、外の世界と別の世界とも言える様な距離を長年取り続けてきた。しかし今、このフェリアには純妖精、妖精種以外の種族が存在している。それも全て、猫人族が原因だと言い始める。


「猫人族が世界樹を奪い、世界樹を殺したと聞いたぞ!?」


「なんて事を....」


徐々に広がる毒は若いドライアドやいつのまにか集まっていた小妖精達にまで感染する。冒険者達に向けられる視線には独特な色が混じる。


「はぁ....純妖精って気難しい種族だとは聞いていたけど、自分達中心に考える種族なのね」


元レッドキャップの悪魔ナナミは燻る火種に油を注ぐ様な発言をした。すると純妖精達は表情を変え、叫ぶ様に声の雨を降らせる。暴言ではなく、差別に近い言葉の数々を冒険者達は聞き流す事をせず、徐々に熱くなる。


「おいおい!やめんか!」


「せっかく助かったのに喧嘩すなや!」


落ち着いている冒険者も中にはいるが、声は届かない。


「猫人族を殺せ!」


「この森から出られると思うなよ!」


「そもそも森に暮らしてる種族なんて、居ても居なくても同じだろ!」


「助けてやったのにお礼も言えねーのか長耳!」


純妖精と冒険者の言い合いは聞くに耐えないモノとなり、落ち着いていた者達も徐々にヘイトを溜める。そんな中でも猫人族のるーとリナは何も言わず黙ったまま観察していた。


「おい猫人族!黙ってないで何か言ったらどうだ!?世界樹を殺したんだろ!?」


1人の純妖精が猫人族へ弓を引いた。すると重装備のるーが立ち上がり、クチを開いた。


「落ち着けニャ。喧嘩すんにゃら言葉はいらにゃいし、話をしたいにゃら落ち着けニャ」


以前、イフリー大陸で喧嘩したるーは我慢強い方ではない。しかしエミリオの様にすぐ熱くなるタイプでもない。今の状況がハッキリ見えず、喧嘩を売っているのか、話をしたいのか見えない状況なので、るーはどちらなのかを個人的に判断できるまで黙っていた。るーの言葉で一瞬生まれた沈黙へ金ドライアドが入り込む。


「お互い落ち着け。そんな言い争いをしても何も変わらない事くらいわかっているだろう?女王は不在だ。無駄に長生きしている私が妖精側の代表として話をする」


金ドライアドは数歩前に進み、冒険者側の代表を無言のまま待った。ウンディーの女王であるセツカが一歩前へ進んだ瞬間、セツカではない者の声が響く。


「私が代表だ。ドライアド」


包帯に隠れた左眼。右眼は奇妙とも言える重瞳の半妖精ひぃたろが金ドライアドの前に立った。ひぃたろの顔を見た純妖精達はざわつくも、金ドライアドは頷き、進める。


「まず世界樹について話を聞かせてもらえるか?」


「世界樹は確かにシケットにある。しかし純妖精達が言っていた様に世界樹は死んでいる。殺したのは猫人族ではない」


ひぃたろの答えに金ドライアドも両眼を見開き驚く。猫人族が世界樹を奪い、殺したと純妖精達は聞かされていた。そしてそう信じていたが実際に殺したのは猫人族ではない。


「誰が世界樹を?」


「それは.....」


ひぃたろが答えに困った様子を見せた瞬間、純妖精達は声をあげる。「半妖精は信用できない」「半端者は下がれ」などの声が飛び交う中、冒険者の集団の中から声が届く。


「私だ」


ブーツのかかとを鳴らし前に出たのは黒に赤の瞳を持つ悪魔ナナミ。


「世界樹を殺したのは私だ。世界樹を引き裂き、中から魔結晶を取り出したのも私。猫人族も、この女も世界樹を守る為に戦った。そこの狐もさっきまでいた帽子と義手もね」


突然現れた世界樹殺しの犯人に純妖精達は戸惑う。純妖精だけではない、ひぃたろも冒険者達もナナミの発言には驚かされる。知っていた者も知らなかった者も、ただ驚き言葉を失う。ひぃたろが金ドライアドの質問へ即座に答えられなかった理由はナナミを、自分の罪を受け入れ罰を待つナナミを売る様な発言は出来なかったからだ。しかしナナミは自ら名乗り出た。


「猫人族を利用して純妖精を外に引っ張り出し、純妖精の血を狙っている集団がいる。私は元その集団のメンバーだったから動きくらいは予想できる」


「純妖精の血を狙う集団....?」


「森に籠ってたら聞いた事ないかもね....レッドキャップ」


金ドライアドと数名の純妖精はレッドキャップというワードに息を呑んだ。その反応を見てナナミは言葉を続ける。


「知ってる人もいるのね。そのレッドキャップが純妖精達の血を求めてる。自分達以外が争って血を流してくれれば無駄に疲れなくて済むし、猫人族と純妖精が戦争をした、と大々的に広まれば自分達の存在を隠す事も出来る。無駄に目立つのもうまくないしね」


「ちょっと待ってくれ、話が予想を越えすぎていて頭がついていかない....レッドキャップと言えば、あの犯罪集団で間違いないな?」


「そう。SSS指定のギルド レッドキャップで、私は元レッドキャップのメンバー。今はレッドキャップじゃないとしても罪は消えない....私を許せないと思うなら、今ここで私を殺しなよ。それが私の罪に対する罰として受け入れる。でも、猫人族や他の人間達は世界樹殺しを阻止しようとした側だ。純妖精達が他種族に手を出せばそれは罪、罪には罰が下り受け入れなければならない。その覚悟があるなら好きにすればいい」


ナナミの言葉にはどこか重みがあった。自分の罪を暴露し、罰として命を奪われるならば受け入れる。武器を捨てその場に座り眼を閉じるナナミはまさに無防備。抵抗する気もないナナミを殺す事は子供でも容易い。純妖精達がざわつき始めると金ドライアドは声を張り、純妖精達を黙らせた。


「....世界樹は純妖精にとって、妖精種にとってとても大切な存在だった。正直お前を殺したい気持ちは私にも純妖精達にもある。しかしそんな事は後だ。世界樹殺しの犯人としてではなく、元レッドキャップのメンバーとして質問する。猫人族と純妖精が争わなくなった今、レッドキャップはどう動く?」


「メンバーがここを探し出し、純妖精を殺すだけだ。そして多分....もう迷いの森に入ってるだろうな」


ナナミの答えに純妖精達だけではなく、冒険者も驚き、焦りを見せる。小妖精が忙しく飛び、迷いの森の様子を伺いに行こうとした直後、森のマナが一定の形に変化、固定されるのを金ドライアドが感知した。


「まずい!ニンフの森まであと数十秒で到着してしまう!」


「ここに到着するまであと数分ってところか」


ナナミは武器を拾い、フェリアの入り口を睨む。レッドキャップと戦闘するつもりだ。


「純妖精さん達はどこか....城へ行きましょう!私達も同行します!ナナミと....」


セツカは指示に迷いを見せた。ナナミと他数名を残しレッドキャップの足止めをお願いしたいが、足止めする事は可能なのか、時間を稼いだ所でレッドキャップを相手に純妖精達を守れる確率は低く、最悪ここにいる全員が殺されてしまうかも知れない。それほどまでに危険な相手がフェリアに迫っている。


「ボクは残るよ」


魅狐プンプンは普段とは違う声色で呟き、長刀を抜いた。


「純妖精達が殺されようと知った事ではない。でも、私も残るわ」


半妖精のひぃたろは純妖精達へ鋭い視線を飛ばし、呟き、芸術的な剣を構える。


「俺様は逃げる!」

「ウチも逃げるのじゃ!」

「わたしも勘弁!レッドキャップ?どこのラッパーだYo!わたしはMiYo!この美貌を見Yo!」


アスラン、キューレ、みよが堂々と逃げる宣言をすると、他の冒険者も逃げる事を選んだ。不安と恐怖を我慢しこの場に残っても殺されるだけ。それならば逃げて生きる道を選ぶ事こそ賢い。


「誰も責めたりはしません。私も的確な指示を出せません....戦闘を避けたい者はフェリアの城へ急いでください!しかし城へレッドキャップが来た場合、私達は純妖精の盾になる覚悟を持ってください!」


セツカは強く叫ぶ。

レッドキャップが純妖精の血を狙っているならば、渡す訳にはいかない。血を狙う理由もハッキリ理解出来ていないが、セツカは直感的にそう思いもしもの時は純妖精の盾になる覚悟を自分自身も持った。


「城へ急ぎます!」


セツカの声はドライアドを走らせ、純妖精、冒険者を城へ向かわせた。


フェリアの入り口に残ったメンバーはナナミ、プンプン、ひぃたろと猫人族のるー、そして魔女ダプネと吸血鬼のマユキの6名。


ギルド白金の橋のマスターリピナや音楽家ユカも残ろうとするも、癒は最初に潰されやすくレッドキャップ相手となれば自分の身を自分で守れない時点で話にならない。音楽家の音楽魔法は超広範囲隠蔽効果を持つモノもあるので城側へ。



「レッドキャップって悪い雑魚妖精っしょ?違うの?」


「俺は猫人族として残るニャ。その方が色々便利そうにゃし」


「あたしは個人的に興味があるので残るデス」



タプネ、るー、マユキは武器を構え、レッドキャップを待った。





───生まれて初めて森の外へ出た。


さくたろは眼の前に広がる世界【猫人族の里 シケット】に心を奪われていた。

街灯は猫の形をしていて、ベンチは猫足。街にいる人々の頭の上には形のいい耳と背には細い尻尾。当たり前だが大人も子供も同じ猫人族。


「世界樹の所へ案ニャいするニャ」


桃色の毛並みを持つ猫人族のゆりぽよは行き交う猫人族に挨拶しつつ、幅広の階段へ向かう。十二星座達とさくたろは一緒に進み階段を登りきると広いエリアに到着。そこには巨大な木と、小さな芽。


「これが....世界樹、ですか?」


「そーニャ」


生まれて初めて見る世界樹。元々は純妖精達の宝とも言われていた巨大な木。世界のマナバランスを整える重要な木も今では茶灰色の肌になり、生を感じさせない温度。


外界から地界へ移動する際、どんな理由か外界の島が地界に飛ばされた。その島に猫人族が住み着きシケットとなり、純妖精達は森に住みフェリアとなった。世界樹が地界に存在してる事、世界樹が死んでしまっている事を最近知らされた純妖精達は怒りに震え、女王の命令を聞かず悪純妖にまで身を落とし、猫人族と戦争する為に動き始めた。

そして女帝が復活し、半妖精達が現れ、十二星座までもがフェリアに。


「どうしたニャ?」


女帝入りの瓶を持つさくたろは世界樹の前で数秒停止していた。


「いえ、なんでもありません。急ぎましょう」


「帰りにぃ街をゆっくり見ていくといいニャ。それか全部終わったりゃ、純妖精みんにゃで遊びにぃ来るといいニャ」


ゆりぽよの言葉に頷き、さくたろは世界樹へ近づく。すると虹色に揺れる入り口が展開される。一瞬恐れるもさくたろは進む。身体がふわりと浮き、すぐに足が地に付くとまた別世界に。


「ここが星霊界だ。ここからは私達が案内しよう」


濃紺色の夜空に煌めく色とりどりの星。星屑は川の様で、幻想的な世界。

シケットも星霊街もフェリアとは違い、狭い世界しか知らなかったさくたろは心にある感情が芽生える。


───もっと、沢山の世界を見てみたい。


「シケット同様に星霊界も純妖精達と共に観光しに来れば良い。今はやるべき事を優先しよう」


そう言うと乙女座は虹色の石を取り出した。石を地面に置くと空間魔法が展開される。


「この先が廃霊街だ。30秒しか扉は開かないので急ごう」


乙女座が迷わず空間魔法へ飛び込むと、ゆりぽよ、そして十二星座が飛び込み、さくたろが最後に。

今度は落下する感覚が身体を包むも、すぐに着地。眼の前に広がる世界が一変した。

空は変わらない。しかし街灯や人々の声、気配すらなく、温度も極端に違う。


「ここが廃霊街....ですか?」


「そうだ。廃霊街の中心部だ」


さくたろは中心部の言葉を聞き、瓶を置いた。女帝ニンフ、ひぃたろとさくたろの母親が入った瓶。

子を守る為に同族を手にかけ守る力を求めた結果、大きすぎる力....壊す力を手にしてしまった母親。同族からは命を狙われ、世間的には危険なモンスターの枠に納められた母親。


───母でも、私は女王です。純妖精達に危険が迫るならば、例え母だとしても、私は...。でも、私達を守ろうとしてくれていた事は凄く嬉しいです。


「私も....大丈夫ですから、もうゆっくり眠ってください」


さくたろは女帝ニンフへ言葉を残し、十二星座達を見て頷く。


「よし。もう一度さっきの石を使って空間を繋ぎ全員街へ戻ろう。サジテスは最後矢を瓶に射ち、爆破を頼む」


「わかった」


射手座のサジテスは返事をすると弓を構えた。虹色の石が空間を繋ぎ、十二星座達は次々と中へ入る。


───さようなら。


さくたろは心で呟き、空間の中へ。未完成とはいえSSランクを持つ女帝。しかし最後は呆気ないものだ。サジテスは数十本の矢を天へ射ち空間へ入り、星霊街へ帰還する。

すぐに星座達は夜空へ廃霊街の映像を投影、矢の雨が降り注ぎ女帝の自爆魔法が予想通り炸裂。廃霊街は簡単に崩壊した。


さくたろは思う事もあるだろう。ひぃたろよりも母と長く居たさくたろの記憶には優しい母の姿も残る。その母が禁忌、同族喰いを行い女帝化。それでとどまらず大量の純妖精を喰い漁り力を求め続けた。


子を守りたいと願う母の想いが、自分自身を圧し殺してしまった。


「....。戻りましょう、フェリアへ」


───私は女王だ。純妖精の事を一番に考える女王なんだ。モンスターの事で....立ち止まり涙を流す時間は....私には無い。






「なぁ、本当にこの奥に純妖精の街ってあんのか?木ばっかりじゃねーか」


木々の間を器用に走り抜ける男は少年へぼやく。


「あるってば。信用出来ないなら勝手に別ルート探せばいいだろ。詳しく調べて来た身にもなれよ....俺が来なかったら今も森で迷ってただろ!」


少年はメガネの奥の瞳を不機嫌そうに揺らし、男へ言葉を返した。


「あれ?お前自分の事を俺って言ってたか?さては格好つけてんな!?」


「うるさいな!黙ってついて来いよ!」


「まぁまぁ、もう進むしかありませんし、とにかく行ってみましょう」


2人とは別の男が間に入り、その場を納める。迷いの森を恐ろしい速度で進んでいるのはギルド レッドキャップのメンバー、ベル、りょう、スウィルの3名。会話しつつも速度は下がらずニンフの森へあっさりと到着する。


「ここがニンフの森って場所か?迷いの森と何か変わったか?」


「マナの質が少し変化してますね」


「あー、俺マナの質とかよくわかんねぇ。てかスウィル!お前のその喋り方はやっぱ痺れねぇわ!」


レッドキャップは純妖精達の元へ向かい、純妖精達の血を狙っている。つまり、純妖精と戦闘するつもりだ。しかし戦闘前とは思えない気の抜けた会話を繰り広げていた。そこへ、


「遅、すぎよ。待ちく、たび、れ、ちゃっ、たわ」


独特な句切りで声が響いた。


「ボク...、俺のせいじゃないぞ。コイツらが遅いんだよ」


「おいおい俺達のせいか!?まぁ何でもいいけどな」


「待たせてすみませんでしたね、リリー」


スウィルは近くの木の上に座る少女へ眼線を送った。黒紫のドレスをふわりと揺らし、少女は木を降り、着地。

見た目は少女だが年齢はエミリオと同じ20代のリリス。


「スウィル。その、しゃべ、り方、気持ち、悪い、わよ?」


どちらかと言えばリリスの方が気持ち悪い喋り方をしているが、スウィルは何も言わず微笑み、クチを開く。


「....ベルもリリーも気に入らないか、さっきの喋り方」


「痺れねぇ」

「気持ち、悪い」


口調に痺れるも何もないだろ、そもそもリリーの口調は人間としてどうなの?とスウィル言いたい所だったが、こんな事を言えばまた言い合いになり無駄に時間が経過してしまう。再び微笑み、この場は黙ってやり過ごす。


「おい、喋ってる暇はないぞ。この先に崖があるから、ここからリリーの空間魔法で崖越えする」


最年少のりょうはフォンで道筋を確認し、リリスへ空間魔法を使うように促す。基本的にリリスは命令されるのが嫌いだ。お願いであれば願いを叶えた報酬も求めるタイプ。ギルドマスターの命令は聞くものの自分の目的外ならば行動するのも遅い。


「いいわ、私、も、試し、たい、事が、ある、し」


今回はリリスも試したい事、つまり目的があったらしく空間魔法の件はうまく進んだ。

リリスは自分の指を噛み、血を出す。地面に血を垂らし詠唱すると血が蒸発する様に消え、闇色の魔方陣が展開される。


「これは召喚術か?レベルも高いな....」


「リリスは召喚術を試したかったのか?痺れる召喚獣を頼むぜ」


「俺は召喚術じゃなく、空間魔法を頼んだんだけどな」


そんな声に耳を向けずリリスは召喚術を続ける。長めの詠唱から、まだ召喚術に慣れていない事がわかるも、戦闘前に召喚を終えてしまえば何の問題もない。魔方陣から浮き出て来たのは両眼を閉じ、手には大きな本を持った少女。


「なん、とか、成、功し、たみた、いね」


思った結果とは違ったのか、リリスは少々不満な声を出しつつ自分の腕、腐敗が進んだ左腕を見る。


「もう、ダメ、ね」


呟き、リリスは左腕を巨大なハサミで切り落とした。


「うわ....相変わらずだなお前」


ベルはその行動に顔を歪めて笑う。腕を切り落としたリリスは右の親指と人差し指を奇妙に動かす。すると傷口が何かに縛られ出血が止まる。素早く残りの中指、薬指、小指を動かす。指の動きに操られ召喚された少々は本を開き、本から別の腕を取り出した。

リリスは右腕を軽く振り、今度は五本の指を奇妙に忙しく動かす。本から取り出された腕は宙に浮かび、左傷口へと近付き、リリスの左腕となった。だらりとした左腕はピクリと動き、手を回し、手を閉じ開く。赤黒い縫い痕が浮かび上がり、リリスはニッコリと笑った。


「今度はなにをしたんだ?リリー」


スウィルは不気味に笑うリリスへ質問すると、リリスは唇を舐め答える。


「今の、腕は、闘技、大、会の、時に、殺、した子、で、作っ、た腕。召、喚、術、が欲し、くてね。もう、召、喚、術、も覚、えたし、腕も、腐っ、てき、たから、戻し、ただ、けよ」


上げていた袖を戻し、リリス召喚された桃色の髪の少女を見る。赤い大きなリボンを頭につけた桃色の髪の少女。


「さぁ、モモカ。空、間を、使え、る、モモカ、を、呼び、なさい」


リリスは呟き、手のひらを上へ向け中指を曲げる。すると【モモカ】と呼ばれる少女の瞼が開く。黒い瞳。


「....その本やリボン、瞳はパメラか?」


メガネの奥の瞳を細め、りょうが質問するとリリスは頷いた。レッドキャップに所属していた人間の少女【パメラ】を材料に作られた新たな人形のモモカはパメラの力を利用し、他のモモカ達を呼び出す役目。


パメラは図鑑の様な本を使い、対象を閉じ込めたり、本から取り出したりする事が出来た。リリスは普段召喚術に見せかけた空間魔法でモモカ達を召喚している様に見せていたが、空間を繋ぎ、モモカを空間へ誘い、移動後空間を閉じる。この作業を一体一体やっていた為、効率が非常に悪かった。しかし召喚術ならば詠唱し発動すれば後は勝手に進む。【イフリー大陸】の【デザリア】で行われた闘技大会でゴーレムを召喚した少女【ラミー】を素材に作った腕をリリスは縫い繋ぎ、召喚術のコツを掴んだ。まるでハンバーグを作る様にラミーをぐちゃぐちゃに潰し、ラミーの全てを使って作られた腕は腐敗が進んでいた。完全に腐る前に召喚術だけを吸収する事に成功したリリスは明日にはラミーの事さえ忘れているだろう。


「さて、どこへ、繋ぐ、の?」


リリスは本から現れた空間魔法を扱うモモカへ指先を向け、呟く。


「崖さえ越えられればいい、ここから───」


りょうは距離などの細かい情報をリリスへ伝え、リリスは指を動かす。モモカは何もない空間を引っ掻き引き裂く。すると虹色の入り口が現れた。


「パワーで空間の入り口を作るとは痺れるねぇ!」


ベルはそう言い残し、迷わず空間魔法へ身を投げる。続くようにスウィル、りょうが入り込み、リリスと本モモカ、最後に空間モモカが入る。すると入り口は綺麗に消え、崖を越えた場所に出口が現れる。力業で無理矢理繋ぐ空間魔法は出口と入り口が同時に開かない為、完全に移動手段でしか使えない。ダプネの様に攻撃を回避したり、多彩な使い方はできない。


「崖越えは成功したな。一気にいこう」


崖を越えた瞬間、スウィルはスイッチを入れたかの様に。

それに習い、りょうも武器を取り出す。


「ノーストップで行こうぜ、早く痺れてぇし」


ベルの言葉に全員無言で頷き、レッドキャップがフェリアへ。






勢いよく迫る気配は強制的に脳を切り替えさせる。


「....来るデスね」


マユキの声を合図に全員武器を構える。フェリアの門の奥に見える森がざわめきを止める。


「───おぉ!?マジか!」


森から飛び出る様に現れた6つの影は門前で停止し、ひとりが嬉しそうな声を出した。


「お前はそっち側かナナミ。───冒険者の皆様、セツカ様はお元気ですか?」


「ヒロは....いないんだな」


「こん、ばん、は、プン、プン」


犯罪ギルド レッドキャップの4名が眼の前に並ぶ。SSランクのモンスターとは違った威圧感───恐怖とも言える何かが漂い始める。


「リリスとスウィルがセットか....厄介だな」


ナナミはぼやく様に呟いた。元レッドキャップのナナミはメンバーの実力を冒険者より知っている。全てを知っているワケではないが、大体の戦闘力はもちろん、多少なりの能力も知っている。


───こっちは6、相手は4か。ペアで来ると思っていたが....!?


「そっち側は楽しいか?」


相手の数を2と予想していたナナミは効率よく対応する方法を考えていると、スウィルは恐ろしい速度でナナミの背後へ回り笑う様に呟く。


「くっ!」


闇色のカタナを振るもスウィルは回避し、この行動が開戦を告げる。


「待った無しで行こうぜ!」


ベルは緑の鱗で被われた鞘から太刀を抜き、猫人族のるーへ斬りかかる。接近から抜刀、そして攻撃までの速度が速く、るーは一瞬反応が遅れる。大剣を肩に担ぐ様に持っていた事とベルの剣撃が剣術なしの垂直斬りだった事で、ガードが間に合ったものの、るーは体勢を大きく崩した。

垂直に振られた太刀を返し、崩れた体勢のるーへ斬り上げの追撃を狙う。しかしベルは太刀を止め素早く下がった。


「くっそ、移動だけじゃなく、反応速度もチートかよ」


ベルが下がった理由は魔術。魔女ダプネはレッドキャップが到着した直後に詠唱し、ベルがるーへ接近した直後に魔術を発動させていたものの、ダプネの初撃は回避されて終わった。


「コイツらは俺がもらう!他は適当にやってくれ!」


ベルは叫び、るーとダプネをターゲットに選んだ。





ベルがるーダプネとの攻防の最中、ナナミはスウィルを追う。しかしそのナナミへ背後から仕掛けて来たのはりょう。


「ウィルより俺と遊ぼう、ナナミ」


「邪魔するな新人」


三本の刃を持つ大鎌を回避し、ナナミはスウィルの感知を諦め、りょうの相手をする事に。


「燕尾服の魔力を感知して、アイツを止めろ!」


りょうの相手をしつつ感知するのは不可能と踏んだナナミは叫んだ。


「あたしが引き受け───」


「おっと!行かせないよ。アンタも俺と遊ぼうよ」


「....欲張りデスねぇ」


スウィルを探そうと動くマユキへりょうが斬りかかり笑った。マユキとの会話中、ナナミはりょうの背後へ接近しカタナを振るも、まるで見えているかの様に回避される。


「ベル!お前少し離れろよ!」


りょうはベルへ声を飛ばし、大鎌をクルクル回し生意気な笑みを浮かべた。





「みんな、始め、た、わね。どう、する?、プン、プン」


フェリア前に現れてから一歩も動いていないリリスはプンプンを見て呟くも、プンプンは返事をせずリリスを睨む。

レッドキャップが現れてからプンプンも一歩も動かず、ただ黙ってリリスを捉えていた。


「半妖精、さん。ウィルは、中へ、入った、わよ?」


プンプンの隣にいたひぃたろへスウィルの場所を教えたリリス。リリスの狙いはプンプンと戦闘する事。そしてプンプンもそれを望んでいた。


「ひぃちゃん。スウィルって人をお願い。ボクはリリスを」


「それしかないわね」


プンプンを残し、ひぃたろはフェリアの中へ。


「フフフ、あの、時、から、どれ、くらい、成、長、したの、か、見て、あ、げるわ。プン、プン」



リリスは指を器用に動かし、本モモカにはページをめくらせ、空間モモカには剣を持たせプンプンへ挑ませた。





フェリア内へ入ったひぃたろは広場を目指し走った。辺りを見渡しつつ走っていたものの、広場に到着する前に足を止める。


「....出てきなさい」


「中々の感知力ですね.....と言いたい所だが、勘か?」


ひぃたろの声にスウィルは姿を表した。


「素直ね?隠れて純妖精を探せばよかったものを」


「そうだな、でも純妖精の気配も魔力も感じないからな。どこに隠したか聞いた方が早いと思ったのと....ッ!いきなりかよ!」


スウィルの声に耳を向けずひぃたろは先制する。ひぃたろの芸術的、幻想的な剣をスウィルの銀色の剣が受け止める。


「悪いけど話している暇はない。すぐに終わらせてプンちゃんの所へ戻らせてもらうわ」







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