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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【妖精の唄】
145/759

◇144



妖精の都 フェリアに到着した妖精女王と魅狐は倒れる人々の多さに鋭く息を吸った。しかし半妖精だけは2つの瞳孔で女帝ニンフを捉えていた。


───あのモンスターが、私達の母親....共喰いした者の末路か。


ひぃたろは鼻腔が記憶している純妖精エルフの匂い、喉の奥が記憶している鉄臭さを思い出す。自分の中で何かが沸騰し、分解され、新たなモノが生まれた様なあの感覚、突然足場が消え奈落まで堕ちる冷たい不安感と言葉に出来ない安心感。そして、無くなる感覚を思い出し、自分の行動に後悔ではなく、嫌気が刺す。


───何の為に力を求めて、何の為に自分を削って、何の為に今立っている?


ひぃたろは自分自身に対しても、眼の前に立つ女帝に対しても、言葉にせず問い掛ける。そんな問に答えもなく、ひぃたろはフォンを操作し剣を取り出した。大妖精を素材に生産され、洗練と強化でその存在感を更に大きなものとした【エタニティ ライト+8】。+8で止めているのは素材不足やお金不足ではなく、最大強化の+Eまでしてしまうと、その剣はもう洗練、次のステップへ進化できなくなってしまう。【エタニティ ライト】の先がまだある事は鍛冶屋ビビの派生先を見るディアで知っていた為、+8止めで一旦手を止めていた。

芸術的な装飾を施された剣を抜くと、澄んだ音色が響き、芸術的で幻想的な彫刻で仕上げられた薄黄色のクリスタルの刀身が露になる。ひぃたろは瞼を一度閉じ、開くと同時にS2ランクのモンスター【森の女帝 ニンフ】へ斬りかかる。


ガラスが砕ける様な音と、風圧、キラキラ輝く破片を残しひぃたろは一瞬で攻撃範囲内、女帝の懐へ到着する。無色光を纏った薄黄色の刃が素早く線を描く。五連撃迅系剣術 ソニック シュティルツで先制攻撃を打ち込んだ。


「さくたろは麻痺のリカバリ!プンちゃんは───」


「ボクは追撃だね!」


ひぃたろが攻撃を仕掛けた時、魅狐プンプンは背中の長刀を抜き、ひぃたろの剣術終了を合図に突撃。単発暦剣術 無月に重撃を乗せて放った。

女帝は無防備状態でひぃたろの剣術を受けた上にプンプンの重撃を乗せた剣術を受け、ノックバック。強制的に女帝は殺戮系のスイッチが入ったかの様に咆哮を轟かせる。


鼓膜を突き破る様な咆哮がひぃたろとプンプンの全身を叩く。吹き飛ばされる事もある大型系モンスターや高難度モンスターが持つバインドボイス。耐える2人だが、物理攻撃でも魔法攻撃でもない、音の攻撃は余韻を残す、つまり咆哮モーションが終了した後も、咆哮を浴びた者は短くても2秒間、咆哮の余韻に痺れる。女帝はこの2秒を見送る事なくプンプンをターゲットに、エアリアルを破裂させ突進に近い接近行動を。棘の様に伸びた爪をプンプンへ向ける。しかしプンプンに焦りの表情はない。

空気が焼ける、ではなく、空気が焦げる。そんな熱と臭いが女帝の鼻へ届く。

高速で突進していた女帝は突然自分の動き、世界がスローになる感覚に襲われた。自分の動きに合わせて先の─── 数秒後自分が通るであろうラインに熱を帯びた剣が待ち構える。

女帝の移動速度と剣を振る攻撃速度、そして女帝の動きを先読み出来る眼を持つ者だからこそ、成功する攻撃。


「───った!」


短い気合いと共に熱を帯びた剣が振りおろされた。確かな手応えが黒鉄色の腕から全身へ伝わる。熱が皮膚を焼き、爆破が内部の細胞を破壊し、斬撃か肉を斬り焦がす。

耳障りな声で鳴く女帝。熱と痛みと衝撃が女帝の世界の速度を通常にする。女帝ニンフは初めて自分の命の危機を、漠然と感じた瞬間だった。


白黒の装備に黒鉄色の両腕。赤銀色の長剣を持つ女性。撃ち落とされた鳥の様に落ちた女帝へ冷たい視線を飛ばす。


「ワタシ専用の 高性能冒険者用義手アーティフィシャルアーム....固有名は【 対女帝用戦闘義手エンプレスキラー 】この腕は全ての女帝種の攻撃を半減させるから、麻痺の効果もイマイチだよ」


まるでターゲットを捉えるスコープの様な───三重の円が描かれた瞳で女帝を睨む人間のワタポ。女帝ニンフから見れば今この場で一番危険な生き物がこの人間種。女帝を前にした純妖精はまず、その存在に恐れる。この時点で女帝ば有利に動く事が出来る。しかしそれはこの森だけの話。森の外は広く、女帝ニンフよりも遥かに強い女帝種や他の種も存在している。

たった1つの油断で女帝ニンフは封印されたが、森の外ならばその油断で命を落としていただろう。


そう───森の女帝ニンフは女帝種の中で一番弱く、未完成の女帝。


未完成の証拠とも言える点が、森の女帝ニンフは自分だけのユニークをまだ持っていない。ワタポが過去に遭遇した【氷結の女帝】はまさに完成形の女帝。空気中の水分を凍らせ、氷の花を咲かせ触れた者の水分を瞬時に凍らせるユニークを持っていた。しかし森の女帝ニンフはそういったユニークを持っていない。

そしてもう1つの未完成部分が───心。

自分の子供である半妖精の姿を見た時、心が揺れ、軋む痛みにフリーズした。これは完全な女帝にまで墜ちていない証拠。女帝種は家族や恋人、友人さえも顔色を変えずに殺す。女帝ニンフの心には親としての、純妖精としての心がまだ残っている。


「本当に女帝種には爆破が有効なんだね....自分の眼で確認出来てよかった」


普段のワタポは落ち着いていて、自分の意見よりもみんなの意見を重視する性格で、どこか丸い雰囲気。しかし今この場でワタポにその雰囲気はない。女帝へ真っ直ぐと向けられた冷たい殺意ねつが人間の枠からワタポを弾く。

瞳の円が濃く浮かび、女帝を完全に捉える。ズキズキと眼球の奥が痛むも気にする様子はない。綺麗な青の瞳は濃く深い青、黒に近い青色へと変わり、瞳の円は白くハッキリとしたものに。女帝はこの視線に危険を感じ、エアリアルを広げ飛ぶ。


「近くで見ると綺麗な翅だね」


女帝は今自分が出来る最高速度でエアリアルを広げ、地面を舐める様な低空飛行で移動した。翅を広げ飛ぶまでに1秒もかかっていない。しかしワタポはその動きの先まで見据え、女帝の背後へ回り込む恐ろしい反応速度と移動速度を見せた。





「あべべべ、まだベロがビリビリするぜ」


わたしは麻痺状態から解放され、一発目にそう嘆いた。妖精の女王様は真っ先にこのわたし、超天才魔女エミリオを麻痺から解放した。他のヤツよりもわたしを優先したキミの判断は正しい、自信を持って!と心で喋っていると全身の麻痺は消え、少し痺れを残すベロに違和感を感じ、ついつい嘆いてしまった。

ベルトポーチから麻痺ポーションの小瓶を取り出し、飲む。解毒ポーションの次くらいに不味い麻痺ポーション....出来る事なら飲みたくないが、今はグズグズ鼻を鳴らしていられない。ベロが麻痺するという事は詠唱のファンブル率が大幅に上がるという事。これは魔術主体で暴れるわたしには死活問題だ....死活問題という言葉の意味は知らないが、とにかくベロ麻痺はヤバイ。何がヤバイかというと....



「エミリオ!あの義手女」

「わかってる!」


麻痺から解放されたダプネはすぐにわたしへ叫ぶ。言葉の続きを遮る様に返事を飛ばし、わたしはハロルドとプーの元へ急ぐ。


「ハロプー!」


「エミリオ」

「エミちゃん!」


「麻痺ってる人達はアイツに任せて、わたし達は───ワタポを止める。手を貸して」


「....!?」

「えっ!?」


「説明は後、とにかく気絶でもさせて戦闘から弾く!いくぞ!」


説明してる時間は無くはない。でもグズグズしてる時間は無いっちゃ無い。わたしは真っ直ぐワタポの元へ走り、2人へ指示を出す。


「あのクソビッチは任せた、ワタポは任された!」


「わかった」


驚いた事に、最初に返事を返したのがハロルドだった。普段ならプーが先に返事をし、プーに付き合う形でハロルドが行動するが....そんな事今はどうでもいいか。とにかく早く。


「ダプネ!適当に空間よろ!」


ここは時間をかけず一気に済ませる。走りつつ下級魔術のファイアボールを二重詠唱し、放つ。自分でも驚いた事に火球が20個も魔方陣から発射された。

魔女力の補正か、わたしの才能か....ファイアボールの詠唱が普段よりも格段に速く、体力的にも影響はなく1発の魔術で10の火球が放たれる。

女帝の背に乗るワタポへ火球が飛ぶ。魔術を感知した女帝はワタポを振り払い逃げ、ワタポは着地と同時に地面を蹴り女帝を追う。


───ここだ!


わたしの予想通り、ダプネはワタポが前進するルートに空間魔法を展開を狙う。空間魔法は展開を狙った位置が一瞬歪み、虹色の入り口が現れる。この一瞬の歪みをワタポは見切りバックステップを入れた。便利な眼だ。一瞬、まばたきも許されない一瞬の歪みさえ見切る事が出来る眼....でも、感知術ではない。


ダプネは魔女。ディアについてはどの種族よりも詳しい種族。ワタポの行動と瞳の模様から感知系ではなく、眼で見切るタイプと判断するのは容易い。もちろんその細かい見切り内容までは判断できないが、眼で見るタイプ、とだけ理解できれば方法はいくらでもある。ダプネは空間魔法を歪みの段階で破棄していた。破棄された空間魔法は歪めた空間を戻す、つまり入り口は開かない。先読み出来る眼は便利だがその先読みを逆手にとれば、判断ミスを誘発できる。

そして───その眼で見えない位置での変化には気付けない。バックステップした背後に空間魔法が展開される。背中から空間へ飛び込む形でワタポは飲み込まれ消える。



「ナイス....。女帝は任せた!」


わたしはハロルド達へ視線を送り、そう言い残しフェリアから消えた。




数が、多すぎる。


さくたろは麻痺状態に陥っている冒険者達の数に焦りを感じた。さくたろは普段から治癒術師ヒーラーとして純妖精達のケガを見ていた訳でもなく、城でじっとしている様な女王。突然戦場で、それも高難度モンスターを前に治癒術をしなければならない状況にただただ、焦りが濃くなる。

女帝のターゲットを引いてくれているからとはいえ、麻痺解放が長引けばそれだけ女帝側メンバーの負担が大きくなる。そして今、2名がこのフェリアから消えた。現在女帝の相手をしている者は3名。

半妖精であり、さくたろの双子の姉でもある冒険者のひぃたろ、魅狐で冒険者のプンプン、そして魔女ダプネ。3名でSS-S2モンスターの相手をするなど自殺する様なレベル。


───早く、早く麻痺を。


焦りに焦りが上乗せされ、どの人物を優先すべきなのかも回らない。本来この様な状況に陥った場合は迷わずヒーラーを優先しデバフを解除、その次はタンカー。それが最も効率がよく、窮地からの生存率も大幅に上昇する。


「さくたろ!唄!」


ひぃたろは2つの瞳を器用に使い、女帝とさくたろを見て叫んだ。耳が全ての音を無視し、ひぃたろの声だけを拾う。


「唄....っ、あれは....」


さくたろはひぃたろが言う “唄” の意味を理解するも、唇を噛み迷う。ひぃたろへ向けていた視線をそらす様に下へ向けると、麻痺で苦しむ人々が眼に。


「....、時間を稼いでください!」



さくたろの決意と覚悟が響いた。





「プンちゃん、全力で攻めるわよ」


「おっけー、ボクの得意分野だね」


ひぃたろとプンプンはさくたろの声を聞き、時間を稼ぐ、ではなく討伐する勢いで攻める事を決めた。


「全く、あの帽子女も無茶苦茶だが知り合いのお前らも無茶苦茶だな。友人の友人だ。サポートくらいならする」


ダプネは呆れつつもサポートする事を2人へ告げると、2人はお礼代わりに頷き、半妖精のひぃたろは以前よりも色がハッキリとした翅───エアリアルを広げ、プンプンは九本の尻尾を扇状に広げ、森の女帝ニンフへ特攻する。女帝は魔術で迫る2人を迎撃すべく、魔法陣を展開。


「魔術はわたしが潰す!」


魔女ダプネは女帝ニンフの魔法陣から魔術が放たれる前に、魔法陣へ魔術を撃ち込みブラストする事に成功。魔術に詳しい魔女だからこそ出来る技を披露すると、そのお礼と言わんばかりに2人も動きを見せる。


ひぃたろはエアリアルを破裂させる様に砕き、女帝までの距離を一気に駆け抜けた。飛んでいた速度に翅破裂の速度を乗せた突進技。単発重剣術で女帝を攻撃、女帝は翅を盾にし剣術をやり過ごそうとするも、単発重剣術は半端な防御を崩す。剣術を発動した後もひぃたろは止まらず数メートル進み停止。ひぃたろが停止した直後に粉々になっていたエアリアルの鋭利な破片が女帝のがら空きな胸へ突き刺さる。


予想外な攻撃に女帝は一瞬怯みを見せた。この一瞬を魅狐プンプンは逃さない。全身を包む薄金混じりの雷を長刀に集め、連撃系剣術を全てヒットさせた。最後の連撃を入れる瞬間に九本の尻尾で地面を叩き距離を充分にとり、ディレイで硬直する。尻尾を動かすタイミングが早ければ剣術が途中でファンブルし、遅ければ尻尾は動かずディレイタイムが始まる。ディレイキャンセルを使い剣術を繋げる方が簡単だが、剣術に剣術を繋げる、つまり攻撃は終わらない。危険な相手を前に連続で剣術を入れるのはリスクが高くなる為プンプンは自らの尻尾を器用に使い、ひぃたろ同様にディレイタイムを安全圏で受け入れる事を選んだ。


「はっ....無茶苦茶だな」


ダプネは2人の行動、攻撃やその後のディレイも計算した行動に呆れではなく、驚きの色の声を溢す。しかしその驚きは別の驚きに塗りつぶされる。


「ア...ゥァ、シ....ナイ」


「「「───!?」」」


傷を、攻撃された部分を抱くようにし涙を流している女帝ニンフ。もがきや悲鳴ではなく、言葉に違い声を出した。


「ねぇ、今 死にたくない って.....」


一番近くにいたプンプンは女帝のぼやく様な声を拾っていた。女帝ニンフは涙を流し「死にたくない」と溢し、傷ついた身体を抱くように震える。

女帝は元々その種族の者。森の女帝ニンフの場合は元々純妖精で共喰いの結果、今の姿になった───ひぃたろ、さくたろの母親。


「無事、ですか!?」


停止沈黙する戦場に響いた声はウンディーの女王セツカのモノだった。麻痺状態から解放された冒険者達は残る麻痺の余韻に苦しみつつも、行動出来るまで回復していた。しかし戦闘に参加する事が出来そうな冒険者は僅か数名。


「よし、もう少し時間を稼ぐぞ!そうすりゃフルアタックで女帝をやれる!」


ダプネの発言は正しかった。今の女帝ニンフは不安定で、時間を稼ぐのも簡単。レイドの半数が戦闘に参加できる状態まで回復すれば女帝ニンフを討伐する事は充分に可能。しかし、


「....ふざけないで!」


ひぃたろはダプネではなく、女帝ニンフへ叫ぶ。


「あなたの....お前の勝手が私を、お前の半端な身勝手のせいで私まで半端な存在として産まれて、邪魔だから捨てて.....散々純妖精を喰って、自分は死にたくない!?女帝化したなら最後までモンスターになりなさい!全部半端で、全部未完成で....ふざけないで!......私が、私がお前を殺してやる!」


ひぃたろは叫び女帝へ向かった。女帝は涙を流し怯えるも、身体は勝手に反応する。女帝の右腕が捻れ、ランスの様に鋭利な状態に変化した。


「ダメだ!ダプネ!」


プンプンが叫んだ時には既にダプネは空間魔法を発動させていた。直進するひぃたろの前に空間を作り、プンプンの横へ移動させる事に成功。

このまま直進していれば間違いなく、ひぃたろは串刺しにされていただろう。


「落ち着いてひぃちゃん!」


「邪魔しないで!」


「おわ、暴れるなっての!」


ずっと、長年溜め込んでいたモノ。母への怒りにも似た感情と、純妖精への嫉妬にも似た感情が混ざり、ひぃたろから冷静さを奪った。

プンプンとダプネは必死にひぃたろを止めようとするも、駄々をこねる子供の様に周りが見えない状態までに。


「.....」


ジッとひぃたろを見詰めていた女帝が動く。唇を小さく動かし何かを呟き一度小さく笑う。しかしすぐに笑顔が消え、唇を再び動かし、鋭利な右腕を自身の胸へ突き刺した。

意味不明、理解不能な行動にこの場にいた全員な眼を丸くした。沈黙する事3秒、感知能力が皆無な者も感知してしまう程の巨大なマナが女帝から溢れる。身体の中心に集まる魔力、全身から溢れるマナ。この状態になる現象をダプネ知っていた。

全ての属性魔術に自爆系超広範囲魔術が存在する。不思議な事にこの魔術は突然、自分の記憶に刻まれるため、覚えようとしても不可能で、覚えない様にしていても不可能な運命の神のイタズラにも思える魔術。高確率で上級魔術を扱う存在は持っている自爆魔法。詠唱後、自分で自分の命を絶つ事で発動し、全身からマナが溢れ出し、消えた瞬間に何倍にも膨れ上がった魔力が爆発する最悪な範囲魔術。


───範囲はこの街と同じくらいか!?属性は風、女帝ごと飛ばしすか!?って言ってもどこに飛ばせば....


空間魔法で女帝をどこかへ飛ばす事を考えるも、フェリア程の範囲の爆発を許せる場所などない。上空に飛ばす事も考えたが、爆発するタイミングがわからない。とにかくダプネは全員へ伝える事を選んだ。伝えればパニックになるかも知れないが、伝えず放置するの選択はダプネの中に存在しなかった。


「あれは風魔術の自爆だ!たぶんこの街全体を巻き込むくらいの大爆発を起こす!」


「は!?自爆ってわたし死にたくねーよ!?一生養ってもらって生きていく夢が爆発するとか....ちくしょー!貯金全部使えばよかった」


天使のみよは即座に反応した。その声に続く様に冒険者達の声が。


「自爆やと!?ま、俺様もモンスターの立場やったら自爆選ぶわ!ガハハハハハ!」


「うっわ、お前さん最低じゃのぉ!でも気持ちはわからんでもないのじゃ!」


最悪の状況で笑うアスランとキューレ。


「自爆....ねぇ。私は悪魔だから翼を使えば1人で逃げる事も出来るけど、逃げた後に行く宛なんてないし、ここに残る」


「へぇ。やっぱりその眼、悪魔さんなんデスね。何の悪魔デス?」


「....あなた誰?」


緊張感のない会話を繰り広げる後天性悪魔と後天性吸血鬼。


「自爆あぶねい!と思ったけど、こういう事と隣り合わせな職業が冒険者なんだし仕方ないかなぁ、ってちょっとダケ思っちゃった」


キノコ帽子をパフパフと叩き、マイペースに呟いたのは迷いの森で料理を振る舞った冒険者の しし。


「んにゃ....こんにゃ事にぃにゃるニャらタピオカってにょ、食べとキャよかったニャ」


「にゃにそれ?酒?」


「さぁニャ?酒ではないにゃろ?知らニャいけど」


猫人族も同じペースで自由に話す。

この状況にダプネは驚きを隠さない。


───自分の命が終わるかも知れない、終わる確率が恐ろしく高い状況で笑って話す....正気じゃない。


「これが、エミちゃんが魔女である事を隠してまでやりたかった冒険者って職業なんだよ。あ、ひぃちゃん落ち着いた?」


プンプンも簡単に今の状況を受け入れ、女帝爆弾よりもひぃたろの心配をする余裕まで見せる。


「簡単に受け入れて、笑って話すのはいいけど、わたしは付き合わないぞ!?まだ死ねないし1人でも逃げる。文句言われても知った事じゃない」


「うん、逃げれるならそれがいいとボクは思うよ。ダプネにはダプネのやる事がまだあるでしょ?無理にボク達に付き合う事ないよ」


───....冒険者ってバカなのか?この状況でどうにか出来る手段を持っているとは思えない、かと言って逃げる手段もないだろう。死がすぐ後ろへ迫っている状況で、普通笑うか?1人で逃げると言う相手にそれがいいと言うか?


ダプネは冒険者という職業を理解できないと心から思う。と同時にどこか羨ましい気持ちも沸き上がった。魔女の世界はルールが濃く強い。上からの命令に下はただ頷くだけ、理由や説明を求めるな、命令された事だけをバカみたいにこなせ。そんなルールが色濃く残る魔女界。ダプネはエミリオが冒険者に憧れ、冒険者になった理由も少し見えた気がした。

しかし、そんな事今はどうだっていい。とにかく自分だけでも逃げる。そう考え、ダプネは空間魔法を使おうとした時、遠くの空から声が降り注ぐ。

女帝を気にしつつ空を見上げるとそこには色とりどりの光を放つ純妖精達の翅。そして女王を心配する声。

夜空を舞う妖精は幻想的で、冒険者だけではなく、ダプネもマユキもみよも言葉を失う程の美しさ。純妖精達がフェリアへ向かい降下してくる最中、広場に空間魔法が展開されニンフの森に居た星霊達やドライアド達も現れる。


「突然恐ろしい濃度の魔力を感じ、急いで駆け付けたが....あれが原因か?」


銀髪の女性、乙女座は現れるやすぐに女帝を睨む。

溢れ出るマナ、膨張する魔力はニンフの森.....迷いの森まで届いているだろう。そこまでダプネが考え、そして規模がハッキリと見える。


「....ヤバイ、ニンフ、迷いの森まで魔力が届いているって事は....その範囲まで爆発する!」


魔力が届く範囲が爆発の範囲になる自爆魔法。街だけではなく迷いの森の半分ほどまで消し飛ばす規模の範囲と絶望的なまでの威力を持つ女帝の自爆魔法。そしてその魔法がいつ炸裂するのか判断出来ない。


「どうして、」


疲労で起き上がるのがやっとな妖精女王さくたろは必死に声を出す。


「どうして、来たのですか!今からでも森の外まで、逃げて....ください」


音楽魔法に似た唄魔法でレイドメンバーの麻痺を中和したさくたろは恐ろしい疲労に襲われていた。しかし、魔術の疲労にしては大袈裟すぎるとダプネは疑問を抱く。


「我々もドライアド達や純妖精達も魔力を感じ、黙っている事は出来なかった。しかしこの状況は一体....モンスター討伐は済んだ、という事で問題ないか?」


現れた星霊組や妖精組は今の状況、冒険者達は戦闘体勢ではなく、ターゲットの女帝自分の胸を貫いた状態で停止しマナを溢れさせている状況に戸惑うばかり。

ウンディー大陸の女王セツカが一通りの説明を素早く済ませると、金ドライアドが瞳を見開き妖精女王の元へ。


「女王!唄を使ったのですか!?」


「それしか、選択肢が無かったので」


息を切らし答えるさくたろの姿は魔術使用による疲労ではない。と冒険者達も思い始める中、天使みよが魔銃を取り出し弾を込める。


「ん?お前それで何するつもりだ!?」


ダプネはみよの行動に説明を求めると、みよは魔銃をクルクルと回し答える。


「コイツでアイツを撃ち抜くしかないでしょ?そうすりゃ助かりそうじゃね?」


「お前、話聞いてなかったのか!?あれはもう爆弾だ!撃っても斬っても爆発する!」


「はぁ!?聞いてねーよ!あぶね、早く言えよソレ!」


女帝クラスのモンスターはマナが多い為、全てを放出するまでに時間の余裕がある。しかし女帝は魔力も多い為、爆発時の範囲と破壊力は想像を遥かに越える。今から急ぎ逃げても迷いの森にさえ到着できない。魔女と星霊が空間魔法を繋ぎ逃げる事も、魔女ダプネの体力的にも、星霊の魔力残量的にも全員逃げるのは不可能。魔力が無駄に多いエミリオでもこの場に居ればマナリチャージで星霊やダプネに魔力を分け与える事も可能だが、そのエミリオが居ない。


「....星霊界に使われてない広い場所....なかったっけ?ポルクが前に行こうとして叱られてた場所」


「んー?....あっ!あるある!あるよ!カトル!」


双子座は冒険者の数名同様に緊張感のない声色で言うと、乙女座が詳しい話を聞く。


「あのねあのね、前にカトルと暇で行こうとした場所が、もう誰も住んでない街なんだって!ね?カトル」


「....うん。大昔の星霊街って大人達が言ってたよね?ポルク」


双子座の答えに黙る星座達だったが、水瓶座が双子座の言う場所を思い出す。


「確かに誰も住んでいない街がありますね。立ち入り禁止で、トーラスとカプリの班が警備している廃霊街」


トーラスは牡牛座、カプリは山羊座。この2人の班が管理警備している廃霊街はレーヴァが星霊王を勤めていた時代の星霊街。今の星霊街が完成し、全員が移住した後に破壊する計画で話が進み、今街は立ち入り禁止。街の外には星霊騎士が数十名警備した状態で、毎日数回、騎士達が街を巡回し立ち入った者がいない事を確認している。


「廃霊街....確かにあそこならば場所も悪くない。周囲に何もなく大爆発が起こっても星霊達を巻き込む心配もない!しかし....」


乙女座は言葉を切り表情を濁すも、続きをクチにする。


「外部から星霊界へ、星霊以外の者が入るには猫人族の里にある空間を通らなければ不可能だ。あの女帝とやらもその対象になる」


つまり、女帝を廃霊街へ運ぶには一度、猫人族の里を通過しなければならない。猫人族の里で爆発すれば、あの島は地図から消える。今から避難命令を出しても全猫人族を一度に乗せる船はない。話を聞いた猫人族の3名は素早くフォンを取り出し、連絡を始めた。連絡は数十秒で終わり、猫人族は同時にクチを開く。


「爆弾運び、okにゃってニャ!」

「あにょ、ひっく、ニャんだっけ忘れた」

「俺達は問題にゃいニャ」


同時にクチを開いたにも関わらず、全員別々の言葉を言い放ち、誰も聞き取る事が出来なかった。しかし猫人族のゆりぽよは親指を立て言った事で、大体の内容は把握できる。


「もう脳筋と酔猫は黙れニャ!私が話すニャ!爆弾運びはokニャ、問題はアレを誰がどう運ぶかニャ」


両眼を閉じ停止している女帝ニンフ。こう見れば肌の色以外は純妖精と変わらない姿に見えるが、SSランクのモンスターで、今は最悪な規模と威力を持つ爆弾。大きさ的に運ぶのは容易いが衝撃を与えすぎると爆発してしまう恐れと、運んでいる途中に爆発する恐れがある。


「私が、運びます。これは妖精側の問題....冒険者様方にはお願い出来ません。申し訳、ありませんが、星霊様のどなたか....道案内だけでも、お願いします」


よろよろと立ち上がり言ったのは妖精女王のさくたろ。とても女帝を運べるとは思えないが、冒険者の情報屋キューレはさくたろの言葉を聞き女帝へ近付いた。


「ウチは誰がやっても構わんがのぉ....妖精側の問題と言われればウチらはクチ出しできんが、手を貸す事なら出来るのじゃ」


キューレはスラスラと進み、女帝ニンフの肩をタッチした。すると女帝ニンフのサイズが1センチまで縮む。キューレの持つディアが女帝のサイズを小さくし、非力な者でも運ぶ事が可能に。


「....俺様も力を貸そうかい?女王様よ」


アロハシャツの男、アスランはそう呟き妖精女王へ近付くとドライアドと純妖精達が警戒する。


「おいおいおい、待てや!俺様が怪しい者に見えるんか!?」


派手なアロハシャツにビーチサンダル、そしてその口調となれば怪しく見えない方がおかしい。他の冒険者達は笑いつつも、大丈夫と言い妖精達は警戒を弱める。


「力を貸すゆーてもな、マナの排出が早くなるか、遅くなるかのギャンブルや。どうする?女王様よ」


「.....お願いします」


「よっしゃ!」


返事を聞いたアスランは短剣を取り出す。すると縦に並んだカードが現れクルクルと回る。


「この短剣で、いらん方1枚を選んで、刺しでもええし斬りでもええからバッサリやってくれ。アタリはマナ排出速度低下、ハズレはマナ排出速度上昇って所やな」


これこそがアスランの持つディア。ギャンブル的な能力でアタリの効果をアスランが決め、その効果の逆がハズレに設定される。アタリの効果が大きければ大きい程、ハズレカードの枚数が増える。今アスランが指定したアタリ効果は “女帝のマナ排出速度低下” この程度ならばハズレは1枚で済み、効果は逆の速度上昇になる。爆発を不発 などの効果にしていればハズレは即爆発でハズレカードの枚数も恐ろしく多くなっていただろう。カードを斬るまでアタリかハズレかはアスランにもわからない、ギャンブル系ディア。


さくたろは数秒迷った後に短剣を振り、1枚のカードを斬った。斬られたカードはヒラヒラと揺れ落ち消え、残ったカードが反転する。

カードには悪趣味な白スーツを着たアスランが親指を立てて描かれていた。どこからどう見てもハズレにしか思えないが、


「お!アタリや!」


カードから白スーツのアスランが具現化し、小さくなった女帝へ吐息を吹きかける。するとバフ魔術に似た光が女帝へ溶け込むと本当にマナ排出速度が低下した。


「え....」

「キモ....」

「センス....」

「ウザ....」

「悪夢ニャ...」

「きったねー....」

「デスね....」


セツカ、ナナミ、キューレ、ダプネ、ゆりぽよ、みよ、マユキはアタリカードにヘイトを感じるも、アタリはアタリ。どんな演出だろうと効果は変わらない。


「悪口やろ!?それ俺様への悪口やろ!?やめろや!悪口反対!おっさんイジメ反対!」


アスランを慰める冒険者を横眼に乙女座がさくたろへ言う。


「我々全員が案内する。猫人族の里までは猫人族達も同行を頼み、他の者はここに残ってもらおう。我々の空間魔法は魔女と違い、込めた魔力量に関わらず人数制限も存在する」


「ゆりぽよ」

「指名だニャ」


「私ニャにょ!?」


十二星座と猫人族のゆりぽよ、純妖精のさくたろが女帝を廃霊街まで運ぶ事に。キューレは衝撃吸収素材で作られた空き瓶を取り出し女帝ニンフを入れ、さくたろへ渡す。


「衝撃には強い素材じゃが、んーと、矢などで撃てば簡単に貫通するのじゃ。気を付けて持っていけ」


「ありがとう、ございます」


疲労を必死に隠し微笑んださくたろは十二星座が作り出した空間へ進み、溶け込んで消えた。



「ひぃちゃん、よかったの?」


「......」





「ダプネめ....ワケわからん場所に飛ばしてくれたな」


「.....」


ダプネの空間魔法で強制移動したワタポと、後を追ったわたしは謎の場所に到着していた。森ではない。木や草の匂いはなく、海の匂いも無いが、なんだろう....空気が透き通っていると言えばいいのか....鼻を通る空気が少し冷たい。


「動くなよ、今マップ確認するから」


わたしはワタポへそう言い放ち、フォンのマップで現在の位置を確認する。ウンディー大陸で間違いないが、街や森がある大陸ではなく、孤島。


「....氷島ウィカルム」


「お?ここ知ってんの?」


「今はウンディーに所有権がある島。昔はノムーの島だった孤島。こんな所に飛ばして何が目的なの?」


どうやらワタポが知っている島らしい。それなら、どうにかなるか。


「お前ワタポだけど中のワタポだろ?」


「.....」


「黙っても無駄って自分でもわかってんしょ?中にいたならわたしが魔女って事も知ってるだろうし」


「うん。正解」


最悪だ。正直一番最初にこうなるのはプーだと思っていたけど、まさかワタポが最初に....ディアに半分以上呑まれるとは思わなかった。


「でもね、魔女さん。もう遅いよ?」


「うるせーよ。まだ70パー前後だろ?ディアの事を魔女相手に誤魔化せると思うなよ」


ディアに完全に呑まれれば助ける事は魔女でも不可能。その場合は排除....つまり殺さなければならない。そしてこの現象はディアを持ち、ディアを使っている者ならば必ず起こる事。ここで100パーセント呑まれるか、無理矢理戻ってくるか、今のワタポをワタポが打ち消す事。3択だ。


このまま呑まれれば排除。

無理矢理戻ってくれば今は大丈夫だが次こうなった時がヤバイ。理想的なのはワタポがディアワタポを黙らせ消す事。そうすれば呑まれる事に対しての心配は二度となくなる。

こんな事になると言う事は既に “会話” は済ませているハズだ。


なら、わたしがやる事はひとつ。


「今からお前をボッコボコにする。痛いの嫌なら黙って下がれよ」


「昔ワタシの両腕奪っておいて、今さら警告する?」


「お前のじゃねーよ、奪ったのはワタポの腕だよ」


これ以上会話しても時間の無駄だ。わたしは剣を取り出し会話中にも関わらず攻める。しかし。


「遅すぎるよ?えっと、エミちゃ?」


「チッ!黙れよ!」


わたしの剣撃は簡単に回避される。ワタポのディアは対象の1.5秒先の動きを見る能力。わたしの攻撃速度《ASPD》では簡単に見切られるか....。


「遅い遅い、反撃しちゃうよ?」


赤銀の剣を構えたワタポに対し、わたしは防御姿勢へ。剣から感じる熱は弱い....初撃で爆破はない。剣を受け止めると同時に押し弾くパリィ作戦で挑む。


「....少しは剣使える様になってるね」


ワタポの声が聞こえた瞬間、わたしの腹部に痛みが走った。


「いっ....ぁ」


酸素が強制的に吐き出される。剣ばかりに集中していたわたしは他の動きを見ていなかった。がら空きの右腹部に堅い義手の打撃がクリティカルでヒットする。メキメキと軋む音が頭の中で響き、嫌な音が数回聞こえた。


「敵がいるんだよ?前見なきゃ」


崩れた姿勢、痛みで鈍る身体とどんな攻撃を受けたのか確認してしまっている眼。ワタポの声でわたしが前を見た時、赤銀の剣は無色光を放ち振り下ろされ、左肩から斜めにわたしの胸を斬り裂いた。






「エミちゃ!」


白黒の空間に浮かぶ身体。眼の前には何もないのに、映像がワタシの頭の中に流れる。

ワタシが....エミちゃを斬った。


「くっ!ここは何処なの!?」


出口もなければ窓も、いや、何もない白黒の空間。どうしてここに居るのかもわからない。ここが何処なのかも。


ひぃちゃとプンちゃは!?女帝は!?


「みんな....何処にいるの....」



自分の声だけが何度も虚しく響く、白黒の世界。





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