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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【妖精の唄】
142/759

◇141




ウザったい眼だ。

1つの眼球に2つ瞳孔、左右で4つ。わたしの記憶だとあのキモイ眼は相当優秀な眼。簡単に言えば、4人分の視界を1人で見れる感覚。上、下、左、右を同時に1人見る事が出来る眼。魔女にも1人、あの眼を持って産まれたヤツがいるから、厄介さは知っている。

4人、5人で攻めても、あの眼は視界が大幅に広がる眼....何人しか見つける事ができない、でなく、普通の眼と同じく、視界に入るモノならば全部見れる眼だ。左右から3.3で攻めても瞳2つで簡単に見抜かれる。死角は真後ろしかないが....靄がその死角を上手く潰しているのがまた厄介だ。


「....星座で動けるヤツは何人いる?」


ハロルドから眼を離さず、わたしは十二星座達へ言う。するとハロルドはクスっと笑い、


「こんなチビに十二星座、なんて簡単に呼ばれてる時点でお前らは終わりだ」


「誰だか知らねーけど、黙ってろよお前」


わたしは挑発する様な言い方で、声の主へ噛み付く。普段ならこんなヤバそうなヤツはスルーだ。しかし今はターゲットをわたしに向けておく必要がある。


「なめるな青髪の女。私達は全員動ける」


銀色のポニーテールをフラフラと揺らし、乙女座が強がりの様に言った。ダメージは結構残ってる感じはするが....本人達が動けると言うのなら、動けるのだろう。


「おっけー」


さて....わたしにやれるか?

靄を纏うハロルドのタゲをとりつつ、十二星座全員に闇魔術のデバフをかけて、頭の中に直接話しかける事が....。相当疲れるだろうけど、やるしかない。

わたしは微かに唇を動かし詠唱しつつ、ハロルドへ攻撃する。


ダメージも重さも必要ない。今必要なのは手数だ。

ディレイキャンセル系スキルを使えないわたしは今出来る最速のスピードで剣を振る。


「ハッ!剣術なしとはナメられてるのか?それとも剣術を使えないのか?」


剣術を誘発する発言にも耳を向けず、わたしは早クチで十二星座へ語りかける。


───聞こえる?聞こえるなら誰かコイツに攻撃して!


そう言うと双子座が背後からハロルドへ斬りかかり、靄の壁に防がれる。その攻防の最中、他の十二星座は小さく頷く動きを見せた事から、闇属性デバフは全員にかかっている。


───全員で一気に攻める。100%防がれたり弾かれたりすると思うけど、それでいい。フルアタックが終わった瞬間に、わたしが光属性魔術でハロルドの眼をスタンさせるから、攻撃が終わった星座から眼閉じて、光が終わったらハロルドの眼を潰して。


早クチで説明し、デバフ解除する。相手の集中力を削ぐためのデバフ系魔術だが、使い方を考えれば作戦を頭に直接叩き込む事が出来る。時間は長くて2分だが、今の作戦を言うには多すぎるレベルだ。


「よっしゃ、いくぜ!」


使用者がしゃべればデバフは消える。わたしは合図とも言える言葉でデバフを消し、星座達は一気に攻めた。素早く光属性魔術の詠唱に入り、一瞬の隙を逃さず───


「古いんだよ、やり方が!」


謎の声でハロルドは言い放ち、歪な剣が無色光を纏い、強く振られる。飛燕系の連撃剣術で星座を斬り捨てたこの瞬間に光魔術を、


「スタン狙ってるんだろ?」


濃く重い靄が一気に剣から溢れ出し、わたしの光魔術は簡単に呑み込まれ消えた。靄は刃の様な姿に変わり、波の様に拡散。作戦は失敗に終わり、魔術はファンブルではなく、ブラストされ、押し寄せる靄の刃がわたしの全身に斬り潰す様な痛みを与えた。





遠くの空で妖精が揺れていた。小さな女の子が2人。

桃色の髪を持つ女の子が手を開くと、黄緑色の妖精がフワリと飛ぶ。金色の髪を持つ女の子はそれを見て、ただ眼を奪われていた。


遠い昔の、もう二度と訪れないであろう瞬間の記憶が、ボクをゆっくりと目覚めさせた。





白黒の羽根を持つ蝶がヒラヒラ、ヒラヒラと飛ぶ。女の子がその蝶に触れようと手を伸ばすと、蝶は一瞬で焼け消えた。1匹だけ残っていた色違いの蝶───水色の蝶へ女の子が手を伸ばした。


その瞬間、女の子の腕が左右とも消える。

水色の蝶がフラフラと揺れ、地面に落ちた。



意味不明な夢、遠い昔の夢にも思えて、今現在の夢にも思える、夢がワタシの瞼をゆっくりと押し上げた。





「あと、どれくらいデス?」


赤黒の服をヒラヒラと揺らし、木から木へ飛び軽い動きで移動して見せる後天性吸血鬼が天使へ質問する。


「もう着く!街にも女帝にも!」


「あらら、街中デスか」


天使の言葉に吸血鬼はニッと笑い、1人速度を上げ進んだ。

大きな木を強く蹴り、吸血鬼のマユキは森を抜けた。その瞬間、真珠色と翡翠色で創られた街が眼の前に広がる。


「おぉ、凄く綺麗デスね」


落下中にフォンを素早く操作し、何かをタップしフォンを収納。光の粒が右側に見えたのを確認し、その粒を掴む。

光の粒はアイテムがフォンから取り出された時に発生するマナの微粒子。そしてマユキが今掴んだモノは武器。

全体的に灰色で、どこか渇いた色合いで柄が妙に長く、刃には所々トゲの様な突起がある大剣。


「さぁ、踊るデスよ。マリス」


自分の身長よりも大きな大剣を両手で回し、口角を上げた。エミリオ達と一緒に居る時は見せなかった冷たい笑顔と、冷たい雰囲気を溢れさせ、マユキは純妖精達の街【フェリア】へ入った。





つま先から頭の天辺までを走り抜けた何かに、オッドアイの人形少女は瞳を遊ばせる様にグルグル廻した。

ウンディー大陸へ到着していた人形少女リリスは沸き上がる痛みに嗤う。


「やっと見つけたよ、ママ」


独特な句切りも無く呟き、リリスはNo.2以降のモモカ達を召喚。No.1───オリジナルのモモカは呪われた街【シガーボニタ】の地下へ幽閉したまま、リリスとモモカ達は迷いの森へ進んだ。





「んん....?」


背中で声が聞こえたダプネだったが、速度を落とす事なく進みドライアド達が住む森へ到着した。


「ドライアド!悪いが怪我人の追加だ!」


ダプネが声を響かせるとドライアド達はすぐに姿を現し、黄金色の女性プンプンと金髪の大男、獅子座を受けとる。


「あれ、ここは?」


黄金色の瞳をうっすらと開き、プンプンは呟いた。


「女性は意識がある!薬を早く!」


ドライアドが叫ぶと薬を持ったドライアドが駆け寄り、薬を無理矢理プンプンへ飲ませ言う


「中の人間も今、眼を覚ました。お前の仲間だろう?」


とてつもなく苦い薬にプンプンは一気に目覚める。


「うわ、苦い!なにこれ....」


「意識がある者にしか使えない秘薬だ。あと数分で体力は回復し、傷も大体は癒える。数日後に全身が痛む副作用があるが....お前達は数日後の事など考えていないだろう?」


ドライアドは呆れた声で言うも、瞳は何かを願い頼む色をしていた。


「数日後?....あ、そうだ、ひぃちゃんは!?」


「落ち着け」


眠る前の事を思い出したプンプンは焦りの色を浮かべ、ドライアドを掴み質問した。そこでダプネがプンプンの肩を軽く叩き言い、木製の家の中へ招く様に進んだ。獅子座は別の家で治療されるらしく、今この家の中にはドライアドは居ない。居るのは、


「プンちゃん!」


「ワタポ!無事だったの!?....とは言えない姿だね、ごめん。ボクもひぃちゃんを見失っちゃった」


左腕が無いワタポを見てプンプンは視線を落とした。見たくない、ではなく、申し訳ない気持ちでワタポを見る事が出来なかった。

ワタポもプンプンの傷だらけの姿に眼を細め、言葉を探すも見つからない。


「....回復するには数分ってドライアドが言っていた。あと数分で準備しろ」


ダプネは2人を見て呟き、フォンポーチから濃緑色の液体が入った小瓶を取り出し、2人へ投げ渡す。


「わ、わっ...っと、これは?」


「あなたはエミちゃと一緒にいた....」


危なっかしくキャッチしたプンプンと、簡単にキャッチしダプネを見詰め呟いたワタポ。


「飲め。それは魔力を回復させる薬、魔女産の薬だから即効くぞ。そしてわたしの名前はダプネ、魔女だ。2人が回復したらエミリオの所まで飛ばしてやる。どうせ放置しても行くんだろ?あの狂った友人の所へ」


色々と気になる言葉を並べたダプネだったが、2人は簡単な部分だけを理解し、ポーションを一気飲みし、準備を始める。


「瞳が複数あった重瞳ちょうどうの女を助けたいなら、準備しながらでいいから聞いてくれ」


ピクっと反応したプンプンと、何の事なのか理解出来ていないが反応したワタポは黙ってダプネの言葉を待った。


「あの眼はもう治らない。魔女の治癒術でも、天使の治癒術でも、あの眼は治せない。今は意識を失っていて、謎の靄が2人の友人の身体を使って暴れてる。最低限のダメージだけで友人を取り戻す方法を教えてやる」


ダプネは魔女で、エミリオよりも魔女界に居る。色々な知識を持っているダプネは看破リビールスキルも高い。

ひぃたろの瞳と魔力やマナ、靄の魔力を一瞬で把握し、何があったのか大体の予想をつける事が出来る。エミリオや他の魔女よりも、物事に対して頭の回転が速いダプネだからこそのリビール術。


「一番動きの速いヤツが相手の剣を外側へ弾き、剣を持っている方の眼を潰す。そして.....その剣、特種効果エクストラは爆破だろ?相手の剣を下から打ち上げる様に叩いて、叩いた瞬間に爆破を発動させて剣を破壊する。そうすれば靄と友人は別々になるから、素早くもう片方の眼を無効化する事だな。斬っても潰してもいいけど、何かで塞いでもいい」


ひぃたろは右手で剣を持つ。右眼を潰した瞬間に左眼は攻撃者を見る。剣は外側に弾いた事でひぃたろの視界に剣は入らない。そこで下から上へと剣を打ち上げ、武器破壊を同時に行う。と言う作戦。

これを聞いた瞬間、あるいはダプネが爆破のワードを出した瞬間、2人の役割が決定した。プンプンが眼を潰し、剣を弾き、ワタポが剣を打ち上げ破壊する。


「「 わかった 」」


2人は揃って答え、この後はしゃべる事なく準備を終わらせた。


「よし、空間魔法を繋ぐから、勝手に飛び込め。わたしは別の所へ寄ってから向かう。移動後何があってもわたしは知らない。それでいいなら飛ばしてやる」


───聞くまでもない、か。


ダプネはプンプンとワタポの瞳を見て、どこか羨ましい気持ちになり、小さく笑った。


「繋ぐぞ、飛び込むタイミングは任せる」




純妖精の街に降り立った女帝【ニンフ】は超音波の様な、声にならない声を拡散させた。

気配にも似た声は純妖精達の耳に入り、脳を揺らす。同種族にのみ効果を発揮するスニーキングボイスを女帝種は持っている。同種族を捕食する事で力を高める女帝にとって、同種族にしか効果を発揮しないスニーキングボイスは最高のスキル。この声を耳にした者は脳が揺さぶられ、半誘惑または半混乱状態にする。意識が朦朧とし、身体の力が抜ける。

バタバタと倒れる純妖精エルフを見た女帝は甲高い声で笑い、触手を伸ばし純妖精を捕獲。封印されていた期間に弱まった力を回復させるには、同種族を捕食する以外に方法はない。

捕食する事で力は回復、と同時に高まる。

1色の瞳を忙しく震え動かし、だらしなく開かれたクチから舌をダラリと伸ばし、唾液を溢して、女帝は触手のスカートの中へと捕獲した純妖精を入れる。


スニーキングボイスは100%相手を誘惑混乱にする事は出来ない。意識をハッキリ持っている純妖精が女帝を見て悲鳴をあげ、捕食された純妖精は痛みでデバフから解放され、恐怖に飲まれ泣き叫ぶ。

一気に捕食する女帝も存在するが、この女帝【ニンフ】はわざと脚から捕食していた。

悲鳴を聞き、震える女帝は無意識に詠唱し、風属性魔術を暴れさせた。街灯や建物を無差別に破壊する女帝の魔術、地面を舐め走る触手は逃げ怯える純妖精の子供へ絡みつき、純妖精の子供を自分の頭上へ運び、もう1本の触手が鋭く。


「アア、ア、ふわぁ」


触手で子供の頭を潰し、胴を捻り切った。降り注ぐ血液を全身に浴びた女帝は下を長く伸ばし、喉から声を漏らす。


「あら?いいデスね、それ。血のシャワー、デスか?」


背後から響く笑い声に女帝はピクリと反応し、捕獲していた純妖精を素早く捕食し振り向く。


「こんにち....もうそろそろ夜デスね。こんばんわデス」


ヒラヒラと左手を振り、笑顔で挨拶するマユキを女帝は鼻に深いシワを寄せ睨む。


「元々は純妖精エルフデスよねぇ?あたしは元々人間でして....今はコレ、デス」


瞳の色が変わる。白い部分は濃く黒く、黒の部分は深く紅く。クチ元には白いキバ、爪は黒く染まる。

普段のマユキは人間と変わらない姿をしているが、戦闘となれば何かのスイッチを入れたかの様に変化し、吸血鬼ヴァンパイアの姿になる。これが後天性 吸血鬼の特徴とも言える。


変化した直後に女帝へ距離を詰め、大剣を後ろに身体を弓の様に反らせ、剣を振ると同時に一気にくの字になる。

小柄、または武器が大型の場合は攻撃する際、必ずこういった動きを見せる。大剣だけではなく、大鎌や大斧も全身を使い、武器を操る。

もちろんパワーで武器を操る事も可能で、それが理想的とも言えるが、全身を使い武器を操る戦闘スタイルもモノにすれば充分戦力になる。プンプンが持つ長刀が例だろう。


巨大な武器を持つ女性とは思えない速度で距離を詰めたマユキ。女帝は反応が一瞬遅れ、回避は不可能。触手を二本使い防御するも、渇いた灰色の刃が触手を打ち捨てる。


「ハハ、柔らかいデスねぇ?このまま殺してあげましょうか?」


振り下ろされた剣は触手を斬り、地面へ。速度と威力を殺さず大剣を握ったままマユキは前転し、再び剣を振る。まるで馬車の車輪の様に回転し剣を振るマユキ。


「いいデスね楽しいデスね」


オモチャで遊ぶ子供の様にキャキャっと笑い、女帝を抉った。鉄が擦れる様な悲鳴を溢し、女帝は大きく翅を動かし距離を取る。深く抉れた胸だが見た目程ダメージはない様子にマユキは眼を細める。

攻撃が通ったとは言え、相手はS2───危険度SSの最大ランクを持つモンスター。簡単に致命傷を負わせる事は出来ない。ピクピクと動く斬り捨てた触手を横眼で見て、マユキは攻める。横、斜め、と大剣を振るも回避され、カウンターの触手をマユキは大剣の腹部分でガード。ギィン....と鉄の様な音と、衝撃が腕に響く。


「あれ?硬い音....デスね」


「キシィ、キシィ」


と歯を鳴らし笑う女帝をマユキは睨む。


「イラっとする声デスねぇ....本気で殺しますデス」


トン、トン、と地面を飛ぶ様に移動するマユキ。しかしその速度は速く、距離も平均的なジャンプとは比べ物にならない距離。猫人族が助走なしに飛んだとしても、マユキの半分程が限界だろう。ジグザグに飛び移動をするマユキを女帝は眼で追いつつ、先を予想して触手を打ち出す。


「こっちデスよ」


背後で呟き、女帝が振り向くと同時に回り込み大剣を振る。剣撃は翅に防がれ痺れる様な衝撃が肩まで駆け抜ける。


「硬ぁ....いデスねぇ」


苦笑いで呟き姿勢を極限まで低くした。触手が頭上を通り抜けた瞬間、起き上がりと同時になぎ払う様に大剣を上げる。盛大に火花を散らし大剣と触手が擦れる。自分の後ろへ跳ねる大剣の重さをそのまま長し、大剣は地面に刺さる。その時の速度や遠心力を利用し、バックジャンプの様にクルリと回転し、続く女帝の攻撃を回避して見せる。地面に突き刺さる大剣へ足を掛け、柄を握ったまま大剣の上に乗り女帝を挑発する。


「残念デスねぇ、もっと力が戻るのを待ちましょうか?待ちませんけどね」


トンッと足で大剣を蹴り、地面から抜き、幅広い刃に無色光を纏わせる。


「これはどうデスかァ?」


足が地に着いていない状態で無色光───剣術を発動させるマユキ。空中での剣術はバランスが崩れやすく、ファンブル確率が非常に高い。体重を乗せ速度や威力のブーストも、軽くジャンプした状態では不可能だが、マユキが選んだ剣術は斬撃が飛ぶ飛燕系の剣術。

両眼を見開き、キバを出し笑う吸血鬼。紅い瞳が揺れると全身を使い大剣を水平に振った。広く分厚い斬撃が女帝の胴を狙い走る。


「これでバッサリいくデス....あれ?」


斬撃は女帝の触手に弾かれ、建物の方へ。純妖精達は突然現れたマユキの存在に興味を持ち、建物に隠れ観察していた事をここで知る。


「あれは危ないデス、ね」


剣術ディレイが一瞬で終わる程、今発動させた剣術の熟練度は高く、マユキは大剣を引く様に振った。すると斬撃も引かれる様に動き、大剣の動きに合わせて斬撃が動き再び女帝へ向かう。


「まだまだ行くデスよ」


握られた柄をクルっと半回転させ、大剣に無色光を纏わせ大きく踏み込んで今度は垂直に振る飛燕系剣術を発動させた。背後から迫る第一の斬撃、前方から迫る第二の斬撃、そして接近してくる大剣使いの吸血鬼に女帝は焦る事なく、大きく空気を吸い込み、ブレスの様な咆哮を拡散させた。斬撃は咆哮の衝撃で消され、建物も砕ける程の威力と範囲を持つ女帝のブレス。マユキは大剣で防御するも、身体が浮かび、打ち上げられる。

歯を鳴らす様に女帝は笑い、翅を扇ぐと鱗粉の様に黄緑色の微粒子が広範囲に舞う。

自分の周囲にも届いた微粒子をマユキは横眼で観察した瞬間、微粒子は細い棘へ姿を変え、弾丸の様にマユキを襲った。


「チクチクする攻撃デスね」


棘の雨に打たれるもダメージは低く、焦る様子もないマユキだったが、背後から自分を包む様に溢れる濃く冷たい魔力がキシキシと笑う。空中で身体を捻る、と同時に大剣を回し振り向くと数秒前まで地上で笑っていた女帝が触手を伸ばしていた。振り回された大剣はあっさりと回避され、鋭く濡れる触手が数本、迷う動きを見せずマユキの身体を通過した。


「あ....刺されちゃったデスね」


足や肩に刺さる触手の先、腹部に深く突き刺さる触手を見て、マユキは痛がる事もなく呟いた。女帝は触手を振り、マユキを地上へ投げ捨てた。

建物に衝突し、その建物は崩壊する程の速度で投げ飛ばされたマユキは瓦礫に飲まれた。キシキシ、キシキシと笑った女帝はすぐに純妖精達を見て、翅を畳み急降下。伸ばされた触手と恐ろしい表情の女帝に純妖精達はフリーズする中、横から女帝を何かが攻撃した。


「グロい顔すんなよクソビッチ!キメーんだよ!」


片手で扱える魔銃、ハンドボウガンと両手で扱うライトボウガンの中間の様な魔銃を片手で構え、叫んだのはマユキに置き去りにされた天使のみよ。その横には妖精女王のさくたろも。


「....なんか格好いいタイミングでブッパした感じ?今の火炎弾レッドバレットだよ!虫っぽいし効くかなって....テヘ」


純妖精達の視線と表情を見て天使みよはニヘヘと照れ笑いした。





空間魔法は落下する様な感覚を与える移動速度重視タイプ。浮いて着地、ではなく、落下して着地の空間魔法は移動する事だけを考えているため、着地が非常に難しいが到着時間は他の空間魔法よりも段違いに速い。


「わっ、と」

「おっと」


魅狐プンプンと人間ワタポは難しいとされる落下タイプの空間移動の着地をあっさりとクリアし、靄が残るエリアに現れた。


「....次から次へと、そんなにこの身体が大事か?」


靄を纏う半妖精のひぃたろはプンプンとワタポを見て呆れる様に呟く。2人が到着する数秒前にエミリオの作戦は失敗し、エミリオと十二星座は靄の攻撃を受け倒れている。ワタポは周囲を見て、状況を軽く理解し靄纏う半妖精を睨む。


「....あの剣か」


プンプンは歪な剣を見て呟いた。確かに靄を濃く纏っているのは半妖精が持つ剣。

剣を手放した所で意味はない。剣を破壊し、靄全てを出してしまえば半妖精の身体に用はなくなり、靄から助ける事だけは出来る。


「あの剣...靄が何なのかワタシ達は知らないけど、今はひぃちゃを靄から救えればそれでいい。その後の事はその時考えよう」


エミリオがよくやる「後悔するのは今じゃない」の考えをワタポも持った。先を考えないスタイルは珍しい。しかしそれ程までに半妖精を助けたいとワタポは思っていた。


「寝てるエミちゃんや星座には悪いけど、今は無視して───」


バチバチと空気を破裂させ、プンプンは尻尾を九本出し、言葉を繋げる。


「あの剣を壊しちゃおう」


「プンちゃ...九本まで....、うん。やろう」


扇状に広げられた九本の尻尾を見てワタポは驚くも、すぐに視線を戻し、瞳に複数の円を。プンプンが雷を一際暴れさせ、一気に攻める。それを合図にワタポも動いた。

長刀を器用に使い、連撃を繰り出すプンプン。半妖精は重瞳を忙しく回し長刀を捌く。


───プンちゃの連撃だけじゃ見抜かれる。


そう感じたワタポは背後から狙い、剣を振る。すると靄が剣を受け止め、半妖精はニヤリと笑い、靄を硬化させ破裂させる様に拡散させた。


「ッ....靄が厄介すぎる」


「正面もあの眼が厄介かも」


ワタポ、プンプンは掠り傷を負いながらも致命傷は回避し、距離を取った。


「....っ、、何を狙っているか見えぬが、私達も手を貸そう」


よろよろと立ち上がり、呟いたのは乙女座。続くように十二星座達は立ち上がり、2人を無言だが強い瞳で見た。


「...わかった。プンちゃは正面から、十二星座は悪いけど左右と背後から、捨て身で攻めてもらえる?」


「え、ワタポ!それはいくらなんでも」


「これが今一番確率が高い!強制はしない。やれないなら下がってもらってかまわない」


ワタポは十二星座を餌にする。と言う様な発言をした。プンプンはそこに意見を言うも、十二星座達は迷わず頷き構える。


「....誰かを捨てる様なやり方、ボクは反対だ。でも今は.....くっそ!終わったらちゃんと十二星座に謝ってよ!」


「わかってる」


───ワタシも反対だよ。でも今重要なのは剣を壊す事。悪いけど今この瞬間だけは “ワタポ” ではなく “ヒロ” や “マカオン” の思考で動かせてもらう。


ワタポの瞳は二重、三重と円がハッキリと浮かび上がり、キュッと瞳孔が小さくなる。白黒の防具を装備した片腕の騎士はジリッと足に力を入れる。


「プンちゃを合図に全員一気に攻める」


プンプンはその言葉を聞き、雷を強く溢れさせる。青白から薄い白金色に変わり、九本の尻尾が太い一本になった。


「....ボクのこれは長く持たないから、これがラストチャンスかも」


そう呟いたプンプンの髪色は黄金色から白金色へと変わり瞳や眼元の模様が濃く朱く染まる。

金色の雷纏う銀色の魅狐は赤い瞳を鋭く向け、正面から挑んだ。


先程の速度とは比べ物にならない連撃。左右、背後からは星座達が連撃系剣術を放つ。

瞳が迷い、靄が一瞬遅れた隙を逃さず、金銀の魅狐は剣を外側へ弾き、白金色の雷纏う腕を振り下ろした。


白黒の騎士が持つ剣はこのタイミングを待っていたかの様に、深く赤い熱を発する。

片腕に力を込め、靄の剣を単発重剣術で下から上へと。剣が接触した瞬間、特種効果 爆破が炸裂。今まで見た事のない爆破に、白黒の騎士、金銀の魅狐、十二星座、そして靄纏う半妖精も激しく吹き飛んだ。


鼓膜を破壊する様な爆破音が遠くなり、爆煙が漂う中、砕けた歪な剣をワタポは見た。


「おいおい、大爆発はかっけーけども、わたしがいなかったらハロルドは地面に叩きつけられて死んでたぞ」


声が響いた直後、突風の様な風属性魔術が吹き、爆煙を遠い空へ飛ばす。青髪と言うよりは水色の長髪を揺らし、キャスケットを装備した魔女が水属性魔術を器用に使い、意識を失っている半妖精を水のクッションでキャッチしていた。



「よう、ワタポ、プンプン。久しぶりだな!そんで、アイツだれ?」


爆音で目覚めたエミリオは半妖精をキャッチ、久しぶりに2人へ挨拶をし、広場の奥を指差した。


「....!?、星霊王?」


乙女座が星霊王を見て呟く。エミリオが指差した人物は星霊王だったが...黒紫の模様が全身に。


「....剣を壊してくれたおかげで出られたが、入れ物はずっと昔に壊されててな。コイツを入れ物に出来てラッキーだったよ」






星霊王を入れ物にした。と言うレーヴァを見て、乙女座がゆっくり立ち上がった。


「お?....お前の剣よさそうだな」


星霊王レーヴァは乙女座が持つ剣を見て、笑う。


「その剣を星霊王である俺によこせ」


───純妖精や天使の力を借りれば強い封印が出来る。と言いましたよね星霊王。でもここには純妖精も天使も居ません。そして....貴方は封印が解けたレーヴァを自分に封印したんですね。


爆破の最中、乙女座は意識を失っている星霊王を探した。爆破の威力が星霊王に届いていないか、届きそうならば自分が壁に。そう思い探した時、ヴァルアは星霊王が靄の集合体を抱く姿を見て、視界は煙に包まれた。


───もう助からない。理由はわかりませんが、ハッキリそうわかります。


乙女座は剣先を星霊王へ向け、言う。


「誰も手を出さないでくれ....これは私の仕事だ」


───昔、私が十二星座として認められた頃、貴方は私に言いましたね。自分に何かあったら迷わず胸の星石を突き刺せ、と。それが星霊達を守る事になる。と....貴方はこうなる事を予想していたんでしょうか?


乙女座ヴァルアは自分が十二星座になったばかりの頃を思い出し、奥歯を強く噛んだ。


───星石は星霊族の心臓。各々どこかに隠し、誰にもその場所を話さない。でも貴方は私にその場所を教えた。私は.....どうすれば....。



「ヴァルア」


「───!?」


「重いだろうけど、頼む」


星霊王はレーヴァを抑え込み、いつもヴァルアに見せていた顔で優しく笑った。



─── 色のない絵本、音のない音楽、ゆっくり流れる景色。自分の声も聞こえず、周りの色も消え、動きがゆっくりに感じる中。私の剣先は星霊王の胸へ届く。



「ありがとう、ヴァルア」


「星霊王....───でした」



虹色の星石がパリンと弱い音をたて、砕けると靄が一気に溢れ、苦しむ様に蠢き消滅した。星霊王の身体は小さな星屑の様にサラサラと溶け、優しくヴァルアの頬を撫でて消えた。





泣き崩れる乙女座。消える星霊王と靄。

わたし達は言葉を失い、ただ乙女座を見ていたが、ここで時間が過ぎるのを見ている余裕はない。乙女座や十二星座には悪いが、わたし達はわたし達の事をする。



「ワタポ、プー」


わたしは2人の名前を呼び、手招きする。スライムの様なクッションに包まれ眠るハロルドをどうするべきなのか。それを相談する事に。


「ハロルドをどうする?」


「.....ボクがドライアド達の所へ連れていく。傷の治療も必要だし」


狐姿からいつもの姿に戻ったプンプンは複雑な色の瞳でハロルドを見詰めていた。


「....わかった。でも拘束だけさせてもらうけどい?」


「うん、お願い」


わたしはスライムの様なクッションに風属性を混ぜ、氷属性の拘束魔術を生成し、ハロルドを拘束した。


「あ....」


ワタポがポツリと呟き星座達の方向を見ていたので、釣られてわたしも見てみると、小さな双子座がこちらに走ってくる。


「....ごめんなさい、巻き込んでしまって」

「ごめんない」


「ううん、巻き込まれてないよ。それに...ワタシ達が巻き込んでしまったかも知れないし」


妙にワタポへなつく双子座は幼い瞳で必死に涙を堪えている。


「....そうだ、獅子座さんもドライアド達の所に居るから、みんなもそこで軽く治療してもらうといいよ。このお姉ちゃんと一緒に行けば場所もわかるよ」


ワタポがそう言うと、双子座は頷き星座達の元へ戻る。


「プンちゃ。ワタシとエミちゃはこの先へ向かう。ひぃちゃの事は任せるからね」


「うん。今度こそ大丈夫。任せて」


「んじゃ、行きますかワタポ」



わたしはプーの肩をポンと叩き親指を立て「任せたぜ」と無言で伝え、ワタポと2人、女帝の元へ向かった。





エミリオとワタポがフェリアで女帝と戦闘開始した数十分後、迷いの森で動きが。


「なんや!?虹か!?敵か!?」


「うっさいのぉアスラン!こりゃ空間魔法じゃ!出て来るヤツが敵って事はあるかも知れんがのぉ....」


冒険者達を足止めしていた迷いの森にある安全地帯に虹色の入り口が開き、魔女ダプネが現れる。キューレもアスランも他の冒険者もダプネを知らないため、当然現れたダプネに構える。


「まてまて、わたしはダプネ、エミリオの知り合いだ。この森から出してやるから、そのあと力を貸してくれ」


そう言うダプネを警戒しつつ、セツカが話を聞く事にした。ダプネとセツカは詳しい話をしている中で、ダプネが現れた瞬間、敵意がない事をすぐに理解した高ランク冒険者達が戦闘準備を始める。それに習い他の冒険者達も戦闘の準備をする。


話がまとまった様子でセツカが冒険者達へ声を響かせた。



「今から空間移動をし、異質な魔力の原因である───SSランクのモンスター、女帝ニンフの討伐へ向かいます!これは強制ではありません。森の外へ出たい方は外までの空間で森を出てもかまいません。一緒に来ていただける方は私の後を付いてきてください!」


セツカの声に全冒険者が士気をあげた。


「ついてこい、とは言う様になったのぉ女王様」


キューレはニッと笑い、クローではなく、ジグザグの刃を持つダガーを腰へ吊るし戦闘準備を終わらせた。


大型の空間魔法がクチを開く。


「わたしが先に入る。その後はお前達が順番を決めて好きに入れ」


ダプネはそう伝え、虹色の入り口へ足を進めた。


「タンカー、ブレイカー、ヒーラー、デバファー、ディーラーの順番に入ります!行き先は純妖精エルフの都フェリアです!....必ず全員でバリアリバルへ戻りましょう!」








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