◇126
───霧が濃い。
ひぃたろは森を包む霧の濃さに警戒心と不安感を高める。
ざわつく様に木々が揺れ、モンスターの気配さえ隠蔽する迷いの森。
「...本当にマッピングが無効なんだね。マナの問題?」
相棒の魅狐プンプンはフォンでマップを起動させ呟く。
迷いの森のマナは波打つ様に変化し続けるため、マナを記憶してマップを組み立てるマッピング機能は働かない。
「この森はマナの形が変わる、だから記憶できない。それと...」
ひぃたろは答え、後ろ───進んできた道を指差す。
「...えぇ!?どうなってるの!?」
指差す方をプンプンが見て、驚き声を出す。
木が一瞬で枯れて、別の木が同じタイミングと速度で育つ。何本も何本もそれを繰り返し、歩いてきた道が木々によって隠され、先程まで無かった別の道が顔を出す。
「爆発的な速度で成長し続ける森。範囲を広げる成長ではなく、決められた範囲で形を変え続ける様に成長する。これが迷いの森よ」
───冒険者が迷う。そんな事本当にあるのか?
森へ入る前にプンプンはそう思っていた。
プンプンだけではない。ほぼ全ての冒険者がそう思う事だろう。
自分は大丈夫、記憶力にも自信がある!そんな事を言って迷いの森に入り込んだ冒険者はほぼ帰ってこない。その原因がこの “成長し続ける木々” だ。
「これボク達大丈夫なの?」
「不安なら戻ってもいいけど、どの道を戻る?」
ひぃたろが言った様に、もうどの道を進んで来たのかさえわからない。
プンプンは苦い表情を浮かべ森を見渡す。
「大丈夫よ。この森では知識が要求されるだけで、知識さえあれば迷う事は絶対にないわ」
そう言いひぃたろは辺りを見渡し、青白く発光する鈴の様な小さな花を一輪摘む。
「...その花で迷わないの?」
不安そうに言うプンプンを横に、ひぃたろは鈴の花を揺らす。小さな花から小さな鈴の音が響くと森の木々はざわつく。プンプンが辺りを警戒し始めると、木々が忙しく散り、成長する。
「え...道が出来たよ?」
眼の前に道が現れると鈴の花は枯れ散る。
「この花の音でマナの状態を短時間だけ正常に戻せるのよ。進もうプンちゃん」
ひぃたろは迷わず眼の前に現れた道を進む。
短時間だけマナを正常に戻す。正常に戻れば正しい道が現れる。この森の攻略方法を知らない者は小さな鈴の花にさえ気付かないだろう。現にプンプンは花の存在に気付いていなかった。
「凄いねひぃちゃん!ボクもう森に住む事覚悟しちゃったよ」
2人はその後も鈴の花を使い、迷いの森をグングン進む。モンスターと遭遇する事なく森の後半前にある安全地帯に到着した。
霧も晴れ、湧き水と鳥の囀りだけが聞こえる静かな森の広場。
「ここは霧がないね、安置かな?」
「安置と言えばそうね。ここで一旦休憩しよう。森の後半がこの先。迷いの森はここまでで、次からがニンフの森ね」
───ここで霧が綺麗に晴れるなんで珍しいわね。
ひぃたろはプンプンへ返事を返しつつ、霧の薄さを少々気にするも、すぐに表情はリラックスモードへ。
迷いの森の終わりと次の森【ニンフの森】の始まりの狭間にある安全地帯。普段は霧が完全に晴れる事はないこの場所も、今は靄1つない。
広場の中心にある青白い葉を持つ木が結界マテリアと同じタイプの、モンスターが嫌うマナを排出するため、安全地帯となっている。
隠蔽術もなく、大きさも違うものの、シケットにある世界樹と同じ種類の木。
装備を崩し緑の絨毯へ寝転がるプンプン。ひぃたろは空きビンを2つ取り出し湧き水を汲みプンプンへ渡す。
「...凄いねこの水!売ってる水より美味しい!」
「この水は1ビン2000vで売れるわよ」
「え、そんな凄い水なの?」
何も考えず飲んでしまった事に少々後悔しつつも、プンプンはもうひとクチ飲む。
ウンディー大陸は綺麗な水が多く、その中でも高ランクの水の1つがこの【妖精の雫】と呼ばれる水。
迷いの森の終わりと、純妖精の街付近でしか湧かない為、滅多に出回らず1ビン2000~3000vで取引される。
「エミちゃんに言ったら大瓶にいっぱいこの水を汲んで、沢山売りそうだね」
約一ヶ月前に消えたエミリオ。どこで何をしているのか知る者は魔女の剣士【ダプネ】だけ。プンプンもひぃたろも、ワタポや他の者も知らない。
「エミリオは何処で何をしているのか...でも、今回エミリオがいたら突っ走って面倒になっていたかもね」
「ハハハ、それは有り得るね。エミちゃんなら、とりあえずムカつくから純妖精をブン殴る。とか言いそうだね」
「赤帽子本気でうぜー。も言いそうね」
エミリオの話題でリラックスモードの中、ひぃたろの耳が小さな音を拾った。
妖精の声ではなく、人間、または人型の何かが枝を踏んだ音。それも複数名。
プンプンも気配で感知したのか、安全地帯の先───ニンフの森へ視線を飛ばす。
「人間じゃないね、なんだろ?」
プンプンが呟くとひぃたろは数秒黙り、答えた。
「...これは」
ひぃたろはフォンを取り出し、安全地帯からモンスター図鑑機能を使う。
マナのやり取りは素早く終わり、モンスター情報が表示される。
人型系、妖精種の【ドライアド】がフォンの画面に表示されるも、情報部分は未入力状態。
「ドライアド?ランク書いてないけど強いの?」
「精霊や女神の事を妖精種はニンフって言うのよ。ドライアドはニンフ、木に宿る精霊と言ったところね」
ひぃたろがそう説明すると、3名のドライアドが木々の影から姿を現し、安全地帯へ。
女性の姿をした木に宿る精霊は2人を見て一瞬ただならぬ雰囲気を溢れさせるも、すぐに穏やかな気配に変わる。
「こんにちは」
1人のドライアドが挨拶を飛ばしてきたのでプンプンが挨拶を変えそうとするも、ひぃたろが止め、指を素早く動かしフォン画面をプンプンへ見せる。
〈ドライアドは普段、純妖精の前にも顔を出さない。挨拶するなんて聞いた事もない。装備を〉
と、打たれているフォンを見て、プンプンはドライアドを警戒する。
緑の絨毯に無防備に置かれた装備へプンプンが手を伸ばすと同時にひぃたろが挨拶を返した。
「こんにちは」
ドライアドの気を引いているうちに、プンプンはブーツやらを装備する。
「お2人は迷いの森を抜けて来たの?」
大きく分ければ、赤、青、緑の3名のドライアド。挨拶してきたのは赤。今質問してきたのは青。
「そうよ。あなた達はどうして迷いの森へ?」
ひぃたろは会話を切らない様に答え、質問を返すと今度は緑がクチを開く。
「誰かが森へ迷い込んでしまったのかな?と思って助けに来たのよ。でも助けは必要無さそうね」
───ドライアドは純妖精にも顔を見せない。人間が相手となれば尚更、姿を隠すハズ...。
ひぃたろはドライアド達へ不信感を抱きつつ、会話を続ける。
「助けは必要ないわ、わざわざごめんね。この先の森を抜けさせてもらうけど、荒らしたりしないから安心して」
プンプンは装備品をセットし終え、会話へ集中するも、ドライアドは小声で何かを話している。
「ひぃちゃん、これはどんな状況?」
プンプンも小声でひぃたろへ話しかける。
「わからない。でも最初に見せた表情と雰囲気は明らかに敵意があったわね」
お互い小声での会話を終えると、緑のドライアドが質問を飛ばす。
「お2人は...人間?」
緑がいい終えるとひぃたろの耳には別の声───赤と青の声が届く。
その反応を見て、緑はドライアドの美しく優しい表情を歪ませた。
「純妖精...でもないわね」
最初に会った時よりも濃い敵意を溢れさせたドライアドに2人は驚くも、すぐにひぃたろが叫ぶ。
「プンちゃん!」
「うん!」
すぐに応答したプンプンは背中から長刀を抜き、構えていた。
この1年、モンスターよりも危険な相手と戦闘になる回数が多かった2人はすぐに戦闘モードへと切り替わる癖がついている。クエストだけをこなす冒険者では戦闘態勢に入るまでもう少しかかるだろう。ドライアドレベルでは何て事ないが、もし相手がレッドキャップ等の対人慣れした者ならば、一撃入れられているだろう。
ひぃたろも、驚きはしたものの身体は半強制的に動き、腰の剣を抜き構えていた。
ドライアドは髪を1本抜き、振ると髪の毛は刺を持つ鞭へと変わった。緑が地面を激しく叩くと、赤と青は動く。
「緑から眼を離さず!」
「おっけー、ボクは青!」
正面にいるドライアドをターゲットに2人も動いた。
長距離から伸び迫る鞭を危なげなく回避し、ドライアドを迷わず斬る。
剣術も使わずに赤と青のドライアドはあっさりと斬られ、攻撃がヒットする手応えと、ドライアドの手応えの無さに驚くプンプンとひぃたろ。
緑は唇を噛み焦りを少々見せた瞬間、森がざわつく。
プンプンは辺りを見渡し、ひぃたろはドライアドの背後の森───【ニンフの森】を見る。眼の前に敵として立つドライアドがいるにも関わらずの余所見。
しかしドライアドは2人よりも早く自身の背後の森、ニンフの森を見て小刻みに震える。
ひぃたろはドライアドの動きと表情の変化を見逃さず、魔術を詠唱。
発動させた魔術は拘束系。緑ドライアドの足元から蔓が伸び、対象を縛る。
「ドライアドは精霊...星座達と似ていて、攻撃しても殺せない。それくらい私も知っているわよ?でも、宿り木を殺せばどうなるの?」
ひぃたろの言葉と挑発的な仕草に、ドライアドは怒りの表情を見せクチを開こうとするも、プンプンがドライアドの熱を下げる。
「でもひぃちゃんはそんな事しないよ、話がしたくて拘束しただけ」
「...話がしたい?」
蔓が全身を締め付ける中でドライアドはプンプンを睨むも、これ以上戦う気が無いプンプンは長刀───竜刀 月華 を納め、言う。
「うん!ボク達は森を荒らしに来たワケじゃないんだ」
そこまで言い、ひぃたろへ視線を流し、その場に座り黙る。
ひぃたろはドライアドの拘束を解き、芸術的な彫刻を持つ剣【エタニティ ライト】を腰へ。
「私達はフェリアを目指してる。そのためにこの森を抜ける必要があっただけ。ドライアド...あなたは何に怯えているの?」
自分達の目的地を言い、森を荒らしに来た冒険者ではない事を伝え、ドライアドに質問した。
「フェリア?純妖精の都市へ人間が?笑い話にもならない事を平気で言うのね?」
ドライアドは質問に答えず、2人を挑発する様に言う。ひぃたろは短い溜め息を吐き出し、プンプンは仕方ないと言う様に頷く。
このタイミングで赤と青のドライアドが目覚める。
「...ッ」
「...人間め」
赤、そして青が毒づき、身体の切断部分が蔓、または根の様に絡み合いゆっくり繋がる。
「ドライアド。私をよく見て」
ひぃたろはそう言い、ドライアド達へ視線を向け、翅を広げた。
薄桃色の左右二枚、計四枚の翅は微粒子を漂わせる。
驚き言葉を失う赤と青、緑は眼を開き言葉をポツリと落とす。
「...エアリアル」
「そう。私は半妖精、人間ではないわ」
左サイドで束ねられていた髪を持ち上げ、両耳を見せるひぃたろ。純妖精よりも短いが人間よりも尖る耳、人間サイズの純妖精耳を見てドライアド達は今度こそ言葉を失った。
「ボクも人間じゃないんだ」
立ち上がり、少し離れて、次はプンプンが自分の存在を見せる。
パチッと小さな破裂音を数回響かせると音は途切れる事なく響く。青白い電気がプンプンの全身から溢れ、黄金色の髪は白銀に。瞳は赤に変わり、眼元にも赤いライン。
頭には形のいい耳と、背腰からは五本の太い尻尾。
「尻尾を六本出しちゃうと危ないから、今は五本ね。ボクは人間じゃなくて魅狐...雷狐かな?」
プンプンは魅狐族が使える変化系のディアを披露した。
人間や別種族も変化系のディアは使えるが、魅狐族の特徴である狐耳の様な感知器官と属性を貯める尻尾、そして赤い瞳。
これを見せられたドライアド達は、この2人が人間ではない事を理解する。
「...半妖精って、10年前に追放されたあの?」
赤ドライアドがひぃたろを見て言うと、ひぃたろは頷き返した。
すると今度は青が声を出す。
「届いたのね!?手紙が、あなたに手紙が!」
この言葉にひぃたろとプンプンを眼を合わせ、ひぃたろが手紙をフォンポーチから急ぎ取り出す。
「この手紙はドライアドが?」
「いいえ、女王が微妖精にお願いして、私達精霊も力を貸して街まで...届いて、よかった」
緑は涙を溢し、手紙が届いた事に安心するも、すぐに顔を上げる。
頬に涙が残る中、強い瞳で2人を見つめ、声を出す。
「どうか、純妖精達を止めてください!女王の力になってあげてください!」
緑が頭を深々と下げると赤と青も同じ様に。
精霊が人間───森へ侵入した者へ姿を見せる行為が極めて貴重。その精霊が頭を下げる行為はただ事ではない。
「...頭を上げてよ。そしてボク達に話してよ」
「さっき何に怯えたのか、今純妖精はどうなっているのか。全部話してもらえるわね?」
プンプン、ひぃたろが続けて喋り、ドライアド達は震える唇で話した。
◆
ひぃたろとプンプンが迷いの森へ出発して数分が経過した頃、ドメイライトのユニオン本部内にある無駄に広い大部屋には、ギルドマスターや有名な冒険者達が顔を揃えていた。
何かが起こり、街に住む人々を不安にさせず、出来るだけ多くの冒険者達に話を伝える。そんな時にこの普段使われない大部屋が働く。
集まった冒険者達へセツカが “レッドキャップ襲撃とロキの死” そして “猫人族と純妖精の争い” の話をした。
人間が巻き込まれる危険性もある事も勿論。
ざわつく冒険者達は徐々に呆れ始め、そしてついに声を響かせる者も。
「レッドキャップの襲撃は確かに危ねぇ。でも猫と虫の喧嘩に何で人間が巻き込まれるんだ!?」
「...そう、だよな!人間は関係ないじゃねーか!俺達はレッドキャップの方だけ警戒してりゃいいだけだろ!?」
「それに、そこにいる女は元レッドキャップのメンバーで....悪魔なんだろ!?」
壁に寄り掛かり黙っていたナナミを冒険者が指差し叫ぶと、全員がナナミへ視線を飛ばす。
元レッドキャップ、悪魔かよ、怖い、気持ち悪い。
冒険者達のざわつきが増す。
───このままでは話がまとまる事なく終わってしまう。
セツカは急ぎ話題をナナミから猫人族と純妖精の話に戻したいが、言葉が見つからない。
「猫人族の里に世界樹がある。その世界樹は元々、純妖精の先祖達が産み出した大樹みたいなんだ」
声を出したのは冒険者達の中にいた、金髪を編み束ねた冒険者。
コツコツとブーツの底を鳴らし冒険者達の前まで移動すると、後ろから小型犬がどこか堂々と追う。
声を響かせたのはギルド【フェアリーパンプキン】のワタポだった。
「その世界樹がレッドキャップの手で命を失った。闘技大会の数ヵ月前からマナのバランスがおかしくなっている事にみんなも気付いたでしょ?」
この言葉に冒険者達は頷き、ナナミから視線は外れワタポへ。
「純妖精は猫人族が世界樹を殺したと思っている!そこにレッドキャップが石を投げた。さっきセツカちゃが説明した様に、死体を操る人物が猫人族と純妖精を争わせるために...」
「それはわかってる!でも人間がなんで関係してくるんだ!?戦争なんて勝手にやっててくれよ!」
この声に冒険者達は言葉を飛ばす。
ざわつきではなく、最早文句や苦情、迷惑だと言う声がワタポに向けられる中でも、ワタポは表情1つ変えず言う。
「純妖精から見ればレッドキャップも人間でしかない。人間が世界樹を殺したのは事実。ここまで言えばわかるよね?」
「純妖精は人間を狙って、猫人族は純妖精を狙って、俺達人間も剣向けられて黙ってられんわな。全員が俺様クラスの中身やないしな」
オレンジ色のアロハシャツに謎のサングラスを装備する男が喋った。この言葉に冒険者達の表情は一気に険しくなる。
アロハの男の名は【アスラン】、見た目はアレだが腕利きの冒険者。元デザリア軍だったが今は自称 純度100%の冒険者として活動している男性。
他にも烈風やゆうせー、ジュジュにリピナなど、ワタポも知る冒険者達がこの場に。
「まだ猫人族と純妖精は争ってない、争わない様にワタシのフレが今動いてくれているの!それで」
「それなら安心じゃないのか?争わない様に動いてるんだろ?突然こんな所に集められたから焦ったぜ本当」
ワタポの言葉が終わる前に冒険者が叫ぶ。伝染する様に、そいつらに任せておけばいいな。何で呼び出したんだよ。早く解散しましょう。等の声が広がり、危機感の無い空気が大部屋に充満し始める。
───違う、安心してほしいから集まってもらったワケじゃない。助けて欲しくて...。
ワタポは言いたかった言葉を喉で詰まらせた。
事情や関係性の濃さから、捉え方の違いは出るだろう。それは予想していたが、“人間にも危険が迫っている” と言う事実に対して危機感の無さが予想以上に目立つ。
「ここにいる全員にフレがいて、ギルドや家庭がある人もいる。他人の問題や面倒事に自ら関わりに行くヤツなんてバカだ。そう思うのは正しい。だから、この問題を問題として見てくれてる人だけ残って、他の人は解散にしよう。私は残らない方を進めるけどね」
壁に寄り掛かり黙っていたナナミが黒赤の瞳を冒険者達へ向け、言った。
悪魔の言葉にイラつく冒険者達だったが、言っている事は理解出来る様子。
数分後ひとり、またひとりとユニオンを後にし、半分以上が去った。
残ったメンバーでギルドマスターやギルドに所属している者はメンバーに連絡し事情を説明する。そこで数名が去り、最終的に残った者で話を進める事に。
「残ってくださってありがとうございます」
セツカがそう言うとすぐにナナミはクチを開く。
「そう言うのは後にしよう。誰が何をすべきか決めてすぐ行動する。それが今出来る最速の対応」
「...はい、そうですね。早速ですが」
ナナミは元レッドキャップのメンバー。犯罪ギルドで自身も犯罪を犯し、妹まで殺した文字通りの悪魔。そんなナナミを冒険者として受け入れてくれたセツカに、この街に、ナナミは恩を感じていた。
だからこそ厳しくもあるが、自分の出来る事には全力で力を貸す姿勢でここに残っていた。
───誰にどう思われ何を言われても、私は私に出来る事を全力でするだけ。
セツカの指示で人間側も動き始めた。
◆
迷いの森とニンフの森の狭間にある、モンスターが入り込まない安全地帯。
安全地帯の目印にもなる世界樹と同じ科目の木の下で、精霊ドライアドの話を聞き終えた半妖精と魅狐は表情は張り詰める。
純妖精の死体を引き摺って現れた猫人族はその場で純妖精達に殺され、猫人族への怒りがフェリアに充満。女王はそれを止めようとするも声は届かない。
ドライアド達が恐れ怯えたのは純妖精達の怒りと、それを煽る悪妖精の殺意。
森に入った者は全員殺せ。1人でも見逃せば宿り木を燃やす。
そう悪妖精に脅されたドライアド達はひぃたろとプンプンを襲った。
「...いくつか聞いていいかな?」
黙っていたプンプンがひぃたろとドライアド達へ言い、頷いたのを確認し、質問する。
「悪妖精っていうのは?」
「女王の命令に耳を向けず勝手に組織を作り動く純妖精の事。他種族と争ったり、反逆者になる可能性もある事から、悪い妖精と書いてダークエルフ」
半妖精のひぃたろがそう説明するとプンプンは次の質問をする。
「なるほど、その悪妖精が今のフェリアを仕切って純妖精達をまとめて猫人族を攻撃しようとしている...って事だよね?」
今度は緑ドライアドが答える。
「そういう事。女王の声に耳を向けないだけじゃなく、女王の座を狙っている者がいる...その者が悪妖精を仕切り、純妖精達の怒りを煽り、女王を殺そうとしている」
「女王を殺す!?そんな事すると、他の純妖精達は悪妖精を信用しなくなって逆効果じゃないの!?」
プンプンが緑ドライアドの答えへ、質問を被せると、ひぃたろが低く震えた声───怒りの色を持つ声で呟いた。
「...妖精喰い」
「半妖精の言う通り。悪妖精は妖精喰いを使って女王を始末し、女王が怒り妖精喰いを解放した事にするつもりだろう」
悔しさを感じる声音で緑ドライアドは言い、プンプンへ【妖精喰い】の説明をする。
「妖精喰いはフェアリー種族の中での呼び名。外の世界では “女帝” と呼ばれるモンスター達の1体。生息する場所や封印されている場所の名前を持つモンスターで【森の女帝 ニンフ】がここの女帝の名」
「へぇ...その女帝ニンフって強いの?」
女帝種について色々と知りたい。そう思う気持ちを押さえ、プンプンは【森の女帝ニンフ】の事を聞く。
プンプンは、女帝を自分達で倒し、悪妖精を黙らせ女王の話を全純妖精が聞いてくれれば、純妖精達を止める事が出来るのではないか?と考えた。
「女帝種はS3ランクよ、ぷんちゃん。私も詳しくは知らないけど、森の女帝ニンフは世界樹を産み出した先代の純妖精達が封印した化け物。って子供の頃に何度も聞かされたわ」
S3ランク。この時点でプンプンの考えはほぼ不可能なモノになった。
フェリアは今悪妖精が支配し純妖精達の怒りの熱を上げてる。ほぼ100パーセント女王は悪妖精達によって拘束監視されているだろう。
そして女帝。
「ん~~...何をどうすればいいのか、、。」
「現時点では純妖精達が猫人族を攻撃する事はないと思うわ。女王を始末し、純妖精を完全に支配出来る権利を手に入れてから悪妖精が動く。それが一番理想だと思う」
ひぃたろの予想通り、悪妖精は女王を始末し全ての純妖精を連れて世界樹を取り返すと言い、シケットを奪う。
フェリアに女帝が解放されている状態でも、シケットに住むので問題ない。
レッドキャップから届いた手紙を見た瞬間に、女王を始末しシケットを奪う流れ組んだのだろう。
同族の死体を猫人族が持ってくるという、最大の挑発に対しても、落ち着きすぎている事から、ひぃたろは先程の予想を立てた。
「とりあえずフェリアが見える場所まで進もう。ここにいても何も始まらないよ」
一度言葉を切り、プンプンは立ち上がりニンフの森へ視線を向け、言葉を繋げる。
「まずはこの森の奥にいる竜をどうにかしなきゃだ」
「...、そうね。ドライアド、ニーズヘッグの近くまで案内してもらえる?」
「案内してもらえると助かるかも!近くまで案内してくれれば、後はボク達が何とかするからさ!」
ひぃたろとプンプンの瞳はこの状況でも強い光を宿している様で、ドライアド達はこの2人に賭ける事を決め、頷いた。
◆
「.......」
「お?眼が覚めたか?」
「...ダプネじゃん」
「やっとかよ...どう?魔女力、結構馴染んだんじゃない?」
「うん。結構どころか全部イッちゃった感じ」
「完全イッたか。おはようエミリオ、気分はどう?」
「始めからこれが狙いだったんしょ?ありがとダプネ。気分は最高だけども、はらへった」




