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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【ドメイライト】
110/759

◇109




魔女の力が微量でも溢れている状態 ───本来魔力が微量でも戻っている状態になって、わたしにも変化が起こった。

エンハンス系の変化ではなく、ステータス的変化。


まず、魔力量が増えた。

以前の状態 ───マテリアで完全に魔女の力を抑えている状態でも、馬鹿げた魔力を持っていたわたしだが、魔女の力と一緒に魔力もごっそり抑え込まれていたので、微量の魔力が戻った。


次に、魔術の威力が上がった。

これに関しても同じで、マテリアが うんたらかんたら~あっぽっぽい!だったので、魔力と同じ感じだ。


ここまでは予想できた事で、本来の状態 ───魔女として何も抑え込んでいない状態の自分にはまだまだ遠い。



そしてここからがわたしも驚いた部分だ。


昼にワタポと二階層へ向かう際、階段が超ウルトラ級にダルくて、魔術を使い階段を即終わらせた。この時、わたしの魔力消費は以前よりも少なく、詠唱速度が以前よりも短くて済む事を知った。


魔女の力が完全に戻っている状態のわたしは詠唱を必要としない。しかし全ての魔女が詠唱を必要としないワケではない。ごく一部、少数の魔女は[ディア]ではなく、素の状態で詠唱なし魔術を扱える。感覚的には剣を振る時と同じ、剣を振ろうと思って踏み込み身体を使い、手に力を入れ剣を振る。

それと同じで魔術を使おうと思い、魔力とマナを混ぜ発動させる。詠唱は必要ない。


そして魔女は全員、移動詠唱が可能な種族。走りながら、武器で攻撃しながら、詠唱が可能。


そしてそして、わたしの[ディア]は今の時点で魔術を2つ同時に詠唱、発動できる天才的で、美しく、実用性が恐ろしく高いモノだ。



これらを組み合わせる事で、戦闘の幅は一気に広がり、みんなからは「キャー天才」「エミリオ様素敵~」などと言われるだろう。

そんな所でわたしの天才的な剣術スキルである[マジックソード]を使えば天才に天才がプラスされ、それにまた天才がプラスされて...もう究極状態の天才だ。貴族も王様もわたしにペコペコするに違いない。


この調子で魔女の力を完全に扱いきれる様になったら...わたしは神になるのでは?


こんな所でダラダラしているワケにはいかない。キューレから妖精の情報を買い取るまで時間はまだある。クエストの1つ2つ...は無理か。ここドメイライトに集会場はない。

ならば街の外に出てモンスターの10匹20匹狩り、さらに己の実力を磨くまでだ。


「よし、そうと決まれば」


装備を、武器を...?

なんだろ、わたしの愛剣である【氷樹の細剣】がフォンのアイテムポーチ内で赤文字に。

フォンポーチのアイテムは基本的には白文字。

食材などは緑文字。赤文字のアイテムなんて初めて見る。

恐る恐る【氷樹の細剣】を取り出してみるも、別に変わった様子はない。


「なんだよ、びびらせてくれるなー。ビビ様もびびるぞ今の」


と、寂しい20歳(魔女年齢では1000歳)の冒険者の魔法剣士エミリオちゃんは独り言を溢し【氷樹の細剣】を腰へ装備し、ドメイライト平原を目指し、いざ。



何だか懐かしい気持ちになるのは夕日のバフとドメイライトと言う街、そして平原を目指すこの道のせいだろう。


数ヵ月.....もう半年以上も前の話か。わたしはこの街で自称冒険者を名乗り、毎日お使いクエストに全力を出し走り回る生活をしていた。

本物の冒険者に憧れ、魔女でありながら剣を選び使い、騎士が平原でモンスターと戦っているシーンや、二階層の広場で新人騎士達が剣術の修行をしているシーンをピーピング(ガッツリ盗み見)し、見よう見まねで覚えた剣術を武器に頑張っていた。


今となってはバリアリバルの冒険者になり、色々なクエスト、色々な面倒事に首を突っ込んでは痛い目に合って...。

ワタポやクゥ、ハロルドやプー。

他にも色々な人に出会い、笑ったり、怒ったり、喧嘩したり、中には本気で殺し合いをした人もいる。

まだ半年、でも、もう半年も経ったのか。


「あら、エミちゃん?」


おいおい、誰だよ。人が思い出に浸り、夕日を浴び、エモさ感じてる時に声かけてくるのは...


「....奥さん!?」


声をかけて来たのはわたしが人間界へ召喚した5歳の時から底知れぬ愛で良くしてくれた、このドメイライトでレストランを営業している奥さん。わたしに住む場所や食事、衣服を与えてくれて、難しい言葉や文化を教えてくれた恩人。

挨拶に行くべきだとは思っていたが...奥さんにわたしが魔女である事を話した事はない。わたしが魔女であると知ったのは公開処刑の記事でだろう。とても挨拶には行けなかった。その奥さんがわたしを発見し、話しかけてくれた。


「ちょっとエミちゃん、アンタ大丈夫なのかい!?」


「えっと、大丈夫だよ」


「...ちょっと来なさい」


「へ?」


「いいから来なさい!」


「...あい」



突然怒り始めた奥さんはわたしを強引に店まで引っ張る。

今さら会わせる顔なんて持ち合わせていないわたしはレンガの様な石畳へ視線を向け、店まで向かった。



どうやら店は夕食時のゴールデンタイムまで閉めていたらしく、客は誰もいない。

カウンターで奥さんの帰りを待ちつつ、夕食時に提供する料理の下処理を夫がしていた。


「おかえりー、お?懐かしい顔だなー!おかえりエミちゃん」


「...ただいま、パパさん」


魔女には父親は存在しない。

そのせいか最初はどう接するべきなのかわからない未知の存在だったが、気さくな性格で「パパさんと呼んでくれ!」と胸を張って言われ、そこから仲良くなり動物の事や和國のおつまみ、エイヒレの旨さを教わった。


奥さんに誘導されるままカウンター席に座ると、テーブルにグラスが置かれた。グラスの中には黒い液体が気泡を上げている。わたしがいつも頼み飲んでいた平凡なジュース、コーラだ。


「あ...ありがと」


こーゆーのを気まずい。と言うのか。

嫌いな人なら見えないフリの1つや2つ出来るが、嫌いじゃない人に対してこのスルースキルは発動しない。そしてわたしは15年間、奥さんとパパさんを騙していた。今さら何も言えないし、今だってここに居ちゃいけない存在だろう。


食材の下処理を終えたパパさんはタバコに火をつけ、一息入れる。すると奥さんはコーヒーを入れ、パパさんの前へ1つ、もう1つを自分の前へ。


活気ある街の生活音が店内に射し込む夕日に混じり届く中、沈黙に耐えきれずわたしはクチを開いた。


「あの、ごめんなさい。わたし魔女って事隠して、2人を騙して...」


カチャっとコーヒーカップが置かれる音が鳴り、パパさんが言う。


「そんな事はどうでもいいんだ。それよりエミちゃん、お前さんは大丈夫なのか?」


「え...怪我とかは、ないよ」


「違う。お前さんの仲間はお前さんが魔女って事を、受け入れてくれてるのか?」


「うん。知らなかった人もいたけど、みんな魔女であるわたしも受け入れてくれたよ」


「そうか。それならよかった」


そう言いパパさんはクチを閉じた。

次は奥さんがわたしを見て、心臓が破裂しそうになる程の間をおいて、言った。


「魔女とか人間とか、そんな事はどうだっていいんだ。ただエミちゃんが無事で、元気で、みんなとも仲良くやっていけてるなら、それだけで充分なんだよ」


そうか。わたしが人間や他の種族と関わる事に抵抗がないのは、魔女にはない温かさをみんな持ってて、魔女界じゃ知る事が出来ないこの温かい気持ちを知っているから、種族だのの区切りを消して、みんなで仲良くなりたいって思ったんだ。

ここから始まってたんだ....わたしは。


「ありがとう。奥さん、パパさん、わたしやっとわかった」


「「??」」


「最初に会った人間が奥さんとパパさんだったから、今のわたしが居るんだ!今ね、わたし種族とかそんなの無しで、みんなが助け合ったり馬鹿な事やって笑いあったり出来る感じの世界を求めてるんだ!あのね、わたしの友達はね」





つい、つい話し込んでしまった。

奥さんとパパさんに今までわたしがしてきた冒険...と言うにはちょっと重すぎる話もあるが、わたしがこの街を出て、どんな人と出会い、どんなモノを見て、どんな事を知って、何を思ったのか。全部は話してないけど、話した。


窓から射し込んでいた夕日はもう消え、空はすっかり夜色に染まっていた。


「あ、ごめん、店開く時間過ぎちゃってない!?」


フォンで時間を確認すると、時刻は19時少し前。18時くらいから夕食戦争が始まるので、完全に時間を過ぎていた。

慌ててフォンからコーラ代の200ヴァンズを取り出すと「お金はいらない」と2人に言われる。

わたしだってもう立派な冒険者だ。今までただ食いした代金...までは払えないが、これから食べたり飲んだりする代金くらい、払えるだけの収入はある。が、ここは素直に甘えさせてもらおう。

フォンへ200ヴァンズを収金し、2人へ挨拶をする。


「本当にありがとう、また絶対来るからね!」


そう言いドアへ手を伸ばすも、わたしがドアへ触れる前に、ドアが開いた。押しても引いても開くタイプの有能なドアだったからいいが、これが外から押すタイプだった場合、わたしは鼻血噴射の貧血状態だっただろう。

closeと書かれた文字が読めない馬鹿はどこのどいつだ。


「ほらやっぱりいたー!ボクの感知スキル凄いでしょー!」


プー?


「魔女の粘りつく様な魔力なんて、子供でも感知できるわよ」


ハロルド!?


「粘りつくって...エミちゃやほー」


ワタポ!?


「え、なんで!?」


わたしは3人と1匹、突然現れたギルド フェアリーパンプキンへそう言うと、ワタポが答える。


「一緒に夕食どうかなーって話してて、エミちゃ探すのに魔女の魔力を頼りに来てみたらレストランにいてね...ってやっぱりクローズって書いてあったんじゃないのプンちゃ!?」


「え?クラーケンって書いてあったんだよ?ね、ひぃちゃん」


「クラーケンはKraken、クローズはclose、どんな眼してたら読み間違えるのよ!それにクラーケンってモンスターじゃない!」


「....、ねぇ」


わたしはフェアリーパンプキンのやり取りを見て、奥さんとパパさんの方へ眼線を送り、店オープンしてご飯食べてっていい?と聞こうとすると、そう言う前に2人は笑い、頷いてくれた。


わたしは一度外へ出て、Krakenならぬcloseをリバースさせopenの文字へ。すると看板が照明に照らされ、店内のランプが全て点灯、パパさんの趣味のジャズが流れる。


キューレへ[情報は明日にでも、今日は買い取りなしで、[夕食まだなら一緒にど?]とメッセージを飛ばすとすぐに、[了解、都合のいい時連絡を。夕食の件も了解、魔力感知で今から向かう@90]と返事が届く。


フェアリーパンプキンズは奥さんとパパさんへ、突然押し掛けてすみませんのペコリ。


奥さんがわたしとの関係を話すと、3人はなるほど!と表情を変え、会話を楽しみ始めた。


openを見て街の人達も集まり、@90ことキューレは気が合うのか、猫人族のゆりぽよと一緒にご来店。



久しぶりに食べた奥さんのハンバーガー、パパさんの気まぐれ野菜サラダは美味しかった。






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