◇106
翡翠色の空にコミカルな三日月が浮かぶ。
朝がくれば三日月が気持ち良さそうな寝顔を見せ、夕方から夜にかけて三日月は眼を覚ます。太陽が顔を出す事のない空。
街にある大きな時計塔の歯車は唄い、時を奏で時刻を知らせる。
ネズミの様な顔を持つ機関車は蒸気を吹き出し、小さく発光するエメラルドグリーンの線路をケタケタと笑い声をあげ走る。
ランタンランプを持つ年老いた木々の枝で身体を休める翼を持つ猫。地面を見て猫は老木へ他愛ない会話を飛ばす。
ランタンランプの温かい光の下でカエル達はトランプの変わりにトカゲやコウモリの革を使いコントラクトブリッジで鉱石を賭け、トカゲやコウモリの骨を使ったチェスで食事を賭け、ゲームをしている。
街にある建物は石や鉱石ではなく、魔結晶を加工して作られた鉄と宝石が混ざった様な物質のモノで作られていて、機関車も一見鉄に見えるが魔結晶素材。
人間界の絵本などでは痩せ細った木々に不気味な雰囲気を持つ世界。が定番化されていて、それがその世界なのだ。と思って疑わない者も多いだろう。しかし現実は創造を洗練した街並み。そしてどこかコミカルでユーモラスな雰囲気を持つ。
それが 魔女界。
魔女界で一番大きく、半端なレベルでは発見する事さえ不可能な建物、魔宮殿ヴァルプルギス。
ハイレベルな魔女達が定期的または緊急時に集まる。
コツ、コツと心地よい足音を響かせヴァルプルギスに到着した1人の魔女。
浅く被ったウィッチハットから見える濃い緑色の髪と宝石の様に真っ赤瞳。魔女なのに杖系ではなく、剣を背負う人物はヴァルプルギスの最上階にあるドアを開く。
魔宴...魔女達の会議に遅れて登場した緑髪の魔女はドアを閉じ、ドアノブをパキンっと折り、ひとクチかじり不満そうな声を溢す。
「ん~、ヴァル宮のチョコは何度食べてもビターだね」
「相変わらず行儀に育ちの悪さが滲み出てるな。ダプネ」
遅れて登場した緑髪の魔女の名はダプネ。
今ダプネへ言葉を飛ばしたのは濃い紫の髪と真っ黒な瞳を持つ魔女グリーシアン。
「...また本体はヒッキー?フェイクもコックアイで可愛い眼だね。シアン」
黒一色の瞳をコックアイ、ゴキブリみたいな眼と言われたグリーシアンは全身から冷たい魔力を溢れさせる。ダプネは残りのチョコレートをクチへ投げ込み、グリーシアンを挑発する様に左人差し指を動かし誘う。
ピリピリと空気が揺れ、床が軋む程の魔力を無言でぶつけ合う2人を金髪の魔女が黙らせる。
「Sit down」
金髪の魔女が高圧的に 座れ とクチにした瞬間、睨み合っていた2人の魔女の全身は床に吸い寄せられるかの様に姿勢が低くなり、耐えきれず床へ張り付き状態に。
ミシミシと鳴く赤白のメタリックカラーの床を気にする事なく、金髪の魔女はよく通る声でダプネとグリーシアンへ言う。
「話が始まらない。喧嘩するなら後で勝手にしなさい。ここで喧嘩するなら邪魔。わかった?」
現魔女界で一番の実力者の魔女エンジェリア。大魔女様と呼ばれる魔女界のリーダーの娘。人間界にいる青髪の魔女エミリオの母。
グラビティ系魔術を詠唱なしで発動させ、魔剣士ダプネとフェイクシアンを重力で黙らせた。2人の魔女が魔力を抑えた事を確認し、さらに強い重力を一瞬与え、グラビティ魔術を解除、集まった魔女達を一度見て、エンジェリア話を始める。
「人間界に捨てた魔女エミリオの魔力がマテリアでも抑制出来なくなってきたわ」
「エミリオ、エンジェリアの子供。私、家族いない。だから関係ない」
テカテカとヌメり湿る甲殻を持つ黒と赤の大型ムカデをテイムしている幼いテイマー魔女シェイネ。じっとりとした瞳をエンジェリアへ向け言葉を放つと、ムカデの頭を撫で「ムーちゃん、今日も元気」と頬をピンク色に染めムカデのクチへキスする。
「うわ...キモ」
ダプネは少女が自分より大きなムカデに照れキスする異常な姿に、顔を歪めた。
エンジェリアはシェイネの言葉に溜め息を吐き出す。
「関係ないって思うのは自由よ。でもみんなもエミリオの事を知っているわよね?どんな性格でどれだけの魔力を持っているのか...そして人間界には何があるのか」
エンジェリアは話しつつ指を動かし描く。するとメタリックレッドの長テーブルに座る自分以外の7人の魔女全員の前に青白く光るウィンドウの様なモノが浮き出る。数秒後、そのウィンドウにはある映像が流される。
「相変わらず凄腕のピーピング術ですね!」
赤髪の魔女 ラヴァはエンジェリアの使った魔術にはしゃぎウィンドウを覗き込む。
「人間界にいるエミリオをターゲットにピーピングしたわ。どうやら...黄金の魔結晶に関わっているみたい」
黄金の魔結晶。
このワードがエンジェリアのクチから溢れた瞬間、魔女達の表情は変化する。鋭く、冷たい魔力が無意識に溢れ出る魔女達。戦闘時と似た雰囲気に変わるほど、黄金の魔結晶は魔女達にとっても特別なモノだった。
「エミリオのマテリアが仕事しない、黄金の魔結晶と関わっている...そして近くにいる黒髪の女は悪魔」
ビンに入っているエミリオよりも近くにいる悪魔へ反応するグリーシアン。黒い瞳が不気味な光を宿し、舌打ちを炸裂させる。
「そう、悪魔が近くにいる。この大陸にある魔女界にもエミリオの魔力が微量でも届いた。悪魔族もエミリオの魔力を感知していると思うわ」
エンジェリアはグラスに真っ赤なワインを注ぎ、魔女達に考える時間を与える様にワインを楽しみ始める。
7人の魔女達は黙り考えていると、シェイネが呟く。
「エミリオが黄金の魔結晶を拾う前に、私達がとる。悪魔も多分狙ってる。人間も、他の種族も、魔結晶を狙ってる。どうする?いく?ムーちゃん」
キシキシと足を動かし笑う様な音をたてるムカデ。
エンジェリアはシェイネを見て細く小さく笑い、すぐに表情を戻し言った。
「シェイネ。行ってくれるかしら?」
「ムーちゃん?いく?うん、わかった!.....エンジェリア、私とムーちゃんは行けるよ。でも邪魔するならエミリオも近くの人も悪魔も、殺しちゃう」
「構わないわ。でも派手な行動は避けなさい。グリーシアン、貴女もシェイネと一緒に行きなさい」
エンジェリアは微笑を浮かべグリーシアンへ言うと、意外にもグリーシアンは頷いた。
「悪魔も魔結晶を狙って動き始める頃だと思うわ。派手な事は悪魔に任せて、私達は確実なチャンスを狙い、奪う。人間界に行ってもらう2人は情報収集をメインに魔結晶を狙ってちょうだい。マナサプレーションは使えるわよね?」
「マナサプは上級魔女なら全員使える。最上級のわたし達には余裕すぎる魔術だよ。エミリオはマナサプを知らない....ゴミマテリアじゃ抑えれるワケないっしょあの魔力」
ダプネはエミリオを覗き込み、笑いを堪えるも、我慢できず吹き出し爆笑する。
エンジェリアは響く笑い声を止める事もせず解散を言い、魔女達の魔宴は幕を閉じた。
解散時、グリーシアンがエンジェリアに呼ばれていたが、ダプネは何も言わず他の魔女よりも早くヴァルプルギスを後にした。
◆
「その時は殺しても構わないわ。グリーシアン」
「わかった。そうなった場合、瞳と魂は私が貰ってもいいんだな?」
「ええ、自由に使ってちょうだい」
ヴァルプルギスから出てすぐにピーピング術を使ったダプネだったが、聞き取れたやり取りは今のだけだった。
「...あの バカ。人間界にいても魔女達へ迷惑かけて...何してるんだよエミリオ」
呆れながらも楽しそうに、または嬉しそうにダプネは呟き、ピーピングをやめ魔女街へ溶け込んだ。
◆
ビンの中から悪魔の泣き顔を見た。
黒色のハート型の石を拾いあげた悪魔ナナミは赤い眼を赤く染め、ハート石を見つめる。
魔女は死んだ時、その場に魂を残す。悪魔は死んだ時、心臓を残す。
魂も心臓も死んだ瞬間、アイテムとしてドロップする。
ナナミが今拾いあげたハート石は小振りだが[悪魔の心臓]そのもの。
例の魔結晶を兵器として使う場合、必要になるアイテムの1つだが、もう魔結晶は兵器としての力を持っている。
魔女の魂も悪魔の心臓も、他のアイテムも必要ではない。必要なのは世界樹が封印していた複数ある塔の中に眠っている魔結晶と、その塔のどれかにある黄金魔結晶の力を兵器として炸裂させる何か。
塔に黄金魔結晶をセットし、そこからゲキヤバなビームでも出す感じだと、わたしは思っている。
まぁ色々あると思うが、噂の塔はまだ顔を出していない。
今どうにかしなければならないのは魔結晶の件ではなく、まずこのビン詰め状態。
ホムンクルス気分は一生分味わった。もうそろそろビンから出たい。
そして、冒険者と騎士のバトルをどうにか止めなければならない。
ドメイライトとバリアリバル....ノムーとウンディーのバトル。これはまだ規模は小さいが戦争と言われれば戦争だ。
とにかく今の段階でうまく止め、どうにかノムーとウンディーの仲も壊さず終わりに出来ないものか...。
てゆーか騎士団長がレッドキャップメンバーなんだよ!って全員に教えて、それを全員信じてくれれば、うまくいきそうな気がする。
変な鎧装備の変な騎士団長...そうそう、今わたし達がいる廊下の奥にいるアイツみたいな。
「騒がしい音が聞こえて様子を見に来たのだが...不思議な光景だな」
突然現れたドメイライト騎士団長でギルド レッドキャップのメンバー、フィリグリーはビン詰めのわたしと泣き顔の悪魔を見て呟いた。
考えてみれば、ここは騎士団本部。騎士団長が居てもおかしくはないが...このタイミングで現れるとは。
「何しにきた...フィリグリー」
同じギルドメンバーへの言葉とは思えないナナミの言葉。
フィリグリーは数秒黙り、言った。
「ここは私の城だ。ここに私が居ても不思議ではないだろう?それと...その手に持っているモノは[悪魔の心臓]では?」
ナナミは黙りフィリグリーを睨む。わたしもここは黙り、ただ2人の会話を聞いていた。
悪魔の心臓に反応したフィリグリー...やはり魔結晶の力については知らないのか?
「悪魔の心臓、そしてそこに魔女がいる。一気に2つのアイテムが揃うとは幸運な事だ」
「この心臓は渡さない。そして...魔女も渡さない」
心臓は渡さないと言うのは予想出来たが、まさかわたしまで守ろうとしているのかナナミ。ムカつくけどいい悪魔かよ。
「うむ、それはどういう事かな?君は我々の仲間ではなく、魔女の仲間だと言いたいのかね?」
「お前達の仲間は辞める。魔女の仲間でもない。私は独りで生きていく事に今決めた。魔結晶もお前達から貰う」
なんだなんだ裏切りか!?と踊る気持ちをわたしは必死に抑え、黙りフィリグリーの言葉を待った。
フィリグリーは驚きもせず頷き、小さく笑って言った。
「なるほど、日頃から君の行動は少々眼に余っていた。その魔女に君が単独で会いに行った時も挨拶をしただけ...狩る対象に挨拶する狩人など聞いた事がない。裏切りも充分予想出来る範囲の行動だ」
確かにフィリグリーが言った様にナナミはわたしに挨拶しに来た事があった。本当に挨拶しに来ただけで何もせず帰った。あの時わたしを狩っていれば今こんな事になっていないだろう。リーダーの指示だと思っていたが単独だったとは...。
もしかして、この悪魔は悪魔の自分を受け入れてくれる場所を人間界で探しているのではないか?挨拶しに来た時も、魔女であるわたしが人間に混ざり生活している現実を見に来たのでは?
悪魔も魔女も扱いは似た様なモノだし。
人間うぜー悪魔うぜーと言いつつ人間が好きで、でも自分は人間に殺され、悪魔にも嫌われていてモヤモヤしているだけじゃ?
「ずっと悩んでいた。自分は何処に居て、何をすればいいのか。悩んで見えなくなって、結果 妹の存在も無くした。妹に教えられたよ。私は悪魔だけど人間なんだって」
「...それはどういう意味だ?」
フィリグリーよ。いい事聞いた。わたしも意味がわからない。
「悪魔だけど人間として生きる選択肢も無い訳じゃない。選択しようとしなかっただけで、妹はこんな私の事も姉と...殺した相手にありがとうと言った。私はもう迷わない。奪ってしまった妹の時間も私が生きて、生きて、死んだ時...ちゃんとリーズに謝れるだけの価値が私に生まれる気がした」
謝る。悪魔のクチから出た言葉とは思えないほど、人間らしい言葉で人間らしい思考。
リーズを殺したのはナナミだ。それは消えない事実。
しかしリーズは悪魔になったナナミの事も御姉様と呼び、殺した相手にありがとうと言って消えたのも事実だ。
人間の色を強く残した悪魔。
だから悪魔達はナナミを嫌ったのだろう。
自分達と少しでも違えばどの種族も必ず、その違う相手を嫌う。
わたしも、ナナミも同じだ。
「謝る...か。自ら命を奪っておいてよく言えたものだな。君は人間ではなく悪魔だ。人間になりたい...戻りたいと思う失敗作の悪魔だ。失敗作の相手をする時間は私にはないものでな...しかし裏切り者は消さなければならない」
ま、そうなるわな。
フィリグリーの言う事もわかるし、ナナミの言う事も何となくわかる。
そして多分、ナナミは言うだろう。
「消していいよ。消せるならね」
ほら言った。すぐ挑発する。
ここは一言言っておこう。
「お前ら!喧嘩すんならどっか遠くでやってや!巻き込まれて死ぬとか勘弁、それなら盛大に公開処刑されたいわ」
さぁどっか行け!
そんでこの隙にわたしはビンから脱走して逃げる。魔女の魔力ムンムンで走り回ってればキューレに会う確率も高まるだろうし、なにより、もうビンの中はイヤだ。
「大丈夫だ魔女。予定通りお前は処刑させる。ナナミ...お前もここで終わりだ」
フィリグリーではない声が響き、声の主はゆっくり姿を現した。ハイディングしていたレッドキャップメンバーが2人、フィリグリーの後ろへ湧いた。
「リーダーが団長と悪魔を呼んで来いっつーから来てみたら...何やってんだよ」
「リリーはもう帰ったし、後は2人だけだが...1人減るって事でいいよな?」
声の主は元ユニオンで調子乗ってたロキ。そして羊のスウィル。
なんだって最近レッドキャップのメンバーと沢山エンカウントすんのさ...勘弁してくれよ本当に。
フィリグリー、ロキ、スウィルの姿を見たナナミは小さく舌打ちし、わたし入りのビンを持ち上げた。巻き込まないでくれ!と叫ぼうとしたわたしへナナミは言った。
「多分、私が殺されればすぐエミリオも殺される。仲間の所まで送るから...信じて」
悪魔の瞳がわたしを強く見る。
信じて...か。
ナナミが今からどう生きていこうとしているのか、少しわかった気がした。
罪を消化する様に生きる道を選んだか...。大変そうだけどわたしも似た様な感じだ。
命というモノは数字でしかなかったわたしを変えてくれたのは人間。今も命ってモノをハッキリわかってないけど、それでも生きて知っていく事をわたしは選んで進んでる。
罪を消化する様に生きる事も、同じくらい難しい事だと思うけど...ナナミを変えたのも人間。
悪魔も魔女も人間と関われば変われるんだな。
「...おけ、任せた。わたしデリケートだからね」
ナナミはビンをベルトへ装備し、息を小さく鋭く吸い込み、止めた。
線の様に見える景色の中、フィリグリーが構える大盾へ一撃を入れ、素早く下がりカウンターを回避。
ロキはヘビィボウガンでナナミを狙い、撃つもナナミは弾を回避し、そのままスウィルを狙う。広いと思っていた廊下が狭く感じる程、左右上下へ動き続け戦うナナミ。
回避、攻撃、回避、攻撃を繰り返しているも、フィリグリーは堅く、ロキとスウィルを狙った斬撃も素早くガードする反応速度を見せた。
相手は3人。それもS3クラスの犯罪者。悪魔ナナミも強いが、3人を相手にするのは正直無理がある。
「ナナミン!タンクよりガンナー先に潰した方楽だと思うけど」
わたしは出来るだけ生存率をあげようと、ナナミへ案を出してみるもナナミはかぶりをふってタンカーであるフィリグリーをターゲットし続ける。
先に壁を潰す作戦だと思っていたが...ヒーラーやデバファー、ガンナーがいる場合は先に潰す方が楽な事くらいわたしにも解る。しかしフィリグリーを狙い続ける。
大盾へ何度も攻撃するナナミ。攻撃モーションに入った瞬間、ロキがヘビィボウガンを撃ち、ベルトに吊るされたビン...わたしへとヒットしベルトから宙へ。
フィリグリーはわたしへ一度視線を送り、強烈なシールドバッシュでナナミの攻撃を潰しダメージを与える。
「スウィル。魔女を処刑しろ」
フィリグリーの言葉を聞く前にスウィルは剣術を発動させ、ビンごとわたしを斬るつもりだった。
こんな所で死んでられない。
どうせビンから出るつもりだったし、ビンを破壊して脱走してやろうと考え、わたしは上級雷魔術を詠唱、発動させた。
紫色の雷がビンの中を走り、ビンを破裂させ外で拡散する。剣術を発動させていたスウィルは雷へ対応出来ず思わぬダメージを与える事に成功し、わたしは廊下へ落ちる。
風魔術を発動させ落下死を何とか回避する事に成功するも、この後が問題だ。
小さいが魔女の魔力は溢れている。隠れてもすぐ感知される。そして魔術の威力もサイズに合った威力になっている。雷魔術を選んでよかったー、と心でホッとするも、下手をすれば一撃で殺される状況は変わらない。
「2人は魔女を」
ビンから解放されたわたしを狙え。とフィリグリーが2人へ指示を飛ばす。
わたしは走り逃げようとするも、
「全ステータスが低下すんのかよコレ」
足も遅く、魔術の威力も微力、おまけに武器は行方不明。
最悪過ぎる流れでナナミはわたしに気をとられ二発目のシールドバッシュを受けスタンする。フラフラと揺れるナナミを無視し、フィリグリーもわたしを狙い廊下を揺らし走る。
殺される!と思う前にわたしに届いた、乾いた破裂音。
通常サイズでは聞き取れない音量だが、今のミニマムエミリオさんにはハッキリ聞こえた。そしてこのタイプの音を出す人物をわたしは知ってる。わたしはニヤリと笑いレッドキャップの3人を見た。直後、複数人の足音で廊下が揺れ、迎撃音が耳を刺す。
白金色の髪を複雑に編み結んでいる義手の剣士。
薄桃色のサイドテールを揺らす半妖精の剣士。
黄金色の毛先を逆立てる雷魅狐の長刀使い。
ミニマムなわたしを尻尾で打ち上げ、背に乗せてくれた白銀の狼。
「エミちゃ無事!?」
レッドキャップの攻撃を剣撃し、叫んだのはワタポだった。数日ぶりに会ったワタポはボロボロの姿でもわたしを、両腕を奪った魔女を心配する。
「フロー無事ニャ!」
会わせる顔もない。と思っていたわたしの変わりに猫人族のゆりぽよが答えると、ワタポ達は剣撃を数回入れ、下がる。
一緒にいる騎士はフィリグリーを見て驚き、ルービッドと音楽家はロキを見て溜め息を吐き出した。
「お前さんはどうする?戻って騎士団長様を助けるかのぉ?レッドキャップメンバーと一緒に居るが...」
キューレはビンの中にいる新たなミニマム族へそう言うと、中の人影は何かを伝える様に動く。
ビンのコルクを抜きわたしの横へミニマム族を解放し、指をパチンっと鳴らし、可愛らしい爆発音と煙がわたし達を包みサイズが元通りに。
「やっと戻ったでやー!シンディもミニマムってたんだね」
巨乳眼鏡の騎士、シンディへそう言うも、シンディはフィリグリーを見て珍しく鋭い表情を浮かべる。
「詳しい話は後でする。眼の前にいる3人の男はレッドキャップ...敵だよ」
わたしは全員に聞こえる様に言った。魔女の言葉をそのまま信じる訳にもいかない騎士達はフィリグリーへ言葉を飛ばす。
「騎士団長、これは?」
片腕が義手の騎士は鋭い声で質問すると、フィリグリーは無色光を放つ剣を振るった。
驚くべき速度で剣術を立ち上げ、煙る速度で振られた剣は飛燕系剣術を飛ばす。
戦闘モードではなかったわたし達だったがギリギリで回避する事に成功し、続くヘビィボウガンの攻撃はゆりぽよがまさかの矢で相殺、迫る剣撃はルービッドが剣で受け止めた。スタンから回復していたナナミは背後からフィリグリーを襲うも、大盾で攻撃をガードされる。
「...私はドメイライト騎士団長であり、レッドキャップのメンバーだ」
誤魔化す事もせずフィリグリーはそう言い放った。
全員殺すから知られても問題ない。と言わんばかりの瞳をわたし達へ向け、ナナミを大盾で押し返す。
「ドメイライト騎士団長、元ユニオンリーダー、元ドメイライト王国の姫様の執事...がS3の星付きギルド レッドキャップのメンバーじゃったとはのぉ...ウチはビックリしたのじゃ」
妙にわざとらしく喋るキューレへ、ロキは笑った。
「情報屋も知らない情報だったか?キューレ」
続くようにスウィルが呟く。
「懐かしいね...、姫様はお元気でしょうか?」
「その喋り方うぜぇよスウィル」
「言葉使いがなってませんね、ロキ」
この状況...わたし達の方が数が多い状況で会話し始めるロキスウィル。フィリグリーは表情1つ変えずジッとこちらを見つめる。
「...んじゃアレかのぉ?魔女を公開処刑しろと言ったのはお前さんらのリーダーの指示かのぉ?んや...数ヵ月前セツカを港でハメたのも、数年前レイラ隊を孤島へ送ったのもレッドキャップの指示...かのぉ?」
キューレはフィリグリーを挑発する様に顎を向け言った。するとフィリグリーは笑い答える。
「孤島...懐かしい話を引っ張り出すとは情報屋の記憶力も恐ろしいものだな。魔結晶の隠し場所がまだハッキリしていなかった時期だったもので、孤島にあるのではないかと踏み、レイラ隊を送ったが...残念ながら魔結晶の有りかではなかった様だが」
何の話をしているのかサッパリわからないが、とにかくこの騎士団長は何年も前からレッドキャップメンバーだった事はわかった。
「そーかそーか、ウチの話は終わりじゃ」
キューレは話を終え、珍しく短剣を抜いた。クロータイプの武器を使っていたハズだが、今日は中々の雰囲気を持つ短剣を装備している。
「エミちゃ」
ワタポはわたしの名を呼びフォンを素早く操作し、青色の細剣を取り出した。
「るーくんから預かってたエミちゃの剣。デザリアで拾ってくれてたみたいだよ。後でお礼言いなね」
ワタポへお礼を言い、久しぶりの会話は会話とは言えない程短く終わった。
わたしは氷樹の細剣を受け取りその重みを再確認する。
見た目の繊細さからは想像出来ない重みを持つ氷樹の細剣。この武器も久しぶりだ。
濃い青色の鞘からアイスブルーの刀身を露にし、構える。
「逃げる気はないと思うけど、まぢ逃がさねーよ」
言い放ち一直線にフィリグリーを狙い走った。わたしの単独突進を開戦合図に、ドメイライト騎士団本部七階廊下は揺れる。
氷樹の細剣に青色の光を纏わせ、魔術と剣術の融合ワザを披露する。
五連撃氷属性剣術 アイス ホライゾンをフィリグリーの大盾へ撃ち込んだ。斬撃に氷属性を持つ剣術は大盾に受け止められるも、狙いは氷は大盾に根付かせる事だ。
ヘビィボウガンの銃口が向けられるも、誰かがどうにかしてくれるハズだ。わたしはロキを無視し叫ぶ。
「ワタポ!爆破!」
わたしの声を予想していたのか、たまたまなのか、ワタポの剣 ダリアクストゥスは強い無色光を放っていた。
「ッ...たァ!」
と、気合いの声を漏らし特殊効果爆破を乗せた七連撃剣術をフィリグリーを守る大盾へ炸裂させた。氷結状態の大盾に爆破の衝撃と火力は絶大なダメージを与え、割れる様に盾は砕け散る。
よし!と内心でガッツポーズをキメたわたしの眼に映ったのは盾を砕かれた事に顔色ひとつ変えず、長剣に無色光を纏わせ踏み込むフィリグリー。距離から考えてターゲットはわたしではなく、ワタポだ。
魔術を詠唱せずただ黙ってディレイを受け入れていた自分へ舌打ちし、ワタポが放った七連撃という中々の連撃剣術が、わたしの五連撃剣術のディレイクールタイムを稼いでくれていた。
魔術詠唱しつつ氷樹の細剣を構え、自分が使える最も重い剣術 単発重剣術 ライアル を両手持ち細剣でフィリグリーの長剣を上から叩く。
魔術をファンブルしそうになる程、強い衝撃が肩まで響くも、フィリグリーの剣術は止まらない。
2人の間に入り込んだわたしは剣術を潰す事に失敗し、長剣のターゲットになっている。ここで詠唱していた中級風魔術を発動さた。風の壁がフィリグリーを圧し、速度が低下した事により、バックステップを入れる時間が生まれる。決して華麗ではないバックステップを披露し、ついでにディレイに襲われているワタポの腕を引いた。多少でもフィリグリーから距離を取る事にも成功し、本来詰めるハズだった距離にわたしが乱入した事により、フィリグリーは剣術を発動させてしまったのでワタポには届かず、重い二連撃が空気を圧し斬った。
「あっぶねー...あんなのガードしても死ぬわ」
「騎士団長だもんね。一瞬の油断が大変な事になる」
じりじりと揺れる空気の先でフィリグリーは廊下を蹴った。重い剣撃をわたしとワタポへ交互に、素早く撃ち込んでくる騎士団長様。ワタポが言った通り、一瞬の油断が大変な事になる。
2人相手に冷静過ぎる剣術を放つフィリグリー...相当PvP慣れ...いや、PK慣れしているなコイツ。
「エミちゃ、次で同時にブレイク」
ワタポはそう呟きクストゥスを握り直す。ブレイク...戦闘時間を一瞬止める様に強撃を入れる事だったハズ。
しかしあれはレイドやパーティ中にチェンジする時に使う...、そこまで思い出し、わたしは氷樹の細剣を両手持ちにし、ワタポと同時に踏み込んだ。
騎士団長様の攻撃中の長剣へ強撃をぶつける。するとノックバックが発生し戦闘に割り込む隙が一瞬だけ生まれる。
2本の剣を持つ騎士と短剣を持つ片腕が義手の騎士が割り込むのを確認し、わたしはロキとスウィルを見る。
慣れない武器を装備しているからなのか、ヘビィボウガンをうまく扱えていないロキをターゲットにわたしは魔術を詠唱、発動させる。
紫色の雷がロキへ一直線に進み貫くと、周囲を舞っていた微粒子が針の様な形に変化し、ロキへ追撃を入れる。
「プンちゃん!」
「あい!」
ハロルドの声にプーが返事し、左手に青白い雷を集め、ロキを掴む。雷はロキの全身を駆け回り、ダメージよりもデバフ 麻痺に期待が高まるも、ロキは状態異常対策をしていたのか麻痺に陥る事はなかった。
しかし一瞬生まれた隙を情報屋のキューレ、猫人族のゆりぽよが攻める。
恐ろしい速度でロキを斬った短剣、黄色の雷の様なエフェクトを放った矢がロキを掠めた。するとロキは廊下に倒れ、全身に黄色の雷がピリピリと顔を出す麻痺状態に。
ルービッドが拘束アイテムを使い、ロキを捕獲する事に成功。
スウィルの相手はナナミンと音楽家がしている。
騎士団長はどうだ?
わたしは様子を見る様に振り向くと、倒れる二刀流騎士と、宙を舞う義手を瞳が捉えた。シンディが水魔術で、クゥが炎で攻めるも、長剣は簡単に水と炎を斬り消し、片腕を失った騎士へ剣を振り下ろす。
わたしはワタポと同時に廊下を蹴ったが、ワタポの方がSPDが高く、振り下ろされる長剣をクストゥスで受け止める。しかしクストゥスは長剣に圧し負け、ワタポの義手は右肘から切断される。
「っ、クッソ!」
わたしは毒つき剣術でフィリグリーに挑むも、妙な感覚に襲われた。フィリグリー本体を狙った氷樹の細剣は吸い込まれる様にフィリグリーの長剣へと軌道を変えた。
突然の軌道変化に剣術はファンブルし、全身の力が抜ける。長剣は氷樹の細剣を簡単に砕き、わたしの腹部を冷たく通過した。
倒れたわたしは氷魔術を素早く詠唱し、腹部の傷を凍結させる。ロキ捕獲を終えたメンバーがスウィルを無視しフィリグリーへ攻めた事により、追撃は免れるも、痛みは凍結する事は出来ない。
「数が多いな...スウィル、この場は一旦退くとしよう」
「賛成だ」
戦闘中に会話をし、フィリグリーは濃い無色光を纏った長剣を凪ぎ払い、強烈な剣風で距離を作る。スウィルは連撃を放ち、素早くバックステップ、追おうとするプー、ゆりぽよをハロルドとキューレが止める。
フィリグリーとスウィルはロキにさえ何も言わず、小さな人形を取り出し、宙で破壊する。すると空間魔法の入り口が展開され、その中へ溶ける。2人を飲み込んだ空間魔法は入り口をすぐに消滅。
わたし達はフィリグリーに剣先を触れさせる事も出来なかった。
◆
キューレは拘束したレッドキャップメンバーのロキから武器やポーチ、フォンをスナッチし、ディアを使いビン詰めする。
音楽家はフォンからギターを取り出し、自然回復力上昇効果を持つ音楽魔法を演奏、ハロルドは義手の接合部分から斬り落とされた騎士の傷へ治癒術をかける。
「ワタポは腕大丈夫なの?」
痛撃ポーションをあおり、わたしはワタポへ質問すると「斬られたのは義手部分だから酷くない。痛みは凄いけどね」と言い、同じく痛撃ポーションを。
「ゆりぽよ、外の音はどうじゃ?」
ゆりぽよは耳をピクつかせ外、広場の音を拾い、キューレへ答える。
「あにょ悲鳴から広場は静かニャ。多分睨み合いしてると思うニャ」
年寄り染みた情報屋はうむ。と答えフォンを素早く撫でる。そして何かを再生させた。
キューレの声、フィリグリー達の声を録音していたらしく、再生させニヤリと笑った。
「これを使えば広場の戦いも終わるじゃろ。ついでに王様に報告と、セッカにビン詰めロキをどうするか判断してもらってじゃのぉ...ウンディーとノムーが組むのもアリじゃの」
「そうだね、あの騎士団長はリーダーじゃない。ボク達だけがじゃなく国が手を取り合わなきゃ内側から混ぜられちゃう」
内側から。プーが言った事をレッドキャップは得意の手口として今までも影からゴチャゴチャにしてくれた。
今回の件もウンディーとノムーを衝突させる為にわざとらしくわたしの公開処刑を発表した。
「もう大丈夫だ、ありがとう」
レイラと呼ばれる騎士はハロルドの治癒術で何とか出血を止める事に成功するも、派手な動きをとればすぐに血が溢れるだろう。わたしのお腹の傷も痛いし、広場が静かになっている今を狙って、音声データや騎士の証言を炸裂させるべきだ。
それと、魔女と悪魔を認めてくれって事も、
「っとまって、わたしはどうにか粘るけど、ナナミンって元レッドキャップだし逮捕?」
「それは国のトップが決める事。私はその決断を受け入れるだけ」
デザリアの地下でバトった時のナナミンとは別人の様で、でもどこかスッキリした表情を浮かべる悪魔ナナミ。
スウィルを足止めしたり、フィリグリーと戦闘したりで、助かった事実もセッカに伝えよう。
それと...ワタポとちゃんと話して、プーにも謝らなきゃだ。
るーにもお礼を言って、みんなにもお礼を言わなきゃ。
「...んまぁ色々あるじゃろうけど、とりあえず広場まで行くとするかのぉ。怪我人はクゥに乗せてもらうか、ウチがちっさくして運んでやるのじゃ」
「私がロックなおんぶしてやってもいいけど、どうする?」
「音楽家...結構重傷じゃない?」
音楽家の傷を見て、わたしのお腹より重傷だった事にビックリしたが、本人が元気ならそれでいい。
わたしは自力で行く事を選び、怪我人をクゥの背に乗せ、騎士団本部内に倒れる騎士を拾いつつ外の広場へ移動した。
広場に到着するとすぐにキューレが音声データを拡散し、レイラやヘナ、シンディがフィリグリーとの戦闘を語り、結構簡単に戦いは終わった。
レッドキャップが魔女エミリオを使い、ノムーとウンディーを戦争させる作戦だった。と決定つけられ、バリケードからも解放されわたしとナナミン、他数名はドメイライト城へ。残りの冒険者は騎士団本部の復興に力を貸す事に。
◆
セッカは両親と数ヵ月ぶりの再会だというのに、堅い挨拶をし、すぐに本題へ入った。
戦争を起こしてしまった事への謝罪は私情バリバリでドメイライト王は即許してくれて、罪を背負う事もなく終わった。
そしてレッドキャップの件は大々的に発表。
ノムー、ウンディー、イフリーは手を組み、レッドキャップを追う姿勢に。封印塔の話も確定時期はまだ未定だが、必ず現れる事を大々的に発表した。
わたしは魔女だが、セッカやワタポ達冒険者、騎士の数名と、わたしがドメイライトに住み着いてた時代に世話になった街の人々までもが王様に「エミリオは性格悪いけどタイプの魔女」と言ってくれたおかげで公開処刑だの、逮捕だのから逃れる事が出来た。
ナナミンは猫人族の里で世界樹を殺した罪は消えない。
本来なら逮捕、処刑だが、黄金の魔結晶をレッドキャップから奪い返す事を条件に逮捕は一旦保留に。ドメイライトに悪魔は少々重いのでバリアリバルの冒険者として魔結晶奪還まで行動する事になった。レッドキャップの情報を知る限りナナミンは話し、わたしもリーダーのパドロックから聞いた話をした。黄金の魔結晶についても。
◆
あれやこれやとドメイライトを走り回って話して3日があっと言う間に過ぎ去った頃、リピナとまさかのハロルドの再生術でお腹の傷も完治。
わたしはワタポとちゃんと話をする時間を作った。
ドメイライトのわたしの家。
狭くて何もない部屋でわたしとワタポは向き合った。
「あの、最初に、ごめん」
「...何に対して?」
うっ...そう切り返してくるとは思わなかったわたしは言葉が詰まりそうになるも、どうにか答える事に成功した。
「心配してくれてたのに、他人だのうぜぇだの言った事。あの時は理解できなかったけど、今なら少しだけ理解できる。ワタポがなんであんなに怒ったのか」
心配するのに他人も何もない。大事に思うから、好きだから心配するんだ。
相手が他種族だろうが関係ないんだ。
「ワタシも人間のエゴ的なものを押し付けてたかも。ごめんね。でもエミちゃはもう少し人間...人を好きになってもいいと思う。頼る事も頼られる事もしていいと思うんだ。今までのエミちゃは頼るじゃなく使うって感じがするの」
そう言われれば頼る様な雰囲気で相手を使っていたかも知れない。クエスト[太陽の産声]の時もハロルドとプーにお願いした雰囲気だったが、わたしは自分が楽にクエストをクリアしたくて使っていただけだったのかも知れない。
「頼るも使うもお願いするも、形はほとんど変わらない。でも気持ちは違う。エミちゃから見れば気持ちなんて...って思うかも知れないけど、人間や人間と近い種族は気持ちも大切にする生き物なんだ」
「それは今回凄く感じた。あれだけ言ったのにワタポはわたしを助けに来てくれたし、プーにも酷い事言ったのに、助けに来てくれた。相手に対して正直な気持ちをぶつけてくれる生き物なんだなって。わたしにはそういう部分が弱かったのかもな...って」
「そうだね。無かったワケじゃなく、弱かったんだね。無かったならワタシの義手の為に眼を捨てようとしないし、近くにいるからいつでも殺してってスタンスにならないもんね」
ワタポは笑いそう言った。
今となっては懐かしい記憶だ。
初めてワタポと出会った時は騎士でギルドマスターで、初めて戦った人間もワタポで、初めて一緒にいたいと思った人間もワタポだった。
腕を奪って、腕を治して、わたしを殺してって...今考えれば何がしたかったんだろ、わたし。
でもワタポになら殺されてもいいし、殺されるだけの理由がわたしにはある。
「殺さないよ。ワタシもエミちゃに助けられたタイプだからさ」
「わたし何かしたっけ?」
「したよー。それこそ気持ち的な面では凄く助けられた」
「ほぉー、いい魔女じゃんわたし」
ワタポと出会って、セッカやキューレ、ハロルドやプーとも出会って色々知って、音楽家やビビ様、猫人族にアスラン軍団。ギルドマスター達ともこの数ヵ月で出会い、憧れてた冒険者にもなれた。
魔女である事ももう隠す必要もなくなったし、動いて、触れて、見て、人間界を知った結果、わたしはこの世界が好きだ。この世界にいる人達も好きだ。
「エミちゃも人間っぽくなったね」
「え?どゆこと?」
「喧嘩の時間より仲直りの時間の方が短い。他種族は喧嘩の時間が長いって本に書いてあったからさ」
「あー...うん、魔女は喧嘩が年単位だわー」
ここから他愛ない会話で盛り上がった。
この何でもない時間が凄く楽しくて、ずっとみんなと一緒にいれればずっと楽しいんだろうな。と思った。
みんなと一緒に適当で楽しい生活を送れたら、凄く楽しいだろうな...。
その為にはまず、レッドキャップから金玉を奪い返さなければならない。
アイツらは次どこで何をやらかすの...か、
「...ワタポやばい」
「ん?どしたの?」
「レッドキャップのリーダーは魔女の魂とかなきゃ始まらないと思ってる!」
「うん、聞いたよ?」
「次に狙うのは[妖精の浄血]って言ってたんだよ!」




