◇104
数年ぶりに会ったレイラ隊長はワタシの知る隊長とは違い、少々戸惑った。
細かい変化は勿論。髪型も昔は長かったけど今は昔に比べて短い。でもそんな変化に戸惑ったワケじゃない。
髪や装備の変化ではなく、雰囲気が違う。
落ち着いている雰囲気を持っていたレイラ隊長だったが、今は落ち着きと言うよりはクール...違う、冷たい雰囲気だ。
生きていた、再会出来た喜びよりも先に...怖い程変わった雰囲気にワタシは息を飲みレイラ隊長の前に立った。
...時代は変わる。
考え方も人も、変わる。
レイラ隊長に何があって、今の隊長が居るのか...気にならないワケじゃないけど、ワタシはここに...ドメイライト騎士団本部に、レイラ隊長に会いに来たワケじゃない。
魔女を、エミちゃを助けに...レッドキャップをこれ以上自由にさせない為に来たんだ。
「隊長...ここはどうか下がってもらえませんか?詳しく説明する時間は無いのですが...ここで魔女を処刑されると取り返しのつかない事に」
「私達の任務は侵入者がいた場合、それを速やかに排除する事。敵の言い訳を聞く気も、そんな時間も無い」
敵。
ワタシ達がした事は騎士だけじゃなく、街の人々、世界の人々から見れば悪。敵と言われ、更に今自分がしている事が正しいとは思えなくなった。でもここで何もしないで見ているくらいなら、敵にでも悪にでもなってやる。
エミちゃを助けたいって気持ちだけじゃない。他のみんなも助けたい。レッドキャップのしている事は許せないし、恐らくもっと大変な事を企んでいるに違いない。そういったモノからみんなを助けたい。
独り善がりかもしれない.....それでも、ただ見ていて何もしなかった事を後々になって、何も出来なかった。と言い訳付けるのは嫌だ。
ワタシがギュッと剣を握り直すとレイラ隊長は持っていた短剣をワタシへ投げる。
飛ばされた短剣を回避しワタシは一気に廊下を走ると水の剣がワタシへ迫る。
ワタシの剣、ダリア クストゥスは火属性ではなく爆破。水を剣で斬ろうが爆破属性のマイナスにはならない。しかし今の状況...2対1で剣術を使い魔術を潰すには危険すぎる。
ワタシは出来る限り前へ進む様に魔術を回避しレイラ隊長との距離を詰める。
迫る水の剣をワタシが回避している最中、レイラ隊長はフォンを操作し短剣ではなく剣を取り出した。
ほんのり赤い鞘から抜かれた深紅の刀身が一気にワタシを襲う。
「...ッ!」
グッと歯噛みし深紅の剣撃を薄赤色の剣撃で受ける。この隙に水魔術で牽制してきた魔術師はクゥとゆりぽよを追う為に、ワタシの横を走り抜けて行った。魔術師の姿が見えなくなった事をレイラ隊長は確認し、1度下がり距離を取る。
「追わなくていいのか?」
「はい。クゥもゆりぽよも強いですから」
レイラ隊長の言葉へすぐに返事を返すと、隊長は小さく笑い細く息を吸い込んだ。
「私達は隊長でも部下でもない。今騎士は出払っていて人手が少々足りなくてな...悪いが拘束ではなく、殺しでいかせてもらう」
騎士は出払っている...この言葉から考えて、広場にほとんどの騎士が居ると言う事だろう。ワタシ達を待ち構えていた上級騎士さえどうにかすれば、エミちゃを探し助け出せる確率が高まり、レッドキャップを発見する確率も同時に。
「ワタシも手加減しません...手加減しないよ」
言葉を返した瞬間、レイラ隊長は沈み込む様な体勢をとり、一気に開いた距離を縮める。移動速度が制限される鎧タイプの防具を装備しているにも関わらず、驚くべき速度で剣撃が届く範囲まで攻め込んで深紅の剣を振るった。
速い。そして攻撃は重い。
この速度は厄介なレベルではない。とふんだワタシは攻撃を受け止めそのまま押し合う形へ。剣のプロパティも装備者の戦闘ステータスも高い。でも、ワタシだって負けていない。ワタシの剣、ダリア クストゥスはハンドガード...鍔が無いデザイン。レイラ隊長の持つ深紅の剣のハンドガードへわざとクストゥスの刃をぶつける。
剣と剣がぶつかり合った時などに相手が剣を下げた場合、ガードしてくれる部分としてハンドガードが存在しているがワタシのクストゥスにはそれが無く、剣を握る手は防御なし状態と言う事になる。
一見マイナスに思えるがこの剣のいい所はまさにこのハンドガードが無い点。ビビさんにオーダーした時ハンドガード無しにしてもらえないか相談までした。
ワタシの両腕は義手...グローブで義手を隠しているので生身の腕の様に見え、盾や鎧の様に堅く切断されてもダメージ...痛みは多少発生するが致命傷になる事はない。相手がクストゥスの刃を滑らせワタシの手を狙ったとしても、無意味と言う事になる。
そして、ワタシが相手の手を狙いクストゥスで相手の剣刃を滑らせると大体...相手の武器のハンドガードに接触し止まる。
今まさにクストゥスはレイラ隊長の持つ深紅の剣のハンドガードに接触し停止している状態。
レイラ隊長はハンドガードに接触しているクストゥスごと剣を上へ押しあげようとするのに対し、ワタシは上から押し返す形に。
派手さのない攻防の中でワタシは動く。ハンドガードを擦る様にクストゥスを突き出し、この形からレイラ隊長を狙う。
ワタシの剣はハンドガードが無く、ワタシの腕は相手の剣に触れても斬れない。
このステータスとバッドステータスを利用し、レイラ隊長の剣刃に自分の腕を接触させ、右腕でクストゥスを強く握り突き出す。
ハンドガードがないクストゥスの剣先は滑る様にレイラ隊長へ向かう。
上から突かれる形になり、隊長の剣はワタシの左腕が邪魔になり防御に使う事は出来ない。
殺す気なんて無い。
ただ、自由に動く事が出来ない様なダメージを与えればいい。ワタシの狙いはレイラ隊長の左肩。
確実に狙い、突き出したクストゥスの剣先は堅い何かに接触し動きを止めた。
ワタシの攻撃中、レイラ隊長は素早く自分の左手を自分の剣刃まで移動させ、深紅の刃を逆手持ちの形だ強く握った。
数秒の遅れも許されない近接状態でも迷う事なく左腕を動かし、クストゥスの突きを左手首と肘の間で受け止めた。
左手を剣刃まで移動させ、その左手で刃を逆手で掴んだ事により肘が肩より高く上がり、突きを防御して見せた。
判断力だけではなく、戦闘経験値が高くなければこの行動さえ思い付かないだろう。
でも、オカシイ。
鎧タイプの防具を装備しているとはいえ...レイラ隊長が装備している防具は布や革よりも高いDEFを持ち、タンク専用の全身鎧防具よりも起動力の高い防具...内側や手のひらは鉄鎧に覆われていないタイプ。しかし接触した感覚は鎧の様に堅い。
なぜ?とワタシの脳内がレイラ隊長から情報を収拾しようとしている今この瞬間に、レイラ隊長の右足が薄い無色光を纏い、蹴り系の体術を使う。
ワタシは左腕を動かし、左腕で蹴りを受け止めるも蹴り系体術の重い衝撃がワタシを後ろへ下がらせる。
義手部分にダメージは無い。でも肩...生身の部分は若干痺れる様な感覚になる。
今の体術1つでもただ使用するではなく、威力をブーストする様に身体を使い放たれたモノ...戦闘経験値はやっぱり高い。
「惜しかったわね、ヒロ」
ワタシの表情を見てレイラ隊長は余裕ある微笑を浮かべる。
「完全にヒットした...とワタシは思った。でもその腕がワタシの攻撃を防御した」
ここで1度言葉を切り、考えられる事から一番可能性が低いモノを選ぶ。
一番簡単で可能性が高いモノは布革防具になっている内側の...防具の下にプレート系ガードを装備している事。一見内側は布や革の防具に見えるが内側のにプレートが装備されている為、ただの突きや斬りならば相当高いプロパティを持つ武器の攻撃でなければ防げる。一番難しく可能性が低いモノは...、
「隊長、その腕...義手 ですか?」
ワタシと同じ高性能義手を装備する事。ここで一番可能性が低いモノを言い、もしそれが当たれば相手は「まさか見抜かれるとは」と驚く。勿論絶対にそうなるとは限らないが大抵の人間はそういう反応を見せる.....今レイラ隊長が浮かべている表情と似た様な、驚きの表情を。
「...私の左腕は氷結の女帝に奪われた。氷島ウィカルムの気候が私を殺す事なく凍結させてくれたお陰で、今もこうして生きていられる。この義手は騎士団長が紹介してくれた鍛冶屋の」
「鍛冶屋のビビさんが作ってくれた義手...ですね?」
レイラ隊長の言葉に割り込み、ワタシはそう言いロンググローブを装備解除して見せた。以前とは違う灰黒色の義手を露にするとレイラ隊長は再び驚くも、すぐに表情を戻し頷いた。
ビビさんは冒険者だけど、冒険者である前に鍛冶職人で高性能の義手、義足を作る職人。お客として来た人は例え騎士であろうとお客。
冒険者だけ!や街の人々だけ!との看板を出している訳でもないので、作ってあげていても不思議ではない。
「あなたの左腕も私と同じだったなんて...お互い苦労した様ね」
哀れみを含んだ声で言い、レイラ隊長は腕装備を外し、義手を露にした。ワタシとは違い、肘から先が義手になっている。銀色でいかにも堅そうなデザインの左手を閉じて開いて。
はじめて自分以外に義手を装備している戦闘系ジョブの人に出会った。戦闘を日頃から行っている者ならば珍しい事ではない。そう思う反面、ワタシ以外に義手を装備してまで危険な道...モンスターや犯罪者と戦闘をする道を選ぶ者がいるとは思えなかった。
「隠していたつもりだったのだけど...もう義手を隠す必要もないわね」
レイラ隊長はそう言いながらフォンを撫で装備を変更させる。
背負った深紅の剣はそのままで、防具の鎧がマナの粒子を弾けさせる様に光りフォンのポーチへ収納される。
白と赤の布革系装備...鎧はオプションとして装備されていた様子で、鎧の下には防御力ではなくスピードを重視した、ワタシやエミちゃと同じタイプの装備が隠されていた。
装備変更を終え、フォンをしまったレイラ隊長は剣を手に取る。フォンを操作している時にワタシが攻めていた場合...十中八九斬られていただろう。重防具であの速度。今その重りがなくなった軽装備ならば反応速度も底上げされているに違いない。
ワタシはクストゥスを構え直し、鋭く息を吸い一気に廊下を駆ける。加速する中でクストゥスが、チッ と火の花を吐き出した音を確り拾い、無色光を纏わせる。
ワタシが今100パーセント狙い、最後まで発動できる剣術の中で威力も手数も多い、七連撃剣術 シルクリア ペインを選択し攻める。無色光が強く発光した瞬間に速度と体重を乗せ、完璧なタイミングで威力ブーストし発動された剣術は半端な対応では受けきれない。
「え...?」
シルクリア ペインは2.5秒ほどで七連撃を終え、剣術ディレイがワタシへのし掛かる。
ディレイに足掻く事も、ディレイを先伸ばしにする事も、意識を武器...右腕から切断する事もワタシは出来る。しかし今は何もせず...何も出来ずワタシは黙り磨きあげられた廊下を見つめた。
ワタシはギルドマスターになって、騎士になって、エミちゃと出会って、ひぃちゃやプンちゃと出会って、今のワタシは昔のワタシより間違いなく強くなっている。
それなのに...レイラ隊長はワタシの七連撃を一撃も触れる事なく、簡単に回避し今ワタシの背後に立っている。
ディレイ中、首を動かす事や簡単なガードは出来る。でもワタシの脳は回避された事実にフリーズし、何も考えられない状態に陥った。
今現在ワタシがミスする事なく扱える最高ランク剣術の1つが、まばたきする様に、当たり前の様に、回避された。
自信があった。
他の冒険者より多少でも強いく、戦闘に対しての経験値量は違うと思っていた。その自信が今あっさりと覆された。
対人戦闘が不馴れな猫人族、ヘイト管理や戦略的な立ち回りが出来ない冒険者を見て、自分に自信を持つではなく、過信してしまっていたんだ。と今この状態に陥って知る...。
猫人族は驚くべき速度で対人戦闘、パーティ戦闘技術、知識を学び成長した。半端な努力ではこの速度で成長は出来ない。ワタシは...半端な努力を自分で評価し、自分で自分を認めてしまっていたんだろう。だからワタシが今放った剣術を、ガードやパリィする必要がない程未完成で弱い剣術だとレイラ隊長に判断され、回避されたんだ。
ワタシはその回避すら...見えていなかった。
ディレイで動く事も出来ない状態で、ワタシの心はすぐ諦めの色に染まる。
レイラ隊長がワタシの背後で構えた深紅の剣が自分に届くのをただ待っていた。
得た力を過信すれば自分で自分を殺す事になるんだ. . . 。
そんな事を今更になって思っても、文字通り遅い。
ワタシを斬るであろう深紅の剣へ背を向ける形で、今までの現実から背を向ける形でただ最後を待った。
しかし剣は一行に届かない。ディレイの重さも突然消え、視界がモノクロに染まり、まるで時間が止まったかの様な。
恐る恐る振り向くとレイラ隊長は白黒に染まり停止している...本当に時間が止まってる。誰かの魔術?
ワタシは眼の前に広がる白黒の世界を急ぎ見渡すも、姿どころか気配すら感じない。まるで自分1人が別の空間にいる様な...、
『そうだよ。ここはあなたとワタシの世界...みたいなモノかな?』
突然聞こえた声にワタシは慌て振り向き、眼を疑った。
金色の長い髪を束ねた女性が...ワタシがワタシを見て立っていた。
『説明してる時間は残念ながら無いの...察してね』
意味が解らない。
何がどうなって...今ワタシに何が起こっているのか。
そんなワタシの気を察したのか察してないのか、もう1人のワタシは言葉を続ける。
『あなたは今、色々と言葉を探して、諦める理由を探して、生きる事を諦めた。でもワタシはあなた。本心も全部わかっちゃうんだ』
本心...?
『心のずっと底で生きたい...いや、違うなぁ...、もっと簡単な感じかな?...!先を、明日を、未来を見たいって思ってる!』
強く言いワタシを見つめるワタシの眼には、水面に石を投げ入れた時に起こる波紋の様な円が...いくつも描かれていた。
その眼はワタシのディア、先を見る眼だ。
『時間も無いし1度しか言わないね。変わりたいって思うなら今すぐ変わろう。ワタシ達にはその力がある』
え?
『ワタシはあなたにもう会えない。だから今の言葉忘れないでね。一緒に明日も明後日もその咲きも見ようね』
そう言ってワタシはゆっくり消え、景色が元の色を取り戻し、ワタシの身体は無意識に...本能的に動く。
「!?」
「ッ!」
不思議な気持ち、不思議な事が起こった。
正直今も何が何だか解らない。でも不思議と...気分がいい。
ディレイももう解けていて時間が止まっていた様で、ディレイクールは進んでいたのか、それも解らない。
ワタシはディレイが消えた状態で再スタートしていた為、レイラ隊長の剣を剣で受け止める事に成功する。
たった今までディレイ中のハズだ。と誰もが思う状態だが、レイラ隊長は素早く切り替え、追撃を打ち込んでくる。
ついさっきまで、数秒前までは回避さえ見えなかった動きが、眼で追う事さえ不可能だった行動速度が追える。
ワタシはレイラ隊長の攻撃をパリィしつつ立ち上がり 、間髪入れる事なく攻めに出る。ワタシの動きを見て回避するその動きが、今のワタシには追える。
左に踏み込み素早く右に移動する動きも、数秒前のワタシなら左に追っていただろう。でも今は、そのスピードに反応、対応できる。
レイラ隊長は一瞬小さなバックステップを入れチリッと剣が鳴らした。ワタシも追う様にクストゥスを鳴らし、無色光を纏わせる。
今度こそ、決める。
深紅の剣と赤い剣は無色光を放ちぶつかり合った。
その直後お互いの剣が激しく爆発する。クストゥスよりも大きな爆破を発生させた深紅の剣、爆破時の衝撃と爆風に耐え、ファンブルを回避、噴煙の様なエフェクトに視界を潰される中でもワタシの眼はレイラ隊長を捉えている。
レイラ隊長の放った二撃目を回避し、ワタシは二撃目をヒットさせる。接触した瞬間爆破するクストゥス。衝撃と熱にレイラ隊長は剣術をファンブルさせるも、ワタシは三、四、五と連撃を続け、最後の七連目も爆破でヒットさせる。
特殊効果爆破を乗せた七連撃剣術 シルクリア ペイン。
空気が焼け焦げる臭いと爆破の余韻が残る廊下で、ワタシの乱れた呼吸が響く。
呼吸を整えている最中、突然両眼に痛みが走る。眼の奥を潰される様な痛みに膝を付くワタシへ、
「動きが変わった...何が、起こった?」
廊下に倒れるレイラ隊長が言った。返す言葉なんてワタシは思い付かない。自分でも何があったのか理解が追い付いていないから。
そんなワタシを見てレイラ隊長は優しく...ワタシの知るレイラ隊長の表情で、
「人より遅いペースだか...1つ1つ、1歩1歩確実に進んでいる様だな。安心したよ」
と言って笑った。
1つ1つ、1歩1歩確実に。レイラ隊長が言ったこの言葉は、あの時孤島でワタシが、レイラ隊と離れる時に...氷結の女帝からワタシ1人を逃がす時にレイラ隊長が言った言葉。
眼の痛みを噛み殺しワタシは必死にクチを動かした。
「ワタシは、進めているでしょうか?」
レイラ隊長はワタシの言葉に微笑み返し、眼を閉じた。
直後、ズキン、と眼を潰す様な痛みが強く響き、ワタシも意識をそこに置いた。
1つ1つ、1歩1歩確実に進めているなら、ワタシはきっとこの先も進める。
人より遅いペースだったとしても、それがワタシのペースなんだ。
置いていかれたくない。
みんなと一緒に進みたい。
そう思って焦って他人のペース...他人の色に染まっても、そこに成長はあったとしてもその成長を自分のモノに変化させる力は得られない。
ワタシはワタシのペース、ワタシの色でみんなと一緒に進めばいいだけだったんだ。置いていかれるとか、そんな事考える必要なかったんだ。
エミちゃごめん。少し休んだら助けに行くから、待っててね。
◆
「んニャああぁぁ!粘着性高すぎるニャ!」
「クゥ!」
「待てぇーっ!待て待て、待てー!」
ドメイライト騎士団本部 六階廊下に響く猫人族とフェンリルと人間の声。
クゥとゆりぽよを追うシンディは謎のスライムに乗り、ライトボウガンを使い水弾を撃つ。撃たれた水弾はゲル状に変化しクゥとゆりぽよを捕獲しようとする。
そのゲルをクゥの背に乗ったゆりぽよが恐ろしい精度で射抜き落とす。
「ワンニャ!あんにゃブヨブヨしたヤツに負けるニャよ!加速ニャ加速!コーナー二個も曲がれぇばバックミラーから消してやるニャ!」
◆
「ちょっと大丈夫?その血」
「大丈夫じゃないかも...傷口ミュートしなきゃハウリングしそうだわ」
半妖精のひぃたろはルキサとの戦闘を終え騎士団本部を探索していた所で、ボロボロの音楽家ユカと遭遇し2人で本部の六階まで来ていた。
「治癒術してあげるから一旦止まっ...」
そこまでいいひぃたろは止まった。
ユカは一番出血が酷い頭を最初に治癒してもらおうと、頭を下げた。ユカの視界は磨きあげられた美しい廊下、ひぃたろの視界は今まさに角を曲がって現れた...クゥとそれを追う謎のスライム。
「ごめん、私事故るのはイヤ」
ひぃたろはそう言いエアリアルを発動させ、天井付近まで昇った。
「why? 事故って、騎士団本部を馬車でも走ってる?んなワケねー!」
自分で言い自分で笑っていたユカだったが迫り来るクゥを感知し、笑いが消える。
「まーだ追ってくるニャ!こうにゃったら...爆裂薬を塗った弓をゴチソウしてやる...んニャ!?にょ、にゃ!?」
「うそ、まった、うっそ!?」
お互い涙眼になり、事故死を覚悟したが衝突寸前、ポワンっと可愛らしい爆発音と可愛らしい煙がクゥ、ゆりぽよ、ルービッドを包んだ。
ユカはお腹に衝撃を感じ倒れるも、ダメージはなく、シンディは「んん~?」と言いスライムを停止させ様子を見ている。
ゆっくり降りてきたひぃたろはユカと、ユカのお腹の上にいる小さなクゥ、ゆりぽよ、ルービッドを確認し、なるほど、と頷く。
「おぉぉー?まさか今のエアリアル?ねぇねぇエアリアル?もう1度見せてよ!あなた...妖精種!?」
ひぃたろのエアリアルを見てはしゃぐシンディへ、ではなく、廊下にいるであろう存在へひぃたろは言った。
「あの眼鏡巨乳、うるさいからビン詰めしてきて。キューレ」
「了解なのじゃ。後で500v請求するからのぉ」
ポワン、と可愛らしい爆発音と煙がもう一度発生し、シンディと謎のスライムは姿を消した。本当に消えたワケではなく、キューレがディアでシンディとスライムの大きさを1センチまで収縮させ、エミリオの様にビンに入れ捕獲した。
ビンにシンディを入れた事を確認したキューレは指を鳴らし、自分とクゥとゆりぽよのサイズを元に戻し、気絶状態のルービッドはシリコン性のビンへ入れる。
「とりあえず、みんな死んどらん様じゃの」
ユカからメッセージを受け取っていたキューレはユカに現在地を聞き駆け付けた。
ひぃたろは探索中にユカと遭遇し、クゥゆりぽよルービッドは爆走した結果、みんなに出会えた。
細かい話は省き、治癒術を終え、エミリオ、ナナミ、リーズがいる七階へ全員で向かう事にした。
「あれは勝てる気しないな....別探そう」
衝突シーンを影から見ていた騎士ヘナはポツリと呟き、戦闘する事を諦め別の冒険者を探しに行った。
◆
色々な事が騎士団本部で繰り広げられていた中、ある冒険者は他の冒険者や騎士と遭遇する事なく、騎士団本部の一階で青白い光を身体からパチッパチっと漏らしていた。
髪の毛先が立ち、真っ赤に染まった鋭い瞳を向け見る先には人形の様に可愛らしいドレスに身を包んでいる、グレーのツインテールの女性と、ピンクのツインテールを揺らす少女がいた。
左右色違いの瞳を持つ2人は真っ赤な瞳を持つ冒険者に気付き、1人は不気味な雰囲気の笑いを、1人は楽しげな雰囲気の笑顔を、真っ赤に染まった瞳へ向けた。




