◇100
焦りと不安を煽るかの様に忙しく響く鐘の音と騎士達の声。冒険者達がドメイライトに来たのは騎士達の動きから見て本当だろう。
セッカの指示とは思いたくないが、もし、セッカの指示で冒険者が集まりドメイライトへ攻めてきた場合は...まずい事になる。
レッドキャップが動き、結果わたしはドメイライト騎士団まで運ばれた。この事実を知る者は少ない。
世界では騎士団が魔女を捕まえた事になっている。今回の件にレッドキャップが絡んでいると見抜けた者はいないだろう。この冒険者達の動きがセッカの指示ならば...バリアリバルがドメイライトを落とす為に戦争を仕掛けた事になる。
デザリアはドメイライトの唯一対等に戦えた国。そのデザリアが今は力を捨てウンディー大陸の女王と手をつなぐ形で平和というものに貢献しているかの様に武力での制圧をやめた。
その瞬間から力を持つ国はドメイライト...ノムーになった。
今この人間界でまとまった力を持つのはドメイライト騎士団。冒険者も強い者は存在するが組織としての団結力は騎士団の方が遥かに上。
その騎士団と日頃から多少の喧嘩をしていた冒険者だが、ドメイライトに攻める今の現状は喧嘩ではなく、戦争だ。
セッカがわたしを助けたいと思ってくれたのは嬉しい事。しかし立場というものがある。レッドキャップに連れ去られてここまで来たのはわたしの意思ではないが、騎士団が魔女を捕獲した とだけ報道された今の世界ではセッカの動きは大変な問題だ。
魔女を助ける為に人間を殺す戦争を始めた女王。
笑えないぞセッカ。
ノムーポートで会った時から、気持ちが先に行ってしまう性格なのは把握していたが...ここまで大きく動くのは予想外だった。
鐘の音が止まり人の気配もなくなった。
外で何が起こっているのか、わたしは想像しかできなかった。
◆
無駄に広いと思っていたドメイライトの二階層、騎士団本部エリア。
この広さは本部が襲撃された時にここで襲撃者達を食い止める為だったのか。と元ドメイライト騎士団に所属していたワタポは思った。
街に騎士が1人もいなかった事から、今ドメイライトに入った襲撃者...冒険者の狙いは魔女でドメイライト本部まで攻めてくる。ならば本部前、二階層まで冒険者達にスムーズに進んでもらおう。と考え騎士達を本部へ集め、邪魔なく簡単に本部前まで誘導された形で冒険者達は逃げ場を失う。
一階層と三階層に続く階段は分厚く高い壁に塞がれる。
これでこの二階層、ドメイライト騎士団本部のエリアには誰も入れず、誰も出られなくなる。
冒険者達の前には騎士が集まり、増える。
騎士団本部の鐘がある搭...高い位置から広場を見下ろす騎士の中の1人がセツカを見て声を降らせる。
「ウンディー大陸の侵略からノムー大陸を守るのだ騎士達よ!これは訓練でも防衛戦でない、戦争だ!そこに並ぶ冒険者の首を狩れ!」
セツカは話をするつもりだった。争わずに事を進められればそれが一番いい。しかし今叫んだ騎士、ドメイライト騎士団 団長直属の騎士 ルキサは戦争と言った。
ここで初めてセツカは自分の行動、言葉にはそれだけの力と責任がある事を教えられ、自分の考えの甘さ、自分の視野の狭さを突き付けられた。
用意していた作戦には掠りもせず進む眼の前の現実。
エミリオを助ける事と、レッドキャップの好きにさせない事だけを、いや、それしか考えていなかったセツカは戦争という言葉に貫かれる。
セツカは何をすべきなのか、何をどう指示していいのか、見えなくなる。しかし現実は止まらない。騎士達は武器を取り、戦争相手の冒険者を攻撃する。冒険者達は瞬時に独自の判断で動き、戦争はセツカを置き去りにして始まった。
「セツカ様...目的がありその目的達成率を高めた作戦や何かを用意しているのだろう。しかしこれは喧嘩や戦闘ではなく戦争。そうなればあなたは無力で無能な姫だ」
ルキサは呟き、広場を見下ろす事をやめる。
「戦争ねぇ...そーゆーのダルいわー」
ルキサ同様 団長直属の騎士の1人、二本の剣を背負う騎士ヘナが面倒そうに呟くとシンディが明るい声を出す。
「戦争いいじゃん!私達負け無しだし...色々試せるし材料も手に入る!戦争サイコー!ヘナ君もやる気出してよ、やる気!」
戦争、人と人が争い、死者も多数出る戦争を最高と喜ぶシンディへ長身の男は怒鳴る。
「シンディ!貴様は死刑囚を使って魔術やマテリアの研究をしている様だが、それは許される事ではないぞ!」
騎士団で一位二位を争う正義の塊と言われている騎士 アストンがシンディへ怒鳴るも、騎士団長直属の騎士達は団長から許しを貰い、本来なら許されない事も許される場合がある。シンディが行っている人道外れた研究も団長フィリグリーが許したと言う事になる。
「でも団長は許しますわ。なら許される。私達がクチを挟む事ではありませんわよ」
緑色のツインテールを揺らす若い騎士、リーズは冷たい瞳で広場を見下ろし、アストンへ言葉を放ち横見する。
「残念!リーズちゃんの言う通りだよアストン!私に文句言うなら団長にいいなよぉー。リーズちゃんは団長の許可で悪魔狩りしてるんだっけ!?探してる悪魔は見つかった?」
シンディがそう言うとリーズは鋭利な視線をシンディへ向け黙る。アストンが再びクチを開こうとした時、別の騎士が言う。
「騎士団長へ不満を抱いているならば、この隊を抜けてもらいたいなアストン。1人でも揺れ動く兵が混ざっている隊は崩れる」
眼帯をつけた鎧の騎士 レイラの声は冷たく鋭い。
アストンはグッと歯噛みし言葉を殺し広場を見下ろす。
ルキサ、ヘナ、シンディ、アストン、リーズ、レイラ。
この6人の騎士が騎士団長フィリグリー直属の騎士。
副団長の席を廃止し、6人の騎士を近くに置く事をフィリグリーは選んだ。
それはフィリグリーの意思なのか、パドロックの命令なのかは不明だが、この6人は実力的に副団長を任せる事が出来るレベルだろう。
その6人が立つ鐘のある搭を広場から見て、半妖精のひぃたろはセツカへ言う。
「自分、女王の立場を理解した上での発言し、ケアも考えていると私は思っていたわ...でも今更そんな事言っても戻れない。私達は予定通りエミリオを助ける様に動いていいの?」
ひぃたろはセツカへ声をかけつつ、近付く騎士を捌く。
戦争はもう始まっている。ひぃたろが言った様に今この広場...いや、二階層は戦場になっている。騎士の命を奪うな。と冒険者達へセツカは言ったがこれでは何時まで経っても終わらない。
「ひぃすけ!予定通り動いてくれ、ここは予定通り俺達が何とかする!」
赤い羽のマスターアクロスは赤銅色の鎧を軽々と着こなし騎士達の相手をする。剣では攻撃せず盾でバッシュし周囲へ指示を飛ばす。
半妖精は頷き翅を広げ戦場を飛ぶ。
怒濤とも言える声が響く戦場、剣術の光と魔術の光、爆風で起こる砂煙の中、弾ける様に光る青白い雷へ半妖精は向かう。静電気で少し逆立つ黄金色の毛先、ダークセイラーのスカートを揺らし止まる事なく戦場を動く魅狐のプンプンは半妖精の姿を見るや、自分を中心に雷を爆雷させ周囲の騎士を飛ばす。
「ひぃちゃん!モブ騎士が強いんだけどー!」
「プンちゃん、予定通り私達は動く。他のメンバーも探すわよ」
「お、りょーかーい!」
冒険者と騎士をすり抜ける様に飛ぶ半妖精と地面を走る雷の様に走る魅狐はすぐにメンバーを集めドメイライト騎士団本部へ潜入する事に成功した。ほとんどの騎士が広場に出ていた為、本部入り口まで素早く移動できれば潜入は難しくない。ガーディアン的な騎士が入り口に集まっていたがアスランや烈風、他の冒険者が相手をしている隙に潜入した。
「うわ、広いね騎士団本部」
長刀を背負う魅狐プンプンは周囲を見て、高い天井を見上げ言う。
城の様に大きく、綺麗な内装に音楽家ユカの芸術家としての何かが反応する。
「ガラス1枚も高級品で床は大理石...ただBGMがないのは惜しいな。もっと騎士団本部的な威圧感と力を象徴する様なBGMが...」
ブツブツと言うユカを放置し、ピンク色のツインテールを結び直し猫人族が言う。
「フローどこニャ?サクッと見つけてぇ、早く仲直り出来ればいいにぇワタポッポ」
猫人族の ゆりぽよがニャニャ笑いワタポを見て言う。
「とにかく早く魔女見つけて戦争終わらせる方法見つけなきゃじゃん。まさか戦争って言われるとは思わなかったよ私」
赤々しているギルド アクロディアのマスター ルービッドが自分の考えの浅さに呆れつつ、ワタポへ目線を送る。
沈んだ表情なのか怒っている表情なのか、感情が複雑に混ざり合うワタポは息を吐き出し言った。
「エミちゃを発見後はすぐ全員に連絡、団長直属騎士は強いって噂を騎士時代に聞いていたから気を付ける事と、レッドキャップも多分この本部にいる。エミちゃが連れ去られる直前にプンちゃへ送ったメッセージによると、レッドキャップのナナミは魔術や魔力を無効化するディアを持ってる。その人と遭遇した場合魔術は出来るだけ使わない事」
剣術は空気中に無限とも言えるだけ浮遊している眼に見えない力の源とも言うべきか、マナを使い発動するので魔力を使う魔術ではないのでナナミのディアの対象外になる。魔術だけを気を付ける様に言ったのはそういう事だ。
そして騎士団長直属の騎士。
ワタポもその存在は知っていたが見た事はなく、ただ強いとだけ聞いていた。
「んじゃ、ガールズチーム!エミリオを助けに行くのじゃ!」
皇位情報屋のキューレはそう言い自分のサイズを小さくし、物陰に隠れる様に走っていった。キューレ無しではエミリオのサイズを戻せない。しかしエミリオはどこに居るのかわからない。
騎士団本部内でキューレは隠れつつ行動し、エミリオ発見の連絡が入り次第そこへ向かう。
ひぃたろ、プンプン、ユカ、ゆりぽよ、ルービッド、ワタポとクゥはキューレのディアを合図に四方八方へ散り、騎士団本部の探索を開始した。
◆
「...!?、入ってきた入ってきた!1、2、3.....7人と、1匹!」
鐘のある騎士団本部の搭から広場を見ていた団長直属の騎士シンディが楽しそうに言った。
術式魔術で騎士以外の者の潜入を知る事が出来たシンディはその数までハッキリ感知する。
「7人と1匹!?俺弱そうな奴がいいなぁ」
ヘナは面倒そうに言うも、瞳はやる気を宿していた。
「全員バラバラに探し、遭遇次第排除しろ。本部に潜入した時点で処刑許可が出ているからな」
ルキサが言うと全員が、何でお前が命令してるんだ。と言う様な表情でルキサを見るも、気にする様子もなく赤いマントをわざとらしく靡かせ騎士団本部内へ入って行った。
ルキサに続くのが嫌なのか少し時間をかけて装備を整え、全員本部内へ。
鐘のある搭の屋根にいた人物は騎士達が本部に入った事を確認し、装備していたフードローブ、固有名ブラッティローブによりブーストされていた隠蔽を解除した。
「ねぇ。さっ、きの騎、士が、言った、悪魔、は、あなた、よ、ね?ナ、ナミ」
「そうなのー?ナナミちゃん元騎士団にいたのー?いついつー?」
「騎士団にはいなかった。あれは私の妹のリーズ」
「へぇー!わたしも妹のモモカだよ!お姉ちゃん元気かなぁー...」
「会って確認したら?多分本部に入った冒険者の中にモモカのお姉ちゃんもいると思うわ」
「あなた、も会っ、てき、た、ら?」
「そのつもりよ」




