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87/91

87 悪感

市立病院に向かう車内は沈黙に包まれていた。

俺は、みんなで病院に行くことを反対した。本当ならば俺ひとりで行きたかったくらいだ。だいたい、ユキノ先輩はついこの間、被害を受けたばっかりなのに。黛という人物を理解していないということなのか?

結局、俺だけが瑞穂の病室に入るということで、3人には納得してもらい、ユキノ先輩の車で向かうことになったんだ。


市立病院は診療時間も終わり人はまばらだ。


「約束どおり、俺ひとりで病室に行きます。何かあれば、ユキノ先輩のケータイに連絡します。ワンコールで電話が切れたら何かがあったと思って警察に連絡してください。いいですね?」


「オッケ分かった」


「気を付けてね……」


何もないことを祈るばかりだ。




瑞穂の病室があるのは4階。

もし、何か事が起きていたら4階のフロアは慌ただしくなっているだろうけど、エレベーターを降りてナースステーションを見る限りでは、いつもと変わらぬ様子だった。


ナースステーションを通り過ぎて瑞穂の病室の前に立つ。

ドアはいつものように開いていて、ベッドを囲むようにカーテンが閉められている。


この位置から誰かがいる様子は伺えない。


ほっ……良かった。

気負いしすぎたかな。

でも危機が終わったわけじゃない。

このことをちゃんと警察官の今井さんに相談しなきゃな。

病院にも。


瑞穂の顔を見たらみんなを呼ぶか。

 

「瑞穂、来たよ……」


カーテンを開けると、そこに瑞穂の姿はなかった。

特に珍しいことじゃない。瑞穂ほどの病状ならば、入浴や整姿のために病室から出ることがたまにあるからだ。


でも、俺はその時、妙な違和感を感じた。

それと同時に急に不安が俺を覆うように支配し始めた。


 

いつもと何かが違う……


何だ……?


俺はそんなに広くはない個室を見回す。

ベッドに小灯台、計器類と衣裳ケース


「車椅子……」


なぜここに車椅子がある……?

瑞穂は病室から出る際、いつもストレッチャー式の車椅子に乗せられて移動する。

車椅子に異常でもあったのか?


俺はタイヤやブレーキ、背もたれを倒すレバーをいじってみた。でもこれといっておかしな点は見当たらない。


どっちにしろ俺では分からないから、ナースステーションで聞いた方が早いだろう。

この病室の担当ナースは、市原さんだ。


「すみません、看護師の市原さんっていらっしゃいますか?」


「市原は今日非番なんですが。何かご用ですか?」


「お休みでしたか……いや、自分、405室の吉沢瑞穂の関係者なんですが、本人が病室にいなくて……入浴中ですか?」


「いいえ、今は入浴の時間じゃないし……ちょっと確認してみますね」


看護師が意識のない患者の動向を把握していない?

俺の不安感は一気に跳ね上がった。


俺は看護師さんの確認を待たずにフロア内を探し始めた。




グルッと一周してみたが、それらしい人物はいない。

瑞穂は寝たきり状態なんだから、もし運ぶとしても少し他の患者とは違うから目立つはずだ。


俺は、談話室で新聞を読んでいたおじさんに声を掛けてみることにした。病衣を着ているから患者なんだろう。


「すみません、ちょっと聞きたいんですけど、ストレッチャーか寝たままで運べる車椅子とかに乗った女の子って見ませんでしたか?」


おかしなことを聞くやつだな、とでも思っているのか、そのおじさんは訝しげに俺を見た。


「いいや……そんな子は見てないよ」


ですよね……

そもそも新聞読んでるし。


「すみませんでした、ありがとうございます」


社交辞令的にお礼をして去ろうとした時、


「あ、そういや、兄ちゃんが誰かをおんぶして、そこを通って行ったぞ?女の子かどうか分からないけど、そのことか?」


「本当ですか?!どれぐらい前ですか?!」


「……5分も経ってないんじゃないかな。エレベーターの方に行ったよ」


「ありがとうございます!」


想像していた中の最悪の事態になってしまった。

お義兄さんだったらちゃんと車椅子に乗せて移動させる。

考えたくはなかったが、そんなことをするのは黛しかいない!


エレベーター前に来たが、上階は5階までで、レストランしかない。

下階は病室だからそこに用があるとは思えない。車でどこかに連れ出すつもりか?


俺はすぐさまユキノ先輩のケータイに連絡を入れた。


「もしもし、ユキノ先輩?!」


『どうしたショウタロくん。何かトラブル?』


「トラブルどころじゃない!黛が来ています!ロビーの方で見ませんでしたか?」


『ええ?!マジで?!いや、ずっとここにいたけど、それらしい人物は通ってないよ。本当に黛なの?』


「ユキノ先輩、よく聞いてください。すぐに今井さんに連絡を入れてください。一刻を争う事態だと思います。お願いしますね!」


『おい!ちゃんと詳しく説明しなさいよ!どうなっ』


俺は話途中で電話を切った。多分、説明している時間なんかない。

1階に行っていないんだとしたら、もう考えられるのは5階だけ。一体、黛は何をするつもりなんだ……!


お読みくださりありがとうございます!

良い点悪い点、何でもよいのですが感想をいただけると今度の作話の励みになります。

これからもどうぞよろしくお願いします^_^

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