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59 きみのため

「瑞穂!!」


間違いない!

あの白いタクシーに乗っていたのは瑞穂だ。

あのタクシーは前世界線では父さんが乗っていた。


一緒にいるのは誰だ?

母親か?高齢の女性のようだが……

いや、今はそんなことどうでもいい。

一刻も早くあのタクシーから瑞穂を降さなければ!


「……ロくん、……ョウタロくん、ショウタロくんってば!!」


はッ!


「どうしたの?!」


「大丈夫か、翔太郎……」


完全に自分の世界の中に入ってしまっていた。


でもどうする?!

どうやってあのタクシーを止める?!

なりふり構ってなれない!


「ユキノ先輩、あの白いタクシー、瑞穂が乗っています」


「え、何で?」


「事故るタクシーです!」


「そうなの?!」


「多分……でもまだ分かりません。嫌な感じがするんです。追いかけてください!」


「分かった!」


ユキノ先輩はハンドルを切ってすぐに車を反転させた。


「おい、翔太郎!大丈夫なのか?!突然どうしたっていうんだ?!」


どうしよう……

こんなの父さんに説明しきれない。


「父さん、お願いだ。必ず後で説明するから、だから今は頼む……この車は安全だし、大人しく座っていてくれないか。お願いだから」


ヤバい泣きそうだ。

頼む……

頼むよ……!

もう、誰も…誰も失いたくない!


「安全て……翔太郎……」


「ショウタロくんのお父さん、あたしからもお願いします」


「……うむ」


父さんは黙るしかなくなったのか、シートに背中を預けて深いため息をついた。


「あの信号、赤になる!」


「どうするつもりなの、ショウタロくん」


「止めに行きますよ。事故の可能性はゼロじゃない!」


駅前の大通り。

父さんが事故を起こした交差点で、瑞穂を乗せた白いタクシーは赤信号で止まった。信号待ちの先頭の車から三台くらい後ろで、俺が乗っているユキノ先輩の車はさらに二台ほど後ろだ。


俺は傘も持たずにユキノ先輩の車から飛び出した。


「気を付けてよ!」


「翔太郎!……ああ、行っちまった……本当に大丈夫なんだろうね?!」


「分かりません……今はショウタロくんを信じるしかないです。とにかくお父さんは絶対にここから動かないでください」


「動くなって言ったって……それ、翔太郎からの指示なの?」


「はい、そんなところです」



信号が青になり、先頭の車が動き出した。

クソッ!間に合え!


はぁ、はぁ、はぁ、


雨が目の中に入って街灯がボヤけて光る。

滲んだ視界の中に、白く鈍く反射する車を見つけた。


白いタクシーはゆっくりと動き出していた。

でも徐行程度のスピードで、まだ間に合うはずだ。


そして、タクシーが交差点に差し掛かった所で……


追いついた!


バンバンバン!

夢中で助手席側の窓を叩く。

チラリと見えた後部座席。確かに瑞穂が乗っていた。

驚愕の表情と口元が(佐伯くん)と動いたのは分かった。

分かっているけど完全に不審者だ。でもなりふり構ってられない!


キッ!


交差点中央の少し後ろ辺り、急ブレーキ気味でタクシーは止まった。

すぐにウィーンと助手席側のパワーウィンドウが開いて、


「おい!何してんだ!危ないだ……」


運転手の怒鳴り声の裏に聞こえてくる、明らかに不自然な音。

唸るエンジン音だ。


そして――


ブォォォ!!!

ガッガガ……



俺の背中側から現れたその銀色の鉄の塊は、およそ交差点に侵入するスピードとは思えない速さでタクシーの鼻っ面をかすめていった。完全に信号無視だ。


かすったといえども、タクシーは俺の立つ左側の前後の車輪を少し浮かせるほどの威力を持っていた。


暴走するそのシルバーの軽自動車は、タクシーにぶつかったことで進行方向が変わる。

そして、自らのパーツの細かな破片をばら撒きながら、


ガシャン!!!


タクシーとは反対車線の歩道にあった電柱に激突した。

ブレーキを踏んだような音も跡もない。




いっ時の静寂


歩道にいる歩行者も自転車も固まってしまい、何が起きたのか状況を整理しようとしている。


かく言う俺も同じだ。

静かな雨に打たれながら俺は呆然としていた。


「事故だ!」


誰かが叫んだ。

その言葉に呼応するように、その場にいた人たちが動き出す。巻き込まれた人はいないようだ。


「兄ちゃん……あんた、この車を止めてくれたんか?事故に遭わないように……?」


いつの間にかタクシーの運転手が車を降りて来て呆けた顔で俺に言ってきた。

 

俺がタクシーを救った……?

そんなふうに見えたのか


 

 

「佐伯くん!!」


「瑞穂……」


瑞穂がタクシーから降りて来て、俺に近寄って来る。


「瑞穂!危ないから車から出ないで!」


タクシーから高齢の女性が叫んだ


「おばあちゃんはそこにいて!」




 

これで良かったのか……?


この選択で


いや


おかしい


何かが


何かが引っ掛かる


うなじのあたりがザワザワとする


俺はその違和感を払拭しきれず、無意識に事故を起こしたじいさんの軽自動車に近づいていた。


 


――そして俺は

俺はこの時

やっぱり

失念していたんだ


何でこんな重要なこと覚えていないんだろう。

いつも肝心な時に行動に起こせないんだ。




 

キキキ



始めは小さなブレーキ音だった。


それが眼前に迫って来るまで何が起きているのか分からないんだから、本当にどうしようもない。


そう


事故は、じいさんが運転するシルバーの軽自動車が起こした1件だけじゃない――



その日

同じ場所

同じ時間で

 

事故は、二件起きていた


タクシーの対向車線から向かって来たその車は、完全にコントロールを失っていた。

事故車に気を取られ、判断が遅れたのだと、のちにドライバーは証言している。

 

その車に乗った運転手と俺は一瞬、目が合った。

相手は女性だ。必死の形相でハンドルをめいいっぱい切っている。


でも


これは無理だ……


 


世界がゆっくりと流れている


俺と制御を失った車との間に


阻むものは、何もない


俺には


避けられない――



 


ドン


意識の外、真横から強い衝撃が伝わり視界がブレた。

俺の目の前にある、今まさに突っ込んで来ている車が、物凄い速さで真横にズレたではないか。



違う


 

横にズレたのは車の方じゃない。



誰かに突き飛ばされて()()()()()()()()()んだ


視界の隅に、俺を突き飛ばした手が少しだけ見えた


飛び散る雨の雫――



 

バンッ!!!


直後

俺のすぐ後ろで不快な鈍い音が響いた


かなりの力で押され突き飛ばされた俺は、身体が反転し、背中と後頭部をガードレールに強打してしまった。



何が起きた……


痛みと混乱とめまいで訳がわからない


ドサッ


次に聞こえたのは、何か重量のある物がアスファルトに叩きつけられた音だった……


「きゃーー!!」


「人がはねられたぞ!」

お読みくださりありがとうございます!

良い点悪い点、何でもよいのですが感想をいただけると今度の作話の励みになります。

これからもどうぞよろしくお願いします^_^

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