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金獅子の復讐  作者: 永杉坂路
【第1章】オレオールの過去
18/21

10. 朝食

朝の光が惜しげなく注ぐ煌びやかな食堂に、美味しそうな匂いが漂う。


ふわふわのパン、とろりとほどけるスクランブルエッグ、芳ばしく焼いたソーセージ、薄く切ったチーズ、シャキシャキのサラダ、とろりとしたコーンスープ……。


窓の外からは小鳥たちの楽しげなさえずりが聞こえてくる。


それはオレオール家のいつも通りの食卓。

しかしテーブルにつく人間は昨日までと違う。


「今日は何だか騒がしいですね。」

アーレンがパンをちぎりながら言った。


リガロは口に入っていた食べ物を飲み下す。

「ああ」

食事の手を止めてアーレンを見た。

「昨晩、図書室の司書が転落死したそうだ。」


――図書室?


ルディアはぴたりと手を止めたが、すぐに食事を再開する。


「それはそれは……引っ越してきて早々幸先の悪いことで。」

アーレンはいかにも心配という風に眉を寄せる。


そして何でもない風にルディアに目を向けた。

その顔に心配とは違った含みを見つけて、ルディアは虫酸が走る思いをする。


――あの後何かあったというの?


不意に心臓が跳ねた。

それでも平静を取り繕って頷く。

「こちらの不始末で申し訳ありません。」


リガロがスープをスプーンで掬いながら上目遣いでルディアを見た。

「いやいや、君のせいではない。」


その言葉に一瞬身構えたが、リガロの悠然とした態度を見る限り、それ以上の意味が含まれている訳ではなさそうだ。

そもそもこのリガロに殺人を共謀してそれを完璧に隠し通すほどの度胸があるとは思えない。


――まだそうと決まった訳ではないけれど……


十中八九、アーレンが証拠隠滅のために殺したのだとしか思えない。


「しかし朝食を食べながら話すことではないな。」

リガロがそう言ったので、会話は打ち切られた。


ライアンは大人たちの様子を伺いながら食べ物を口に運んでいるし、セリエーヌは口を挟むことも顔を上げることもなく上品に食事を続けている。


しばらくの間、誰も何も言わなかった。ただ咀嚼音と食器が触れ合う音だけが広い空間に響く。

ライアンと二人だけの食卓もまだこれよりは賑やかだった、とルディアは思う。


「ところで、()()()のことですが。」

唐突なアーレンの言葉に、ルディアはパンを喉に詰まらせる。咳き込みそうになるのを我慢して水で流し込んだ。


「大丈夫かい?」

アーレンがルディアの様子を見て心底心配しているように言う。

その目に面白がるような光を見つけて、


――何が「大丈夫かい?」よ。


と心の中で悪態をつきながらもしとやかに頷いた。


「ええ、大丈夫。それで、どなたの結婚式のお話ですか?」


「ああ、父さんの()()()の娘さん、つまり僕たちの()()()のことだ。今度結婚式を開くと招待状が来ていてね。」


「まあ、それはおめでたいことですね。こちらは喪中でいろいろとバタバタしていたので耳に入っていませんでしたわ。」


〝いとこ〟、〝結婚〟。

どう考えても嫌がらせにしか思えない話題の選び方だ。

 昨晩の図書室での悪夢のような一件が脳裏に蘇る。


ルディアは微笑みを浮かべながらソーセージをざくりと刺した。


――この男はライアンを排除すれば全てが手に入ると思っている。オレオールも、私も。


「悪天候で延期されたものだから。ちょうど落ち着いてきたことだし、ルディアたちも一緒に行かないかい?」


「いいのですか?」


――馬鹿な男。


アーレンが絡み付くような視線を向けてくるが気にせず真っ直ぐ見返す。

堂々と宣戦布告してきたのは向こうの方なのだから、何も隠し立てすることはない。


――私は何があってもライアンを、この家を守る。


リガロはそんなルディアにも気づかない。


「ああ、構わんよ。むしろ来てくれないと困るくらいだ。君たちは大事な家族の一員なのだからな。」

屈託のない笑顔で言った。


「ありがとうございます。ぜひ参加させていただきます。」


ルディアも屈託のない笑顔で返して、

「ね、ライアン」

隣のライアンに話を振った。

「は、はい!楽しみです!」

ライアンはそれこそ屈託のない笑顔で答える。

その自然な笑顔にルディアは羨ましさにも似た感情を覚えた。


「では準備をせねばな。さっそく仕立屋を呼ぼう。ルディアも全身黒い服で結婚式に参列する訳にはいかんだろう。」

リガロはルディアに目を向けて言った。息子とは違って、ただただイベントに浮かれている子供のような目だった。


「ありがとうございます。」

ルディアは微笑んだまま頭を下げる。その間一瞬だけ真顔に戻って表情筋を休めた。


――なんだか朝から疲れちゃったわ。


きっと今日はもっと疲れる一日になるのだろう。


――神経が磨り減って無くなってしまったらどうしましょう。


食事を再開しながら半分本気でそう思って、しかし、誰にも気づかれぬよう(かぶり)を振った。


――鍛える機会だと思えばいい。


痛みを伴いながら強くなっていく筋肉のように。


「――そういえば、母上は朝食にはいらっしゃらないのかな? 昨晩は楽しくお話しできたが」


ルディアは笑みを作り直してリガロに向ける。

「ええ、朝は体調が優れないことが多いようで、朝食はお部屋でお取りになります。」


そう答えれば、

「そうか。では後程お部屋にお伺いするとしよう。」

リガロは楽しそうに頷いた。


小鳥が慌ただしく飛び立つ。



爽やかな朝の空気の中、朝食の席は滞りなく終了した。

読んでくださりありがとうございます。

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朝ごはんは「米ときどきパン」派です。

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