小話7(2024キスの日SS)
「絶ッ対、嫌」
「なんで~~~~!? 一緒にお風呂入りたい! 僕たち恋人同士だよね!?」
「子供みたいに駄々をこねてもダメ、絶対にダメよ」
今日も相変わらず輝くばかりに美しく妖艶な、レイフの最愛の恋人。彼女、ヴィオラは相変わらずにべもない。
「なんでなんでなんで!」
「拒否する理由は個人の自由でしょ。……床に転がったら、そのまま放置して私は使用人宿舎の方に帰るからね」
床に転がって泣き喚こうとしていたレイフは、ヴィオラにぴしゃりと言われてさすがに思い留まる。
「ズルい、ヴィオラちゃん……」
「相手の弱みを突くのは暗殺の基本よ」
「暗殺じゃないもん、恋人のオネダリなのに~~~~」
「メソメソしない!」
レイフと恋人関係になってから、ヴィオラは休みの前日には監視の塔に泊まってくれるようになった。そのまま休日を過ごし、仕事の日の朝に普段彼女が生活している使用人宿舎に戻って行くのだ。
今は二日連休の一日目、その昼間。もしヴィオラが帰ってしまえば、この連休の間は頑として彼女はレイフに会ってくれないだろう。
せっかく休日なので、大好きな恋人とお風呂に入りたい! とワクワクしていたレイフは、しおしおと萎える。バスタブには黄色のアヒルさんも用意しておいたのに。
「……わかった……我慢する」
「我慢もなにも、私が嫌だと言ってるんだから諦めなさい」
「…………」
「諦めてないわね」
我儘な子供の表情を浮かべるレイフを見て、ヴィオラはチッ、と下街のゴロツキ顔負けの舌打ちをする。
「あ、行儀悪い!」
「行儀悪い私のことは、嫌いになる?」
「ヴィオラちゃんの馬鹿ぁぁぁっ! 嫌いなんてなれるわけないでしょ!」
どーん! と抱き着いてきた長身痩躯を抱き留めて、ヴィオラはケラケラと笑った。
彼女を心底愛しているレイフは、冗談であっても「嫌い」の言葉に傷つく繊細な男なのだ。体は頑丈だが。
気を取り直して、昼日中だが休日なのでヴィオラはよく冷えた白ワインをグラスに注いだ。干した葡萄とチーズの欠片を乗せた皿がグラスの隣に並ぶ。
酒に弱いレイフは、炭酸ガス入りのレモン水でご相伴である。
「乾杯」
「ふふ、乾杯」
グラスを合わせると、カキン、という硬質な音がしてレイフはにまにまと笑う。
孤独な日々を送ってきた彼にとって、誰かと過ごすことは勿論、誰かと乾杯を唱和してグラスを合わせる日が来るなんて想像もしていなかった。
怪物扱いなら慣れたものだが、ヴィオラがあまりにもレイフをその辺にいる普通の男として扱うので、その度に嬉しさがこみあげて来るのだ。
彼女はきっと、レイフが何者でもなくても態度を変えないのだろう。
「干し葡萄ってちょっと変な味しない? 普通の葡萄の方がいい」
ソファに座ったヴィオラ。その膝を枕にしてゴロリと寝そべったレイフは、唇を尖らせる。
「じゃあもう食べなくてよろしい。人のツマミ取っておいて贅沢言うんじゃないわよ」
「お金払ったの僕なのに……」
「私のツマミにする為に、でしょう? なに、ケチくさいこと言ってんのよ」
ヴィオラはレイフの頭を撫でて、その額にチュッ、と音をたててキスを落とす。
いつもならばこれでデレデレと相好を崩す筈なのに、先程要望が通らなかった大きなオコサマはまだ拗ねているらしい。喜色が浮かばないように、レイフは渋い表情を作る。
「チューひとつで篭絡出来るほど、僕が安い男だと思わないで!」
びし! と宣言したものの、実際は唇の端が上がっているし、何よりヴィオラに膝枕をされているというデレデレの状態では何一つ説得力がない。
しばし彼の顔を眺めていたヴィオラは、そこでフッと婀娜っぽく微笑んだ。
「馬鹿ね。あんたが安い男なんじゃなく、私のキスが高いのよ」
「あああああん! ヴィオラちゃん、今日もさいっこうに素敵です!!」
その艶やかな笑みにキュンとしたレイフは、がばりと起き上がると彼女に抱き着いた。実に安い男である。
「当然でしょ」
手に持つグラスの中の白ワインは零れることもなく、素晴しい体幹で恋人の抱擁を受け止めたヴィオラはフフン、と笑う。それからおもむろにグラスをサイドテーブルに置くと、彼女はレイフの顎をくい、と指先で持ち上げた。
「ヴィオラちゃん?」
「まったく……いい加減、機嫌をなおして頂戴。ダーリン」
そう言うと、ヴィオラは綺麗な弧を描く唇でレイフのそれに触れる。
「勿論、ハニー」
嬉しくなったレイフは、もっと、と言わんばかりに情熱的にキスをせがんだ。
ヴィオラちゃんは元暗殺者で体にエグめの傷痕があるので、明るいお昼間に一緒にお風呂に入るのは絶対拒否します。見たら、レイフが泣いちゃうので。(愛!!!)




