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BLOOD STAIN CHILD Ⅱ  作者: maria
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四十六章

 受験まであと一か月――。ミリアは毎日、端から見ても懸命に勉強に励んでいた。しかもそれは渋々というのではなく、ユウヤの教師としての力量もあろうが、なんというのか、リョウから見てとても楽しそうだった。壁に英単語を書いたメモ猫の絵付きで張り出してみたり、風呂場で妙な年号の歌を歌ってみたり、何故今までそうしなかったのかと訝るぐらいである。

 一度ミリアにそう訊ねたならば、意外な言葉が返って来た。

 「だって、高校行かない方がいいと思ったんだもの。」ミリアは悪びれもせずに言った。

 リョウが驚きのあまり暫く口をきけないでいると、続けて、「だって、リョウがライブとかツアーで、学校早引きとかお休みするとき、ごめんなさいって、先生に電話するの、可哀そうだったんだもの。」ミリアは真面目な顔して言った。

 リョウはごくりと生唾を飲み込むと、「俺が、お前に、高校行ってほしくないと、そう、思ってたのか?」

 「そう。」ミリアは即答する。「だって、リョウ、高校行ってねって、言わなかった。」

 「……たしかに。」リョウは肯く。「それで、テストには猫の絵ばかり、描いてたのか?」

 「だって、猫、可愛いんだもの。」ミリアはふふ、と堪え切れないと言わんばかりの笑みを漏らす。

 「そりゃあ、お前が猫好きなのは、よく知ってる。……でも、周りは高校受験するんだって、勉強してただろ? ほら、美桜ちゃんなんて塾通いだってしてたろ? みんな一生懸命テストも受けてただろ?」

 ミリアは肯く。「でもお友達に合わせるより、リョウの方が大事だもの。リョウがごめんなさいって、電話かけるの、可哀そうだったもの。」

 リョウは深々と溜め息を吐いた。「俺が、……悪かったな。」

 「悪くない。」ミリアはそう言ってリョウに抱き付き目を閉じる。「でもS高はごめんなさいって言わなくても、大丈夫みたい。モデルの先輩がね、言ってた。だからミリア、高校行くの。」

 「俺のことなんか、気遣うんじゃねえよ。」

 ミリアはリョウを見上げる。「でもね、ミリアは絶対リョウを可哀そうに、したくないの。」ミリアは眉根を寄せて言う。

 リョウは再び溜め息を吐くと、「お前な、人のことより、自分が幸せになることを考えろよ。大体、俺は強えんだから、誰に何文句言われたってびくともしねえよ。気にするこたねえんだよ。」

 ミリアは笑顔で「うん。」と肯き、「そうなの。ミリアはミリアの幸せのことを、ようく、考えてるの。でもそれはねえ……、まだ内緒なの。」

 リョウは震撼した。誰よりも強いとたった今公言したばかりのリョウが、本気で、震撼した。ユウヤの発言が耳朶に明瞭に蘇る。「スウェーデンなら片親違いなら結婚できんだぞ。ミリアちゃんに言ったら、大喜びしてた。」

 ――渡欧費用、百万円。

 リョウはふらふらとミリアから身を離すと、ソファに座り込んだ。ミリアはお得意の年号の歌を歌いながら、リョウの隣に座り問題集のページを捲り出す。歌を口ずさむ初々しいイチゴのような唇から、近い将来スウェーデン行きを宣告されるのかと思うと、否応なしにリョウの身は震え出した。そして口座には幾ら入っていただろうかと、必死に頭を巡らせた。

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