マナの転移物語です9
今回もマナ視点です。ご注意ください。
「確かにあれは研究にはいいだろうけどね。ま、そんなお金のないマイちゃんと一蓮托生なミイちゃんに朗報ね。これから言うことを次に国王様がいらっしゃるまでこなせば罰金も減給も無にしてあげる」
トーチさんは私の隣で肩に手を回すと、2人に向かってにこりと笑いかけた。
「あのートーチ様、本日いらしていたことを考えると、レオンハルト国王様が次にいらっしゃるのは数ヶ月は先なのでは? それなら私は罰金の方がありがたいのですが」
「マナちゃんの話を聞きにくる予定になってるからそんなにはかからないよ。マナちゃんの現在地って犯罪者一歩手前だから。まあもしもの時は私が身元引受人ってことで押し通すつもりではあるけどね」
「そういえばトーチ様とレオンハルト国王様の会談の場に事故と言い張っているとはいえ乱入したんでしたっけ」
「言い張ってるんじゃなくて完全に事故なんです! 経緯を多少聞いている前提で話しますけど、敵の魔法で転移させられて、その先がたまたま会議室だったんですよ。転移先が完全に地中だったから高さは組み替えましたけど、まさかそこがピンポイントで会議室の中だなんて思いもしませんでした」
「しれーっと当たり前みたいに言ってるけど、転移魔法の座標を転移中に組み替えるとか普通は無理だからね? どれだけ転移魔法に精通していても基本的に対象の移動が始まるときには移動先は確定してる。仮にそうじゃない魔法があるんだとしても、その魔法がどんな魔法なのか解析している間に効果が出ちゃうよ」
「トーチ様、魔法をその場で解析する時点で無理ですって」
「かなりぎりぎりでしたよ」
「いや、ぎりぎりとか知らないから。それで、彼女の話を聞きに来るというのは犯罪者とするかどうかを確定させるためということですか? わざわざその程度のことのためにレオンハルト国王様が自らいらっしゃると?」
ミイさんが疑わし気にトーチさんに尋ねた。普通に考えればただの冒険者の話を聞くのに国王が出てくるなんてありえない話だから。
「……マナちゃんはパーティごと敵の集団に敗れた」
「強力な相手にパーティごと粉砕される。よく聞くお話じゃないですか。つい先日も最近加入したばかりのメンバーが実力を過信した結果壊滅したところですし」
「そういう塵芥みたいなパーティならどうでもいいんだけど、マナちゃん自身がこの能力だし、さらに言えばユウカがいるのよねー『マツノキ』って」
「……ユウカ・コトブキ様が亡くなられた可能性がある?」
「少なくとも私が転移させられるときには生きてましたが、その後のことはわからないです。アンナとカルアものこっていたはずだし、逃げ切っているとは思いますが……」
「あの方が負けるってことはかなりやばいのが現れたってことですよね?」
「それならレオンハルト国王様が来るというのもわからなくはないですね。敵を知り己を知れば百戦殆からず。相手の集団が使う魔法がわかっていれば対処のしようもありますから」
「そういうこと! というわけで、二人には罰として、それまでの間マナちゃんのお世話をしてもらいます。そして、マナちゃんから話を聞いて、敵の魔法について考察を報告書としてあげてね。私は私で魔法を教わる時にでも聞かせてもらうから」
「私はそれで罰金から逃れられるのなら構わないよ。どうせここの資料を読む時は私達が応対しないといけないんだし、普段からあたしたち2人しかいないからね。話し相手ができるのはいいことだよ」
「そうですね。お姉さまと違ってそれほど手間がかかるような方には見えませんし、ユウカ様とパーティを組まれる魔法使い。いろいろと聞けるかもしれません」
「それじゃあ私は別の会議があるからいったん行くね! 夜にまた来るから!」
そう言って、トーチさんはあっという間に出て行ってしまった。それを見送った後、私はこれからお世話になる2人に向かって、改めて自己紹介をした。
「えっと、改めまして『マツノキ』のマナと申します。しばらくの間お世話になりますので、よろしくお願いします」
「書庫管理人、姉のマイだよ。これからしばらくよろしくね」
「書庫管理人、妹のミイです。ここはそれほど多くのメンバーが来る場所ではありませんが、0というわけではありませんので、その際は普段の業務を優先させていただきますので、それはご認識を」
「もちろん大丈夫です。どうせ大半の時間は資料を読ませてもらってるでしょうし、ご迷惑はおかけしない……つもりです」
「まあ一級資料の閲覧許可を得てる人間はさらに少なくなるから、向こうで読んでいればいいんじゃない?」
「そう言っても、私はまだ許可を出してはいませんよ? 別に出さないと言いきるつもりはありませんので、簡単な試験を出させてくださいね」
「ミイの言う簡単ってのは信用できないから嫌なんだよね。マナちゃんも気を付けなよ?」
「そんな変なことを試験にするつもりはないですよ。ただちょっとこう、実力を見せてもらうだけ」
「そらでた。気を付けてね。この子の研究分野はどちらかというと戦闘に特化しているから。より威力の高い魔法、より効率のいい魔法。いかにして相手を倒すのかという点に関して研究してる変わり者だから」
「魔法使いなんてみんな変わり者であるべきなのよ。『魔法学園』ではあらゆる分野の研究を行っているけれど、そのすべてを把握するなんて私にもお姉ちゃんにも無理なんだから、せめて自分が得意だとはっきりと言える分野くらいは特化しなきゃ」
「ミイの言い分もわからなくはないけどね。何かに特化した人スペシャリストは、その一点においてすべてのゼネラリストを凌駕する。『青き空』や『黒き翼』のギルドマスターなんかがいい例よね。あの方々はそれぞれ風魔法、闇魔法の一つの属性に特化した結果、Sランク認定されているんだから」
「お姉ちゃんもわかっているなら私のやり方に口出しはしないでほしいわ」
「むー」
「実力を見せて許可がいただけるのであれば問題はないですよ。どこで何を見せればいいですか?」
「訓練所に的を用意するから、その的の指示した一部分だけを破壊してもらうわ。壊し方、使う魔法なんかはすべてお任せするけど、指示した部分以外を壊したり、逆に壊せなければ許可は出さない。わかりやすいでしょ?」
依頼を多くこなしている冒険者ならよく理解していることだけど、モンスターを倒すのに大火力で殲滅するというのは適していない。納品する素材を壊してしまっては元も子もないからだ。実際『マツノキ』でもヒツギは力加減があまりうまくなかった。棺桶と鎖で調整も何もないというのはわかっているけど、敵に回ってしまった今となってはあの火力をどう封殺するのか。それを考えていかないといけない。
ヒツギを殺すのは私の役目だ。
「それなら早い方がいいですかね? それとも人が少ない時間とか?」
「私が結界を貼るから今からでいいですよ。それじゃあお姉ちゃん、しばらく留守番お願いね」
「空にするわけにゃいかないからなー。早めに戻ってきなさいよ」
「はい。わかってますよ」
的はいつも魔法袋に入れて携帯しているとのことだったから、私はミイさんについて訓練所に向かった。
どうもコクトーです。
今回もマナ視点ですのでステータスはなしです。
今週は今日がお休みだったので月曜更新です。
明日? オシゴトデスヨー。祝日なんてなかったんや…
来週は日曜が夜勤ですので多分お休みになってしまうと思います。
さすがに書ききれないと思うので…
ではまた次回




