マナの転移物語です7
今回もマナ視点です。ご注意ください。
トーチさんと2人は一旦門の中に入っていった。上位属性の魔法については伏せるそうだけど、何が起こったのかを2人に説明するそうだ。大手ギルド『魔法学園』が所持している資料をすべて管理できるほどの方があの解呪魔法がどれだけ難しいのか理解できないはずがないし、一級の許可はちゃんともらってくるからと言っていたけど、そうそううまくいくわけはないよね。
私は許可が出てからすぐにでも読み始められるように必要な物をアイテムボックスから取り出していた。あの館を購入してから、日用品はアイテムボックスの容量を圧迫するだけだったのもあり、服や小物を少し残しただけでほとんどを置いてきていた。
そんな残したいくつかの小物の中でも、これだけはどうしても置いていくことはできなかった。それが今回たまたまいい方向に転んだだけなんだけど、せっかくあるのだから使うことにしたのだ。
「早読みのモノクルとはまた渋いものを持ってるわね。もっといいのが出回ってるし、そんなの今時使ってる人の方が少ないわよ?」
門の近くに置かれていた机で準備をしていると、後ろからマイさんがやってきた。その手には片手で持てるくらいの大きさの瓶を持っている。真っ黒いテープで表面が覆われているから中は見えないけれど、揺れる度にぴちゃぴちゃと音が聞こえるから液体が入っているのは間違いないのかな。
「えっと、マイさんですよね? もう話は済んだんですか?」
「私が聞きたいところは終わったってだけで、別に話が完全に終わったわけじゃないわよ。今もまだミイが話を聞いてるから」
「それは……どうなんですかね?」
「細かいところはあの子がわかってればそれでいいのよ。私はトーチ様の意見にきちんと理由があれば歯向かうことは基本しないから。そもそもが洗脳とか思考誘導とか受けるような柔い人じゃないし、そんな人ならあたしが負けるわけないわ」
「トーチさんと勝負したんですか?」
「ちょ、今のナシ! あんた、なかなかやるわね!」
「今のでそんなこと言われても……」
「そんなことはどうでもいいのよ。言っておくけど、一級資料の閲覧許可は出さないからね」
「なんでですか?」
「なんでも何も当たり前じゃない。どこにギルドメンバーでも何でもない、ただの不審者にギルドの貴重な資料の閲覧許可を出す奴がいるのよ」
「トーチさん」
「あれは例外よ。Sランク連中なんか全員常識っていう枠の外にいる化物じゃない。その化物連中に私たちを含めないで」
「どうしてもだめですか?」
「ダメね。と、一言で断ることもできるのだけど、あなたの状況もサラっと聞いてはいるから、チャンスはあげるわ。課題を出してあげるから、それをこなしなさいな。正直、できると聞いたけどほんとかどうか半信半疑なのよね」
マイさんは持っていた瓶のテープをはがし始めた。何なんだと思いながら、3分の1程度テープがはがれたところでそれがなんなのか見えてきた。いや、感じられた。その証拠と言うわけじゃないけど、マイさんの表情も苦しそうな表情になってきていた。
「もしかしてそれって」
「これは私が当時研究してた時に用意してて、あきらめきれなかったから今後の研究用にって私が確保しておいた龍殺しの毒よ。ミズモチザルの血液からつくる特殊な溶液で数十倍まで薄めてあるものだけど、特殊な封呪のテープで止めておかないと外に漏れて持ってる人にまで危害を与える代物ね。研究中は特殊な防護服を身にまとって、専用の部屋でないと扱っちゃだめな超危険物質」
マイさんは顔色を青くさせながらもテープをはがす作業をやめず、完全に瓶の中身が露わになった。紫色の禍々しい感じの液体の中に、龍のものと思われる指が一本丸々入っていた。その表面はわずかにただれているのが見えており、テープが完全にはがれると、その様子がよく見える。
「さあ、龍殺しの毒の解呪をやってのけて、風龍様を救って見せたというその魔法。私にも見せてちょうだいな」
封印が解かれ、瓶から漏れ出た毒がマイさんの体を蝕む。真っ青な顔で、毒で震える手を反対の手で支えて瓶を落とさないようにしながらも、私のことをまっすぐに見てくる。資料の管理人という話を聞いていて忘れていたけど、ここにいるのは全員が魔法使いなのだ。それもギルドの幹部になるほどの魔法使いだ。今まで隠していたのを純粋にすごいと思うくらいにその表情はあの時のトーチさんと同じ。研究欲にまみれていた。
龍を殺すための毒がただの人であるマイさんに効果が薄いわけがなく、どんどんその体を毒が広がっていく。
「ああもう、魔法使いってみんなバカなんじゃないですか!? 『希望の光がその身を蝕む龍殺しの力を消去する』イレイズヒール!」
ミラの町で風龍様の体を蝕んでいた毒を解呪した時に作った魔法をマイさんにかける。かなり薄まっているのは毒の回り方を見てわかるけど、万が一にも体の中に毒を残したらいけないし、強めに魔法をかける。瓶の方に残っていた毒も一緒に消えて色が変わっていくので魔法が効いているのは間違いなさそうだ。
毒が完全に消え去って、力が抜けたマイさんがなんとか瓶を机に置いてへたり込んだ。
「おお、ほんとに毒が消えた。龍殺しの力を一つの属性であると定義して、その定義を打ち消すための理を作っているのか。いや、むしろその定義を上書きするように害のないものへ変換させているのかな? もっと細かく見てみたい。毒を飲むからもう一回使ってくれる?」
「バカなんじゃないの!? っていうかもうほんとにバカ! もし私がほんとはできもしないのにできるって言っていたらどうするつもりだったんですか? それに、違う液体と混ざり合って、さらに年月が経ったことで別の毒へと変質する可能性とか考えないんですか?」
魔法使いという人種にあきれるような思いと、自分の命を実験材料にしてしまう無鉄砲さに怒りを感じながらも、アイテムボックスから出したコップに水を汲んでマイさんに渡した。マイさんはそれをちびちびと飲みながら真剣な表情で話した。
「トーチ様はアホだし、いろいろと幹部連中に放り投げて自分は好きなことをやっているようにも見えるけど、ああ見えて『魔法学園』のトップとしてここにいる誰よりもふさわしい人物なのよ。それに、誰よりも魔法、そして魔法学という学問に対して真剣で、純粋なの。そんなトーチ様が本物だと認め、太鼓判を押すような人なら私は別に反対しないわよ。課題もクリアってことで一級資料の閲覧許可を与えてあげるわ」
「今はそれどころじゃないでしょう。毒が残ってないか見ますのでじっとしててください」
「あら、それくらいは自分でわかるわよ?」
「バカは黙っててください」
「バカとはなによ!」
「は?」
「あ、ごめんなさい」
私はコルクに命じてマイさんを地面に寝かし、周囲も含めて龍殺しの残滓がないかどうかを調べながら、トーチさんとミイさんの話が終わるのを待った。
どうもコクトーです。
今回もマナ視点ですのでステータスはなしです。
遅くなりすいませんでした。
ツイッターの方ではつぶやいてたんですが、PCの調子が悪く、ブルースクリーンが頻発してまして、その対処で先週は書けず、今週はまさかの連続飲み会で遅くなってしまいました。有給とっててよかった…。
PCはなんとかなったのでしばらくは大丈夫・・・なはずです。
とりあえず、受験生の皆さま、センター試験お疲れ様でした。
ではまた次回




