キャラビーの物語です8
今回もキャラビー視点となります。
ご注意ください。
『主様は『約束を果たせ』と、そうおっしゃいました。私たちはその命令に従うだけです』
私の問いに対して、アンナははっきりとそう言い切りました。
『ご主人様は以前、我々全員に対して、自分に何かが起こった場合に備えて指示を出しておられました』
「その指示がお主らがメイの下ではなくこちらにおるのに関係があるということじゃな?」
『そうですね。私たちが受けた指示は『この世界で俺たちの帰る場所を守れ。そしてユウカ様に助言を乞え』と言うものでした』
「ユウカ様に助言ですか?」
アンナの言葉を受けて、ユウカ様はしばし考え込むようなしぐさを見せた後、話を続けました。
「ふむ……。なんとなく何を話せばよいかわかる気はするの」
「そうなのですか?」
「おそらく、じゃがな。アンナ、お主らの今後の扱いがどうなるのか。それを聞いておけと言われておるのではないかの?」
『それだけと言うわけではありませんが、その通りです。主様は、2つの可能性を考えていました』
「ご主人様は何とおっしゃっていたのですか?」
『私たちはそもそもがヒメ様のお力によって主様の喰らった魔物そのものや素材の一部、それから主様の持つスキルなどを使用して、魔力の中に作られた存在です。そんな存在が、主様が亡くなったり、今回のようにリンクが切れて魔力の供給を受けられなくなった場合、そのままの私たちでいられるのかどうか』
「それはお主らが自我をなくし、他のモンスターと同じように暴れてしまうということかの?」
『それももちろんありますが、体を維持できるかどうかすらわかりませんでしたので。実際、今こうして主様からの魔力の供給が受けられなくてもこうして無事に生きているということはその心配は杞憂に終わったようです』
「もう一つはこうして生きていられた場合ということ?」
『そういうことになりますね。その場合、私たちは主がいないただのモンスターと言うことになります』
「なるほどの。主がいる、ギルドに従魔として登録がしてあるモンスターであれば、何か問題を起こしたりしない限りは、攻撃を仕掛けるようなことをすればその者がギルドから罰せられることになる。しかし、主がおらんモンスターであれば、討伐しても何の問題も起きん。それこそ、誰かが文句を言おうとすれば、それは従魔として登録しなかったそやつが悪いという話になってしまう。キャラビーも話の一つや二つ、聞いたことがあるじゃろ?」
「あまり外の話が入ってくるような環境ではありませんでしたが、王都でも主人を失ったモンスターが暴れそうになって、退治されたという話は聞いたことがあります」
怪我でダンジョンに連れていくわけにもいかなかったために従魔を宿の馬小屋で休ませていて、その時に入ったダンジョンで主人が命を落とした。それを主従の繋がりによって理解してしまった従魔が暴れだして退治されたなどという話は別に珍しくもない話でした。私ですら知っているくらいですから。
「そうしたモンスターを退治する側になったこともあるし、その光景を見たことも何度かあるのじゃが、そのすべてが単に暴れた、というわけではないのじゃ。モンスターが暴れないように、その前に退治する。主人がいなくなったことでうまくコミュニケーションをとれなくなったモンスターが、自分の意思を周りに伝えようとしただけで、本気で暴れる意図がないなんてこともあるのじゃ。まあ、もちろん暴れたことで倒された場合もあるがの」
「そうなのですか?」
「うむ。人は弱い生き物じゃ。責任をとる者がおれば問題ないとしてきたことでも、その責任をとる者がおらんようになれば、たちまち問題としてしまう。それ以外にも、元従魔というモンスターの中には人間とは戦わんように躾けられておる者も多くての。主人が亡くなった後でもそれを守り通すものもおる。そうでなくても、人と生活を共にしておったことで攻撃をためらうことは多くあるらしくての。そうしたモンスターを狩ることを中心にしとるギルドもあるくらいじゃ」
『基本的に私たちはこの館の周辺から離れることはありませんし、この館を害するような者たちを近づけたりはしません。ですが、私の子蟻たちはそうした者たちとも会う機会は多いですし、ただ単に森に来ただけの者たちに見られることは多々あります』
「おそらくメイも把握しておらんかったじゃろうが、かなりの数がおるのじゃろ?」
『今も日に日に増えています』
「なるほどの。これまではそやつらを束ねる存在であるアンナが従魔として登録してあった。あの子蟻たちが森に生まれたモンスターや害獣を退治してくれておるし、迷い込んだだけの冒険者を道まで案内しておるじゃろ? それもこれも、アンナが統率しておるから、現状は問題なしとされておるだけなのじゃ。ギルドとしても、何か起きた場合はその全責任をメイに取らせるだけで済むしの」
「ご主人様は生贄というわけですか?」
「そう怖い顔をするでない。悪く言えばというだけじゃ。今、生死は不明じゃが、アンナとメイのリンクは切れ、アンナは従魔ではなくなっておる。それが何を意味するのか。わからんわけではないじゃろう?」
主のいないモンスターが、多量の配下を従えて町のすぐそばの森の中で巣を作っている。
アンナの現状を客観的に表すならそういうことでしょう。そして、そんな状況になればギルドや領主がなんと言いだすのか。それは火を見るよりも明らかでした。
「このことが知れたら間違いなく近いうちに討伐隊が組まれることになるの。そして、その討伐隊には強制指名依頼という形でわしも呼ばれることになるじゃろうな」
「そんな!」
『そうならないように助言をお願いしているのです。そこらの冒険者であれば問題ありませんが、本気でユウカ様が殺しにくるということであれば話は別です。状況をうまく作ることができれば逆に殺すこともできるでしょうが、それをしてしまえば主様が悲しみますからね』
「さらっとわしを殺せると言うあたり恐ろしいの」
『今の私が抱える戦力と、現在のユウカ様の体を考えた結果です』
「かっかっか。あながち間違いではないじゃろうな。わしは今神威解放のせいでぼろぼろじゃから」
「私がそんなことはさせません!」
「うむ。よく言ったのじゃ。ではさっそく一番手っ取り早い方法をとるとしようかのう」
「手っ取り早い方法?」
「一時的で構わん。仮の主をたてることじゃ」
『心からの忠誠を誓うことはできませんが、主様が戻るまで、よろしくお願いします。キャラビー』
「くわー」
「へ?」
こうして、アンナ、カルア、みぃちゃん。私はその3体の主となりました。
どうもコクトーです。
今回もキャラビー視点なのでステータスはなしです。
微妙に間に合っていない気がしなくもないですが、まあ誤差ということで。
3連休が2連休になるというハプニングもありましたが、ワタシハゲンキデス。
来週からしばらく連続で週末に用事があるので更新できるか微妙ですが、温かい目で見守ってくだされば…
まったく関係ありませんが、金鹿学級の1年目がようやく終わりました。戦争に突入だー!
ではまた次回




