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死の草原ですーsideマナー2

「できた!」


 ユウカとヒメに時間稼ぎを任せてちょうど一分、私はお目当ての魔法を完成させた。

 メイと同じように再生のスキルを持つヒメも、延々とスキルを撃ち続けるのはきついようで、制御が甘くなり、ユウカの飛ばす斬撃に当たってしまっていた。ユウカとの作戦会議をしている時から一人で全力でスキルを撃ち続けてくれていたのだから仕方ないか。


「ヒメちゃん、もういいよ!」


「かうー」


 私は適当にフレアを撃ちながらヒメちゃんに声をかける。ヒメちゃんはすぐに攻撃を切り上げてこちらに戻ってくる。疲れていてもいつもみたいにぐてーってならないのは戦闘中だとわかっているからなのかな?


「ユウカ、切り損ねないでね!」


「もちろんじゃ」


「おなかすいたー」


 私はヒメちゃんが戻ったのを見て、魔法を作る間に回復した魔力で大量に魔法を展開する。火や氷、水、風などボール系の魔法で使えるものは全て展開した。それぞれを複数展開しているからかなりの数になっているけどまだ余裕はありそう。少しは成長してるみたい。


「いっぱいだー!」


「全弾発射!」


 真ん丸男にすべての魔法を飛ばす。数が多いからか、目を輝かせる真ん丸男は大きく口を開けて吸い込みを始める。一発、また一発と次々に口に吸い込まれていく魔法を見ながら、私はわずかに笑みを浮かべる。


「なんじゃ、さっきまでと変わっとらんぞ?」


「まだ仕込みをしただけだからね。というよりは確認作業かな」


「なんじゃ。それで、その表情を見る限りはよさそうじゃが、いけるのか?」


「確認はできたからね。狙うはその首1つだよ」


「恐ろしいのう。じゃが、おもしろい」


 私の言葉に、獣じみた獰猛な笑みを浮かべるユウカ。私たちは揃って真ん丸男に向かい合う。


「たくさんおいしかったー! でもなーんにもかわらないよねー。作戦があるとか言ってたけどー、今のがそうだとか笑っちゃうよー」


「そんなに自信があるなら、これでもくらいなさい!」


 私は真ん丸男にヘルフレイムを放つ。何度か放った魔法でもあるし、真ん丸男はこれまでと変わらずに魔法を食べた。私は続けてアースニードルを放つ。真ん丸男は結構な速さで飛ぶそれをあっさりとつかむと、ボリボリとかじる。


「にゃからー、効かないんみゃってばー」


 もぐもぐとアースニードルを食べながら言う真ん丸男に私は続けてアイスニードルを放つ。


「ごっくん。追加だー」


 ちょっと長めに残っていたアースニードルを口に放り込み、アイスニードルを掴んで同じように食べる。それでもお構いなしに続けてエアニードルとファイアニードルを放つ。さすがに風と火ではつかむことができず、真ん丸男はそのままかぶりついた。


「んー、ひやっこい口の中があったかくなったー」


 感想まで言い始めた真ん丸男に6連でアースニードルを放つ。まっすぐと左右から、それぞれ2発ずつ狙うように飛んでいくそれも、肉でつぶれたような手の指の間でつかまれて止まってしまった。


「これはぽりぽりしていいよねー」


 真ん丸男はつかんだそれらをスナック菓子でも食べるように口に放り込んでいく。

 私はそれが終わらないうちに地面に手をついて、アイスロードを真ん丸男に伸ばした。


「んー? またこれかー。食べられるのをうてよー」


「お望み通りにね。その状態で全方向からの攻撃は防げないでしょ? サークルニードル!」


 アイスロードで伸びた氷から真ん丸男の周りを囲むようにアイスニードルが飛び出た。上からならともかく、足が凍った状態で、ほぼ下から突き出る12のアイスニードルは防げないだろう。


「うわぁぁあああ!」


 真ん丸男の叫び声と共にアイスニードルが突き刺さり、落ちた氷で地面から土煙が上がる。


「やったかの?」


「かう! かうかうかうかう!」


 ユウカの言葉を聞いてヒメちゃんがユウカの足をペシペシ叩く様子を視界の端で眺めながら真ん丸男の様子を伺う。


「ふん!」


 土煙の中から声が聞こえ、慌てて私たちの前にアイスクエイクで氷の壁をたてる。すぐに壁に氷の破片がいくつも当たり、止まったところで壁を消すと、怒った表情の真ん丸男が目についた。


「今のは危なかったじゃないか! もーちょっと刺さっちゃったよー」


 真ん丸男のお腹からはかすかに血が流れ出ていた。ゴムのような皮を貫くことは出来たみたいだけど、その先まで貫通はできなかったようだ。


「そんな……今のでも倒せないの? もう!」


「マナ! 諦めるでない!」


 私は真ん丸男に小さな魔力弾を放った。ユウカが私の前に立って声を張り上げる。真ん丸男はその小さな魔力弾を手も使わずにそのまま口で受けると、飴のように口の中で転がしながら短い足を上げてこちらに向かってくる。


「おなかすいたなー。もうおしまいかな。こんな小さいのじゃふくれないよー。まー女の子は筋がなくておいしいからね」


「マナはやらせんよ。いざとなれば奥の手を……」


 ユウカが業堕を構えながら反対の手を自分のアイテムボックスに突っこんでもう一本刀を取り出した。


「あんたじゃ切れないってー。ごっくん。いただきまーあが?」


 口の中の魔力弾を飲み込んだ真ん丸男の体に異変が起こった。


「あにこえー。ふ、ふひは」


 真ん丸男は口が大きく開き、そのまま喉のあたりから頬にかけて口が風船のように膨れ上がる。


「ほひ、ほひほへはい」


「な、なんなのじゃ?」


 驚く二人を見ながら私は真ん丸男を見据えた。


「油断したわね。あの状況なら確実に食べると思ってたわ」


「はんはほー」


「アイスバルーンとでも名付けようかな。私の制御を外れた魔力が爆発的に膨れ上がる魔法よ」


 もともとは魔力から氷を作り上げるアイスの魔法、魔力を圧縮するはじけるほのおの魔法、そして爆発的に膨れ上がるエアバーストの魔法。他にも細かいところはいろんな魔法を使っているけど、基本的にはこの3つからそれぞれ必要な部分だけをつなぎ合わせてつくったのがこのアイスバルーンの魔法だ。私の魔力の制御下にあるうちは圧縮されたままだけど、制御下を離れた場合にのみ圧縮が解かれて膨れ上がる。無理矢理圧縮していると言ったほうが正しいかもしれないね。 

 まあ所詮は氷だから噛み砕かれる可能性も十分あるけど、とりあえずはなんとかなっているみたい。


「ユウカ、今!」


 ユウカは取り出した刀をもう一度しまい、業堕に魔力を灯して真ん丸男に突っ込んでいく。


「は、はへろー!」


「それは無理じゃな」


 ユウカが魔力を纏わせた刀を振るう。それまでゴムのような皮に守られていた首が、口の中で膨れ上がる氷に内側から押され、刀を押し返すことができずにちぎれ飛んだ。


「ユウカ」


「はぁ、はぁ、ちゃんと落としたからの」


「ははは。いや、言いすぎたよ、ごめんね」


「別に気にしとらんよ。わしがまだまだ力がたりんかっただけじゃからの」


「だからごめんって!」


「かっかっか。かわいいのう。しかし、まさか倒すのにこんなにこんなに時間がかかるとは思わんかったのじゃ」


「そうだね。ヒツギとコルクは終わってるみたいだけど、メイはまだそうだね」


「ヴァンハルトがもはや人ではなくなっておるのう。あの魔王珠というのは人をやめさせるほどの強化を施すものなのじゃな」


「かうー」


「そういえばヒメは知っておるのじゃったな。どういう経緯があるのじゃ?」


「うーん、話すと長くなるし、また今度ね」


「その今度というのがいつかわからんが楽しみじゃのう」


 私たちが話していると、メイがヴァンハルトを倒した。完全に人ではなくなっていたらしく、真ん丸男と違ってヴァンハルトの死体が残ることはなかった。


どうもコクトーです。


時間が空いてしまいましたがマナsideの続きです。

以前から卒論がどーのと言っていましたが、この度無事卒業できまして、

その関係でいろいろとやっていて遅れてしまいました。


次はメイ視点に戻ると思います。あくまで予定です。


ではまた次回

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