石碑の話です5
大分遅れてすいません。
壊れて真っ二つになっている扉を踏み越えて最後の部屋に入った俺の目に飛び込んできたのは想像もしていなかった光景だった。
「石碑が……壊れてない?」
部屋の中はあちこちの地面がえぐれたり、木が折れ、瓦礫が散乱し、ところどころに血が付着しているが、その奥に置かれた、これまでの石碑と比べて一際大きな石碑には、まるで戦闘などなかったかのように傷一つついていなかった。
「そんなに意外か? この石碑が無事なのが」
ぽかんとしていた俺の思いを察したとでも言うようにセンから声がかかる。すぐに気を取り直してステュラを構えるが、視線の先でセンは剣をしまい、手ごろな大きさの瓦礫を持ってきてそれに腰掛けていた。
「何をしている。お前もそこら辺から持ってきて座るといい。別に不意打ちをしたりするつもりはない。あまり時間はないから急げよ」
「……なんのつもりだ?」
「はっきり言ったほうがいいか? 柩の弟。俺に戦う意思はない。お前に話をしに来たんだ」
「あれだけ攻撃しておいてか?」
「必要だったろう? おかげでここにいるのは俺とお前の二人だけだ。あの猫獣人を攻撃すれば確実に彼女のことも逃がすと思っていたよ」
「……話はこのままでもできるから俺はこのままでいい」
まんまとセンの思惑通りに動いてしまったことに多少苛立ちを覚えつつ、俺はステュラをすぐそばに突き立てて構えを解いた。
「ならこのまま話そう。今はなんとか制御を解いているからなんとか話せるが、そうもつものではない」
「制御?」
「そうだ。大罪の7人もかなり制限はされるが、俺みたいに大罪の名を冠することができなかった者は、その7人と比べても大きく行動や言動、思考なんかも制限される。あともって数分といったところだな」
「お前って圧倒的に強かった騎士だったんだろ? それなのに大罪を得られなかったのか?」
「お前の持っている暴食以外の6人全員がすでにそろってるのにどうやってなれというんだ。まあもし残っていたとしても俺が適応するかは別だから、どちらにしろだめだっただろう。そんなことより本題だ。もう時間がないし、1回しか言えん」
時間がないというのもあながち間違いではないようで、センは額に汗を浮かばせ、左手で、腰にさした剣をとろうとする右手を押さえていた。
「お前がどういうつもりで魔王様と敵対しているのかはわからん。だが、お前が持つ暴食の力を制御したいのならばシルフィードの足跡を探せ。生きているのが理想だが、俺が死んでからどれくらいたったのかわからん。俺が最後に見た時には犬神」
苦しそうに話していたセンの口が止まった。押さえていたはずの手も放し、剣を右手でつかんで立ち上がった。俺も傍らのステュラをつかんでセンと向かい合う。
「……さっきのはなかなか効いたぞ。つい声が漏れてしまった」
完全に制御が戻ってしまったみたいだ。センはここに飛ばされてきた状態の続きでもするように、左手で先ほど殴った脇腹を押さえながら右手で剣を振るう。
放たれた斬撃は渦を描くように回転しながら、まっすぐ石碑に向かって行き、鈍い音をたてながら石碑を上下に切り裂いた。それによって下側が崩れ、支えを失った上側が重力に従って地面に落ちて砕ける。
「これで俺の目的は達成だ。お前には今は手を出すなと言われているからこのまま帰らせてくれないか? 今からさっきの奴隷を殺しに行こうにもいかせてもらえなさそうだし、撤退するならともかく、他の獲物に目移りして目の前の獲物を逃がすってのは俺の趣味にはあわないんだ」
「個人的には帰してもいいんだが……そうもいかないみたいだな」
「む? ……ふん!」
センが後ろに振り向きざまに剣を横凪に振るった。すると、何もない空間でキンと音をたてて何かが弾かれた。
「危ないではないかスロース。あのままだと俺に当たっていたぞ?」
「お前に当てるつもりだったから問題ねえよ。ったく、なんで教えちゃうかねえ?」
そう言いながら外の景色の見える壁の向こうからやってきたのは、どこかで見たことがあるような仮面をつけた猫獣人の男だった。軽い足取りでセンの近くまで来て、先ほど弾かれた、透明に見える小型のナイフを拾い上げた。
「お前が勝手に暴走するから俺まで駆り出されたじゃねえか。あー面倒くせぇ」
「俺は俺の用事を済ませに来たにすぎんぞ。この石碑を残したのは俺の責任だから、俺が壊しに来ないでいったい誰が壊す」
「こんなことになるくらいなら初めからこんなもの残すんじゃねえよ。つーかお前ラストに何したんだ? 近くに渦を出しとくけど自分が迎えに行くのは嫌だって言ってたぞ?」
「生き返ることを想定できるやつなんか1人しか知らん。それに、ラストとは会ったことがないはずだ。何かの間違いだろう」
「どうだか。あー、刈谷鳴、不本意ながらこうして姿を見せちまったからには、名乗ったかどうかは別として、7人全員に会ったことがあるお前に名乗っておく。怠惰のエルギウスだ。俺の子孫が世話になった」
「子孫? そうか、さっきの奴隷がファントムの少女だったのだな。はっはっは、気づかずに殺してしまうところだった」
「セン、ファントムに手を出すとか俺との約束を忘れたみたいだな。後でお仕置きだ」
「そうは言うが、彼女は本当にファントムなのか? 呪いは感じなかったぞ?」
「あぁ? ファントムの呪いを解いたって言うのか? 冗談だったら許さねえぞ」
「冗談ではない。彼女にはファントムの呪いはかかってないよな?」
ナイフを首に突きつけながらセンに詰め寄っていたスロースの視線がこちらに向いた。仮面で隠れて表情が見えないから何とも言えないが、おそらく仮面の下には困惑した表情が浮かんでいることだろう。そんなスロースを警戒しながら、俺は念のために『全方位結界』を張って質問に答える。
「キャラビーにかかっていた呪いなら俺が解いた。一度しかできない方法だけどな」
「……嘘、じゃあないみたいだな……」
スロースが覇気のない言葉を紡ぎながら、持っていたナイフを地面に落として、かすかに震える手で仮面を外した。
「泣いてる……?」
「……」
仮面の下のスロースの素顔はあまり見れたものではないという印象だった。顔の右半分を覆うひどい火傷の跡。そして、火傷のない左側には、ここからわかるだけでも最低7本の切り傷があった。普段から仮面で顔を隠しているのもわかる気がするな。スロースは、茫然とした表情のまま、そのひどい火傷の跡のある右目から涙を流していた。
「俺が、いや、俺たちの一族が1000年以上かけてきたファントムの血の呪いの解呪。俺たちではできなかったそれを成してしまった。成してくれたんだ。こんな嬉し悲しいことがあるかよ」
「む、スロース、悲しいのか? 俺の胸を貸そうか?」
「お前は黙ってろセン。ファントムの血の呪いの解呪。それ自体は最高に素晴らしいことだし、嬉しいことだ。俺自身は呪われたままだし、解呪の方法は結局この900年発見できていない。ダンジョン産の最高級の解呪のポーションも試したし、とある王家が代々受け継いできた魔道具も試した。それでも解けなかったこの呪いを、解く手段があったってことが証明されたんだからな。だが、これによって俺の『願い』は叶った。叶ってしまったんだ」
「願い?」
「もう直に憤怒と嫉妬の願いも叶ってしまう。そうなった時、魔王は必ず動き出す。俺の願いがこのタイミングで叶うってのは予定外だ」
「スロース、俺は知らないのだが後から説明はもらえるのか?」
「バッチリしてやるよ。そういうわけだ。話し合うことができたし、準備もできたし、これくらいで帰るぞ。置き土産に俺が預かったキメラを置いていくからまあ頑張ってくれ」
涙を拭いて仮面をつけなおしたスロースの足元に、直径5mほどの魔方陣が浮かぶ。そこから体が岩でできた、5mにもなる巨人が浮かんできた。
「ロックジャイアント型のキメラだ。これに足止めされたってことで1つ頼むわ」
「刈谷鳴よ。サラダバー!」
スロースとセンがそいつの肩からジャンプして外に消えていく。すぐに『小規模ワープ』で後を追いかけようかと思ったが、その前にキメラの魔法が発動した。足元の土が大津波のように俺に向かって流れだす。俺が立っている場所がそちらに引き込まれるように動くおまけつきだ。
俺は動く地面に足をとられないように『空蹴り』で上に逃げ、キメラの肩に『小規模ワープ』で移動した。キメラは大きな手を動かして俺を潰そうとするが、その前に俺の『ダークナックル・纏』状態での『魔拳突き』が決まった。きれいに首から上がもげ、頭部が石碑があった場所に落下して壊れていた石碑をさらに砕き、それを隠すかのように力を失ったキメラの体が押しつぶす。
上に『小規模ワープ』で跳んで少し外を確認するが、すでに2人は例の渦で転移したらしく、少なくとも見える範囲にはいなかった。あわよくば人工物が見えてどのあたりにあるかわかるかとも思ったが、完全に森の中だった。しいて言えば、遠目に岩山の様なものが見えたくらいだが、俺が知っている岩山と言えば、ヒツギと再会してすぐに名前だけ聞いたギラの岩山くらいだし、特定は無理だろう。
「マナたちはもう転移で戻ったかな? 『探知』はそろそろレベルが上がってくれてもいいと思うんだけどな……」
『探知』は常に使い続けて入るのだが、いまだにレベルは1のままだ。レベルが上がってくれれば転移したかどうかもわかるだろうが、今の状態では最初の部屋の状態すら調べられない。なにか条件でもあるのかな。
倒れこんだ衝撃で砕けたキメラの破片をかき集めてアイテムボックスにしまい、俺は転移してきた部屋に向かって駆け出した。
マナたちのことも心配だが、それ以上に、俺の頭の中にはセンが壊す前の、最後の石碑に刻まれていたその文が強く残っていた。
『俺の甘さがーーーーを殺してしまった。この後悔だけは死んでも忘れられない。
どうか、後世に生きる者が同じ過ちを繰り返さんことを』
どうもコクトーです。
『刈谷鳴』
職業
『ビギナーLvMAX(10)
格闘家 LvMAX(50)
狙撃手 LvMAX(50)
盗賊 LvMAX(50)
剣士 LvMAX(50)
戦士 LvMAX(50)
魔法使いLvMAX(50)
鬼人 LvMAX(20)
武闘家 LvMAX(60)
冒険者 LvMAX(99)
狙撃主 LvMAX(70)
獣人 LvMAX(20)
狂人 LvMAX(50)
魔術師 LvMAX(60)
聖???の勇者Lv15/??
薬剤師 Lv51/60
ローグ Lv31/70
重戦士 Lv39/70
剣闘士 Lv30/60
神官 Lv19/50
龍人 Lv2/20
精霊使いLv4/40
舞闘家 Lv4/70
大鬼人 Lv2/40
死龍人 Lv1/20
魔人 Lv1/20
探究者 Lv1/99
狙撃王 Lv1/90
上級獣人Lv1/30
魔導士 Lv1/90 』
だいぶ遅くなってしまいすいません。
なんで1日って30時間くらいないんだろう……。
本格的に忙しくなってきた中でスマホのバッテリーがイカレはじめ、もうなんかきついです。
次も遅れると思いますがお待ちください。
ではまた次回




