僕は真の勇者だ!その終
三人称視点です。
誰の視点というわけではありません。
「皆さん落ち着いてください。いいではありませんか。慎重に経過を見守ってきた種が、ようやく芽を見せたのですから」
そう言いながら後ろ手で扉の鍵を閉めたサラの顔には、その場にいる全員がこれまで見たことがないような恍惚とした笑顔が浮かんでいた。その表情を見たバラーガたちは、言いようのない恐怖を感じた。
「サラ、何言ってんだ?」
「そうですわサラさん。ふざけている場合ではありませんわよ?」
「ふざけてなんかいませんよ。ようやく、ようやく古里さんの適正の種が芽吹いたのですから、わざわざそれを取り除くようなまねをするのは、偉大なる神に対する背信行為に他なりません。私がこの数か月間のすべてを費やしてきたものです。これもすべては偉大なる神のため!」
サラは両手を天に掲げて祈りをささげた。その表情はかわらず恍惚としており、逆にそれが不気味さを増加させていた。
「サラ、何を言っているのだ? あまりふざけたことをぬかすと……」
「私は少しもふざけていませんわ。私の行動は全て偉大なる神のために。もちろんあなた方も無駄にはしませんよ? 偉大なる神であればきっとあなた方のことも活かすことができるでしょう」
「……ふざけているわけではなさそうだな」
「ちょっとバラーガ!? 剣なんか抜いて何を」
「マーサも構えな。様子がおかしいのはわかるだろう?」
「そうですわ。サラさん、申し訳ありませんが、少し痛い目にあってもらいますわ」
「ヴァルミネもアイリも! 一回落ち着いて」
「落ち着いているさ。落ち着いて、考えて、この結論に至ったのだ」
「マーサさん、大丈夫ですよ。安心してください」
サラがお祈りを止め、姿勢を正してマーサにいつもの笑みで微笑みかけた。
「サラ!」
「あなたもきっと偉大なる神の役に立てますわ」
「危ねぇ!」
アイリがマーサを押し倒す。そのすぐ後にマーサが立っていた場所を光線が通り過ぎた。
「サラ、お前、今何をしたのかわかってるよな?」
「ええ。偉大なる神にささげるための下準備です。ですが、その前に自己紹介をするのを忘れていました。これから偉大なる神のもとへと送ることになるというのに、ようやく芽が出たことがうれしすぎてすっかり忘れていました。こんなことではあなたたちを偉大なる神のもとに送った後に恥をかいてしまうところでした」
「サラではないとでも言うつもり? なら本物のサラはどこにいるのかしらね?」
「もちろん私は本物ですよ。本物のサラ・ファルシマーです」
「偽物という線を信じていたんだが、それは甘かったようだな」
「私はあのような神の名を語るような愚か者とは違いますから。いつだって私の思いは偉大なる神のもの……」
再びサラが目を閉じて祈りを捧げようとした隙を狙って、バラーガが動いた。ガリっと削れるのを気にせずに地面を蹴り、無防備なサラを袈裟懸けに斬りつけた。
しかし、それはガキンという音とともにサラの周囲にいつのまにか張られていた結界に阻まれた。
「祈りの最中に斬りつけるなんて信者としては失格ですよ」
サラが目を開けてバラーガの方に向いたのを見て、剣が弾かれたことで体勢が崩れたバラーガは若干無理に地面を蹴って離脱する。その後を追いかけるように結界から拳ほどの大きさの光弾がバラーガに跳ぶ。
「どきな!」
空中でまともに受けられないと判断したアイリがバラーガを押し、その光弾をハンマーで誰もいない方向へと弾き飛ばした。弾かれた光弾が壁にあたって風穴を開けるが、外側の壁までは届かずに消えた。
「助かった」
「礼なら後だよ。まったく、油断しすぎだって」
「すまない。だが」
バラーガが左手の小盾を捨てて、両手で剣を胸の前に掲げて何かを呟くと、その剣のまわりをぼんやりとした光が覆う。それに合わせるようにヴァルミネの唱えていた魔法が発動し、古里とサラを除いた4人にパワー上昇のエンチャントがかかる。そのころにはマーサも覚悟を決めて、魔法袋から弓を取り出して、いつでも放てるように準備を矢をつがえていた。
「次は切る」
「では準備も終わったところで改めて。バラーガ・グーテン、ヴァルミネ・カク、マーサ・シャンス、アイリーン・ミルシャ。私は偉大なる神、魔王様の直轄の魔将の一人強欲のサラ・ファルシマーと申します。この腐った世の中に偉大なる神の威光を知らしめんべく、最後の大罪を探す役割を果たしておりました」
サラの言葉に驚き、何も反応のない5人に対してサラは続けた。
「古里さんには最初から目をつけていました。あなたたちにばれないように少しずつ精神制御を始めましたが、今回の件で一気にその抵抗がなくなりました。古里さんは力を求めていましたからね。偉大なる神のもとに下ればさらなる力が手に入る。古里さんはそれを受け入れてくださったのです」
「サラ、貴様!」
「そう憤るものではありませんよ。バラーガさん。憤怒はすでに最適な方で埋まっていますから、魔将となることはできませんが、あなた方にも偉大なる神が更なる力を与えてくださるでしょう」
「俺が仕えるのはこの国の王だけだ。この場で仕留め、お前から魔王の情報を抜き出してやる」
「できないことは言うものではありませんよ。人はそれを夢と言います」
「貴様の能力では我々の攻撃に耐えることはできまい。全員合わせろ! 『逆賊切』」
「攻城弓!」
「『我が崇高なる魂の力で滅びなさい』エクスフレイム!」
「『一撃粉砕』!」
それぞれが最高威力の技でもってサラに攻撃を仕掛ける。そのどれもがこれまでの旅の中で立ちふさがってきた強敵を打ち破ってきた各人の自慢の一撃だった。
「『神の威光を理解できぬ者へ慈愛を』裁き」
4人の渾身の攻撃は、サラが放ったたった1つの魔法によって消滅した。その現実を受け入れることができないのか、それともただただ動けないのか、4人は攻撃を放ったその体勢のまま、その光景を茫然と眺めるだけだった。
「『神のもとへ旅立つ悦びを』滅」
そして、4人はそのまま新たに放たれた光線にその胸を貫かれた。カランとその手から剣が、ハンマーが、弓が、そして杖がこぼれ落ちる。しかし、それを拾う者はいなかった。
少し遅れて、ドサリと地面に崩れ落ちる音が4つ重なって響く。4人はピクリとも動かずただただ倒れ伏していた。
「さあ古里さん。受け入れるのです。偉大なる神のお力を。この『傲慢』の力を」
『エラー:対象者の意識の低下、並びに汚染を確認しました!
エラー:汚染の排除に失敗しました!
やみ?ちの勇者を確認。闇断ちの勇者の強制覚醒を実行します。
レベルが足りません。
条件が未達成です。
能力が一定に達していません。
汚染の抵抗に失敗しました。
エラー:闇断ちの勇者の覚醒に失敗しました。
スキル:『傲慢』による強制覚醒が実行されました。
スキル:?者の?りの書き換えを開始します。
聖者の誇りは愚者の驕りへと変化しました。 』
『職業:闇断ちの勇者は消滅しました。
スキルと汚染による強制覚醒に成功しました。闇堕ちの勇者になりました。 』
こうして、この日、天上院古里は消滅した。
どうもコクトーです。
3月になり、本格的に就活解禁になりました。
今後ますます遅れると思いますがご了承ください。
それにしても皆さん鋭いですね。感想をいただくたびにうれしさと、考えていた展開を予想されるつらさを味わうことに…
↑決して作者の考えが平凡すぎるとか言わないでね!
感想はほんとにうれしいのでいただけると嬉しいです。そこはほんとですよ!
次回は本編にもどります。
ではまた次回




