キャラビー・ファントムの初めての夜
連続投稿6日目!
私、キャラビー・ファントムは、奴隷の娘として生まれました。
母の名前はクレミア・ファントム。父親は母の御主人でした。
私は生まれてすぐに国の研究所に売られ、そこで実験生活をおくることになりました。
私の姓、『ファントム』は『呪われし血族』または『呪われた血の一族』とよばれています。その理由は簡単。本当に、私にも流れているこの『ファントムの血』が呪われているからです。
その『呪い』が起こったきっかけは、2代目魔王ジェラウスを討伐するために派遣された、勇者のパーティメンバーに当時のファントムがいたことでした。
魔王ジェラウス自体は、当時の勇者パーティ7人のうち、そのファントムと勇者と神官を除いた4人が犠牲になったものの、なんとか討伐を果たしました。しかし、その際、ファントムはジェラウスの最後の一撃から勇者をかばい、『呪い』を受けました。
王都に戻ったファントムは、勇者の協力も得て、国一番の解呪士に呪いを解いてもらおうとしました。しかし、呪いの力が想像以上に強かった結果、解けないということが判明してしまいました。そこから、ファントムの血を継ぐ者の受難が始まりました。
それでも、500年ほど前までは呪われし血族と呼ばれながらも普通に暮らしていけました。
しかし、500年前、事態は急変しました。
当時のファントムが自身の呪いについての研究をしていく過程で裏切りに遭い、奴隷に身を落とすことになったのです。そこからファントムの血族の扱いは一気にひどくなりました。
非人道的な研究や実験が当たり前のように行われるようになり、子孫を残せさえすればあとはどうなってもかまわないといった感じだったそうです。現に母も私を生んでしばらくで命を散らしました。解呪実験中の事故と聞いています。
しかし、この500年の間で呪いの具体的な内容は明らかになりました。
身体能力1/5、スキル成長遅延、光属性への抵抗力の低下、聖属性への抵抗力の低下、状態異常への抵抗力の低下、回復アイテムでの回復量1/5の6種類です。そして、呪いの副産物として得た能力が、罠探知、気配探知、罠の知識、闇属性への親和性でした。そのため、ダンジョン探索では力になれることも多いのですが、私は性格が邪魔をしていました。
勇者様のパーティにいた間、私は気の休まる時間がありませんでした。はじめは奴隷として扱うつもりはないと全員が言っていましたが、自然と私の扱いは変わっていきました。それでもかろうじてですが、私は自分の居場所をしっかりと持っていました。
そして月日が経つにつれて、私は壊れていったんだと思います。
オークションにかけられることになり、バラーガ様から私の今後を聞かされて私は絶望しました。私の居場所はないんだと。これまでの私の居場所はまやかしだったんだと。
そして、私は死ぬべき人間なんだと、そう思うようになりました。
いざオークションが始まり、結局私を落札したのは勇者様でもなく、貴族様でもなく、私が売られることになったあの場にいた冒険者でした。なぜあの人は私を落札したのでしょうか? 私なんか落札しても意味がないのに。だって私は死ぬべき人間なのですから。
メイという冒険者は、私を受け取る時に2人の女の人を連れていました。服装などから判断するに奴隷ではありません。そして奴隷の契約が始まりました。私の体と新しいご主人様の体が光の糸でつながる。私のこれは4度目だ。1度目は母のご主人様、2度目は研究員、3度目はバラーガ様。もう慣れた感覚だ。
契約が終わり、会場を出ると、すぐにご主人様はローブを購入して私に着せました。奴隷を購入した人の多くは同じことをするらしいし、この人もそうなのだろう。それからご主人様は泊まっている宿に向かいました。
宿でご主人さまは新しい部屋をとろうとしていました。奴隷と主は同じ部屋に泊まるという原則を知らなかったのでしょうか。結局は少し考えてそのままでいいとおっしゃられました。それからお金を払って、食堂に向かいました。
食堂で、いつものように床に座ると、なぜだかあきれられました。奴隷はこれが普通なのに。
命令として椅子に座るように言われました。変な命令をする人です。その後も、ご主人様と同じご飯を食べるように言われました。あまりものじゃないんですか? もしかして私を試しているのかも……。
私は1口ごとにご主人様のことをうかがい、食事を終了しました。怒られずに済みました。
それからご主人様は私を服屋に連れていきました。そこで服を2枚購入されました。……私の。
なぜ私の服なのでしょうか? 1枚であればまだわかります。今着ている服とローブ、それから買った服で回すことができますから。しかも一番わからないのが、ここが中古の物を扱う店でなく、新品を扱っている店であるということです。奴隷に新品のものを与えるなんて考えられません。……でも、少しくらい死ぬ前にオシャレをしても……いえ、私のようなものがそんなことをしていいわけがありません。
夕暮れまで食料を買って回り、宿に戻ると、部屋のベッドに座らされました。主様は私の前に、そして左右を塞ぐように主様のお仲間の2人が座りました。マナ様はすぐに部屋に防音の結界を張りました。詠唱省略でしょうか? 無音詠唱かもしれません。少なくとも私に詠唱は聞こえませんでした。
それから主様は私に質問を始めました。
自分に会ったことがあることを覚えているか。当然覚えていました。あの場にいらしたのですから。まあご主人様を責めたりはしません。ご主人様は被害者でしたから。ヴァルミネ様を許せだなんて言える立場ではありません。
そして次に言われたこと、それは『勇者様たちのもとへ戻りたいか?』ということでした。その質問を聞いた時、私はとっさにバラーガ様の言葉を思い出していました。
『お前はもういらん』
『お前のようなやつにはそれがお似合いだ』
『そもそも王はお前を解放するつもりなどない』
『呪われた血の一族の者を野放しにするはずがないだろうが』
『お前が役に立てるのはそんなものだ』
バラーガ様に言われた言葉の断片が次々と頭の中でループしました。それだけでなく、あのパーティにいた間に起こった出来事も次々と頭の中で流れていきました。
「……私の居場所はもうありません」
ポロリと出た言葉がそれでした。私は本当はあの貴族様に買われる予定でした。王国が私みたいな『呪われし血族』を見逃しておくはずがありません。貴族様に買われていたら問題はなかったはずです。しかし、ご主人様はただの冒険者。なんで私を買ったんですか。なんで私はここにいるんですか。なんで、なんで
「……なんで、私は、生きているのですか?」
私はそう尋ねました。すると、ご主人様はそっと私を抱きしめました。そして私の耳元でささやきます。
あぁ……。あぁ……。あぁ……! ご主人様のささやきが私をバラバラと崩していく。
「キャラビー、キャラビー・ファントム。今から、お前にかけられた2つの呪いを解く」
ご主人様のささやきは力を帯びたものにかわりました。
「1つはお前の血の呪い。ヒツギからファントムの呪いのことは聞いてる。その呪いを解いてやる。お前にかけられてる呪い、それを全て解くと同時に、お前に新たな呪いをかける。死ぬまで消えない呪いだ。いかなる解呪の魔法だろうと解けない呪いだ。それでもいいか?」
私は考えました。
ご主人様は私の『呪い』を解こうとしています。私の『ファントムの血』の呪い。今の私ができてしまった原因とも呼べるもの。それを解こうとしています。しかし、この呪いはそう簡単に解けるようなものではありません。しかしご主人様はとても自信がありそうです。もしかしたら本当に解くことができるのかもしれません……。
しかし、2つ目の呪いとはいったいなんのことでしょうか? 私の呪いはこのファントムの血の呪いだけです。私の体のことは私が一番わかっています。私は他の呪いなんかありません。それに、新しい『呪い』とはいったいなんなのでしょうか? 死ぬまで解けない呪い。私はいつ死んでもおかしくありません。すぐに解けてしまう呪いです。王国が私を逃がしてくれるとは思いませんから。
ですが、もし、もしも本当に呪いを解いてくれるのだとすれば。…………私にもしたいことはあります。どうせ死んでしまうなら、可能性に賭けて、それをかなえたいと思うのは……悪いことですかね?
「……お願い、します」
私はご主人様にすべてをゆだねました。
ご主人様が苦しみだしました。私の体から『呪い』が抜けた途端のことです。私の体から『呪い』が抜けたことで、呪いによって起きていたマイナスがなくなり、一気に体が軽くなりました。今の私はどんな顔をしているのでしょうか?
ご主人様はそうとう苦しいはずなのに、笑って私をみつめます。
「お前のもう1つの呪い、天上院たちとのしがらみはこれでなくなった。お前はもうあいつらに束縛されることはない。お前はあいつらから、腐ってる王都のやつから解放されたんだ。お前は自由だ」
ご主人様は私を胸に抱きかかえました。
「そして今、新たな呪いをお前にかけた。俺からお前に贈る『呪い』だ。お前を誰にも渡したりはしない。お前は、俺のものだ」
自然と私の目からは涙があふれ出していました。『泣いてもいい。大丈夫だ』そうご主人様が言っているような気がします。温かい……。
「お前は今から、俺のキャラビー・ファントムだ。胸を張って生きろ」
私は生まれた初めてうれしくて泣きました。涙があふれてあふれて止まりません。
私はその日、初めてキャラビー・ファントムになれました。
どうもコクトーです
宣言通りキャラビー視点でした
少しいつもより長いです
連続投稿も残すところあと1日!
ちょっと明日厳しいですがなんとかガンバリマス!
ではまた次回




