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8 GWはストレスフリー連休と思ってたらしっかりと元カノがデートに誘ってきた

 4月の終わり、5月の始まり。この時期はゴールデンウィークと呼ばれる長期連休だ。今年は3連休から4回学校行ってから4連休という感じ。予定はもちろん無いし、家に出る気もほぼ無い。

 誰かを誘ってみるというのも手ではあるし、久しぶりにサッカーをするのもアリだとは思ったが、休めるのなら休んでいたい。

 しかし俺にそんな隙を許すわけない奴が1人いる。


「ゆ・う・まっ」


 華奈がにじり寄ってきた。先週閉じ込められて変な空気感になったのをもう忘れたみたいな感じの距離感だ。俺としてはまだ少しダメージが残っているのだが、どうやら華奈はお構い無しらしい。


「ゴールデンウィーク、何か予定ある?」

「いや、全く無いが」

「じゃあデートしよ!」


 その一言で、クラスにいる男子が全員俺の方を見た。

 俺に100m走に負けた運動大好き男子一同がギロッと睨みを効かせ、俺に華奈の連絡先を聞いてきたガラの悪い男子が眉間に皺を寄せて舌打ち。

 そして隣の蓮はいつも通りニマニマした笑みで俺と華奈を見てる。多分心の中で「お熱いなぁお二人ぃ」と思っているであろう顔で、非常に腹立たしい。


「デートって……女友達と行けば良くないか‥?」

「それも行くけど! 悠真ともデートしたい!」

「強情だな相変わらず」


 こうやって意地を張り出した華奈を折るのは、そうそう容易なことでは無い。

 教室の雰囲気が一気に重くなり、俺に向けられる視線はどんどん鋭くなる。しかし華奈は全く気にもしていないようだ。俺の心情と置かれている状況を少しだけ察知してほしい。


「ね? お願い!」

「ちなみに、どこ行きたいんだよ」

「んー……水族館とか!」


 ベターな恋人のデート行き先をしっかりと指定してきた。付き合っていた頃ですら行ったことが無いところを指定してくるあたり、こいつは本当に図々しいというか骨太というか。

 咥えている爪楊枝がどんどん湿気ていく感覚がする。柄にもなく焦っているのか、先端の湿り気が酷い。


「悠真はやだ?」

「やだとかそういう問題じゃねえって。そもそも俺らって今は気軽に水族館行くような関係じゃ……」

「あれぇ? 『友達』なら別に水族館くらい行ってもよくないかなぁ悠真〜?」

(ふざけんな蓮お前、なんでこういう時だけ華奈のアシストするんだよ)


 俺の助けをする気は毛頭無さそうな親友を睨むと、蓮は全く効いていないような感じでニヤニヤしながら「んー?」と首をわざとらしく傾げてきた。

 こいつの魂胆は丸分かりだ。俺と華奈を再びくっつけるのが、こいつの今の最大最高の目的。絶対叶わないのに、なぜそんなに奔走するのか。

 華奈が俺を諦めていない。それは俺にも充分伝わってる。ただ、それとこれとは話が違う。俺が前みたいな性格で、サッカーもしっかりできる自分の強みが一つあるような男なら、その好意に応じれるだろう。

 でも相手は学年のマドンナであり高嶺の花のような存在だ。どうやっても一般男子の域を出ない俺では、どうしても差が浮き彫りになってしまう。

 だから離れたのに、この感情はなんなんだ。無性に今、華奈と水族館に行きたいと思ってしまっているこの感情は。


「悠真、口ではそんなこと言っといて本当は行きたいでしょ。僕には丸分かりだよ」

「え、そーなの!?」

「違う適当なこと抜かすな蓮」

「適当言ってるのはどっちさ〜? いい加減認めたら?」


 蓮のこの獲物をロックオンして追い込み漁のようにひたすら追い込んで追い込んで、確実に仕留める感じがとにかく嫌いだ。

 やり方が俺に刺さり過ぎているのもあるし、単純に俺の未練がましさを露呈させてくるのがひたすらに腹立たしい。蓮に対しても、もちろん自分に対しても。

 華奈に対する負の感情なんてあるわけがない。そんな感情を抱けるほど、大層な人間じゃない。

 すると、遠くから見ていた1人の女子が喋りかけてきた。名前が確か葛葉透(くずはとおる)。こいつはクラスのまとめ役みたいな感じの奴だった……はず。少しノリが軽めで、チャラっとしていてカースト上位感醸し出してる女子だ。


「あの〜、さっきっからずっと見てたけどさ?」

「うんうん?なになに?」

「何をそんなに天崎くんはウジウジしてるの?華奈のこと好きなん?」


 一気に俺の核心をついてきやがった。

 再三言うが、このクラスのほとんど‥‥というかほぼ全員は俺と華奈が付き合っていたことを知らない。つまり葛葉は本当にただの疑問として「好きなのか?」と言う質問を投げかけてきた。

 ただ、今の俺にとってその質問はあまりにも酷だ。「好きなん?」という単語が脳内をグルグルと回る回る。

 ふと前を見るとちょっとだけ頬を赤くしてもじもじしながら、俺を見つめて答えを待っている華奈がいた。その姿にまた心がチクッとした。


「好きではない。でもいい友人だとは思う」

「なら水族館行って良くない? なんかダメな理由あんの?」

「いや無いとも言えないし……無いことも無い……」

「どっちなんそれは? ハッキリと!」


 葛葉に答えを無理やり吐き出させられそうになる。横の蓮に助けを求めるも、蓮は見て見ぬふりで我関せずの姿勢。

 やはり自分でどーにかするしか無いのだが、もうこの状況になってしまった時点で俺が取れる行動なんてたった一つしか無い。


「行く……予定もねえし」

「はい決まり。華奈よかったね」

「っ……! やった……!」


 予定が無くストレスフリーだったはずのゴールデンウィークは、どうやらずっと胃痛に悩まされる日々になりそうだ。

 ただ華奈が本気で嬉しそうな姿には、少しだけ行くと言えて良かったとも思えた気がした。

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