48 ギャルの告白
一年生フロアから脱して、華奈と共に二年生フロアに戻ることにした。華奈は女バスの店番を誰かに変わってもらって自由時間を手にしたらしい。二年生フロアは一年生が禁止されているご飯系の出し物が許可されているので、先ほどの一年生フロアよりもジャンルの幅が広い。
しかし並び順的にやはり異彩を放つのは、桐崎が手塩にかけて作ったらしい三組のお化け屋敷とその真隣に鎮座する我らが三組の女装メイド喫茶。片や結構な頻度で悲鳴が聞こえる教室、片やメイド服姿のスポーツ系男子が受付をしていて中からはゲラゲラと笑い声も聞こえる教室。あまりにも真逆であまりにも混沌としている。
「改めてなんだが……この並びどうなんだ?」
「まぁ六組と隣じゃないだけマシだとは思う……六組は結衣パワーが凄いから……」
「狡いよな黒田結衣とチェキっていうクソシンプルなのに強過ぎる出し物」
「しかも結衣だけじゃなくってさ? なんか蓮ともチェキ撮れるって……」
どうやらあのイケメン客寄せバカメイドは何故か六組で黒田と共にチェキのツーショット対象になっているらしい。メッセージが返ってこないと思っていたら、そういうことか。六組の方に視線をやると、確かに列が凄いことになっている。しかしそこから出てきた人たちがみんなメイド喫茶まで来ているから、バカメイドがチェキの代わりにメイド喫茶行ってとか言って客寄せをしているのだろう。律儀で打算的だなと半分感心半分呆れの感情が出てくる。
「あ、天っちと華奈だ〜」
「ん? 早乙女か。葛葉は? つかお前自由行動では?」
「いや〜さっき透に捕まってあたしは客寄せやれって指示されてさ〜? どうせなら天っちと一緒にやろーと思ってたら華奈に先越されてたなぁ……用があったんだけど、デートの邪魔はしたく無いし……」
その言葉を聞いて先ほどまでかなり緩めで柔和だった華奈の雰囲気が一気に締まった。早乙女の言う俺への用事の内容を察した様子で、早乙女の目を見つめている。早乙女も華奈に一瞥した後、俺の方を向いてふぅと一息吐いた。
「……天っち……んや、天崎くん」
文化祭、二年生フロアの人気出し物が隣り合っている廊下。同じクラスの奴らが今目の前のメイド喫茶で接客をしたり料理を作ったりしている最中、早乙女はさんな喧騒を気にもせず俺だけを見つめて今まで見たことの無いくらい真剣な顔をして、絞り出すように言葉を紡いだ。
「好き……」
「……」
「天崎くんがあたしは好き。だから付き合ってくれたら、うれしーな」
横には華奈がいる。でも今華奈の表情を伺うのは、目の前の一人の女性に対して失礼な行為だと思い目線は動かせなかった。
人に告白するのは人一倍勇気も、度胸もいると思う。俺だって花火大会で口から溢れた好きと言う言葉以外ロクに華奈にそういう言葉をかけていないのだから。しかも早乙女は俺の気持ちが誰に向いているのか分かり切っている状態で告白しているのだから余計に心が強い。でも俺はその告白に応えることはできないと、震えてスカートの裾をギュッと掴みながら俺の言葉を待っている早乙女に一言だけ、シンプルにその問いに答えた。
「俺には好きな人がいる。だから、ごめん」
「……はぁ〜ぁ……天っちさぁ〜? こんな可愛くてプロポーション良くて元気でノリも良い女の子なんて滅多にいないのに〜……」
「自分で言うな」
「……じゃっ、あたしはお客さん集めてくるっ! じゃねー!」
早乙女は繕った笑顔を俺に向けながら、逃げるように走ってその場を後にした。その瞬間時が急に動き出したかのように周りの人たちが一斉に動き出したような気がした。実際はさっきもずっと流動的に人は動いていたはずだが、それに気づかないほど早乙女に集中していたと言うことだろう。
そして恐る恐る横を見てみると、さっきまでの締まった雰囲気とは違う、どちらかと言うと覚悟を決めたような表情に切り替わった華奈の姿が。それを見て俺も、何かスイッチが切り替わったような気がした。
「華奈」
「ん? どしたの?」
「放課後、体育館集合で」
「? バスケする?」
「ん? そんなところだな」
そう言って、俺は華奈の頭を優しくぽんと叩いてその場を後にした。迷いはもう無く、ただやり直す時が来たという意識だけが脳を刺激して俺を奮い立たせていた。




