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47 暴走元カノ注意報

 ものすごくまずい状況に陥ってしまった。目の前の華奈の目がもうバッキバキ過ぎる。俺の服装、ミニスカメイド姿を白目までしっかり焼き付けようと目を開けるだけ開いて全身を舐めるように見てくる。

 いつのまにかスタッフの一年生がなんの気の利かせ方かは分からないがどこかへ消えている。おそらくチェキを撮る場所に待機しているのだろうが、まずそこまで行けるかどうかという問題がある。だって目の前の人、俺の事を食わんとする表情なのだから。


「なぁ華奈? 部活の方で店番なんじゃなかったのか?」

「いやそうなんだけど……悠真がそんな格好で学校を歩いてるって聞いたから飛んできたよ」

「誰から聞いた」

「桐崎くん」


 蓮かと思っていたらまさかの桐崎で逆に心の中でずっこける。この際だから全部蓮の企みであれと謎の思考が横切る。そんなくだらない事を考えているうちに、華奈が一瞬で俺との距離を詰めてきていた。メイド服のフリフリの部分を触ったり、スカートを弱い力で引っ張ったりとまぁまぁなセクハラまがいな事をしている。正常な思考と判断ができなくなっていると咄嗟に思考して、どうにかどうにかこの状況を打破する方法を算出する。


「ねー悠真」

「なんだ」

「これつけよ。絶対似合うから」


 キラッキラな目で俺を見ながら差し出してきたのはおそらくさっき入り口付近にあった段ボールの小物入れに入っていたであろう猫耳。


「は? 猫耳……? 嫌なんだが」

「無理。つけてくれないとスカートずりおろしてガーターつけさせる」

「ふざけんなよお前セクハラじゃねえか」

「セクハラだっていい! セクハラだっていいんだ!! 悠真の可愛い可愛い姿を!! 俺は見たい!!!」


 最大級に顔を近くまで寄越してきて、今まで感じたことのないくらいの熱量でそう言う華奈。脳内がどうなっているのかは知らないが、もう思考がバグり出しているのだろう。キャラもブレているし、一人称も変になっている。どうにかせねばならないのだが、猫耳をつけるのは本当に嫌過ぎる。華奈にだけ見られるというのであればまだいいのだが、問題はこれをつけてチェキを撮ることになった時だ。それだけは避けたい。


「つけてもいいけど……猫耳つけたままチェキは撮らないからな」

「は? なんのためにここにいるのじゃあ」

「無理矢理連れてこられてなんのためにここにいるとか言われても」

「えー……じゃあ私がつける」


 膨れっ面で自分の頭に猫耳をつけてからふんっとそっぽを向いた華奈の一連の動作が愛おしすぎて口から可愛いと漏れかけた。拗ねても可愛いせいで、俺が折れたくなってきているのはあまりにも魔性が過ぎる。


「むぅ……悠真につけて欲しいのに」

「俺は別にもういいだろこんなに着飾ってんだから」

「もっと可愛くなれ。顔もっと出せ」

「嫌だね絶対」


 そんな軽口を叩き合いながら、自然と互いに互いをじっくり眺めている。俺は普段とあまり変わらない、変わったとするならば猫耳がついているくらいの変化しかない華奈をジーっと眺めている。華奈も華奈でさっきより落ち着いてはいるが、目の舐め回すような視界の這いずり方は健在だ。

 二人しておんなじような事をしているので、若干の困惑が俺の脳内を掠めたがすぐに横に置いておいた。この瞬間を割といいと思ってしまっている自分がいる時点で、考えるだけ無駄だろう。


「……悠真、チェキ撮る?」

「まぁいいけど」

「いぇーい! やっほー!」


 そうはしゃぎながら段ボールで仕切られているチェキを撮る方の部屋に突撃していった華奈の後ろに着いていく。華奈は仮装という仮装は一切していないし、それどころか服装は女バスの出し物の『チョコバナナ』とデカデカ書かれたTシャツだ。でもこれも文化祭っぽくていいかと思い、特に何も突っ込まないでおいた。


「はーい二人とも〜近寄って何かポーズ〜」

「ポーズ……?」

「んー……あ、ハートつくろ」

「……はい」

「え!? やったぁ!!」


 渋々渋々片手ハートを作って華奈の前に差し出す。華奈も片手ハートを俺のハートに引っ付けて一つのハートが完成する。オタクとコスプレイヤーの某写真のように俺が寸前でサムズアップにしてもいいのだが、流石に野暮だからやめておいた。

 パシャリと一枚、今まで見たことのないレベルで満面の笑みな華奈と、相変わらずの俺の写真が出てきた。

 それを見た瞬間、なぜかこの一枚で無表情写真とはおさらばしたいなと、しっかりと心の底から思った。

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