46 客寄せしてたらまた元カノとハプニング
兄貴と瑠衣を取り敢えず教室内に封印しておいて、俺は本来の目的を遂行するために看板を持ってひたすら校内を練り歩く。さっきのやる気無しの口上を見ていた人たちが割と店の中に入っていったから、まぁあれだけでもいいだろうとも思ったが、流石に料理が作れない挙句愛想も良くないから接客すらできない体たらくなので、客寄せパンダくらいはやらなければ。
「メイド喫茶〜……二年三組でやってま〜す」
「えー! メイド喫茶だってー!」
「しかも男装メイド喫茶! 二年生って事は先輩だ!」
「そーだ」
おそらく一年生だと思われる二人の女子が早速駆け寄ってきた。看板の『男装メイド喫茶』と言う文字を見た後に、俺の姿を見て更にテンションが上がっている。そんなに上られても困るのだが、まぁ行ってくれる分には助かるのでクラスの場所を教えて楽しんでと送り出す。
取り敢えず客寄せパンダとしての任務は一応達成だ。あとは何人取り込めるかと言ったところだろうか。まぁ看板を怠めに持ち上げておけば、『男装メイド喫茶』の字面の強さで興味半分で行ってくれる人が増えてくるだろう。俺が四階で客寄せやっている中、おそらく蓮は外でキャーキャー言われながら客寄せをやっているはずだ。あとで様子を見に行ってみよう。
「うおっ悠真だ! ……似合うな?」
「黙れよ桐崎。一生店番しとけ」
「残念ながら俺は準備期間フル稼働だったから二日間全自由だ」
桐崎のクラスは確か四組で、出し物はお化け屋敷にしたと聞いた。男装メイド喫茶の真隣がお化け屋敷という文化祭でしか味わえない別ベクトルの恐怖が体験できる素晴らしい学年だなと脳死気味にそう思う。
噂によるととんでもなく怖いらしいが、それもおそらく桐崎の頑張りから生まれたものだろう。流石に陽キャは文化祭におけるバイタリティが違う。
「俺も男装メイド喫茶見に行くか〜って思ってたし、後でコーヒー飲みに行くわ!」
「おう。楽しめよ」
「あいさー!」
そう言って桐崎は走りながら階段を降りていった。相変わらず速いなと思わず口から漏れたが、俺は取り敢えず業務に集中しなければ。再び看板を掲げて呼びかけを再開する。
そうしつつ、四階の一年生フロアを眺める。一年生も食べ物系が禁止の中工夫を凝らして頑張って面白そうな出し物を沢山やっている。縁日やらフォトスポットやら仮装チェキやら……。
「ん? 仮装チェキ?」
「あ! メイド服着てる先輩さんだ!」
「あ! 校内で噂になってる金髪の先輩の対の人だ!」
まずいと思った時にはもう遅く、チェキをやっている一年六組の集団にせっせこと取り囲まれ、教室にズイズイと引き摺り込まれてしまった。
教室に入ったらすぐに衣装が沢山ハンガーにかかっている一角に辿り着いた。仮装チェキと言うだけあってか、かなり色々な服がある。チーパオ、シスター、ナースに警察……。なんだか置いてある服の種類に若干違和感というか、何かそっち系の方を意識してしまう。しかし一年生の純情な思いで用意したのだろうと無理矢理納得してから、俺はもう実質衣装を着ている状態なのでさっさとチェキを撮ってこの場から出ようとした瞬間、俺が入ってきた方のドアが開いた。
「え」
「……ゆ、悠真のメイド服……がっ……」
「華奈。落ち着け。頼む落ち着いてくれ」
割と最悪のタイミング、最悪な場所で華奈に出会ってしまった。というかなんでこんなに都合がいいタイミングで華奈が入ってくるんだと思い少し考える。そして近くにいた一年生の子に答え合わせのために少しだけ耳打ちする。
「なぁ。俺が来る前に俺とおんなじでメイド服着てる丸メガネの金髪クソイケメン来た?」
「あ、はい! 『僕と同じでメイド服を着ていて、長めの黒髪で後ろだけ括ってる人が来たら白石華奈も一緒に入れてあげて』って!」
やはり蓮の差金であった。今度しばこうと純粋に思ったが、この状況をどう切り抜けるかの議論が先だと俺は早速思考を巡らせ始めた。




